【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「いやー……なんか、今回も派手に負けたなあ……」
「降谷も沢村も決勝までほぼ無双して大分調子良くなってたし、今回こそって思ってたんだけど
やっぱ北瀬出されたら駄目だろ……アイツ強すぎる。日本人どころか本当に地球人か?」
「世界をパーフェクトで獲った男相手だけど、諦めたつもりもなかったんだけどなあ……まさかその時より仕上がってるとは思わねぇじゃん
あの直球、俺の目がおかしくなったのかと思ったわ」
「つーか、あのスライダー1本でメジャーでも天下取れるんじゃね?」
「……とりあえず春は甲子園には行けそうだよな、なんか釈然としねえけど」
秋地区大会、最後の決勝戦で当然の様に薬師と当たった青道は、日本のエース北瀬に成す術無く完敗した。
……唯一沢村のバントが通じた時は度肝を抜かれたが、やはり後が続かなかったのだ。
メジャー最速クラスの速さに、あのよくわからない浮き上がる鉄球みたいなストレート。
人類の指から放たれたとは思えない、魔球スライダー。
それを完璧に制御し切る制球に、200球投げても平気なスタミナを持ってるときてる。
野球漫画のラスボスだってもう少しは自重してるだろう。
というか、こんな奴を相手にしている主人公チームはどんだけ強ければ良いのだろうか。
普通あれだけ一方的になれば少しは白ける物だろうが、観客達は北瀬や伊川のパフォーマンスを完全に堪能していた。
それだけならまだしも、まさか三振を取られた時に青道のスタンドから歓声があがるとは思わなかった。
……けれど自分も気付けば、嘗て憧れた選手を見る子供のように、目を輝かせてしまった。
……沢村も、降谷も、本当に自分には勿体ない選手だと本当に思っている。
初めの頃は元気とクセ球だけが取り柄だったのに、信じられない速度で成長して、どんなピンチも凌いで俺達をずっと助けてくれた沢村。
北瀬がいなかったら高校野球最速の称号を間違いなく得ていた、怪物降谷。
2人共、強豪校のエースナンバーを背負うのに相応しい実力だ、あいつらなら全国の強豪にだって負けないと思っている。
でも彼らに相応しいのは、俺じゃなくて御幸先輩で……
彼はその時、ふと不安になってあの二人ががどう世間に見られているか調べてしまった。
『薬師に1桁で抑えたのは凄かったよ』
『青道も頑張ったと思う』
『北瀬の球見ても、勝とうと最後まで頑張ったのは偉い』
とりあえず、狩野が心配していたようなことは意外と書き込まれていなかった。
だが……そこに書かれていたのは、大凡全国の舞台を目指す『強豪校』のエースにかけられる言葉では無かったのだ。
「ふ、ぐっ……ううっ……」
2人が薬師に勝てるエースだと信じる者は、1人も、いなかったのだ。
自分が、あいつらの空気に呑まれたりしなければ。
もっと、強気なリードができていれば。
あるいは、監督に言って沢村の打順を上げるように言っていれば……試合の流れは、もう少し違ったんじゃないのか?
あんな素晴らしい投手達に、『薬師には勝てっこない』なんて評価をつけさせることはなかったんじゃないのか?
「おい狩野ぉ!お前何処行ってんだ!」
「なっ…なんだよ……」
突然の沢村が俺を呼ぶ声に、涙を拭いて立ち上がる。
見れば、降谷も隣にいた。
「な、なんだお前泣いてたのか!?」
「泣いてねえよ!……それよりお前ら、何しに来たんだよ」
「何じゃねえだろ!……まさか昨日何処と、何しに試合に行ったのか忘れたとか言わねえよな!?練習しに呼びに来たんだよ!!」
「試合して……ボロボロに負けたばかりなのに……」
「そうかよ!俺らの誓いを忘れてるってんなら、改めて言うけどよ!
打倒___北瀬涼!俺達青道はセンバツで、甲子園の舞台であいつを超える!!今から試合が楽しみだぜ!!」
「…………」
「今の僕達だけじゃ、彼を超えるのは無理だから……」
「降谷、もっと言ってやれ!……そのためにゃ取ってくれるお前がいねーと話になんねえだろうが!」
「栄純くんは新しい変化球試したいみたいだし、僕だってもっと鍛えないと」
……全く、これじゃあどっちがリードされてるんだかわかりゃしねえよ。
「おー、だよな。速攻で準備してくるぜ!」
御幸先輩、俺は野球人生の全てを掛けても貴方みたいな捕手になれないかもしれません。
でもこいつらは、貴方と出来なかった事が出来るようになると思います。
だからどうか見ていてください。
コイツら2人が、薬師を、北瀬涼を越える所を……
遂に日本最強の野球部を決める日がやって来た。
優勝候補最筆頭、春夏甲子園連覇校でありU-18出場メンバー5人を含む薬師高校対、9年ぶりの甲子園出場にして破竹の勢いで突き進んできた青道高校。
「北瀬ー!!今日も167km見せてくれぇ!!」
「伊川ァ!打率10割頼むぞぉ!!」
「轟ィ!場外へのホームランを頼んだぞぉ!!」
対照的なチーム事情をしている両校だが、応援は明らかに薬師高校の方が多かった。
主人公らしさで言えば青道高校なのだが、反則じみた異常な強さを見せる薬師高校に惹かれる人は多かったのだ。
それでも青道高校の選手達は、全国の高校球児達が夢見る最高の聖地で戦える事に高揚していた。
「はは……っ!遂に来てやったぞ、甲子園決勝の舞台!!沢村伝説の舞台は、甲子園決勝で次のステージへ……!」
「栄純くん煩い」
「勝手に俺が主人公です!みたいな雰囲気醸し出してるんじゃねーよ!!」
「でも気持ちは分かるな!甲子園決勝の選手なんて、全員主人公みたいな物だろ!」
「狩野ぉ……だよな!分かるよな!!」
盛り上がるベンチを見ながら、確かに冷徹な落合監督本人も高揚していた。
……だが、彼らの様に無責任に楽しむ事は出来なかった。
どう考えても薬師高校に勝ち目がないからである。
(この舞台まで、今来れるとは思って無かったな。降谷と……そして沢村に感謝しなければ
でもなぁ、この戦力じゃどう考えても北瀬を打ち崩せないんだよなぁ。それに練習している時の動画を見るに……正直負け試合だろ、コレ)
「えーゴホン、薬師のデータは全員覚えているな?逐一指示を出していくから、それを考慮しつつ柔軟に動く様に
お前らも待ち望んだ甲子園決勝の舞台、2度とは無いかもしれない場所で思う存分戦え」
『ハイッ!』
対して薬師野球部のベンチは、普段通りワチャワチャと盛り上がっていた。
「ん?今回沢村が4番なんだー」
「あいつ、妙にバント上手いしなー」
「ガハハハ!次こそキャッチしてみせるぜ!!」
「完全試合達成への1番の壁は、バントの沢村さん……えぇ……??」
今回の試合だけ、投手兼主砲になった沢村の話題で盛り上がっている薬師部員達。
いくら頭薬師している薬師部員達も、流石にバントだけを見込まれて4番に座った沢村には驚いた様だ。
「うし、じゃあそろそろ締めて行くぞ!
甲子園決勝の相手は因縁の……と言うには歴史が浅いが……な青道高校!158kmのエース降谷と、超クセ球サウスポーの沢村が牽引して来たチームだ!
確かに投手力では高校有数かもしれんが、薬師打線なら絶対に打ち崩せる!!お前らの最高の打撃を!日本中に見せ付けてやれ!!」
『はいっ!!』
1回表、薬師高校の攻撃は1番轟。
……そう、秋葉ではなく轟である。轟監督の「どうせなら相手を驚かせてやろうぜ!」というめちゃくちゃな一言で今回大幅に打順が変わっていた。
一応彼にも(北瀬がそう何点も取られるとは思えない。なら確実に点を取れる場面を作ってやる)という思惑があったらしいが、言ってないので部員達には伝わっていない。
薬師部員達は(このおっさんまた妙な悪癖が……)と一瞬思ったが、どうせホームランを狙うのは変わらないから打順なんてどうでも良いかと流していたらしい。
相手ピッチャーはエースの降谷暁、相変わらず無表情な様な固い意志が見える様な微妙な顔をしてマウンド上に立っていた。
___バシッ!
「ボール」
___バシッ!
___ブォォン
「ストライク!」
___バシッ
「ボール」
___バシッ!
「ボール」
___バシッ!
「ボール、フォア!」
先頭打者へのフォアボールをあっさり出した降谷。
彼は立ち上がりが課題だと良く言われるが、今回はソレが出てしまったらしい。
敬遠した可能性もある気がするが、多分違うだろう。
なんせ、キャッチャーの構えた所と全然違う所に飛んでいる。後ろに逸らさなかっただけ青道高校にとってはラッキーなのかもしれない。
「ガハハハ!フォアボールで出塁とは未熟だな!」
「いくら雷市でもあんなボール球は打てないだろ……」
「ドンマイ雷市!」
「ナイス見極めです雷市さん!」
薬師ベンチはというか、薬師上級生はいつものヤジを飛ばしている。
「ナハハハ!俺と代わるか降谷!!」
「……代わらない!」
「甲子園でも変わらないね、栄純くんも降谷くんも……」
ダブルエースの降谷と沢村がまたじゃれあっている。他の青道高校メンバーは、そんな彼らを見てバカじゃねぇのと思いつつ少し安心していた。
ノーアウトランナー1塁で、打席には2番北瀬。
(降谷さんとまた勝負!しかも甲子園決勝で!!)
輝くような笑顔を見せながら打席に立つ北瀬。
間近で彼をみているキャッチャーは、得体のしれない怪物の様に見えていたらしい。威圧感が凄まじいのだ。
___バシッ!
「ボール」
___バシッ!
「ボール」
___バシッ!
「ボール」
降谷の立ち上がりが非常に悪く、なんと6連続でボールを出していた。
(これじゃ打ちに行けないし!フォアボールでは出塁したくないけど……でもコレ打つのは無理だよなぁ……)
困った顔をしている北瀬。全力で打ちに行こうとしている時にやられたせいで、出鼻をくじかれていた。
___バシッ!
「ボール、フォア!」
「まじかぁ……」
「もっと打ちに行くんだー!」
「いやいや無理だろ」
「流石に北瀬さんでも無理ですよ……」
三島の激励に対して流石にツッコミを入れた薬師部員達。
こんなあからさまなボール球を打ちに行っては無駄にアウトを取られるだけだと、流石に大体の部員が分かっていたようである。
『ポジション変更のお知らせをします……ピッチャー降谷くんに代わりまして、沢村くん、沢村くん……』
「降谷ぁ!安心しろ、俺が何とかしてやるからな!!」
「……!!」
大エース北瀬相手に簡単に点をやるわけにはいかないと、落合監督は降谷に無情のライト行きを告げた。
ショックを受けている降谷だが、正直仕方ない感じがする。だってこのままでは、フォアボールだけで点を入れられてしまいそうだったのだ。
ノーアウトランナー1・2塁で、打席には3番伊川。
(風強いな……面倒くせぇ)
甲子園決勝戦にも拘らず少し嫌そうな顔をしている伊川だが、この時の彼は……控えめに言って覚醒していた。
普段から彼は、メジャーでもMVPを取れるレベルのバッターなのだが……安打製造機や広角砲などに加え、チャンスAに対左投手Aが発動していたのだ。
こころなしか、元から打席に立つと凄まじい威圧感が増幅している様に感じられる。
キャッチャーの狩野は完全にビビっていた。
「さーここを打ち取って、この回を無失点で凌ごう!ガンガン打たせてくから、バックの皆!任せたぜ!!」
『……おうっ!!』
伊川の発する異様な雰囲気に飲まれかけていた青道メンバー達も、沢村の一言で立ち直った。
だが……
___カッキーン!!
『わああぁぁ!!』
ぐうの音も出ない、レフトを大きく超えるスリーランホームランを放たれてしまった。
「始ナイス!!」
「ホームラン狙いに行くとは思わなかったな」
「伊川せんぱーい!!ナイスホームランでした!!」
「さっすが伊川!……ホームラン楽しいよな!!」
「なんか狙えそうだったから狙っただけだけどな」
軽い球質で左投手な沢村は、伊川との相性が非常に悪かった。
ホームランを打った本人は打ちづらかったしマグレだと思っている様だが、実際は違う。
彼は天下の10割打者なので誰も気付いていないが、ただでさえある実力差が相性によって更に増しているのである。
ノーアウトランナー無しで、打席には4番火神。
「おっしゃーテンション上がって来た!」
良く言っている言葉をまた言いながら、次世代NO.1だろうと目される長距離バッターが打席に立った。
___バシッ!
___ブォォン
「ストライク!」
___バシ
「ボール」
___バシッ!
「ストライク、ツー!」
___バシッ
___ブォォン
「ストライク!バッターアウト!!」
「クソッ!沢村の変化球スゲェな!!」
「……沢村さんな?他校の上級生には敬語を使ってくれ」
「惜しかったぞー!……そんな事気にすんなよ伊川」
「いや、いくら帰国子女といえど悪目立ちはしてますね」
沢村は先程のスリーランホームランなど無かったかの様に、しっかりと抑えてみせた。
前のピッチングの事を過度に引き摺らない所が、彼の長所の1つでもある。
そんな沢村のピッチングに抑えられた火神は、悔しがりつつも好戦的に笑っていた。
彼は北瀬より重症なバトルジャンキーである。
最高のピッチャーと対戦する事を常に望んでいるのだ。実際北瀬と毎日の様に戦わせて貰えて凄く喜んでいる。
2軍や3軍の生徒達は、そんな火神を見て「北瀬さんと戦うのは楽しいけど、毎日って心折れねぇの……?」と内心思っているらしい。
ワンアウトランナー無しで、打席には5番三島。
「ガハハハ!4点目は貰ったぜ!!」
完全にホームランを打つ気しか無い様で、彼の性格を表す様に快活に笑っていた。
___バシッ
「ストライク!」
___バシ
「ボール」
___カキーン!
___バシッ
「アウト!」
『ああ……』
「ドンマイ三島!」
「ホームランまで後少しだったな」
「惜しかったです!三島先輩!!」
フェンスを超えていくかと思われた打球は、今日はレフト方向に吹いている風によってアウト。
ライト方向に打ってしまったのが失敗だった様だ。
「くっ、ホームランが打てなかったか!……だがこの三島優太!次の打席では打ってやるぜ!!」
「頑張れ!」
「あんま気負いすぎるなよ!」
「ああ、お前なら打てる!」
「カハハハ……がんばれミッシーマ!」
ベンチで叫ぶ彼を、上級生達は応援していた。
近くで叫ばれると割と煩いのだが、非難せずに応援してくれる所が彼らの優しい所である。
ツーアウトランナー無しで、打席には6番結城。
(狙うはレフト方向か……いや、俺なら当たれば飛ぶ!)
強い風が吹いている事などお構いなしに、自分のバッティングを貫こうとしている結城。チームバッティングなどは一切考慮していない。
まぁ彼だけ悪目立ちしている訳ではなく、現在の薬師部員はそういう選手ばかりだが。それにしたって思想は際立っている。
___カッキーン!!
『わああぁぁ!!』
そして、今回はそれが良い方向に作用した。
パワーだけ考えれば世界の18歳以下の野球選手で3本の指に入る彼は、変化球のキレが良いとはいえ軽い球を相手に、見た瞬間分かる場外への特大ホームランを放った。
「結城スゲェ!」
「アイツ、当てればめっちゃ飛ぶんだよ!」
「一応国際大会でMVP取った俺でも、芯に当てられたら場外まで飛ばされるもんなぁ」
「ガハハハ!結城のパワーはメジャークラスだからな!」
「168kmをかっとばせるパワーですから、当たれば当然の結果ですよね!」
薬師部員達は場外への特大ホームランに対して、褒めているんだか貶しているんだか分からない発言をしていた。
彼らは結城が、甲子園決勝で特大ホームランを打った事に全く驚いていなかったからだ。
確かにホームランが出た事を喜んではいるのだが、彼が打てるのは当然だと信頼しているのである。
喜びを一切表には出さずにダイヤモンドを回って、堂々とベンチに帰って来た結城。
周りからの強い信頼を受け、これまた堂々と言い放った。
「___俺なら当然です、これからも信じてください」
「何それ超カッケー!」
「当然だろ!」
「そこまで言うなら甲子園打率も5割位まで上げろよなー!今でも十分つえぇけど!」
「カハハハ……シンジテル!!」
結城の大胆不敵な宣言を聞いた薬師部員達は、茶化しながらもニコニコと笑っていた。
……確かに、彼はまだまだ未熟な所がある。
だけど部員全員が、彼の天才性を信じているのだ。成長すれば、北瀬や伊川と同じ様にメジャーまで行けるだろうと信じているのだ。
まだ結城は雷市や真田に火神程には頭角を表していなかったが、彼もいずれその境地に辿り着くと思っているらしい。
チームメイトが天才である事に慣れすぎて、特異的な才能を見ると信じ過ぎる所もあるだろうが。
対して、まさかの伏兵にしてやられた青道高校だが……落ち込み切ってはいなかった。
「ナハハハ!打たれて悔しい、すまん!
……でも次は抑えるからな!ガンガン打たせていくから、バックの皆!頼んだぜ!!」
『おうっ!!』
「薬師相手なんだ、一発はある!あんま落ち込むなよー、今のお前は問題ないだろうけど、一応な!」
「俺のリードも悪かった!次は抑えよう!!」
「僕も投げたい……!!」
「降谷ァ!聞こえてるからな!絶対この場所は渡さねぇぞ!!」
2年間も地区大会で抑え続けられた彼らは、試合での失態を割り切る事が出来ていた。
絶対に抑えるという気持ちで動くが、失敗しても振り返らない、動揺しない事が一時的に出来ていたのだ。
甲子園決勝という舞台に立てた事が嬉し過ぎて、今だけは後悔に足を引っ張られなくなったのだろう。