【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
松若商業の攻撃、ノーアウトのまま1失点を食らったパワプロ達は、また連打を食らっていた。
___カキーン!
___バシッ!
___カキン!
___バシッ!
___バシッ!
なんとこの回、打順が完全に一巡し薬師野球部は4失点。
「これ……波乱も有り得るんじゃないか?」
「北瀬に早く変えてくれぇ!!」
「ヤバくね?……いやヤバくね??」
薬師高校を見に来た観客達も、コレは不味いだろうとざわついている。
「これが若商の力!!」
「コレは……行けるかもしれませんね」
「行けるぞ!」
『行けるぞ!!』
松若商業の選手達はまさかの優勝候補筆頭からの4得点に、大層喜んでいた。
「あちゃー……」
「ヤバいですね……」
「久しぶりだな!初回から4失点食らうの」
「全然久しぶりな気がしないんだけど?」
薬師野球部の下級生達は一瞬動揺していたが、5人衆の落ち着きようを見て安心したらしい。
……残念ながら、彼らの平常心に根拠など無い。前も大丈夫だったから大丈夫だろうと思っているだけである。
___カキン!
___カキーン!
___カッキーン!
___カッキーン!!
___カッキーン!
___カッキーン!
___カキーン!
___バシッ
___バシッ
___カキーン!
___カキン!
___カッキーン!
___カッキーン!
___カキーン!
___カッキーン!
___カキン!
___バシッ
根拠無き自信が良かったのか、1回裏脅威の12得点を放っていた。多分、炎上耐性の無いエースの問題だろう。
「ガハハハ、やっぱ俺達は打撃だな!」
「最近、妙に失点が少なすぎただけだよなぁ……」
「カハハハ……ホームラン2回!!」
これで薬師野球部の勢いは完全に盛り返した。
観客達も「これが薬師打線!最強!!」だとか「やはり波乱は無かったか……」とか好き勝手言っている。
ただ不思議な事に、そこから妙に落ち着いた試合展開に。
初回こそあれよあれよの失点に放心した槇野であったが、よく考えればゴロにさえなれば、若商はアウト取れるやんと考え直し、2回から9回までは4失点のみ。
エース槇野は実力を活かせれば、ちゃんと強いプレイヤーなのである。
パワプロ-奥村バッテリーも初回から反省し、今日問題ないシュートやカットボールを多く投げるようになってからは薬師高校も2回から8回までわずか2失点。
16-6の最終回、完全に持ち直したパワプロが伝家の宝刀151kmストレートで締めた。それに何故か完投している。
『試合終了!16-6で薬師高校の勝ち!!礼!!』
『ありがとうございました!!』
試合後、轟監督がどうして若商が急激に強くなったのかと秋野監督に聴いた。
すると現監督が就任するまでの松若商業は、ウェイトトレーニングのうの字もなければ、適切な栄養管理や生活サイクルも教えられてこなかったとのこと。
これら全てを県高野連主導の形で見直し、朝練も時間の無駄と廃止、睡眠時間確保を優先にそこから逆算して組み立てた。
栄養管理士もトレーナーも県外のエキスパートを招集、結果今のパワーを手に入れたという。
春のセンバツが終わった後、これを片岡コーチから聞いた理事長は早速人材集めに出かけて行った。金銭面は大丈夫なのだろうか……?
春のセンバツ2回戦の相手は、鵜久森高校に決まった。東京代表同士の潰し合いである。
注目選手はエースで4番の梅宮聖一。
ストレートはMAX138kmとけして速くはないが、90kmに近いスローカーブと、スライダーに近いパワーカーブを売りにしている選手である。
ちなみに彼は、三振を取るというよりは打たせて取るタイプとの事。もし薬師野球部に在籍していたら地獄を見ていたと思われる。
「ま、あんま強くないチームだよな」
「所詮21世紀枠だしな……俺達の言えた事じゃないけどさ」
北瀬と伊川は余裕な表情。
というか、寧ろ北瀬はつまらなさそうな顔をしていた。
なぜかというと、過去に四万十義塾には20-0、鵜久森には5-16で圧勝しているのから危機感が全く出てこないのだ。
別に大成長した訳でもないらしいし、負けようが無いよなぁという表情である。
そう考えながら戦った昨日の松若商業戦で、痛い目を見たのをもう忘れたのだろうか……?
試合間近、割と相手を舐めている薬師高校に対して相手の鵜久森高校は、あくまで薬師高校に勝つつもりで挑もうとしていた。
「いつだって俺達は挑戦者だった……行こう!」
『おうっ!!』
1回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉。
最低限ヒットがノルマだなと、表には出していないが完全に相手を舐めていた。
___バシ
「ストライク!」
___カキン!
「セーフ!」
(やっべ、危うくアウト取られる所だった……スローカーブ遅すぎるだろ!)
138kmのストレートと94kmのスローカーブの組み合わせなんて、見た事が無かった秋葉。
1球目を見た後、2球目の決め球に危うくアウトを取られかけていた。
寧ろ、完全に体制を崩されながらも打てた事を褒めるべきなのかもしれない。
「カハハハ……シッパイした!」
「ガハハハ、完全に体勢崩されただろ!」
「あはは……ドンマイ秋葉!」
「うわ、体制崩されまくってたな……」
同級生から辛辣な言葉を掛けられまくっている秋葉。
彼は心の中で少し泣いていた。
仕方ないだろ!あのスローカーブ出されたらムズいって!!と内心言い訳はしていたが。
ノーアウトランナー1塁で、打席には伊川。
(パワーカーブだけは今回の試合でまだ見てないからな。別の球狙おう……)
秋葉が討ち取られかけていたのを見て、多少は警戒している伊川。
ストレートもスローカーブも見切ったけど、初球パワーカーブが来たらスルーしようと思っていた。
___カッキーン!
『わああぁぁ!!』
結果、初球に来たのはストレート。
俺達を打ち取るには遅過ぎるなと、欠伸を噛み殺しながらホームランを放っていた。
「流石伊川!」
「ガハハ、ホームランとはやるな!」
「ナイスです!伊川先輩!!」
「これは打順が回りますよ……!」
基本的に単打を狙う伊川の一撃に、喜んでいる部員達。
多くの生徒がこれは勝ったなと確信していたらしい。いつもの事だが、あまりにも楽観的だし調子に乗るのが早い。
ノーアウトランナー無しで、打席には3番北瀬。
(あのスローカーブすげぇ!俺も打ってみたい!!)
彼は、そんな理由でスローカーブを狙っていた。
___バシ
「ストライク!」
___バシ
「ボール」
___バシ
「ストライク、ツー!」
___バシ
「ストライク!バッターアウト!!」
「あーっ!スローカーブ来なかったぁ!!」
なんとツーストライクになってもスローカーブを狙い続け、来なかったから見逃し三振になっていた。
もしかしたら、彼の性格が読まれていたのかもしれない。
「ヘッタクソじゃん!」
「ガハハハ、まだまだ未熟だな!」
「カハハハ……へんなの!!」
「ドンマイです北瀬さん!」
「いやー悪い悪い!」
また辛辣な言葉が北瀬に降り注いでいた。
だが彼は気にせず、次こそスローカーブ打ちたいなぁと思っていたらしい。全く懲りていなかった。
ワンアウトランナー無しで、打席には4番轟。
「カハハハ……ウメミヤ、打つ!!」
普段通り嗤いながら打席に立った彼は、堂に入った動きでバットを構えた。
___バシ
「ボール!」
___バシ
「……ボール」
___カッキーン!
「わああぁぁ!!」
これはまた敬遠かと思われた鵜久森バッテリーだが、なんと普通に勝負しに来た。
前のめりな姿勢が今回のピッチングでも出たのだろう。
「カハハハ!凄い凄い!!」
決め球を打たせて貰えた雷市は、キャッキャと笑いながらダイヤモンドを回っていた。
「クソォ!打たれた……!!」
「球は悪く無かったよ!切り替えて行こう!」
『おうっ!!』
1回で2回もホームランを打たれた事で荒れるかと思われた梅宮だが、マネージャーの言葉であっさり切り替えた。
野手陣も立ち直り、しっかり前を向いた様だ……どうやらマネージャーの松原は、彼ら鵜久森高校の選手達の中で非常に大きい存在らしい。
ワンアウトランナー無しで、打席には5番火神。
「よっしゃー!行くぞ!!」
雷市はホームランを打ったと言えど、同じく強打者の北瀬がヤラれた事で逆にテンションを上げた火神が、ペカーッとした笑顔で打席に立った。
___バシ
「ストライク!」
___カキーン!
「セーフ!」
初球のスローカーブは冷静に見逃した後、次のストレートを打った火神。結果フェン直ツーベースである。
(あれ……最初のボールで感覚狂わされてたな)
火神はこの成果に納得出来なかった様である。小さく首を傾げながら、バットを空で切るような動きをして感覚を補正していた。
ワンアウトランナー2塁で、打席には6番三島。
「ガハハハ!ここでも俺はホームランを打つぜ!!」
ドヤ顔をしながら打席に立った彼。まだ今回の試合で何もしていない筈なのだが……調子に乗りまくる性格だからだろう。
___ガギーン!
「……アウト!」
初球から決め球のスローカーブに手を出し、外野の近藤にあっさり取られてアウト。
「よっしゃ!ミスったな!!」
「秋葉、流石に喜ぶなよ……」
「まぁあれだけバカにされたら気持ちは分かるけど」
「ドンマイです三島さん!」
「くそーっ!アイツ、思ったより強いぞ!!」
前の打席で無意識に煽った秋葉に煽り返されていた。
だがそんな細かい事を三島は気にせず、愚直に打てなかった事だけを悔しがっていた。
これがキャプテンの資質なのかもしれない。チームメイトを煽るのはどうかと思うが……
ツーアウトランナー2塁で、打席には7番瀬戸。
(俺より下の打線はバッティングを期待出来ない……得点圏の場面、出来ればランナーを返したい!)
親友に対して内心少し辛辣な事を思いつつ、彼はバッターボックスに立った。
___ガギーン!
「ファール!」
___バシ
「ストライク、ツー!」
___バシ
「……ボール!」
___バシ
「ボール」
___ガギン!
「アウト!スリーアウトチェンジ!!」
ツーストライクでも粘った瀬戸だが、今回は残念ながらゴロアウト。とぼとぼとしながらベンチに帰った。
「ドンマイ瀬戸!!」
「スローカーブ良いよな!」
「惜しかったよ拓馬!」
頑張った彼をベンチは暖かく迎え入れた後、さぁ嫌だけど守備をしようと立ち上がった。
今回のピッチャーは3番手ピッチャーの友部。
乱調でノーコンのパワプロより下に置かれている投手なので、実力はお察しだ……
いや地方大会レベルでは優秀なのだが、甲子園では微妙だなという選手である。大体、野手陣が勝手に魔物を発動するのが悪いのだが。
___バシ
「ストライク!バッターアウト!」
___バシ
「ストライク!バッターアウト!」
___バシ
「ストライク、バッターアウト!チェンジ!!」
「……よしっ」
「マジかよ?!友部スゲェ!!」
「3人とも三振だったなー!」
「何でだろうな?」
……1回裏は、意外と何とかなったらしい。
そもそも鵜久森高校はエースで4番の梅宮劇場で勝ち上がって来たチームなので、他の選手は甲子園レベルでは無かったのである。
一応説明されていた薬師部員達だが、あまり頭で理解していなかった選手が多かったのか、良く分からんけど凄いと喜んでいた。
ちなみにバッテリーを組んでいる奥村は、友部ならこれ位当然だと内心デレていたらしい。
意外と、そういう所に可愛げがあったりする人だ。
……
「試合終了!19-3で、薬師高校の勝ち!礼!!」
『ありがとうございました!!』
あっさり大差で試合は終わり、順当に薬師高校が勝った。
友部が6回3失点、三島が3回無失点である。
「パワーカーブ凄かったな!」
「確かにパワーカーブ、凄かったな」
北瀬は珍しい球に多少喜んでいたが、伊川は首を傾げていたらしい。
確かにパワーカーブの変化量は良かったけど、それだけだったよな?パワーカーブは、まぁ凄かったなと思っていたらしい。
ご機嫌な彼に、わざわざそんな事は言わなかったが。