【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
大幅に能力などが変わってしまってすみません…
強豪校にしては緩い練習が終わった後の、自主練習が本番。薬師野球部はそういうチームだった。
北瀬は、昨日はピッチングしたから今日はバッティングするかーと、室内練習場に来ていた。
そこでは火神や瀬戸、パワプロに太平達が練習していた。
「おっ、太平達も自主練か!」
「北瀬先輩!今日はバッティング練習ですか?」
「おう!一緒に練習していいか?」
『もちろん!!』
1軍や2軍の選手が固まって練習している中、太平がボソリと独り言の様に呟いた。
「北瀬先輩……俺が来年の夏までにスタメン出場するには、どうしたら良いですかね?」
「来年の夏まで?まぁ試合に出たい気持ちは分かるけど、お前には再来年もあると思うけど……」
まだ実力的に厳しいんじゃないかなと想った北瀬は、太平にそう言った。
彼は伊川と違って、仲の良さで実力を誤認したりはしないプレイヤーだったからだ。
「それじゃ駄目なんですよ……!俺は、先輩達と試合に出たいんです!!」
「んー……それなら内野、ショートかファーストの守備固めを目指す……とかか?1点もやりたくない場面なら可能性はあるよな。完全試合したい時とか」
太平はその言葉を聞いて、言われてみれば確かにそうだよな……と思った。
三島先輩はU-18の時、めちゃくちゃ打撃の調子が良かったのに下げられた事があった。それは、守備が悪かったからに決まってる。
「そうですね……確かにそれが、試合に出られる唯一の可能性かもしれないですね!」
そんなプレーは、憧れた動きじゃない。
でもそれで、北瀬先輩や伊川先輩と試合に出られるなら……太平はそう思い、守備を強化しようと決意した。
「俺今から、伊川先輩達と守備練習して来ます!!」
「おー、いってら!」
北瀬は手を振りながら、何となく言ってみただけなんだけど大丈夫かな?俺そんな頭良くないんだけど……と考えていた。
だが、問題無いだろう。北瀬が今回言った事はある程度真理を付いていた。
火神や結城に打撃力で勝つのは厳しいし、外野の守備固めには疾風がいる。
どうしても今すぐ試合に出たいなら、割と空いている内野の守備固めを狙うしかないのである……意外と合理的な発想だった。
そもそも北瀬は、別に馬鹿ではない。
頭脳的にも天才な伊川が隣にいるから、普段からちゃんと考えるクセが付いていないだけである。
知識面が足りない時もあるが……基本自分で考えなければならない場面なら、割とマトモな発想が出てくるのだ。
対外試合禁止期間が終わり遂にセンバツの季節になった。
部員達はクジを引いてきた三島や監督の近くに、ワラワラと集まっている。
「三島キャプテン!対戦相手どうなりましたか?!」
「あー、1回戦は松若商業で、2回戦は四万十義塾か鵜久森。3回戦は……どこだっけ?」
「全く、3回戦は多分青森安良で、準決勝は紅海大章栄かDL学園。決勝戦は巨摩大藤巻か烏野か……青道高校とか大阪桐生の可能性もあるな」
三島は32校もの学校の組み合わせを覚えられていなかったらしい。重要そうな学校だけ覚えろと言われても厳しかったのだろう。彼はちょっとアホの子だった。
まぁそんな事は気にせず、組み合わせを聞いてワクワクしている部員達。
但し伊川は、少し疑問に思った事があったらしく轟監督に質問した
「あれ、鵜久森って21世紀枠に選ばれたんスか?」
「そうだな。あの高校、設備はボロいし監督は教師だから、昨年選ばれてもおかしくなかったんだがな……
俺らがその枠頂いたんだよな!正直アイツらのせいで、前は選ばれるかビビってたぜ!!」
『へー』
そんな裏事情があったのかと、誰も知らなかったらしい出来事を聞いていた野球部員達。
もし鵜久森高校が選ばれていたら、昨年度の春のセンバツ優勝は起きなかったと言う事だ。
史上初の21世紀枠優勝、もしそれが無ければ火神もこの学校に来なかったのは上級生達すら知らない。
話が脱線して来た所で片岡コーチが前に出て、佐藤マネージャーに持ってこさせた資料を配布しながら言った。
「これが全出場校のデータになる。対戦の可能性が高い学校名は赤文字で書いてあるから、ちゃんと見ておく様に」
『はいっ!!』
元気良く返事をした生徒達。
轟監督は、片岡コーチの説明の時だけコイツら真面目なんだよなぁ、酷くね?と内心考えていた。
いつも適当な彼が大体悪いのだが……都合の悪い事は無視していく方針の様だ。
詳細に作られた資料を見た伊川は、また疑問が湧いてきた様で首を傾げていた。
「片岡コーチ、質問良いですか?」
「許可する」
片岡コーチが話した場合はしっかり許可を取ってから発言する伊川。ちなみに薬師部員達は、無意識にそういう行動を取っているらしい。
良く言えば、轟監督は親しみ易い性格をしていると言えるだろう。
「今までここまで詳細に書かれた資料は無かったと思うのですが……どうして今回は頂けたんですか?」
「真田スカウトが集めて来たデータだ
経験が足りないであろう中、全力で集めて来てくれた
___心して読むように」
『はいっ!!』
片岡コーチの説明に、伊川も納得したらしい。
あの人スカウトだけしてた訳じゃないんだ、スゲェなと関心していた。頭脳も身体能力も優れている彼が、人の実力に驚く事は殆どないのでやはり彼女は素晴らしい偵察部隊なのだろう。
ちなみに奥村は、真田スカウトって誰だ……?と困惑していたらしい。
上級生達から人伝に聞いている下級生は多かったのだが、彼は例外だった様だ。
別にそんな雑談をする必要が無かったからだろう。
話が終わった後、寮の自室で北瀬は残念そうにしていた。
「あーあ。巨摩大藤巻か青道高校、どっちかとしか戦えないのかぁ……どっちを応援しようかな」
「ドンマイ北瀬、まぁ俺は強敵と連戦しなくて済んで嬉しいけどな……いや、他の学校も強いけどさ」
「俺も北瀬と同じ事思った……ます!本郷と降谷と沢村と、全員と戦いたかったでした!!」
北瀬と火神は、割と意見が一致する様だ。
どちらも強敵と戦う事が好きな単純な性格をしている人間なので、けっこう馬が合うらしい。
その割には行動を合わせる事が無いが……恐らく、火神が集団行動するタイプでは無いからだろう。
由井はそんな彼らを見て、見た目は似てないけど性格は割と似てるよなぁと思っていたらしい。
「どちらかと言うと、俺は青道高校と戦いたいですね!
せっかく同地区なので、昨年度のセンバツの時みたいに決勝戦で戦うのが良いなと思いました」
『分かるー!』
北瀬も伊川も、由井の意見に納得したらしい。
西東京で全国最強を決めるの激アツだよな!と彼らも思った様である。
対して火神は、別の事を思っていたらしい。
由井の言う事は勝負と関係なくないか?と思いながら何となくこう口にしていた。
「いや……俺は本郷と戦いたいます。アイツのボール、1度もホームラン打てなかったからな!」
「確かにアイツも凄いよなぁ……」
「俺とも相性悪いんだよな、逆に戦いたくねぇわ」
北瀬は火神の闘争心に同意し、逆に伊川は嫌そうな顔をしていた。
確かに怪物球威が打ち辛い事もあるが、実は2打席連続アウトが半ばトラウマになっているらしい。
「……じゃあ俺と火神は巨摩大藤巻を応援して、伊川と由井は青道高校を応援すればいっか!」
「まぁそれでも良いんじゃないか?」
ここで何を言おうとも変わらない、くだらない話は取り敢えずコレで終わった。
まぁこういった雑談が、友情を深めて良い連携をする事に繫がるのだろう……多分。
それに、友情トレーニングにも良い効果を出してくれるのもある。本人達は知らないが。
春のセンバツ初戦、轟監督は相手の学校をこう評した。
「相手は二刀流のエース、槇野のチームだ!
スプリットが150kmを超えたと噂されていたりする、優れた選手らしい!まぁシニアの実績的に炎上耐性が怪しいからU-18に選ばれなかったらしいんだが……
___ここから先はお前らの仕事だ!大好きなホームランをしこたま浴びせてやれ!!」
『はい!!』
既にホームランを打つ妄想でキラキラした瞳をしている部員が数人いた。取らぬ狸の皮算用とも言うが、実際打てる打力があるから仕方ない。
「優勝するなら、北瀬の温存は絶対に必要だ。4登板もさせる訳にはいかないからな
___お前達の、勝つ為のバッティングを見せてくれ」
『はいっ!!』
対して松若商業の秋野監督は、威風堂々とした立ち姿で部員達を鼓舞していた。
「相手はエースを限界ギリギリまで使って来ない!
2番手ピッチャー相手なら勝機はある!新たな若商を、全国に知らしめてやれ!!」
『ハイッ!!』
松若商業は県立で、四国四商に数えられる野球の古豪。
夏に60回、春に20回の甲子園出場歴・さらに合わせて優勝7回と輝かしい成績を収めていた。
だが春は10年前、夏は5年前を最後に甲子園から遠ざかっていたらしい。
だから県と県高野連が一丸となって新たな監督を探し、今の新たなチームを作り上げた。
就任した監督は5年間みっちり打撃を鍛え、今年夏はベスト4・秋は県と四国大会合わせ95得点を叩き出し、甲子園出場権を勝ち取った様だ。
そんな彼らでも流石に、投壊打線とエース北瀬を同時に相手取るのは難しいと考えていた。
対戦相手の順序的に考えても2番手ピッチャーが登板するだろう……してくれと半ば祈っていたらしい。
1回表、松若商業の攻撃。打順は1番石澤。
(パワードはコントロールが甘い!狙うは真ん中から上の、失投ストレート!!)
相手の弱点を狙いつつ、自らの打撃を信じている彼ら。
あくまで打撃力で勝ってやると闘志を燃やしていた。
当然、そんな思惑には気付いている奥村。
だが……どんな名捕手でも、コントロールがダメな投手の手綱を握る事は出来ない。
半ば彼も祈りつつ、外角低めストレートの指示を出した。
___カキーン!
「セーフ!」
(だからコントロールをどうにかしろと、何回も何回も言ったのに!!)
結果、ど真ん中に152km。
地味に彼本人の最高球速を更新しているが、こんな甘い所に投げてしまったら意味が無い。
ノーアウトランナー2塁で、打席には2番松島。
彼もパワードの失投を、虎視眈々と狙っている。
___バシッ!
___ブォン
「ストライク!」
___バシッ!
「ボール」
___カキン!
「セーフ!」
またど真ん中に失投。
「はは……すまん奥村!」
「……球は来てるぞ」
奥村は、どうにか怒りを堪えてそう言った。
ぶっちゃけ、ピッチャーのパワプロよりキャッチャーの奥村の方がイライラしている。
ノーアウトランナー2・3塁で、打席には3番笠原。
(キテる!俺達の流れがキテるぞ!!)
そう内心高揚しながら、彼はパワードを睨みつけた。
パワプロはニヤリと笑い、笠原と相対している……追い詰められているのがどちらか、この場面だけ見れば逆に見えるだろう。
___カキン!
「セーフ!」
また初球から、ど真ん中に失投。当然3塁ランナーはホームに帰った。
これで、ノーアウトで1失点。まだ野手陣は1エラーもしていないのに、パワプロが勝手に追い詰められていた。
(どうする……5回位まではパワプロに投げさせないと、ピッチャーの駒が足りなくなるぞ!!)
今日のパワプロは、ど真ん中に失投するとここまでで分かっている。
だがエース以外のピッチャーは、全員スタミナが足りない。彼に途中まで投げて貰わないと、北瀬に4連投させる羽目になってしまう……流石にそれは出来ない。
春夏甲子園連覇の強豪校である薬師野球部は、初戦から難しい場面になっていた。