【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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154球目 1打席勝負

 

 

 

 

3月30日に甲子園決勝戦が終わり、31日は薬師高校卒業式の日に設定されていた。

例年とズレているので、明らかに野球部への忖度である。1年生の頃の北瀬達は、春のセンバツと被っていて卒業式に出られなかったのだ。

 

 

今日の野球部のグラウンドは野球部員だけでなく、部外生、卒業生、そして教職員も集まるなど、人で大いに賑わっていた。

 

そう、今日は野球部元キャプテンである真田の要望で、北瀬との1打席勝負をする事になっている。

その、次いつ起こるか分からない一大イベントを一目見ようと集まっていたのだ。

 

ちなみに審判は片岡コーチが務め、捕手は奥村が務め、守備はある程度守れる秋葉や1年生が務めるらしい。

 

 

伊川は観戦する時に珍しくどちらをを応援するか悩んだが、たまたま近くにいた花坂の「どっちも応援すればいいじゃないですか?」という何気ない一言から両方応援する事にしたらしい。

これにより、伊川から花坂への評価が更に上がった様だ。

 

北瀬は勝負の直前に、そういえば何で俺と卒業式で戦う事にしたんだろうと少し不思議に思ったらしい。

尊敬する真田前キャプテンに、気付けば率直な質問を投げかけていた。

 

 

「それにしても、なんで俺なんすか?」

「えっ、言ってなかったっけ? 前からお前とやってみたいって思ってたからだよ」

「マジっすか……光栄っすね!」

 

 

 

 

1打席勝負が始まる前に2人はそんな緩い会話をしていた。

いくらレクリエーションとはいえ、高校最後の勝負にしてはあまりにも空気が軽すぎる。

これも、薬師野球部の良い所と言うべきだろうか……?

 

 

「よーし! それじゃー北瀬___始めようか」

 

その瞬間、空気が変わった。

ギャラリーの声で賑やかだったグラウンドが、勝つか負けるか、ただそれだけしかない鉄火場へと変貌した。

ギャラリーは、その異様な雰囲気に息を呑む。

 

彼らはこの場を知っていた。

そう、自分達が誇る怪物コンビ、北瀬、伊川が打席に入った時に出る謎の威圧感に近い。

だが、それを出しているのは大エース北瀬ではない……優秀止まりと揶揄される事もある、真田であった。

 

ミットを構えている奥村は、思わず冷や汗をかきながらこう考えていた。

 

 

(どういうことだ……? 確かにあの人は普段はあぁでも、マウンドに立てばガラリと雰囲気を変えるタイプだ

だけどこれは……まるで、打撃に入った時の北瀬さんみたいじゃないか!)

 

バッテリーを組んでいる奥村も、審判を務める片岡コーチも、真田の異様な雰囲気に思わずたじろいていた。

誰もが北瀬の勝利を確信していた。だが、この瞬間そんな考えは一切無くなった。

 

 

 

 

元々この勝負の提案は奥村だった。

プロ入りが決まり、少し浮き足立っていた真田に対し、せめて最後くらいは本気で北瀬先輩に挑んで欲しい。そんなひと言によって組まれたこの勝負。

 

奥村の言葉に納得した真田。

自分よりもすごい天才に対して勝ちたい、北瀬に自分がどこまで喰らいつけるか見てみたい、アイツがメジャーリーグに行く前に本気で勝負したい。

その本気の思いの数々が、今の彼を作っていた。

 

実はかつてその場のノリで打席での威圧感のコツを聞いたことがあり、その教えを少しアレンジしてこのピッチャーマウンドで実践していたのだ。

完全に再現出来ている訳ではないとはいえ、凄まじい成果である。やはりこの男は、才能に溢れていた。

 

 

北瀬はそんな真田キャプテンを見て、好戦的な笑顔を浮かべながら強くバットを握り締めていた。

 

 

___バシッ!

 

「……ボール!」

 

まず初球。インコースのフォーシームを投げ、ボール。

選球眼にあまり自身が無い北瀬は、内心ボールで良かったなぁと思っていた。

ギリギリの所に球が来ていた為、堂々とした態度とは裏腹にストライクかもしれないと思っていたのである。

 

彼は基本的にボール球だろうと打ちに行く様なバッティングをしているので、今回の動きは異様な事だった。

それほどまでに、前キャプテンを警戒しているのである。

 

 

___カッキーン!!

 

「ファール!」

 

2球目。今度はインコースのカットボールを投げファール。

 

もう少しでホームランだったので、真田はこれはラッキーだとちょっと喜びながら、好戦的な視線を北瀬に向けた。

彼はマウンドに上がると、性格が変わるのである。

 

 

___カキン!

 

「ファール!」

 

3球目。インコースのフォーシームを投げ、ファール。

 

これでツーストライクと追い込まれた北瀬。

このまま真田先輩にあっさり負けて、薬師野球部を任せるエースの実力を、心配させたまま卒業させる訳にはいかない。

北瀬はそう意気込み、珍しく非常に真剣な顔をして打席に立っていた。

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

4球目。アウトコースのシュートが外れてボール。

 

この球は北瀬も真田も外れたと確信していたので、審判の宣告に思う所は全く無かった。

真田のコントロールはそこまで良い訳でもないので、外れるボールが出てくる事もあって当然だ。

 

 

___ガギーン!

 

「ファール!」

 

そして5球目。

真田が新しく覚えた、ようやく完成したチェンジアップで空振りの三振になるかと思われたが……北瀬はなんとか堪えてフルスイングし、ファール。

これでフルカウントになった。

 

 

___カキン!

 

「セーフ!!」

『わあぁ……!!』

 

6球目。

それならばと、真田-奥村バッテリーはインコースに渾身の全力ストレートを投げた。

北瀬はなんとか振り抜き、ライト前ヒット。この1打席は北瀬の勝ちである。

 

 

 

 

ボールの行方をしっかり見ていた真田は、勝負が終わった瞬間に得体のしれないの威圧感を消して朗らかに笑った。

 

「いやーやられちまったか! お前に隠してたチェンジアップとか、結構自信あったんだけどなぁ」

「でも真田先輩の球凄かったです! 本気でホームラン狙ってたんですけど、ヒットにしかなりませんでしたし!……あ、あと、なんか変なオーラみたいの出してませんでしたか?」

「えっ、何それ?」

 

先程の威圧感はどこへやら、ギャラリーの拍手や声援が降り注ぐ中検討を讃えあい、緩い会話が繰り広げられる。

真田は自分はまだまだこの程度かと考えつつも、次は絶対に打ち取りたい、三振に抑えたい、そう本気で考えていた。まずはケガしない身体作りに励もう。そう決めた。

 

そして今度は打者として挑戦してみたいと言い、北瀬伊川バッテリーと勝負。今度は轟監督が審判を務め、その間奥村と片岡コーチはこんな話をしていた。

 

 

「どうだった?真田の球は」

「……凄かったです。確かに元々球威はある方でしたが、今までとは比べ物にならない

それにこう言ってはなんですが、今までで1番良いストレートでした。あの球は、俺が今まで見た中で一番良かった

それに、マウンドに立った瞬間のあの得体の知れない雰囲気……北瀬さん相手でも感じたことがありません」

「見事だったな、真田。あと一歩違えば___いや、この勝負にそれは無粋か」

 

彼は威圧感・アーチストのコツを取得した。

まだコツを得ただけで使える訳ではないのだが、数年後の実力に大きく影響してくるだろう。

 

ちなみにこの勝負に勝っていれば、間違いなく主砲キラーやエースキラーが付いていたと思われる。

世界最強とも評される北瀬相手に、最後にここまで健闘したのだから当然だろう。

だが、そんなことを知る由もない真田にとっては、高校生活の中で最高の思い出が手に入っただけで十分だった。

 

 

そして数年後、セ・リーグの最優秀投手と自援護できる投手という評価を引っ提げて、北瀬伊川のいるメジャーリーグのマウンドで投げる事になるのは、また別の話。

そして、普段の優しげな雰囲気とマウンドでの圧倒的な覇気と勇猛果敢なピッチングのギャップが受け、女性ファンランキングで成宮や御幸などを抑えて1位を獲得するのもまた別の話。

 

 

 

 

「真田先輩、今までありがとうごさいました

貴方がいたから、野球を全力で楽しめています。俺にとって、世界で1番のキャプテンでした……本当に、ありがとうごさいました!!

エースとして、最上級生として、真田先輩みたいにチームを支えて行こうと頑張ります!」

「北瀬……ありがとな!でも、俺の真似なんかしなくて良いんだぜ?お前はお前らしい先輩であれば良いんだ

___これからも応援してる。頑張れよ!日本の大エース!!」

「……はいっ!!」

 

こうして、偉大な3年生達は去っていった。

これからも薬師高校が強豪校であり続ける為、今は燻っている下級生達を含め努力して行かなければならないだろう。

 

なんか現在3軍に、最低限だけ練習してサボっている部員が大量にいたが……

流石にこの空気で練習する真面目な部員が可哀想なので、急遽4軍を作ってサボっている奴の隔離部屋にしていた。

 

あの場所に行ったら、野球人生は即座に終わりだろうなと噂されている。

才能が無いとかそういう次元じゃなくて、練習すらサボっている様な奴しか入れられない実質同好会なのだ。

生真面目な奴はマネージャー業を兼務し始め、そちらが本職になっていたりする。新聞部兼任も5人いて、混沌とした空気である。

 

流石にそんな奴らに進学先を勧めてくれる事も無いと分かっているので、意外と勉強だけは頑張っているのは救いだが……ここから這い上がるのは相当難しいだろう。

 

 

甲子園3連覇の最強チーム、薬師高校の実情は割と不味い状態だった。

人の邪魔をする様な奴もいないし、元から緩い空気だったので気にされていなかったが、危ういバランスの元成り立っている状況だった。

人望のある真田前主将が居なくなった今、片岡コーチを雇っていなかったら部活が崩壊していたかもしれない。

 

 

 

 

「由井と火神と部屋が分かれちゃうの残念だなぁ……」

「本当にな……次入ってくる1年生も良い奴らだと良いが……」

「俺も北瀬さんと伊川さんと分かれてしまって残念です……でも火神くんとは一緒で良かったよ!」

「北瀬!また打席勝負してくれです!」

「お前はいつもそれだよなー!」

「やっぱ火神に挑まれるの嬉しそうだな、北瀬」

 

上級生と下級生の人数の関係で、部屋割りが変わる事になった薬師野球部。

上級生1人〜2人に対して、下級生2人で対応していく様だ。

ちなみに4軍の2年生達は、4軍だけで纏められている。下級生達に無駄に悪い影響を与えない為である。

 

 

「練習なら全球種が使える様になって来た北瀬とマトモに戦える奴は、やっぱ少ないよな。そりゃ嬉しいか!」

「良かったな!俺、毎日挑みます!!」

「流石にそれは辞めてほしいかも……」

 

しょうもない会話をしながら、淡々と火神の荷物を片付けている伊川達。

明日から新入生がこの部屋に来るので、速く片付けなければならないのだ。

実質1日も無い状況で部屋を移動しろとか、割と鬼畜である。もう少し監督やコーチには、計画性を身に着けて欲しい。

 

まぁ普通、上級生と下級生の人数バランスが大幅にズレる事は無いから対応出来なくても仕方ないのだが……部員達からすれば良い迷惑だった。

 

 

「てか、俺達の部屋に来るのって誰だっけ?」

「確か……外野の青井と、セカンドの流川じゃなかったっけ?」

「へぇ……どんな奴?」

「ごめん、全然知らない」

「あ、俺流川の事は知ってます!湘北シニアの4番で、都内では有名な選手なんですよ!総合力の高い、優秀な選手だとか!青井に関しては全く知らないんですけど……」

「へー、ありがと!どんな選手なんだろうな!」

 

新たな新入生について質問した北瀬。彼は直前まで新入生について考えていなかったので、相手の情報を何も知らなかった。

まぁ確かに昨日まで甲子園で戦っていたのだから、覚えてられなくても仕方ないのだが。

 

 

「後、由井と火神の部屋は桜木と三谷だったよな。どんな選手か分かるか?」

「大まかには。桜木は流川と同じく湘北シニア出身で、守備力が高いとか。三谷は弱小チーム出身ですが、1人だけ飛び抜けて上手かったイメージがありますね」

「今回も新入生凄いの来たなぁ!どんどん強くなっていくんじゃね?!」

「ここまで戦力補強して来た監督達の手腕は恐ろしいですね……実績や運もあるのでしょうが、尋常じゃありませんよ……」

 

全体の打撃能力を大幅に上げ、有望な選手達も大量に入部させた轟監督達の能力に恐れ慄く由井。

実際の所、彼らの実力も多少は関係しているが、運の良さが非常に大きいのだが……まぁ運の良さを実力に含めるなら、最強の布陣である事は間違いないだろう。

このまま行くと、高校野球が薬師一強になってしまうのではないなと危惧される位、えげつない強さを持っている薬師野球部だった。

 

 

 

 

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