【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
春のセンバツ3回戦の相手は、轟監督達の予想を覆し白龍高校になった。
U-18で共に戦った真貝の弟であるエースピッチャーが、白龍の俊足にしてやられ2-3で負けたらしい。
青森安良高校の敗北だと聞いた薬師部員達は(打線が援護してやらないから負けたんだろ)と思ったとか思ってないとか。
自分達の打撃力で物を考えるのは辞めたほうが良い。
伊川は、一応真田母が作っていたらしい資料を見ながら他の2年生達に説明していた。
轟監督はちゃんと彼らに説明していたのだが、理解してるか怪しかったらしい。
「白龍高校は機動力のチームらしい。走塁は勿論、送球や投手のクイックも速い
塁に出られたら1点は覚悟する事になるな。俺達の守備力じゃ本塁を守れない
注目選手は2人いて、1人はエースの高橋。148kmのストレートとツーシーム、カーブとチェンジアップを使う選手だ
もう1人はキャッチャーで4番の古高。牽制が凄く上手いから、盗塁したい時は注意した方が良い」
「ガハハハ!つまり打ち崩せば良いって事だな?!」
「俺が打たれなきゃ勝てるだろ!」
「カハハハ……楽しみ!!」
伊川がギリギリまで情報を削って伝わる様に話しても、彼らが出した結論は普段通りにやれば良いと言う事。これでは情報の意味がない。
それでも彼は怒らず、寧ろそれで良いと言わんばかりの表情をしていた。
「そうだ、俺達のやる事はシンプル
打線は2桁得点して、失点は1桁に抑えれば良い……俺達なら出来るだろ!」
『おうっ!!』
試合直前、轟監督はエースを蔑ろにしている様な事を、大胆不敵にぶっちゃけていた。
「お前ら!ノーヒットノーランだとか完全試合だとか、ごちゃごちゃ考えるなよ!
ミスった時は仕方ねぇ、1点相手に差し上げろ!とにかく、相手をノックアウトするまで打つんだ!!
……あ、北瀬と由井はちゃんとやれよ?行くぞぉ!!」
『おうっ!!』
対して白龍高校の選手達は、日本の北極星北瀬が最初から登板して来た事に頭を抱えていた。
167kmなんてどうやって打てば良いんだよ……という話である。
実は前日のミーティングでも、パワプロや友部が登板して来た場合の事ばかりを話していたのだ。
何故なら相手エースが先発した場合の事を考えても、どうせ勝てないから時間の無駄だからである。
「データだけ見れば勝ち目は無いが……野球は何が起こるか分からない。とにかく、エースが出ている間はバント作戦で行く!……まずは1点取る!それだけを考えろ!!」
『はいっっ!!』
悲壮な試合予想をしながらも、白龍高校の選手達は一矢報いてやろうと考えていた。
何しろ秋季大会でも関東大会でも、エース登板時は0失点。1点取るだけで、俺達は強かったと示せるのだ。
……後輩達の為にも、ここで1点取ってやる!チームはそうやって、一致団結していた。
1回表、白龍高校の攻撃は1番ショート。彼は最初から、バントの構えを取っていた。
……どうせこちらがバントしたい事なんて、薬師の連中には直ぐバレる。それならやりやすい動きを最初からした方が良い。白龍高校の監督はそう判断したらしい。
___バシッッ!!
「ストライク!」
___バシッ!
「ストライク、ツー!」
___バシッッ!!
「ストライク!バッターアウト!!」
北瀬-由井バッテリーは、力の差を見せ付けた。
バットを掠らせすらしない、完璧な力押しである。
まぁ伊川にキャッチャーをやらせていたら、初回から当てられていただろうが……
ワンアウトランナー無しで、打席には2番センター。
彼もまた、バントの構えを取った。
___バシッッ!
「ストライク!」
___バシッッ!
「ストライク、ツー!」
___ガギ
力の無い打球が、サード轟方向にまっすぐ飛んでいった。
___バシ
「アウト!」
『おぉー!』
バント特訓のお陰もあるだろうが、流石にコレは雷市でも取れた様で、ファースト三島にゆっくり送球してアウト。
「カハハハ……取れた!」
「ガハハハ、俺の事も忘れるな!」
「2人共ありがと!!」
実際の所、ランナー無しの状況で下手くそなバントを成功させただけなのだが、薬師ベンチは割と喜んでいた。
彼らの能力的に、いつでも洒落にならないミスが出かねないからである。
ツーアウトランナー無しで、打席には3番セカンド。
彼も、本気でセーフティバントを狙っている。
___バシッッ!!
「ストライク!」
___バシッッ!!
「ストライク、ツー!」
___バシッッ!!
「ストライク!バッターアウト!!」
『わああぁぁ!!』
『3球連続、エース渾身のストレート!バッターは全く手が出ません!!』
由井はストレートでの力押しを選択。
とは言いつつも、しっかりリードは考えている。スミに167kmを投げられてしまうと、普通に白龍高校のバッターは打てなかった。
1回裏、薬師高校の攻撃は上位打線が4点を獲得。
「確実に勝つ」と言わんばかりの破壊力だった。
2回表、白龍高校の攻撃は4番キャッチャー。
彼も、塁に出さえすれば絶対に点を取れると信じている。
___バシッッ!!
「ストライク!」
___バシッ!
「ストライク、ツー!」
___バシッ!
「……ボール!」
___バシッッ!
「ストライク!バッターアウト!!」
一応主砲には4球使い、彼をアウトにする。
由井は手を真っ赤にする程握りしめている相手を見て(これは……3球でも仕留められたかな)と考えていた。
確かに下手でも無いが……特段バントが上手いとも思えなかったらしい。
……
8回裏までに0-17と、薬師圧勝ムードの中。
大局から言えば些細な事だが、白龍高校にとっての奇跡が起きた。
9回表、ツーアウトランナー無し。後ワンアウトで完全試合という状況。
『あと1つ!!!あと1つ!!!』
会場中が完全試合を望む中、打席に立ったのは今回9番バッターエースの高橋。
普段はクリーンナップだが、バントが得意ではないので今回は下位打線に入れられたらしい。
由井はそんな彼を見つつ、一応真剣には考えていた。
(あと1人で完全試合……丁寧に行きたいけど、フォアボールを出すわけにはいかない。それに北瀬さんは後2回試合があるし)
そう考えて、今回は三球三振で行こうとしたらしい。
___バシッッ!
「ストライク!」
全くバットの位置がボールに合っていない。
___バシッ!
「ストライク!」
___ガギ
「……?!」
バントが得意では無かった事が良かったのか、何故かまぐれで当たってしまった。
1歩目が出遅れ、慌ててボールを取りに行く雷市。
それだけなら間に合っただろうが……送球が大きく逸れた。
「俺が取る……?!」
「ガハハ……えっ?!」
慌ててカバーに行った伊川と三島の取り合いが発生し、お見合い。ランナーは2塁まで進み、3塁を目指して行った。
「?!」
ライトの結城が慌ててフォローに行ったが、完全に出遅れている。元々守備が苦手な彼では、こんなイレギュラーに対応出来なかった。
「……せ、セーフ!!」
『…………』
まさかのバントランニングホームランである。
「何してくれとんじゃー!!」
「野球舐めてんのかー!!」
「ヘタクソー!!」
久々に、観客達からヤジが飛び交う。
「ガハハハ、悪い悪い!」
「……次は取ります」
「俺の守備範囲外だったな」
「カハハハ……」
「ドンマイドンマイ!」
「すみません、北瀬さん……」
だが薬師部員達の上級生達はあまり気にしていなかった。
懐かしいなぁ、昔はよくあったよなぁという空気である。
1番気にしていたのは、そこまで悪くない由井だった。
この後1番打者は普通に三振し、試合終了。
1-17で、薬師高校の勝ちだった。
轟監督や片岡コーチは、試合後に思わずこうぼやいた。
「なんか、育て方間違えたかねぇ……」
「練習を生徒の自主性に任せてますが……全員、守備は重点的に指導すべきかもしれません」
「まぁ良いじゃないですか!総合力では最強ですし!」
「俺も打撃がやりたいっす」
「カハハハ……うーん」
どれだけ最強の投手がいても、守備があまりにも酷いと点は取られると分かった試合であった。
3回戦が終わった後、そのままの格好で青道高校vs巨摩大藤巻の試合を見に来ている薬師部員達。
「あ、あれ……薬師じゃないか?!」
「ホントだ北瀬だ!写真取っとこ!」
1軍は何となく固まって試合を見ようとしていて、遠目でも分かる覇気で目立っていた。本人達は無自覚だったが。
「烏野と大阪桐生が共倒れしたし、決勝はほぼ確実にどっちかになったな……正直、烏野が居なくなってくれたのはラッキーだ」
「あの試合は地獄でしたしね……まぁ当たるとしても決勝戦でしたから今回はマシでしたが……」
「俺は強い相手と戦いたかったんだけどなぁ」
ちなみに大阪桐生は、烏野との激戦を制し満身創痍になり、対して強くない学校に負けたらしい。
1回表、巨摩大藤巻の攻撃は1番ショート。
対して青道高校のピッチャーは、サウスポーの沢村。
「沢村さんですか……俺としては、降谷さんで来ると思ったのですが」
「だよな!確かに意外と沢村も強かったけど、あからさまに強いのは降谷さんだし」
「そうか?俺は沢村の方が苦手だけどなぁ……ボールを投げるまでが遅くて見辛いから」
「伊川に苦手な球とかあったんだ……真似しようかな」
伊川に7割程度打たれている北瀬が沢村の球を学習するフラグが立ちつつ、彼が投球を開始した。
___バシッ!
「ボール!」
初球はギリギリの所を狙ったのか、ボール判定。
「あれなら普通に、フレーミングでストライクに出来そうだよな?由井」
「そうですね。まぁ、そこそこ優秀なキャッチャーでなければ出来ないと思いますが……」
薬師キャッチャー陣から痛烈な一言が飛んでいた。
いくら温厚な狩場でも、クソリードの伊川には言われたくないと思われる。
___バシ
「ストライク!」
___ガギーン!
セカンドの小湊が、危なげなく打球をキャッチ。
ファーストへ正確な送球を見せた。
___バシッ
「アウト!」
「やっぱ青道の守備は上手いな!……伊川?」
「1歩目を踏み出すのは遅いけど足運びに無駄が無い、アレを真似するなら練習しか無いか?送球スピードが速い、真似したい所だけど俺達の守備じゃなぁ……ん?あぁすまん、そうだな」
何やら凄く小さな声で呟いている伊川の言葉を、北瀬は正確に聞き取っていた。彼は耳も良いのだ。
「なんか、前より真剣に試合見てるよな!」
「そりゃ仕事にする予定だからな、嫌でも見るしかねぇよ……いや、どうしても嫌って訳でもないし」
「真面目だなー」
1番バッターがアウトになった所で、打席には2番セカンド。
(この試合は1点勝負になる……初回から、本郷を援護してやりてぇ)
本郷達と2年間の固い絆で結ばれた彼は、そう思いながら打席に立った。
だがそれは、青道高校の選手達も変わらない。
この甲子園で炎のサウスポーと言われる様になった沢村も、心の底からこう考えていた。
(先輩達が立てなかった舞台に俺達は立ってるんだ……俺が高校NO.1サウスポーになって、皆と勝ちたい!!)
___バシッ!
「ストライク!」
___バシ!
「ストライク、ツー!」
___バシッ!
「ストライク!バッターアウト!!」
三球三振をした沢村だが、全く安心などしない。
一瞬の心の隙が、青道高校の不利益となる事が分かっているからである。
薬師打線を2年間も相手取り続けた彼のメンタルに、死角など無かった。
ツーアウトランナー無しの場面で、打席には3番サード。
(所詮相手は、142kmまでしか投げられない!俺なら打てる、例え変速サウスポーだろうと!!)
___バシッ!
「ストライク!」
___バシ!
「ストライク、ツー!」
___バシ
「ストライク!バッターアウト!!」
結果ゴロピッチャーの沢村が、強豪巨摩大藤巻打線から2連続で三振を得た。
同地区の新興薬師高校に苦汁を飲まされ、同年代の剛腕降谷暁にも負け続けた彼の努力が、遂に花開く時が来たのかもしれない。
これで1回表はランナーを出さずに終わり、次は青道高校の攻撃である。
「今回ランナー出なかったな!」
「青道高校も巨摩大藤巻もピッチャーが強いチームだからな、そりゃ1点勝負になるだろ」
「カハハハ……!!沢村の球、打ちたい!!!」
「観客席だぞ!落ち着け雷市!」
見ているだけの薬師部員達が騒ぎつつ、青道高校vs巨摩大藤巻の試合が続いていく。