【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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3年生・西東京大会編
155球目 転向


 

 

 

 

卒業式が終わった次の日、甲子園3連続優勝の薬師高校に入部して来た1年生達が入部してくる日だ。

北瀬と伊川は、早めに起きて雑談している。

 

 

「流川ってエリートなんだよな、野球的に。俺達と話が合うななぁ……?」

「由井もエリートだったけど良い奴だったから、多分大丈夫じゃね?多分……」

 

「失礼します」

「よろしく!愛媛から来た青井葦人じゃ!」

 

雑談をしている最中に現れた、同室になる1年生2人。

普通に挨拶して来た流川はともかく、上級生に最初からタメ口を使う青井に、北瀬と伊川は困惑していた。

 

(何だコイツ)

(火神みたいな敬語使えない系かも……?)

(まぁ、火神もタメ口だしな……強豪野球部としては微妙だけど、そんなに気にしなくても良いか?)

 

青井のタメ口にツッコむべきか悩んだが、結局見なかった事にして話し始めた。

 

 

「あぁ……俺は伊川始、セカンドをやってる。打率の高さが売りだ、よろしくな!

隣にいるのが薬師のエース、最速169kmの剛速球ピッチャーで、U-18でMVPを取ってる選手だ」

「北瀬涼、ピッチャーとレフトを兼任してる。宜しく」

 

伊川の言葉を聞いて、青井は目を輝かせていた。

 

 

「名前知っとる!お前がキタセか、甲子園で試合見たぞ!わっぜ速い球投げとったよな!俺に教えてくれ!!」

「お、おう、空いてる時間なら見ても良いけど……俺は別に野球詳しく無いぞ?知識を得たいならキャッチャーの由井に聞くのががオススメだけど」

「お前に教えて欲しい!教えてくれ!!」

「じゃあ暇だし、今から投げに行くか!今からキャッチャー捕まえるのも可哀想だから、ネットに投げるので良いよな?」

「投げられるネットあるのか!東京って進んどるなー」

「理事長がお金出して買っただけだけどね」

 

始めて挨拶して数分で、共に練習に向かった北瀬と青井。

北瀬は奥手な性格をしているが割と親切なので、頼み込めば色々やってくれるのだ。

ワイワイと(青井だけが)はしゃぎながら、室内練習場に歩き始めていた。

 

 

『…………』

 

……こうして置いていかれた伊川と流川。

お互いの性格を全く知らないまま、強制的に2人きりにされていた。

 

 

「あー、お前が流川で合ってるか?総合力の高い優秀な選手で、湘北シニアの4番らしいって聞いたんだけど」

「そうです、主にセカンドをやっていました」

「俺と同じだな!……ポジション争いをするにしても、お前がコンバートするにしても、仲良くやっていきたいと思ってる」

 

伊川は早々に、とりあえず同室だし仲良くやりたいという姿勢を見せた。彼には野球への拘りが無いので、ポジション的に言えばライバル相手でも仲良くやりたいのだ。

まぁ世界最強のミート力を持つ伊川から、たかが高校生がポジションを奪い取る事は相当難しいだろうが。

 

……いや、正直に言えば可能性はある。

轟監督は少しだけ、伊川をショートに移動させようか悩んでいた。

守備能力が思ったよりも高くなった伊川の今後を考えると、内野の花形に移動させたほうが良いかもしれないと検討しているのだ。

新しいポジションになると守備練習時間が増えてしまうが、本人が何も考えていない上に拘りが無いなら監督判断で変更させてしまうかとも思っているのだ、

 

つまり瀬戸を流川が超えたら、伊川のコンバートによって結果的にセカンドを奪い取った様にも見えるのである。

 

 

「ポジションに拘りは無いので、試合に出られる可能性が高い所を狙うつもりです」

「そっか……じゃあ知ってるかもしれないけど、今の薬師野球部のベンチ入りしそうなメンバーについて説明しても良いか?」

「お願いします」

 

流川に親切に説明し始める伊川。

本人の思惑としては、後輩達の代で弱くなって非難されたら可哀想だから、少しでも下の代の選手達に強くなって欲しいと考えているのだ。

伊川は割と、薬師野球部という場所に執着していた。

 

 

「まずピッチャーから。今年のエースは北瀬だと思うけど、綾瀬川と黄瀬の可能性もなくはないな」

「……黄瀬って誰っすか?」

「体験練習に来てめっちゃ目立ってた無名の1年生で、135kmで変化球7種の化け物ピッチャーだよ。まだ荒削りだけど、かなり才能はありそうだ」

「へぇ、来年のエース争いは白熱しますかね」

「どうだろ……今の所は綾瀬川が格上だけどな」

 

流川が体験練習であからさまに目立っていた黄瀬を知らなかったのは、ポジションが違うから直接見ていなかったからである。

別に、記憶力が悪い訳ではない。

 

 

「残りのピッチャー枠は、パワプロ、友部、大穴で三島が塞ぐと俺は見てる」

「今年の推薦に木兎もいたけど、3人が妥当っすね」

「木兎……ごめん誰だっけ?」

「球速138kmでチェンジアップを使う選手で、ムラが大きいと言われてます。切れ味は良いんですけど」

「そりゃ厳しいわ。今、妙にピッチャー充実し始めてるしな……」

 

木兎の事を全く知らなかった伊川。

少なくとも在籍している間にはレギュラー争いに絡まない選手なので、最高峰の天才に紹介しようと思った人がいなかったのである。

 

 

「内野は、ファーストは三島で控えは花坂、ショートは瀬戸で控えは三井、セカンドは俺で控えは三井、サードは雷市で控えは緑野って所かな」

「今年中にスタメンを狙うならショートしか可能性はないけど、来年考えたらサードって所っすかね」

「まぁ急に実力が伸びる選手もいるからどうとも言えないけど……そうなるかもな」

 

守備も上手いならサードに行くのは勿体なくね?と一瞬思った伊川だが、どうせ守備は悪くなってくだろうし……と考え直して言わなかった様だ。

今後はオフェンスの鬼と言われる様になる流川相手なので、妥当である。

北瀬と伊川に挟まれて生活しているから仕方ないのだ。

 

 

「個人的には太平も頑張って欲しいけどな

で、センターは秋葉で控えは疾風、ライトは結城で控えは北瀬と疾風、レフトは火神で控えは疾風って所だな」

「……疾風さんしか選択肢が無い?」

「まー田中か岩崎を緊急時には出すと思うけどな」

 

雷市や三島といった守備難選手を、北瀬登板時にボールが飛んでこない外野に移動させられない理由は、火神と結城にある。

彼らも地獄みたいな守備をしているが打撃力は神なので、ベンチに座らせておくには惜しいのだ。

内心轟監督は重要な試合の前、いつも完全試合と大量得点のどちらを選ぶかで揺れている。

 

 

「外野転向もアリっすね」

「そうだな。ただ、夏が終わっても秋葉のポジションしか開かないけど」

「出場回数が少ないからよく知らないんスけど、疾風さんって守備型選手ですよね。薬師にしては珍しい」

「うん、あいつ凄げぇよ。1人黙々と守備練習し続けてさぁ……アイツがいるお陰でかなり助かってるんだよな」

 

今の所ほとんど出場機会の無い疾風を、かなり高く評価している伊川。

正直な所、結城より疾風を出した方が良いのではと思っているが、出場メンバーを決める権利なんて持っていないので黙っている。

自分の意見で揉めたら嫌だと思っているのだ。

 

 

「最後にキャッチャー。由井と奥村で分業してる感じだ

由井の方が打撃力が高いけど、奥村の方がキャッチングが上手い感じだな。総合力では同じ位?」

「……前から采配に疑問点があったんですけど、聞いても良いっスか」

「良いけど、答えられるか分かんねぇぞ?」

「由井さんは北瀬さん専属捕手で、奥村さんは控え投手を任されてますよね……何で逆にしなかったんですか?

キャッチングが上手い奥村さんを、取るのが難しい北瀬さんと組ませるべきでは?」

 

それは傍目から見れば当然の疑問だった。

伊川は苦笑いをしながら、薬師高校の恥を晒した。

 

 

「……俺が言ってたってあんまり言わないで欲しいんだけどさ、奥村は言葉遣いとかがちょっとアレなんだよ

具体的には説明しないけど、暫く周囲と揉めててな。今はかなり改善されたけど、北瀬と奥村の仲はめっちゃ荒れてたから無理だったんだ。まあ俺とも少し悪かったけど」

「…………」

「うん、まあ悪い奴でも無いんだけど拘りが強くてな

まあそのへんは置いといて、後は内野の守備固めは岩崎か太平、ムードメーカーの田川、今は5番手ピッチャーの錦織とかがベンチ入りの可能性が高いな」

「あざっす、良く分かりました」

 

とりあえず説明すべき所は説明し終えた伊川。

最後にこう付け加えながら話を終えた。

 

 

「後、薬師野球部は通常練習の時間が短いから、自主練習可能時間はなるべく練習した方が良い

1軍の選手が練習している所に混ぜて貰うのがオススメだ。参考になるらしくて、伸びてる奴は大体そうしてる

 

……まぁそんな所か?説明した方が良い内容は

荷物整理してる最中に邪魔して悪かった。まぁこれから困った事があったら俺か北瀬、もしくはキャプテンの三島か副キャプテンの秋葉に言ってくれ

三島キャはムードメーカーだから、具体的な問題解決には向いてねぇと思うけどな

 

ちなみに来年は、由井か太平がオススメだ」

 

「あざっす」

 

こうして伊川と流川は、少しだけ仲良くなった。

とりあえず会話は通じる相手位の印象だが、パワプロ能力を考えると流川の得られるメリットは大きいだろう。

……伊川からすれば、自室の奴と仲が悪いと気まずいなら仲良くなれて良かった程度のメリットしか無いが。

 

 

 

 

春のセンバツ優勝から殆ど時間が経っていないにも拘らず、また次の試合の時期がやって来た。

登録選手は16番に綾瀬川、17番に黄瀬を初っ端から投入していて、来年の主力選手として大いに期待している事が伺える。

 

18番、19番、20番は空いていて、ここに勢いのある選手を入れていく予定だと監督直々に語っていた。

ベンチメンバーから外された5人の選手は多少ショックを受けていたが、甲子園優勝校のメンバーとしてはかなり物足りない実力なので仕方ないと直ぐに納得したらしい。

 

薬師野球部は確かに打線が厚いが、ベンチメンバーの層は薄いと言われても仕方ない状況だった。

急に強豪校になった事もあり、中学校やシニアから選手を集める動線が出来ていないのである。

 

 

「じゃあ次、明日出場する選手を言ってくぞ。極力主力は温存してくからその辺ヨロシク

ピッチャーは綾瀬川、キャッチャーは奥村、ファーストは花坂でショートは三井、セカンドは伊川でサードは黄瀬、センターは疾風でレフトは北瀬でライトは火神だ」

『??』

 

謎の、無名ピッチャーの黄瀬を初日からサードに置く采配に対して、1年生達は大層困惑していた。

上級生達は、また轟監督の適当な采配が始まったよ……と呆れている。

相手が超弱小校とはいえ、ド素人を配置するのはマズくね?と思った選手は多かったらしい。

 

 

「しゃーねぇ、春のセンバツで戦った選手はなるべく休ませときたいからな

ベンチ人数も有限だし、今回はこれで行くぜ!……まあ元々サードは雷市だし、5割取れない球が10割取れなくなるだけだ。綾瀬川は頑張ってくれ」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!何で俺が取れない前提で話すんスか?!普通に出来ますって!」

『…………』

 

黄瀬が思わず抗議をした所で、新入生達は固まっていた。

初日から監督に楯突くような反応をした黄瀬を見て、ヤベェと慌てていたのだ。

だが監督の轟は気にしていなかった様で、むしろ嬉しそうな顔をしながら黄瀬に問いかけていた。

 

 

「え?お前内野の経験あんの?」

「ないっすけど……俺は器用なんで行けますよ!」

「……やった事ねぇなら信用できねーけど、まぁ一応覚えとくわ」

「アザース!」

「じゃー打順は、スタメン勢で決めて2時間以内に報告してくれ。俺はやる事あるからな」

『えぇ……??』

 

むちゃくちゃを言って去っていった監督を見て、流石に声が漏れている1年生達。

片岡コーチは頭を軽く抑えながら、一応フォローして去っていった。

 

 

「……薬師野球部の弱点は頭脳派がいない事

試合に立つ選手自らが考えて動くのが理想だが、今の所それは難しい。だから轟監督は、リスクの低い段階で思考の練習をさせたいのだろう

___今回の報告は以上、各自練習に励んでくれ」

『はいっ!』

 

「ガハハハ、俺はバッティング練習をするぞ!やりたい奴は付いてこい!」

「俺は守備練習かな……もし参加したい人がいたら付いて来てほしい」

 

片岡コーチのカリスマで強引に話を纏められた後、轟監督の迷采配に慣れている最上級生達が即座に動き出した。

 

 

「じゃー俺ら含めた9人は図書室集合な!問題ない奴は北瀬に付いていってくれ。俺は急須にお茶を入れてくる」

「僕も手伝います!」

「あ……じゃあ俺も!」

 

伊川が轟監督の指示通り動き出すと、彼を尊敬している花坂が付いて行った。

それを見た綾瀬川も手伝おうと言い出している。彼はU-15の優勝に大きく貢献した名投手なのだが、良く言えば優しい性格で悪く言えば強い意志のない選手だった。

 

 

「ありがと、花坂は付いて来てくれ

綾瀬川……だっけ?は俺達が打力とか知らないから、出来れば北瀬達との話し合いに参加しといて欲しい。飲み物用意してる間には決まっちゃうかもしれないからな」

「はい、分かりました……」

「綾瀬川ってスゲェ選手なんだろ?暇な時、バッティング練習させてくれよ!」

「あ、はい!凄い選手かは分からないですけど、俺で良ければ……!」

 

野球をしていて雑用をやらせて貰えた事が殆ど無かった彼は、一緒に頑張るチャンスを失って残念そうにしていたが、北瀬から誘われて直ぐに嬉しそうにしていた。

今まで天才と歌われる綾瀬川を気軽に練習に誘ってくれる人なんて居なかったから、凄く喜んでいた。

 

 

 

 

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