【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

177 / 288
156球目 相互

 

 

 

 

「えっと……打順を決めるけど、どんな方針が良いとかある人いる?」

 

1試合目の打順を生徒だけで決める事になった薬師。

正確に言うなら2試合目だが、薬師目線で言えば1回戦目で有っている。

 

ちなみにこの時点で話し合いに参加している最上級生は北瀬しか居なかったので、アワアワしながら頑張って話していた。

 

 

「1年生の打力が期待出来るのか不透明なので、なるべく上級生で上位打線を固めるべきだと思います」

「Hi!俺は4番を打ちたい……のです!」

「ちょっ火神センパイ!ここは北瀬センパイが4番でしょ!明らかにセンパイの方が打力強いじゃないスか!」

 

奥村が直球ストレートの本音を言った直後に火神が個人的な要望を主張し、1年生の黄瀬が酷い正論を口にし始めて場が混沌としていた。

 

 

「えぇ、どうしよ……三井はどう思う?」

「そっすね……2番打者最強理論もありますし、2番を北瀬さんにして4番を火神にするってのはどうすか?」

「それ良いな!反対の人はいるか?」

『……』

「よし居ないな!じゃあ2番は俺で、4番が火神に仮決定!」

 

三井の助言を参考にして話を取り敢えず纏め、一応本決定は伊川と花坂が帰って来る前まで待つ事にした北瀬。

 

 

「えー……他に何かある人はいる?」

「はい!俺はそこそこ打力高いんで、出来れば多めに打ちたいっス!」

「なるほど……他に意見がある人いる?」

「はい、俺の打力は期待できないんで、打順は下の方が良いと思います」

「まぁうん、じゃあ疾風は下位打線で良いかな……他に意見がある人ー」

『…………』

 

ここで話は終わってしまい、無言に包まれていた。

話を纏める能力のない北瀬は困ってしまい、数十秒経ってからようやく話しだした。

 

 

「えーっと、じゃあ上級生が上位打線みたいな感じで、2番が俺で4番が火神で、黄瀬は打ちたくて疾風は下位打線に置く感じだって伊川に伝えよう

後は……うーん、お茶来てから話せばいっか」

「うす」

「全員で話した方が良いですしね」

「じゃあ俺、打順とかの意見を白紙に書いておいて良いですか?」

「まじ?ありがと!」

 

 

 

 

数分時間が経った後、伊川と花坂が来て飲み物と茶菓子を配り始めた。

秋葉と交渉して、彼が買っていたチョコ菓子を購入させて貰ったらしい。

ちなみに費用は伊川の小遣いから捻出される。

 

 

「遅くなってすまん、おやつ探すのに時間かかった……話はどうなった?」

「綾瀬川が纏めてくれたから、紙見て」

「なるほど……ん?オススメの打順はお前が考えてくれたのか!ありがと!

1番が花坂、2番が北瀬で3番が俺、4番が火神で5番は三井、6番は奥村で7番は黄瀬、8番は綾瀬川で9番が疾風か……これで良いんじゃね?」

「良いな!思い付いてたなら言ってくれりゃ良いのに」

「問題ないと思います」

 

 

 

 

こうして打順は自己主張が激しいメンツの割にはすんなり決まり、少しだけ相手の事を理解して試合に望んたという。

そんな彼らを見た監督は(ベンチ入りメンバーも混ぜるべきだったか?)と思っていた。

 

ちなみに試合は40点以上取って大差勝ちし、確かに今回の打順なんて監督の言う通りどうでも良かったなと、1年生達は感じていた。

綾瀬川と疾風以外は打率8割以上をマークし、化け物じみた打撃力を見せびらかしていた。

これでも彼らは、相手が弱小校なので適当に打っている。さながらバッティングマシーン相手の様な雰囲気だった。

 

ついでに綾瀬川も、参考記録ながら完全試合を達成。U-15でMVPを獲得した実力を十分に発揮していた。

 

……正直、体力温存で三振策を取っても良かったのではないだろうか?

轟監督は当然その事に気付いていたが、まぁ殆ど控えだし出てるのは体力馬鹿だから良いかと打たせ続けていたのである。

 

 

 

 

 

 

3回戦の相手は都立米門西高校。

万年2回戦とか3回戦とか言われる弱小界の中の中堅なチームである。目標がベスト16ということで、やはり甲子園を目指す相手には気合から負けてるフシがある。

 

轟監督は試合前、寝ぼけながらあまりにも適当な事をほざいていた。

 

 

「えー、次の相手はベイモン?です。どう考えても勝てるから、打順は前回と大体同じで行きます。まぁ火神を抜いて友部を入れたけどな

ふぁああ、注目選手とかいねぇから、適当にやって勝ってくれや。俺は真田の母ちゃんの資料を確認してっから困ったら呼んでくれ……」

『うーっす!』

 

片岡コーチは2軍の指導をしていて今回の試合は見に来ていないので、緩い空気を止める相手は居なかった。

奥村は少しだけこの空気を嫌がっていたが、負けない相手だと確信していたので先輩達に噛みついたりはしなかった様である。

 

 

……

 

 

「コールド!試合終了!……31-0で、薬師高校の勝ち!礼!!」

『ありがとうごさいました!』

 

今回の試合の見所は相変わらずの投壊打線と、友部の変化球だった。

 

彼の変化球は、想定より球が曲がったりすることで相手の空振りを増やしていた。

見送ると今度はゾーンに入れるためにもっと内側から曲げてきたり、直球がインコースにズバッと決めたりして狙い球を絞ることができない。

 

参考記録ながら5回無安打無死四球、ノーエラーのパーフェクトを達成。

相手が弱小界の中堅だから致し方ないが、米門西はまず目の前の試合を勝つチームなので薬師対策なんかやってられなかったのである。

 

 

「あー、つまらねぇ」

「仕方ねー、相手は本気で勝つ努力なんてしてねぇんだからな……まぁ観客とかに聞かれたらマズいかもしれないし、その話は後にしとこう」

 

ちなみに北瀬は冷めた目付きでホームランを打ち付けていたのだが、威圧感もあって相手ピッチャーはイップスになりかかっていた。

まぁ北瀬は何も悪い事をしていないので、知った事ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

1週間程が経ち入学式の日、1人の女の子が楽しそうに歩いていた。

彼女の名前は真田結菜、真田前キャプテンの妹である。

 

彼女には尊敬する選手がいる。野球部のマネージャーになりたいと思い必死に勉強してここまで来たのだ。

ツヤツヤとした髪の毛をポニーテールにして、入学式の前に一度野球部の練習を見に行った結菜。

 

グラウンドの外から熱心にこちらを眺めて来ている女の子を見て、休憩中の伊川は顔を赤らめていた。

 

 

「なぁ北瀬……あの凄い美人、誰だろう?」

「マネージャー希望の1年生かな? それにしても、伊川が知らない人を気にするなんて珍しいな!」

「…………一目惚れしちゃたかも」

 

北瀬は、コイツの初恋じゃね?!と驚きつつも、ワクワクした顔をして結菜を眺めていた。

親友兼弟の珍しい表情を見て、ちょっとだけ面白がっていたのだ。他の人の恋愛模様が気になるお年頃だった事も大きい。

 

 

「は、マジで?!……確かに顔良いし、何となくいい人っぽいしなー、メアドとか聞いちゃう?!」

「そっ、そんな積極的な事できねぇよ……俺が話しかけたら嫌がられるかもしれないし……!」

 

ムリムリ! と首をブンブン振って拒否した伊川。

彼は自己肯定感が割と低いので、ナンパなんて出来ようも無いのだ。

絶対断られるし、困らせちゃって申し訳ないし、こっちも苦しいし、良い事ないよ!! と思っている。

 

 

「そっか……じゃーマネージャーだと良いな!そしたら普通に話しかけられるじゃん!」

「そうだな……そうだと良いな……!」

 

そうだと良いなとは言いつつも、大方吹奏楽部狙いだろうなとそこは冷静に考えていた伊川。

今の野球部にマネージャーは1人しかいないので、どうせ今回も誰も入ってこないだろうと予想していたのだ。

今日の午後、まさか北瀬の言う通り本当に入って来ただと?! と驚愕する事になる。

 

 

 

 

午後練の頃、あの女の子がマネージャーとして加入して来ていた。

監督はどう扱って良いか分からねぇなと言って、片岡コーチと佐藤に丸投げしていた。

 

すると何と、今までも真田母と連携して偵察やスカウトを行っていたらしく熟せる上、スコアブックなども書ける有能なマネである事が発覚。

即戦力マネージャーとして4軍の選手達と一緒に、直ぐに業務に取り掛かっていた。

 

伊川が「ちょっと4軍と合流して来ようかな!」と血迷い始めたのを北瀬が何とか止めていた。

その行動は、メアド聞きに行くより怪しいだろ……と思ったのである。

それに1軍の選手がお遊び4軍に混じるなんて、チームにとってシンプルに迷惑。絶対に止めなければならないと感じ、慌てて止めていた。

 

 

 

 

 

 

4回戦目の相手は、昔は打撃特化だと謳われていた市大三高に決まった。

打力特化が極まった薬師高校が同地区に出てきた事により、今ではそう言われなくなっている。

 

同地区でライバルの3チームが甲子園決勝戦まで進んでいるので、「西東京4強?薬師に稲実に青道に……あれ、3チームしかなくない?」とか最近高校野球にハマった人達から言われているらしい。

市大三高は、甲子園に出場出来ればベスト8も行けると言われる強豪校なのだが……周囲のインパクトがあまりにも強すぎたのだ。

 

最近は入部希望者もかなり減ってしまい、暗黒期に突入し始めていた。

まぁ甲子園に行ける可能性は相当低いので、選ぶ立場からすれば妥当である。

このチームを選ぶ新入生は強豪校に行きたいけど声が掛からなくて学力もない為、スカウトが薬師高校を見に来たついでに見てくれる可能性に掛けた様な選手ばかりだった。

 

 

「伊川は明日、誰が投げると思う?」

「5回戦は多分仙泉で黄瀬に投げさせるとして、準決勝は青道高校か稲城実業でお前が投げる、決勝戦はどこか分からないから……多分綾瀬川じゃないか?

アイツの実力はヤベェから、最悪負けても良い場面で早く使ってみたいだろ」

「へー……てか、普通決勝戦で強いチームと当たるんじゃないのか?4強が消えちゃうんだけど」

「くじ運だから仕方ない」

「そりゃそうだな!」

 

明日市大三高と戦うにも拘らず余裕の表情をしている北瀬は、ベットで寝転びスマホをしていた。

伊川も机に向かって勉強しながら話していて、あまり真剣に考えてはいないようである。

 

U-18で戦った天久光聖なき今、どう考えても負ける気がしないのだ。

北瀬は最近、パワプロの架空選手動画を見るのにハマっているらしく、面白かった動画をツイッターの裏垢で絶賛していた。

 

ちなみにこのアカウントがバレて、彼の趣味などが全部公開される可能性がある。

彼の情報管理能力は、かなり微妙だった。

一般人レベルの人間だったら特に問題ないのだが、超有名人にしては杜撰過ぎたのだ。

 

その場合、相互フォローだった伊川のアカウントも同時にバレる事になる。

真田らしき人物に対して盲目的に絶賛し続ける呟きや、奥村らしき人物に半年程キレ続ける呟きに、野球はつまらないと書いているのがバレてしまって引かれるだろう。

彼本人は裏垢バレをちゃんと警戒していたのだが、隣の親友に情報リテラシーを教え込ませる事はしていなかった様だ。

 

伊川に大層怨まれていた事を知らなかった奥村は、その呟きを見て顔を青くするかもしれない。

自分の言動が敵を作り、一部の人間を魅了している事を無自覚だったのだ。

 

 

ゴロゴロしながら動画を見ていた北瀬は、たまたま真田キャプテンからラインが来たので直ぐに開いた。

彼らは雑談をよく送り合っているので、別に驚きはしなかったが少し喜んでいる様だ。

 

 

真田先輩

 

◀
木戸と久しぶりに会ったんだけど

◀
年俸230万らしいぜ

◀
道具代も出ないしヤバそうだ…

 

既読
マジすか?!
▶

既読
プロの世界って過酷なんですね…
▶

既読
てか、野球選手って派手に儲かると思ってました
▶

 

◀
アイツ育成契約だからな

◀
正直、俺だったらプロ入り決断出来ねぇしスゲェよ

◀
あ、育成契約ってのは

◀
1軍には上がれない契約って事らしいぜ

◀
先ずは支配下登録されるのが目標になるらしい

 

既読
あー、メジャーリーガーと
▶

既読
マイナーリーガーの違いみたいな感じですか?
▶

既読
というか、木戸って誰でしたっけ?
▶

 

◀
帝東高校の前キャプテン

 

既読
あの人か…仲が良いんですか?
▶

 

◀
偶にメール送る位だな!

 

既読
へー、それなら
▶

既読
伊川寂しがってんでライン送ってやって下さい!
▶

 

◀
可愛いトコあんじゃん

◀
じゃあ内容考えとかないとな

 

既読
適当で良いと思いますよ?
▶

 

◀
そうかもしれないけど

◀
アイツ真面目な性格してるから

◀
馬鹿みたいな事は送り辛いんだよな

 

既読
そっすか?
▶

既読
普段俺は適当な事話してますけど
▶

 

◀
そりゃ付き合ってる年数が違うからな

 

+
 

 

 

真田前キャプテンは、伊川の事を真面目な性格だと思っている事を今更知った北瀬。

アイツそんなに真面目か……?と彼は思っていたが、実際の所、伊川の根は厳格である。

北瀬に合わせた言動もあり適当っぽく見えているが、地の部分は努力家で一途だった。

 

北瀬の把握している伊川の性格より、真田の把握している伊川の性格の方が正しいのだ。

真田前キャプテンのカリスマは、元来の明るさや人を惹きつける言葉もあるが、人を見る観察眼に支えられている所も大きかった。

 

北瀬と伊川はめちゃくちゃ仲の良い兄弟だが、お互いを正確に把握出来ているかは相当怪しいのである。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。