【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
伊川が小学校の入学式の日、なぜか母親まで父親に付いていって冒険家をする事になったらしい。
お母さんは式に来てくれないなかったなぁと思っていた矢先、机に「ぉ父、ナωー⊂一糸者レニ元頁弓長ゑ亊レニιナニ、今まτ″ぁ丶)カゞー⊂ね!」と置き書きがしてあったのだ。
当然の様に日本に置いていかれた彼は3日程呆然と佇み、お腹が空いて身体が危機感を覚えて何とか行動をしようとした結果、母親が気まぐれで読んでいた1冊の漫画を手に取った。
それは、NARUTOの2巻である。
そして、サスケが写輪眼を開眼する能力を見て彼は信じてしまった。
(もしかして俺って写輪眼を持つ、うちは一族のかくれた末裔なのでは……?だから要らないって捨てられたんだ!)
最悪な事に、この説は伊川の中でかなり辻褄があってしまった。
他者より異様に優れた空間認識能力は、写輪眼を持っているから。
喧嘩をすると誰にも負けないのは、忍者の末裔だから。
……躊躇なく両親に捨てられてしまったのは、本当の親ではなかったから。
こうして伊川は、誰にも否定出来ないヤバい中二病を患ってしまった。
開き直った彼は行動力の化身だったので、まずはサスケに見つけて貰う為に、うちはリョウに改名しようと思った。
親が酷いからという理由で改名出来るかもしれないと想定したが、途中で気付いた……多分俺には隠れてないと不味い訳がある。
とりあえずその理由が分からないから、発売されている72巻を全て買わなくてはならない。
1冊484円だから、全巻揃えるには34364円。多分俺みたいな孤児は養ってくれる制度がありそうだが、それだとお小遣いなんて貰えないだろう。
どうすれば、うちはサスケについて知れるんだ?……それに、生活費も最低限は稼がないと生きていけないし。
サスケに会って話をするまでは、死ねないから、偶にはご飯を食べないと。
そう考えていた時、なんか無料でご飯を食べられるらしい稲城実業野球部のイベントのプリントを見つけ、一縷の望みに賭けて5km先まで歩いて食べに行く事にした。
普通の人なら無料という言葉は簡単に信じるのだが、今まで騙され続けてきた伊川からすれば大変疑わしかったらしい。
この紙を入学初日に配った教員は、餓死をギリギリ防ぐ超ファインプレーだった。今日は土曜日なので、学校の給食を待っていたら死んでいたのである。
……彼はNARUTOの続きを探している最中、タンスの中にあった1万円を文字通り死んでも手放さないつもりだったのだ。
___ぐぅ……ぐぅ……
お腹の音を盛大に鳴らしながら、彼はどうにか野球部の場所についた。
小学生から中学生の子供達が両親に見守られながら真剣に野球をする中、伊川はフラフラとよろめきながらやって来た。
(今日のご飯は何だろ、タダで出ると良いな!スパイスの匂い的に、多分カレーかな?忍者の末裔だから合ってる筈!てか、ご飯が無料じゃ無かったら死ぬしかないな!
あ、死ぬ前に漫画買わないとなぁ……続きを買うか、最新刊を買うか。迷い所だな)
ボロボロの服を来て途中1人でやって来た彼は、周りから異常に浮いている。少し臭いのが気にならない位、哀れな風貌をしていた。
「えー……私が監督の国友だ。保護者の方……いや、お母さんは近くにいるかな?」
「お父さんと一緒に頑張る事にした、今までありがとねって書いた紙を置いていって3日経ちました」
「…………」
「ご飯が無料で食べられるって書いてあったのが本当なら、少しでも良いので食べさせて欲しいです」
「……とりあえず、おにぎりでも食べるか?」
「ありがとうございます!」
監督という言葉はよく分からない伊川だが、ご飯を無料でくれる事は分かったので付いていった。
そして奪い取る様におにぎりを受け取り、一瞬で食べ切った。極度の心労であまり感じていなかったとはいえ、身体は食料を欲していたのである。
「……とりあえず、今回は野球をするイベントなんだ。やってみないか?」
「野球って何ですか?」
「スポーツの一種……動いて遊ぶ事か?」
「分かりました。やります」
一飯の恩を感じていた伊川は即座に了承し、1回野球をしてみる事になっていた。
「肩とズボンの上側から、膝頭のあたりが縦のストライクゾーン。この塁の左右の場所が横のストライクゾーン。この両方に合っているボールが来たらバットで打つんだ」
「分かりました、やってみます」
1人の子供だけを監督直々に案内しているが、あからさまに可哀想な小さい子に対してクレームを入れる非常識な人は居なかった様だ。
「このバッティングマシーンは120kmなんだけど、まぁ中学生の子を発掘する為の設定だからまず打てないよ
まぁとりあえず、幼少期の子供には凄い球を体験して貰う感じで……」
___カキーン!
「??」
___カキーン!
「……?!」
___カキーン!
「…………」
___カキン!
「!!!」
「あ、ごめんなさい。今回は飛びませんでした」
まるで野球に熟練した中学生の様な動きを見せる、恐らく小学生の浮浪児を見てしまった国友監督。
彼は業火のような、1つの欲望に突き動かされつつあった。
(彼には、前例が無い程の才能がある。ぜひ私に預けて、育てさせて欲しい…………いや、私が引き取ってしまえば自由に育てられるのでは?
もしかしたら彼は、プロ野球で活躍する事だって夢ではない才能を……いや、メジャー選手にだって成れるかもしれない素晴らしい天才に違いない!
___今なら合法で、私の息子に出来るな)
「君凄いね……!!名前は?」
「ありがとうございます?俺は伊川始です」
「ちょっと後で話があるから、練習が終わってからも残って欲しい。そうだな……本当は駄目なんだけど、特例で何か買ってやろう」
「本当ですか?!ならNARUTOの3巻が欲しいです!!」
「分かった……じゃあ私は生徒を見に行くから、コーチの言う事を聞くんだよ?」
「分かりました!!何でもします!!」
たった数百円で何でもすると豪語する、明らかにヤバい彼の精神状態を心配しながら、国友監督は名残惜しそうに去っていった。流石に正規部員の高校生達を放置し続ける訳にはいかないからだ。
天才から目を離したくないと思いながら、彼は渋々去っていった。
……国友監督は別に、性格の悪い人間ではない。だが彼には、人生を捧げるに値する野望があった。
それは学生時代、どれだけ努力しても手の届かなかったプロ野球選手という夢を、教え子に叶えさせるという野望だった。
それも教え子がプロになるだけではなく、1軍の試合で大活躍する選手を作りたいのだ。
今までは下位氏名の選手はちらほら出ても、数年で戦力外になっていた。
……だが中学3年生でも打つのが難しい球を、ルールも分からないまま4連続で打った彼なら、高確率で成せるのではないだろうか?
貯金を切り崩せば、高校生までしっかり育てられるだろう。
そうすれば、彼の進学先なんて思いのまま。私の夢が叶う可能性は高い。リターンが非常に高い、安すぎるギャンブルだ。乗らない手はない。
……伊川だって、このままなら親戚に預けられる程度の選択肢しかない。
こんな可哀想な子供を今の所気にかけてない親族に預けられるより、立派な野球人に育て上げられる私に預けられた方が、彼も幸せに違いない。
___よし、引き取ろう。
監督は数時間後にどうにか時間を開けて、伊川の元にやって来た。
伊川は漫画を彫るために大人しく周りの指示に従いつつ、天才の才覚で周りの度肝を抜いていた。
年齢を高く見積もっても明らかに小学生程度の、明らかに時間とお金を野球に賭けていない麒麟児を見た見学者達は、何人も野球を辞めたらしい。
人生設計の変更を余儀なくされる程度の絶望なんて、両親に捨てられて保護者すら無く、全所持金すら1万円しかない伊川の知った事ではないが。
「待っていてくれてありがとう。私は稲城実業高校の監督を務めている国友広重だ。とりあえず、年齢を聞いても良いかい?」
「6歳です」
(明らかに平均身長より大きい!なんて才能だ!
こんなガリガリで、明らかに栄養不足の彼が現時点でここまで強いなら、それを与えればどれだけの力が……!!)
「思ったよりも若いな……私は、君を育てたいと思っている。行く宛が無いなら、私の家族にならないか?」
「…………」
(絶対に怪しい。何か、くにともひろしげにとって大きなメリットがある筈。たとえば、子供がせい的に大好きなへんたいだったり、サギに小学生が必要とかかな?
まぁ……それ位ならいっか。見ず知らずの子供に漫画を1冊買い与えてくれるなら、家族になれば全部買ってくれるかもしれないし)
人の善意を知らない伊川は、偏った知識で物事を決めつけていた。
治安が悪い所に住んでいるので、お金を持っていなくて使えない子供の自分に近付いてくるのは、倫理観の無い奴だけだと確信しているのである。
実際の所この監督は、伊川が想定しているより何百倍もマシな人格をしているのだが、残念な事に小さな子供を野望に利用しようとしているのであながち間違いでは無い。
まぁ地元に居続けたら妄想が現実になっていたと思われるので、遥かにマシな選択肢だったが。
「……1日1食と、マンガをくれるなら良いですよ」
「1日3食食べてもらう。漫画は……ご褒美にな」
(なるほど、騙し取れたら成果報酬って事だ!何をさせるのか知らないけど、3食を最初からかくやくしてくれるなんて良い人!
いや、俺の臓器でも売るつもりなのかな?別にNARUTO全部読ませてくれた後なら、もう全部どうでも良いけど)
「分かりました。よろしくおねがいします」
「___これから、宜しくな」
「よろしくお願いします。けいやく通り、セイカホウシュウはくださいね」
「お湯は熱くないかい?冷たかったりもしないかい?」
「火けどもしないしトウショウにもならないと思います」
「…………」
(伊川は、火傷したり凍傷になったりする水を掛けられていたんだ!極悪非道、許される事じゃない……!!)
義憤に駆られて青筋が浮いている国友監督を見て、うとうとしていた伊川は恐怖に駆られて思わず叫んでしまった。
「ごめんなさい!何もしなくてごめんなさい!」
「君が悪い訳じゃないんだ、少しずつ慣れていこうね」
「??……はい!」
類まれな、本人は写輪眼だと思っている視覚処理能力によって、本当に国友監督が自分には怒っていないと分かった伊川。
ほっとして、ゆっくりと肩まで風呂の中に浸かり切らせた。
(良かった、俺に怒ってないんだ!
じゃあ何に怒ってたんだろう……?全然分かんないや
それに成れるって何になれば良いの?……暖かくてぽかぽかするし、考えるのは後でいっか!)
こうして伊川と国友は家族になり、野球選手になる事が決まったという。
ぐっすり眠った後、次の日の伊川達は役所に行って本当に家族になった。
伊川は自分の事を、「監督に使い潰される駒C」位に思っていた為、養子縁組してくれた事を不思議がっていた。
法に触れる事をさせるなら、血縁関係があると監督まで罰則を被りかねないからだ。
俺に何をさせたいのか、全然分からないと少し困っていた。
俺は死にかけの、マトモに働けない、社会のお荷物の6歳児。1人じゃ何にも出来なくて、どうせそのうち野垂れ死ぬ。
だから、約束を守ってくれるなら何を命じられようと諦めてやろうと覚悟してここまで来たのだ。
なのに、思ってもいなかったのに、嘘じゃなくて本当に新しい家族が出来てしまった事に戸惑っていた。
役所での難しい話が終わった後、伊川は本屋に連れられて約束通り漫画を買って貰っていた。
少し珍しい赤髪の凄く大人しい小学生が、明らかに血縁関係がなさそうな成人男性に連れられて歩いている姿は少し注目されていた。
子供が自分から付いていっていたので、特に問題はないと思われてはいたが。
この頃の彼はある程度冷静になっていて、小さな約束を守っただけで、弱い立場の自分が本当に約束を守ってくれた事に驚いていたらしい。
「え?本当に3巻くれるんですか?!ありがとうございます!!」
「ああ、約束だからね」
「楽しみです……!ほんとうに楽しみです……!!」
これは彼にとって、始めて他人に優しくして貰えた瞬間だった。
(何で俺に優しくしてくれるんだろう?分かんない……
あそっか、俺がうちは一族の末裔だから利用価値があるんだ!写輪眼を使って何かしたいんだな!バレないように人を殺すんだろうな、俺って忍者だし
あんまりやりたくないけど……こんなに良い思い出来るなら、対価が何でも仕方ない)
だから彼は、国友監督は自分を懐柔しようとしていると確信していた。
……それでも伊川にとって、本当の意味で人から優しくして貰えた事は始めてだった。
だから、この人が俺を家族だと言ってくれるなら、何でもしようと思ったのだ。
数日前に住んでいた家より明らかに整頓されている新しい実家に帰った伊川は、務めて冷静な顔をしながらこう質問した。
「たくさん親切にしてくれて、すごく嬉しかったです
……だから、俺は何をすれば良いのか教えてください」
「…………」
(1日1食とマンガなんかで、利用される事が分かって付いて来ていたのか?!何をすれば良いのかも分からないまま、言われるがまま……なんて子だ)
多くの学生を見て来た国友監督だが、流石に伊川レベルで可哀想な子供を見たことが無かったのでたじろいていた。
自分の欲望で、幼い子供の人生を勝手に決める極悪非道な事をしようとしていると自覚している事もり、伊川の言葉は非常に重かったのだ。
「……分かっていたのか。そんな直ぐに言うつもりは無かったんだが……野球で活躍して欲しいんだ」
「……??さっきやった、ボールを打つ遊びですか?」
「……ああ。打たれボールを拾ったりとか、色々他のやる事もあるが、概ねそんな感じだ
伊川……いや始には、俺の夢を叶えて欲しい。利用する形になって申し訳ないと思ってはいるが……」
「??」
伊川はキョトンとした目をしていた。
さっきの遊びで活躍すると、国友監督に何のメリットがあるのか全く分からなかったのだ。
「俺が活躍すると、何で夢が叶うんですか?」
「俺の教え子が、プロで活躍するのを見るのが夢なんだ……だから明日から野球の練習をして欲しい。そして高校は、稲城実業を選んで欲しい」
「えぇ?!分かりました!!高校に行かせてくれて、ありがとうございます!!写輪眼持ってるから、いっぱい活躍出来ると思います!!」
___衝撃的などんでん返し。
死なない程度に遊ぶだけで、1日3食くれて、成功報酬ではマンガを貰えて、偶に一緒に温かいお風呂に入ってくれるというのである。
写輪眼持ってて良かった!お母さんってホント馬鹿。写輪眼を持っている俺を連れていけば、良い事たくさんあったと思うんだけどな。
残念でした!今日から俺は国友監督の子供だから!!謝ったって許さないからな!
そんな事を考えていた伊川は、国友監督の引き攣った目に気付いていなかった。
「……写輪眼って?」
「なんか俺、昔から殴られそうな時は手とかのきどうが分かるし、今日もボールがどこに飛んでくるか分かるんです!お母さんに言うとウソだって言われるけど、珍しい対質だから知らなかったんですね!」
「……そうかもしれないね。予測能力が異常に高いのは、目が良いからかもしれないしね」
「はいっ!!」
フィクションの写輪眼を持っている筈は無いが、似たような能力を本当に持っている可能性のある始。
彼のセンスを消したく無かった国友監督は、曖昧な言葉で茶を濁していた。
躊躇なく両親に捨てられてしまったのは、本当の親ではなかったから。
喧嘩をすると誰にも負けないのは、忍者の末裔だから。
他者より異様に優れた空間認識能力は、写輪眼を持っているから。
国友監督に拾ってもらえたのは、写輪眼を持っているから。
全ての疑問を解決出来る素晴らしい予想を、疑う理由は無かったらしい。
もし冒険家から帰って来るなら、こんな優しいお父さんが良かったな……でも今の俺、本当に国友監督がお父さんじゃん!やったぁぁ!!
お母さん、今まで育ててくれてありがとう。あんまり構ってくれなくて、凄く寂しかったけど、お父さんと幸せに暮らしてね。後、俺の事を少し位は思い出して後悔してね。
___俺は、国友監督と生きていきます。
たった2日で完全に懐柔されていた伊川。
元来依存体質な上、苦しい状況が続いていたのだから蜘蛛の糸に縋りつきたくなって当然だ。
本能的に(この大人を逃したくない……!!)とも感じていた彼は、役所に連れていって風呂に入れて漫画を1冊買っただけの、昨日始めて会った人を相当信頼し始めた。
入れ込む相手が野望を持った大人であった事は、良かったのか悪かったのか……それは今の所不明である。