【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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展開をくださった方、ありがとうございます!


149球目 山羽工業

 

 

 

 

巨摩大vs青道の試合を見た後、準決勝の前で轟監督と片岡コーチと真田母の3人が深刻そうに話し合っていた。

 

 

「やっべ……山羽工業は完全にノーマークでしたね」

「幸い、最低限はデータに纏めてましたが……

私も全くの予想外でした。9割9分DL学園が勝つと思ってたんです……」

「___打線は水物。チームの士気が十分に高まっていれば、波乱も有るでしょう」

 

観客や有識者達、関係者以外の誰もがDL学園が勝つと思っていた。だが結果、勝ったのは山羽工業。

3回戦直前での波乱もあり、薬師首脳陣の想定に問題があるのか……?と悩み始めていた。

 

実際の所、最近は高校野球界全体で波乱が起こりやすい環境なのである。

最強打線に最強投手、そして最弱野手陣を有する超強豪校に打ち勝って優勝する為、他の学校は多くの対策を強いられていた。

それに時間を割きすぎた結果、格下相手にジャイアントキリングされる事が増えていたのである。

 

 

「MAX142のストレートの速球と、鋭いスライダーが武器の大野健太郎くん位しか有望な選手はいないと思うのですが……なぜ勝てたのでしょうか?

試合の動画を見た限り、DL学園がエースを温存していた面はあれど順当に勝てる試合だったと思ったんですけど」

 

「___目の前の試合に全力で当たった者と、そうでない者。その違いが出たのかもしれませんね」

「つうか俺、まだその試合の動画探せてないんですけど……一応、後でデータ送っといてください。いや信頼してない訳じゃないんですけどね?」

 

真剣に疑問を抱いた真田母と、それに悩みながら答えた片岡コーチを見ながら轟監督はぼやいていた。

何で2年前まで一般人だったアンタがそこまで出来るんだよと困惑していたのだ。

ちなみに理由は、単純に頭脳のスペックである。本人はまだ気付いていないが、彼女はデータを収集するのがハチャメチャに得意だった。

 

 

「でも……私の不手際が許される訳ではありませんが、この結果は嬉しいですね。DL学園と当たるよりは楽に勝てるでしょうから」

「へぇ……ちなみにどうやってデータを掴んだんです?

俺も片岡コーチも正直、山羽工業の情報なんて殆どないのですが」

 

真田母は、少し恥ずかしそうな顔をした。

 

 

「えっと、娘に一応偵察に行って貰ってたんです!私なんかより凄く出来た子で、今の薬師高校もA判定なので

___学校を休んで行って貰いました」

「___それは、教育上宜しくないのでは?」

「娘さん、そんな事までよくやってくれましたね……」

 

彼女は髪を指先で触りながら微笑んでいる。

 

 

「あはは……娘の結菜も野球にハマったみたいで、一緒に偵察したいって言ってくれたんです。俊平も野球に?というか薬師野球部にハマったので、血は争えませんねー」

「……まぁ、こっちとしては有り難い話ですけど

で、選手データはどんな感じになります?」

 

その言葉を聞いた瞬間、何枚もの紙を取り出して渡した後、大雑把に話し始めた。

 

「野球部全体としては、地方大会では投手の豊富さと打線をウリに出来てましたが、甲子園出場校としては平均よりやや上といった感じで物足りないチームですね

本当に、準決勝に来てくれたのは奇跡だと思います

 

1番サード青野、大味な守備と俊足

2番セカンド高野、守備範囲は狭いですが強打に強い

3番キャッチャー石橋、器用貧乏?万能気味

4番センター秋元、走攻守が割と揃ってます

5番ファースト浦上、ミート力が高い選手

6番ピッチャー大野、彼が山羽工業の要

7番レフト山神、色々と荒々しい選手

8番ショート千葉、守備職人

9番ライト加藤、特に良い所がない

……と言った所でしょうか?詳細はこの紙に記載しました。レギュラー用の用紙も纏めてあります」

 

「物凄い有能ぶりっすね……マジで、理事長に雇ってくれって頼み込んで良かったですよ」

「ふふっ、ありがとうございます!」

 

優秀だと褒められて喜んでいる彼女。

まだまだ経験が足りないと本人は思っているが、既にプロのスカウトレベルで優秀だった。本当に末恐ろしい。

 

データを見てみると、確かに真田母の言う通り甲子園優勝は厳しすぎるチームだった。

そもそも全国出場校なんて投手も打線も県大会基準だと強いってのは当然の話だが、それを見て物足りないとか言うのは基準が狂っている。

 

168kmってなんだ、打率9割ってなんだ、金特なんて高校生は普通持ってない……山羽工業の選手達は大体そんな感じで嘆いていた。

実は真田母がデータ不足にも拘らず喜んでいるのは、実力以外にも半ば優勝を諦めている様に見える彼らの雰囲気も関係していた。

 

 

 

 

 

 

「雷市の親父!俺で良いじゃないっすか、出させてくださいよ……俺も甲子園で先発したいっす!!」

「ちょっと待ってくれよ!俺、そしたら甲子園でたった2回しか投げられないんだけど?!」

 

今回三島が、この試合で投げさせてくれと駄々をこね始めていた。

北瀬はそれを見て、この流れはヤバいと慌てている。轟監督の事だから適当にOKしてしまいそうだと思ったのだ。

 

 

「んー……まぁ早々負けねぇだろうし良いぜ!

まぁお前、投手としてはスタミナねぇから5回終わったら変えるけどな!それに当然、負けの可能性が少しでも出てきたら北瀬に変えるぞ」

「おっしゃあぁぁ!!」

『えぇ……?』

 

普通だったらリリーフ優先券で我慢しろ……と言うところだったが、北瀬の身体への負担や三島のやる気なども鑑みた結果、適当に許可を出した轟監督。

ただでさえ投手と野手の二刀流で酷使してんのに、2連戦は出来ればさせたくないよな。今までは3連戦までならさせた事あるけど、勝てる相手なら無理に起用する必要ねぇしと考えたのだ。

 

北瀬を使わない場合、全国放送の甲子園でコントロール悪いパワプロ使い続けても死球で相手故障させるかも。

それで後引くようなことになって、変にケチついたらめんどくせえしなあ……と思ったらしい。

 

当然彼の判断に対して、詳細なデータを見ていない部員や甲子園に全てを掛けている部員は嫌そうな顔をしていた。

まぁ監督の判断にクレームを入れても問題ない空気が、薬師野球部の良い所でもある。

 

 

北瀬と秋葉の副キャプ組は、実際実力はあるし本人がやりたいっていってんならいいんじゃね?という感じだった。

まぁエースは最初嫌がっていたが、何やかんや決定に反論するつもりは無かったらしい。

 

急遽またキャッチャーとして出場する事になった奥村が、三島に声を掛けた。

 

 

「貴方は俺より1年長く薬師で野球を続けていながら、エースと4番を……北瀬涼と、轟雷市を、一番間近で見ながら超えることを諦めなかった人です

___負けませんよ、貴方は」

「……お前、俺のやる気出すのうめえな!」

 

 

 

 

 

 

1回表、先発は予定通り三島。久しぶりの登板で、絶好調という雰囲気を出しながら張り切っている。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

 

___ガキン!

 

「……アウト!!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、バッターアウト!チェンジ!!」

「よっしゃあぁ!!」

 

「ナイス三島!!」

「二刀流……案外行けるのか?」

 

夏から更に球速が向上し、彼の球速は現在146km。

加えて重い球の効果もあり、一瞬ピッチャーゴロで怪しい挙動を見せるもしっかり3人で抑えていた。

 

 

相手チームのエース大野は、そんな三島を見て困った顔をしている。

 

 

「うーん、困ったなあ……最近リリーフで顔見ないから、あまりマークして無かった。守備がカス過ぎて分かりにくいけど、この人普通に投手としても俺より強いじゃん」

「おいおい、エースなんだからシャンとしろ!」

「うっす」

 

 

 

 

 

 

1回裏、薬師高校の攻撃は1番秋葉。

普段から真面目にバッティングをしているが、今日の彼は一味違った。

 

(三島が先発運用……できれば俺が援護してやりたい!)

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

 

「ナイスホームラン!」

「ガハハハ!毎回それしようぜー!!」

 

親友が先発で投げることに気合を入れた秋葉ら、まさかの先頭打者初球ホームラン。

ミート力がウリと言われる彼だが、実際の所ホームランもかなり打っている。本人比で安打が多いだけなのだ。

 

……なんなら、名門で2年から不動の4番とか言われてるようなやつよりも打っていた。

最上位層の基準がぶっ壊れ過ぎていて、見ている全員の感覚が色々と麻痺してるらしい。

 

 

 

 

2番バッターはセカンドの伊川。

どうせ勝てるだろうとやる気なさげな顔をしていた。ある意味、彼が1番三島を信頼しているのかもしれない。

 

 

___カキーン!

 

『わああぁぁ!』

 

フェン直で無難に……と言いたい所だが、なんと3ベースヒットになった。

確かに足の速さもあるが、最近はフェンスのボールの跳ね返りや野手が追いかける速度なども計算して打てるようになってきたようである。

 

これを彼が普通の事のように話した時、監督やコーチは(それホームラン打つより難しくないか?)と内心突っ込んでいたという。

本人が無自覚なままの方が、実はやる気の足りない彼に向上心が芽生えて良いだろうと放置する事にしたらしいが。

 

 

 

 

ノーアウトランナー3塁で、打席にはライト北瀬。彼は、普段通りの澄ました顔をしていた。そそられないピッチャー相手だからだ。

甲子園の舞台だと考えれば微妙だが、伊川の内心よりはマシである。

 

 

___カキーン!

 

『わああぁぁ!!』

「あちゃー、ホームランにならなかったか……」

 

僅かに柵越えまで届かずフェンスに跳ね返され2ベース。

本人や部員達は不満な様だったが、観客達は嬉しげに歓声を上げていた。

これで薬師高校は、2点先取である。

 

 

 

 

ノーアウトランナー2塁で、高校最強のホームランバッター轟が打席に入った。

 

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

「カハハハ……ホームラン、ホームラン!」

 

結果、ツーランホームランである。

確かに雷市は楽しげだが、実は強敵相手の時よりはテンションが低かった。

彼はホームランも大好きだが、強いピッチャーと勝負するのも大好きなのである。

 

 

その後も三島火神がHR、結城が豪快に三振して瀬戸はゴロ、奥村のヒットからの秋葉2打席連続HRからの伊川3ベース、北瀬でアウトでようやくチェンジになった。

 

 

「やっべ……どうしよ……」

「覚悟はしてた!最後まで前のめりで行くぞ!!」

『おうっ!!』

 

初回からいきなり8失点した山羽工業。

史上最強打線を相手にする以上、どこかの回一気に取られることは覚悟していたが、いきなり初回からはちょっと想定外だったので割と焦りが見えた。

 

 

 

……

 

 

 

その後も、奥村のリードもあって三島の好投が続いた。

3回、途中エラーで3塁打が挟まり失点もあったが……裏では轟火神三島にHR。多少の失点では揺るがない実力を見せていた。

4回でも火神のエラーで1人生還するも、山羽打線はボテボテのゴロを処理されてしまい、また連撃が始まる。

 

 

5回は一応試合は動かず、6回表。薬師野球部は圧倒的大差によって、エースを出す気が無くなった様である。

 

 

 

 

ノーアウトランナー無しで、打席には4番秋元。

 

 

___バシッ

___ブォン!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

彼は4球でアウトにされてしまった。一応主砲なのだが……146kmに付いて行けなかった様である。

この程度で、DL学園相手によく勝てた物だ。

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、5番ファースト浦上。

 

(まだ俺は1回も打ててない……ここで打つんだ!!)

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

強く決意した浦上だが、呆気なく三振。

秋葉と違い、想いを力に変えられる程の実力は無かった様である。

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、打席には投手大野。

 

(三島より、俺は良い所なんて全くないけど……いや守備はマシか……?とにかくここで一発打って、一花咲かせてやりたいんだ!)

 

 

___ガギーン!

 

打球は運良く火神の方向へ飛んでいき、普通にぽてんと落ちてツーベースヒット。

今回はレフトのミスではなく、落ちた場所が悪かった様である。

 

 

「くそーっ!俺もまだまだ精進が足りん!!」

 

ピッチャー三島はかなり悔しがっていた。なんならエラーの数倍悔しそうだった……もう少し、彼は守備を意識した方が良いと思われる。

 

 

 

 

ツーアウトランナー2塁で、打席にはショート千場。

 

 

___カキーン!

 

彼の打球は、鋭いライナーでショートを抜けた。

ランナー大野は、3塁を回って生還を目指している。

 

 

「俺が取る!」

 

しかし、ボールは既に北瀬に握られていた。

本塁へ全力ストレートを送球しようと思った北瀬は、一瞬だけ奥村が取れないのではと躊躇したが……

 

 

「___今度は絶対に溢しませんよ」

 

 

___バシッッ!!

 

「アウト!!」

 

だが気迫溢れる奥村の姿を見て、矢のような送球を放つ。

そして、ホームイン目前の奥村のミットにライフルのように突き刺さり、ランナーはアウトとなった。

 

 

 

 

7回からはお互いリリーフが出陣したものの……絶対的信頼を寄せていたエースの球が、成すすべなくフェンスに運ぶ姿を見続けていた山羽工業の選手達。

力を貸すことすら許されずただ眺める苦痛で精神的にもボロボロになりつつあった野手達に、反撃の機会は与えられなかった。

 

薬師高校は甲子園準決勝にも拘らず8回と9回で三振策を取り、スタミナ温存を図ったという。

ちなみに伊川の打順には奇跡的に当たらず、打力10割は守られていた。

 

 

「試合終了!5-30で、薬師高校の勝ち!礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

 

ちなみに、公式戦で初めて秋葉が全打席HRを達成。

伊川も3打席目から全てHRだったし、北瀬・轟・三島は3HRで火神は2HR、結城も2HR(但しそれ以外は三振)、瀬戸奥村は3安打だった。

 

 

 

 

サクッと圧勝した薬師高校の選手達は、さっさと撤収作業を始めていた。この表情だけ切り取れば、とても甲子園準決勝を勝ち抜いたチームとは思えない。

 

 

「俺、結局別に全打席ホームランしなくても勝ってたな。なんなら無安打でも良かったし」

「いやでも、打てば打つだけスカウト評価も上がるしな」

「ガハハ!それに、打てば打つだけカッコいいぞ!!」

 

軽いノリの上級生に対して、結城だけは非常に悔しげな顔をしていた。

 

 

「ぐっ、未熟……!」

「結城はパワーは1年の頃の俺らより上っぽいし、ミートとか選球眼もう少し鍛えたらもう1、2本はいけると思うんだけどなぁ」

(……この人達、全国レベル投手相手に何でホームランを平然と打てるんだ?かれこれ1年近く一緒にいるけど未だに分からない……)

 

確かに奥村には友情トレーニングの恩恵はあまりない。

北瀬や伊川からの好感度が全く無い訳ではないのだが、能力を急上昇させるレベルでは無かったからである。

 

だが練習を積みながら格上の選手達の打撃を見続けた事で、一応普通に成長はしているのだが……他の選手達が大活躍する度に、正直かなり複雑な気分だったという。

 

 

 

 




「北瀬涼なんて出されたら正直勝ち目なんか、万に一つもありゃしなかった……俺からすりゃ神様みたいな人だしね、正直今すぐ土下座して弟子入りしに行きたいくらいだ」
「でも、だから他の人が相手なら勝ち目があるって考えたのは……流石に傲慢が過ぎるか」
「三島は俺と違って、俺よりずっと近くで、あの人を超えることを諦めなかった人間なんだから……」
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