【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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原作と比べて、成宮は前日に寝れていた事によって実力を発揮出来ています


薬師高校の打順は

1番 サード・轟雷市・1年
2番 ピッチャー・北瀬遼・1年
3番 キャッチャー・伊川始・1年
4番 ファースト・三島優太・1年
5番 レフト・山内・3年
6番 セカンド・福田・3年
7番 ショート・小林・3年
8番 センター・大田・3年
9番 レフト・秋葉一真・1年

青道戦と比べメンバーは変わりませんが、主砲を最初に持ってくる布陣となっています。雷市が多く打ちたいと言ったから1番、雷市の前のランナーとして9番秋葉です。


13球目 バント

……轟監督は、攻撃中心の方針を取った事を後悔していなかったが、2つ心残りがあった。

1つ目は、真田を故障させてしまった事。2つ目は、バントを練習させる時間が無かった事だ。

 

バントなんて何時でも出来るからこそ、自主性に任せた思い切った指示が出せると思っている。

だが、どうしても時間が足りなかった。

 

雷市、北瀬、伊川。3人もの守備難を抱えたこのチームは、ゴロを高い確率で取れる程度の守備能力を得るだけでも、ありえない位時間がかかってしまったのだ。

3人には先ずルールを教える所から始めていて、守備範囲の改善に手を出せる時間がない。

特にセカンドも兼任している伊川には、まずキャッチャーとしての基礎知識を教える必要があり、重要なポジションに大穴が空いている。

 

だからセンターはライトに寄らせて内野のカバーもさせ、ライトはセンター方向により、ショートはセカンドの方もサードの方も守らせる様な中途半端な陣形を取らざる得なかった。

元々普通の弱小チームで守備能力が低く、今から打撃中心の練習を組むのに、だ。

 

何かを得るには何かを捨てなければならない。打撃と守備能力向上を得るには、バントという選択肢は捨てなければならなかったのだ。

 

 

 

 

「全国高校野球選手権大会、西東京地区決勝! 夏本番を思わせる今日この日、両ベンチから選手達が出てきました。夏2連覇を狙う去年の覇者、稲城実業!! 対して全くの無名! 昨年度は1回戦負けの薬師高校!!

ここまで勝ち上がってきた選手達への敬意と、これから始まる試合への期待を込めて、両スタンドから拍手が鳴り響きます! 果たして、どのような決勝戦となるのか?!」

『行くぞ、おー!!』

 

この段階では、たかが地区決勝___だがこの試合は、1世紀経っても見返される特別な試合になる……

 

 

 

 

「1回表。今大会で159kmを記録した無名の大エース、北瀬涼がマウンドに上がります!」

 

マウンドに上がったエース北瀬は、データは聞いていた筈だけど忘れていたので、目線だけで親友に初回の打者がどういった選手かを聞く。

 

(この打者どんな選手だっけ?)

(確かこの選手は、ブラジルのカルロス……多分守備はセンターで何かが速い筈)

(その情報、投球にはなんの役にも立たなくね? まあ、良いけどさ……)

 

伊川の考えている事を正確に把握したが、全く何の役にも立たない情報しか手に入らなかった事にちょっとがっくり来た北瀬。

テンションが下がったまま、熱意を感じられない顔のまま、決勝戦の初球を何の感慨も無く投げる。

この舞台にはそぐわないローテンション。それでも尚強いからこそ、たった1回の試合に出ただけの、それも7失点もしている彼が大エースと呼ばれるのだ。

 

 

「ストライク!」

「ひゃ、160km?! 薬師高校のエース北瀬! スピードガンは、なんと160kmを計測しました?!」

 

(十中八九、外角低めにストレートが来るって分かってたのに手が出なかったわ。なるほどねぇ……こりゃ目が慣れてない初回から普通に打つのは無理だわ)

 

___コン!

 

(普通に打つのは、な)

 

 

韋駄天と呼ばれ十分に練習を積んできたカルロスに対し、ハードがすこぶる優秀なだけの付け焼き刃な北瀬。

ランナーいないのに、普通初回からバントしないだろ。それに普通、バントをやるなら1球目だ。

カルロスにとって、安易な考えで態勢が整っていない北瀬の不意をつき、1塁を陥れるのは簡単な事だった。

 

 

「セーフ!」

『わああぁぁ!!』

 

稲城実業の攻撃。ノーアウト1塁で、打順は2番のショート白河。パワーこそ無いが、小技が光る玄人好みの選手。

強豪ひしめく西東京で王者に君臨する、稲城実業で上位打線を打つ白河。監督の指示を聞くまでもなく、絶対の自信を持って選択したのは……

 

(こいつらはバントを警戒してる、だから次は外角高めのボール球が来る、それなら俺がやる事は1つ)

 

 

「ランナースタート!!」

『?!!』

 

___コン!

 

……バントだった。

流石にここでのバントは予想していた薬師バッテリーだったが、カルロスが走り出した事を聞き混乱した事で、いとも簡単にバントを決められる。

 

この場合、別に白河はアウトになっても良かった。カルロスの進塁をサポートして、ついでに生き残れればラッキー。

完全にバレていたバントが楽々決まった事により、稲実の基本方針が、完全に確定した。

 

 

「薬師高校、バントに対してまさかの2打席連続エラー!」

 

(完全に通用しなくなるまで、俺達はバントだけで良い)

 

160kmを狙い撃つなんて、相手の投げる球が分かっていても厳しい。その上でホームランを覚悟しなくてはならない打者が続くとは、どんな悪夢だ。

だが勝機はある。相手は、バント処理が出来ないド素人。そしてキャッチャーの配球は小学生以下。

それなら、スイング速度を気にしなくて良いバントの方が、打者が生き残る確率が高い。

 

何度話し合っても、意味不明な作戦だ……だが、稲城実業が勝つにはこれしか無い。

彼らのプライドは高い。

それでも、大切なプライドを踏みにじってでも勝つという、王者の執念。それこそが、この意味不明な上に華のない作戦を、全員に遂行させる重要なファクターになっていた。

 

 

ノーアウト1塁3塁。打順は3番、サード吉沢。彼が選んだのは当然……

 

___コン!

 

バントだった。流石に慣れてきたのか、運が良かったのか。ファースト三島が、ボテボテのボールを取ってベースを踏み、ワンアウト2塁。本塁はセーフ。

アウトは1つ取られたが、1点奪えればお釣りが来る。この状況には、流石の薬師も頭を抱えた。

 

 

……

 

 

「1回裏、マウンドに上がるのはもちろんこの人、今大会未だ失点0。稲城実業エース、成宮鳴! その女房は主砲でキャプテン、原田雅功!」

 

バントのみで3点も取られた薬師高校は、何とか相手の攻撃(?)を終わらせ、打席に入る。

先頭バッターは、今日既にエラーを記録した薬師の主砲の1人、轟雷市。

 

「カハ、カハハハ……カハハハハ!」

「良いぞ、今日も絶好調!」

「これからエラーする分、前払いで4点位取ってくれーっ!」

「ホームランしても1点しか入ンねぇけどな!」

 

守備の時は頭を抱えていた薬師高校だが、雷市が打席に入った瞬間、ボルテージがMAXまで上がった。

 

(俺達は、怪物スラッガー共率いる薬師高校だ! 守備ミスるのは仕方ねぇ、慣れてるってモンよ!)

 

端から見ると奇妙なレベルの楽観思考により、まるで大差で勝っている時の様なテンションで声援を送る。

 

 

初球、成宮振りかぶり……投げた!

 

___ガン!

 

ボールはバットを掠り、キャッチャー後ろのネットに当たる。

 

(雷市が、ストライクゾーンのストレートを打てなかっただと?!)

(チッ、やっぱり当てて来るか)

 

今大会無失点のエースのボールに、初回から合わせられた稲実は少し動揺する。

対して薬師も、雷市が初回から振り遅れた事に対して酷く動揺した……ぶっちゃけ、満塁ホームランを打たれた時よりも。

 

(雷市は、俺達の天才は、あの北瀬のボールを毎日の様に打ってるんだぞ?! 10km以上も遅いボールに振り遅れるなんて、ありえねぇ!!)

(カハハハ、ちょっと遅れた。もっと速く……速く!)

 

 

 

稲実バッテリーはこの打者から確実にストライクを取る為、伝家の宝刀チェンジアップを使う決心をする。

 

___ガツン!!

 

西東京最強の左腕が投げたチェンジアップに対し、仰け反りながらもどうにか当てた雷市。だが芯が外れ、鈍い音が鳴る。

 

 

「……アウト!」

 

ギリギリのタイミングだったが、素早いフィールディングを披露した稲城実業野手陣が僅かに勝り、ワンアウト。

 

轟がストレートを打てなかった時とは違い、全く動じない薬師高校。

それはそうだろう。だって轟は練習ですらチェンジアップを1度も打とうとした事が無いのだ。ビデオで見た事しか無い球種だから、失敗しても不思議では無い。

 

 

 

「ドンマイ雷市ー」

「これで借金1だぞーっ!」

「大丈夫ダイジョブ。俺も今回エラー3だからー」

『…………』

 

アウト1つ取られても、わいわいガヤガヤしていた薬師高校ベンチだったが、伊川のあまりにも無責任な一言で、一瞬無音になる。

ワザワザ数えてなかったけど、そういえばキャッチャーの辺りでミスが多発していたような気がする。というかアイツ、誰の責任か微妙なミスを含めたら3回以上やらかしてなかったか……?

守備のミスには目茶苦茶寛容な薬師メンバーも、流石にコレには憤慨した。

 

 

「クソザコー!」

「ヘタクソー!!」

「てめーら、それ俺に言ってんのか!」

『当たり前だろ!!』

 

 

薬師高校2番目の打者は、怪物スラッガーの北瀬。ピッチャーである事を考慮したら、高校バッター最強格の轟雷市すら超える逸材だ。

 

(マジか、まさか雷市がこうも簡単にヤられるとはなぁ。まあ良いや。俺の打席、ホームラン狙いか安打狙いか……ピッチャーとして不調な時、バッターとしても不調な気がするんだよなァ。

どうせ伊川は打つだろうけど、ホームイン出来るかは分からないし……)

 

 

___ガギン!!

 

 

考え事をしている最中に投げられた、内角高めに来たボールを咄嗟に打ち返した。

打球が高く上がったのを見て積極的に2塁も狙った結果、危うくアウトになりかけたがギリギリセーフ。

 

 

ワンアウトランナー2塁で迎えるは、この夏……いや、マネージャーが全力で調べた結果は、衝撃の公式戦打率10割の男、伊川始。

 

まあ小学生の頃のデータは全く無く、中学1年生の頃は当日の人数不足で不戦敗、中学2・3年生の頃は不祥事で対外試合禁止により、全く試合に出ていなかったのも大きいのだが。

そういう環境で育つと、こういう選手に育つ事もあるんだな。練習も独学だろうし……可哀想に。稲城実業のメンバーは、少しだけ寛容性が上がった。

 

___カーン!

 

無我の境地とかでは無く、普通にボーッとしたまま打ち返した打球は、外野に落ちてツーベース。当然北瀬は帰塁し、薬師は1点を返す。

 

 

(俺のボールが打たれた?! ……チッ、仕方ない。伊達に一也達に勝ってないって事だ。やっぱ守備難ってだけのチームじゃないね)

 

プライドがエベレスト級の成宮は、打たれて短気な一面が出てきそうになったが、相手の打撃力を思い出してどうにか堪えた。

 

 

(そうだ、鳴……こいつらにある程度打たれるのは仕方ない。きっちり切り替えて行け)

 

稲城実業のキャッチャー、ドラフト上位候補と噂されている原田は一瞬立ち上がりかけたが、成宮が怒りを飲み込んだのを見て座り直す。

こういう柔軟な対応が出来るのが、強豪のキャッチャーとして正しい姿なのだ。ピッチャーのやる気を下げていくスタイルの伊川は見習った方が良い。

 

 

……

 

 

3回裏、7対3で稲城実業の4点リード。白熱した……まあ、ある意味では非常に白熱しているこの試合、実況の声にも熱が入る。

 

「高校最強左腕を決める、この1戦!

ここが甲子園であれば……そう思わせる程素晴らしい両チームのピッチャー。最高クラスの守備に対抗する、最強の打者陣。なんて素晴らしい試合でしょうか!」

 

稲実がバントをしたと思いきや、薬師がエラーする。薬師のスラッガー達が打ったと思いきや、鉄壁の稲実野手陣が捕球する。

そうして選手達が奮闘(?)する中、選手の良い所だけを切り取ったテレビ放送がお茶の間を賑わらせていた。

正確にいうなら、最高クラスの守備(だがバントのみの稲実)に対抗する、最強の打者(3人がエラー量産する薬師)陣だと思うのだが……

 

 




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