【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

167 / 288
147球目 予想外

 

 

 

 

春のセンバツ3回戦の相手は、轟監督達の予想を覆し白龍高校になった。

U-18で共に戦った真貝の弟であるエースピッチャーが、白龍の俊足にしてやられ2-3で負けたらしい。

 

青森安良高校の敗北だと聞いた薬師部員達は(打線が援護してやらないから負けたんだろ)と思ったとか思ってないとか。

自分達の打撃力で物を考えるのは辞めたほうが良い。

 

伊川は、一応真田母が作っていたらしい資料を見ながら他の2年生達に説明していた。

轟監督はちゃんと彼らに説明していたのだが、理解してるか怪しかったらしい。

 

「白龍高校は機動力のチームらしい。走塁は勿論、送球や投手のクイックも速い

塁に出られたら1点は覚悟する事になるな。俺達の守備力じゃ本塁を守れない

 

注目選手は2人いて、1人はエースの高橋。148kmのストレートとツーシーム、カーブとチェンジアップを使う選手だ

もう1人はキャッチャーで4番の古高。牽制が凄く上手いから、盗塁したい時は注意した方が良い」

 

「ガハハハ!つまり打ち崩せば良いって事だな?!」

「俺が打たれなきゃ勝てるだろ!」

「カハハハ……楽しみ!!」

 

伊川がギリギリまで情報を削って伝わる様に話しても、彼らが出した結論は普段通りにやれば良いと言う事。これでは情報の意味がない。

それでも彼は怒らず、寧ろそれで良いと言わんばかりの表情をしていた。

 

「そうだ、俺達のやる事はシンプル

打線は2桁得点して、失点は1桁に抑えれば良い……俺達なら出来るだろ!」

『おうっ!!』

 

 

 

 

 

 

試合直前、轟監督はエースを蔑ろにしている様な事を、大胆不敵にぶっちゃけていた。

 

「お前ら!ノーヒットノーランだとか完全試合だとか、ごちゃごちゃ考えるなよ!

ミスった時は仕方ねぇ、1点相手に差し上げろ!とにかく、相手をノックアウトするまで打つんだ!!

……あ、北瀬と由井はちゃんとやれよ?行くぞぉ!!」

『おうっ!!』

 

 

 

 

対して白龍高校の選手達は、日本の北極星北瀬が最初から登板して来た事に頭を抱えていた。

167kmなんてどうやって打てば良いんだよ……という話である。

 

実は前日のミーティングでも、パワプロや友部が登板して来た場合の事ばかりを話していたのだ。

何故なら相手エースが先発した場合の事を考えても、どうせ勝てないから時間の無駄だからである。

 

「データだけ見れば勝ち目は無いが……野球は何が起こるか分からない。とにかく、エースが出ている間はバント作戦で行く!……まずは1点取る!それだけを考えろ!!」

『はいっっ!!』

 

悲壮な試合予想をしながらも、白龍高校の選手達は一矢報いてやろうと考えていた。

何しろ秋季大会でも関東大会でも、エース登板時は0失点。1点取るだけで、俺達は強かったと示せるのだ。

……後輩達の為にも、ここで1点取ってやる!チームはそうやって、一致団結していた。

 

 

 

 

 

 

1回表、白龍高校の攻撃は1番ショート。彼は最初から、バントの構えを取っていた。

……どうせこちらがバントしたい事なんて、薬師の連中には直ぐバレる。それならやりやすい動きを最初からした方が良い。白龍高校の監督はそう判断したらしい。

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

北瀬-由井バッテリーは、力の差を見せ付けた。

バットを掠らせすらしない、完璧な力押しである。

まぁ伊川にキャッチャーをやらせていたら、初回から当てられていただろうが……

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、打席には2番センター。

彼もまた、バントの構えを取った。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___ガギ

 

力の無い打球が、サード轟方向にまっすぐ飛んでいった。

 

 

___バシ

 

「アウト!」

『おぉー!』

 

バント特訓のお陰もあるだろうが、流石にコレは雷市でも取れた様で、ファースト三島にゆっくり送球してアウト。

 

「カハハハ……取れた!」

「ガハハハ、俺の事も忘れるな!」

「2人共ありがと!!」

 

実際の所、ランナー無しの状況で下手くそなバントを成功させただけなのだが、薬師ベンチは割と喜んでいた。

彼らの能力的に、いつでも洒落にならないミスが出かねないからである。

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、打席には3番セカンド。

彼も、本気でセーフティバントを狙っている。

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

『わああぁぁ!!』

『3球連続、エース渾身のストレート!バッターは全く手が出ません!!』

 

由井はストレートでの力押しを選択。

とは言いつつも、しっかりリードは考えている。スミに167kmを投げられてしまうと、普通に白龍高校のバッターは打てなかった。

 

 

1回裏、薬師高校の攻撃は上位打線が4点を獲得。

「確実に勝つ」と言わんばかりの破壊力だった。

 

 

 

 

 

 

2回表、白龍高校の攻撃は4番キャッチャー。

彼も、塁に出さえすれば絶対に点を取れると信じている。

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシッ!

 

「……ボール!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

一応主砲には4球使い、彼をアウトにする。

由井は手を真っ赤にする程握りしめている相手を見て(これは……3球でも仕留められたかな)と考えていた。

確かに下手でも無いが……特段バントが上手いとも思えなかったらしい。

 

 

 

……

 

 

 

8回裏までに0-17と、薬師圧勝ムードの中。

大局から言えば些細な事だが、白龍高校にとっての奇跡が起きた。

 

 

9回表、ツーアウトランナー無し。後ワンアウトで完全試合という状況。

 

『あと1つ!!!あと1つ!!!』

 

会場中が完全試合を望む中、打席に立ったのは今回9番バッターエースの高橋。

普段はクリーンナップだが、バントが得意ではないので今回は下位打線に入れられたらしい。

 

由井はそんな彼を見つつ、一応真剣には考えていた。

 

(あと1人で完全試合……丁寧に行きたいけど、フォアボールを出すわけにはいかない。それに北瀬さんは後2回試合があるし)

 

そう考えて、今回は三球三振で行こうとしたらしい。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

 

全くバットの位置がボールに合っていない。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!」

 

 

___ガギ

 

「……?!」

 

バントが得意では無かった事が良かったのか、何故かまぐれで当たってしまった。

1歩目が出遅れ、慌ててボールを取りに行く雷市。

それだけなら間に合っただろうが……送球が大きく逸れた。

 

「俺が取る……?!」

「ガハハ……えっ?!」

 

慌ててカバーに行った伊川と三島の取り合いが発生し、お見合い。ランナーは2塁まで進み、3塁を目指して行った。

 

「?!」

 

ライトの結城が慌ててフォローに行ったが、完全に出遅れている。元々守備が苦手な彼では、こんなイレギュラーに対応出来なかった。

 

「……せ、セーフ!!」

『…………』

 

まさかのバントランニングホームランである。

 

「何してくれとんじゃー!!」

「野球舐めてんのかー!!」

「ヘタクソー!!」

 

久々に、観客達からヤジが飛び交う。

 

「ガハハハ、悪い悪い!」

「……次は取ります」

「俺の守備範囲外だったな」

「カハハハ……」

 

「ドンマイドンマイ!」

「すみません、北瀬さん……」

 

だが薬師部員達の上級生達はあまり気にしていなかった。

懐かしいなぁ、昔はよくあったよなぁという空気である。

1番気にしていたのは、そこまで悪くない由井だった。

 

この後1番打者は普通に三振し、試合終了。

1-17で、薬師高校の勝ちだった。

 

 

 

 

轟監督や片岡コーチは、試合後に思わずこうぼやいた。

 

「なんか、育て方間違えたかねぇ……」

「練習を生徒の自主性に任せてますが……全員、守備は重点的に指導すべきかもしれません」

 

「まぁ良いじゃないですか!総合力では最強ですし!」

「俺も打撃がやりたいっす」

「カハハハ……うーん」

 

どれだけ最強の投手がいても、守備があまりにも酷いと点は取られると分かった試合であった。

 

 

 

 

 

 

3回戦が終わった後、そのままの格好で青道高校vs巨摩大藤巻の試合を見に来ている薬師部員達。

 

「あ、あれ……薬師じゃないか?!」

「ホントだ北瀬だ!写真取っとこ!」

 

1軍は何となく固まって試合を見ようとしていて、遠目でも分かる覇気で目立っていた。本人達は無自覚だったが。

 

「烏野と大阪桐生が共倒れしたし、決勝はほぼ確実にどっちかになったな……正直、烏野が居なくなってくれたのはラッキーだ」

「あの試合は地獄でしたしね……まぁ当たるとしても決勝戦でしたから今回はマシでしたが……」

「俺は強い相手と戦いたかったんだけどなぁ」

 

ちなみに大阪桐生は、烏野との激戦を制し満身創痍になり、対して強くない学校に負けたらしい。

 

 

 

 

1回表、巨摩大藤巻の攻撃は1番ショート。

対して青道高校のピッチャーは、サウスポーの沢村。

 

「沢村さんですか……俺としては、降谷さんで来ると思ったのですが」

「だよな!確かに意外と沢村も強かったけど、あからさまに強いのは降谷さんだし」

「そうか?俺は沢村の方が苦手だけどなぁ……ボールを投げるまでが遅くて見辛いから」

「伊川に苦手な球とかあったんだ……真似しようかな」

 

伊川に7割程度打たれている北瀬が沢村の球を学習するフラグが立ちつつ、彼が投球を開始した。

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

初球はギリギリの所を狙ったのか、ボール判定。

 

「あれなら普通に、フレーミングでストライクに出来そうだよな?由井」

「そうですね。まぁ、そこそこ優秀なキャッチャーでなければ出来ないと思いますが……」

 

薬師キャッチャー陣から痛烈な一言が飛んでいた。

いくら温厚な狩場でも、クソリードの伊川には言われたくないと思われる。

 

 

___バシ

 

「ストライク!」

 

 

___ガギーン!

 

セカンドの小湊が、危なげなく打球をキャッチ。

ファーストへ正確な送球を見せた。

 

 

___バシッ

 

「アウト!」

 

「やっぱ青道の守備は上手いな!……伊川?」

「1歩目を踏み出すのは遅いけど足運びに無駄が無い、アレを真似するなら練習しか無いか?送球スピードが速い、真似したい所だけど俺達の守備じゃなぁ……ん?あぁすまん、そうだな」

 

何やら凄く小さな声で呟いている伊川の言葉を、北瀬は正確に聞き取っていた。彼は耳も良いのだ。

 

「なんか、前より真剣に試合見てるよな!」

「そりゃ仕事にする予定だからな、嫌でも見るしかねぇよ……いや、どうしても嫌って訳でもないし」

「真面目だなー」

 

 

 

 

1番バッターがアウトになった所で、打席には2番セカンド。

 

(この試合は1点勝負になる……初回から、本郷を援護してやりてぇ)

 

本郷達と2年間の固い絆で結ばれた彼は、そう思いながら打席に立った。

 

だがそれは、青道高校の選手達も変わらない。

この甲子園で炎のサウスポーと言われる様になった沢村も、心の底からこう考えていた。

 

(先輩達が立てなかった舞台に俺達は立ってるんだ……俺が高校NO.1サウスポーになって、皆と勝ちたい!!)

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!」

 

 

___バシ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

三球三振をした沢村だが、全く安心などしない。

一瞬の心の隙が、青道高校の不利益となる事が分かっているからである。

薬師打線を2年間も相手取り続けた彼のメンタルに、死角など無かった。

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しの場面で、打席には3番サード。

 

(所詮相手は、142kmまでしか投げられない!俺なら打てる、例え変速サウスポーだろうと!!)

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!」

 

 

___バシ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシ

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

 

結果ゴロピッチャーの沢村が、強豪巨摩大藤巻打線から2連続で三振を得た。

同地区の新興薬師高校に苦汁を飲まされ、同年代の剛腕降谷暁にも負け続けた彼の努力が、遂に花開く時が来たのかもしれない。

 

これで1回表はランナーを出さずに終わり、次は青道高校の攻撃である。

 

「今回ランナー出なかったな!」

「青道高校も巨摩大藤巻もピッチャーが強いチームだからな、そりゃ1点勝負になるだろ」

「カハハハ……!!沢村の球、打ちたい!!!」

「観客席だぞ!落ち着け雷市!」

 

見ているだけの薬師部員達が騒ぎつつ、青道高校vs巨摩大藤巻の試合が続いていく。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。