【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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1番 センター   秋葉一真
2番 セカンド   伊川始
3番 ライト    北瀬涼
4番 サード    轟雷市
5番 レフト    火神大我
6番 ファースト  三島優太
7番 ショート   瀬戸拓馬
8番 キャッチャー 奥村光舟
9番 ピッチャー  綾瀬川次郎


157球目 後釜

 

 

 

 

市大三高との4回戦。綾瀬川を初めて本格的に運用する事になる戦いだが、誰も負ける事を心配していなかった。

上級生達は自分達の長打力を信じていて、1年生達は綾瀬川の実力を信じているからである。

 

 

「綾瀬川ー、炎上しても気にすんなよ!俺達が打撃で援護してやるからな!」

「ありがとうございます!……でも、もし打てなくても大丈夫です___無失点で抑えますから」

「そうか?そりゃ有り難いけどさ……

お前は投壊薬師野手陣を背負って戦うんだから、1桁失点なんて気にすんなよ?」

「……そんなにマズいんですか?」

「1回戦負けチームよりは若干マシ位?」

「小学生以下かな」

「ガハハ!打たれた分だけ打つからな!」

「なんか、ごめんね」

 

自チームキャプテンお墨付きの悲惨な守備で戦う事になる、入部して1週間位の綾瀬川次郎。

だが彼は内心でも、特に困っていなかった。

 

 

「___分かりました。じゃあ三振取ります」

「カッケェ!!」

「頑張れ綾瀬!!」

「カハハハ……がんばれアヤセガワ!」

 

和気あいあいとした空気が流れる中、轟監督は少し緊張していた。

甲子園3連覇の超強豪校の先発ピッチャーとして戦う事になった彼が、もし大炎上してしまったらと思うと自分の采配に疑問を持っても確かに仕方ないだろう。

 

薬師高校は、2年前の負けても何も言われなかった様な弱小校ではない。

自分の采配に非難が集まるだけならまだいいが、入部して1週間程度の中学生が非難される様な展開にはさせたくなかったのだ。

 

 

「綾瀬川は、U-15でも完璧なピッチングを見せている。だから大丈夫……な筈……」

「轟監督___貴方が弱気なままでは、勝てる試合も負けかねません。生徒達を安心させる、強気な姿勢でいてください」

「そうっすね……お前ら!そろそろ試合の時間だ!

相手は西東京4強の市大三高!甲子園でも十分戦い抜ける強豪校だが……お前らのやる事は分かってるな?

___打て!打って打って、打ちまくれ!!プロでも通用する破壊力を、日本中に知らしめてやれ!!」

『ハイッ!!』

 

片岡コーチに指導された結果、なんとか大胆不敵な顔で指示を出した轟監督。

彼は所詮、監督歴4年目の新米なので強豪校を指揮するプレッシャーには割と弱かったのだ。

それでも取り繕う事は出来たのは、彼の指導者としての才覚なのかもしれない。

 

 

「まっ、守備はあんま気にすんな!綾瀬川が何とかしてくれりゃ問題ねーし、何とか出来なかったら打撃力でカバーすりゃ良いしな!

後の事は気にすんな!お前らの思う最高の野球ってのを見せてくれ!!……行くぞぉ!!」

『おうっ!!』

 

 

 

 

強豪校特有のプレッシャーに監督が押し潰されそうになっている薬師に対し、市大三高は選手達が押し潰されそうになっていた。

 

 

「ここで勝たなきゃ、田原監督は……」

「大丈夫だろ、何やかんやで解任はされない……筈……」

 

薬師高校や鵜久森高校と言った元弱小校に対して、負けに負け続けた市大三高。

どちらも全国で活躍した強豪校だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、学校側としては大金を掛けて勝利を望んでいる為、田原監督はかなり睨まれていた。

 

 

「opponentはstrongestの長打打線……とworldから言われてるな

だが!You guysだって負けてはいない!!私は、You guysなら勝てると信じている!!Let's go!!」

「オウッ!!」

 

だが自分の進退などは気にせず、あくまで教え子達を信じる姿勢を貫いた田原。

彼は実際の所、名将と言っていい位には選手達からも慕われ、指導もしっかり出来る優秀な監督なのだ。彼は運良く強豪渦巻く西東京で生き残っている訳では無い。

……弱点は、意味不明な英語交じりの発言位だった。

 

 

 

 

 

 

1回表、市大三高の攻撃……の筈だが、会場の観客達は薬師の事しか見ていなかった。

 

 

「綾瀬川ァ!U-15での活躍を見せてくれぇ!!」

「次期エース!!頼んだぞ!!」

「守備は何とかしてくれぇ!」

『アヤセ!!アヤセ!!』

 

初っ端からアヤセコールが鳴り響く中、彼はチームに対してニコっと笑い掛けながらマウンドに立った。

キャッチャーは背番号13の奥村。リード力やキャッチング能力を買われての采配だろう。

 

 

___バシッ!

 

___バシッ!

 

___バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

『わああぁぁ!!』

 

噂に違わぬ精密な投球で、嘗て強打と謳われた市大打線の1人を抑えた綾瀬川。

 

 

「綾瀬川カッコイイなぁ!俺も打席に立ってみたい!!」

「北瀬は最近、そればっか言ってるよな!」

「キタセもアヤセガワも、どっちもスゴイ……俺も打ちたい!!」

「だからぁ……今は市大三高と戦ってるんだって!」

 

内野と外野がくっちゃべって若干グダってる中でも、綾瀬川は先輩達に失望したりはしていなかった。

むしろ、楽しそうだから俺も混ざりたいと思っている。

 

妙に綾瀬川は、薬師野球部としての精神適性が高いのだ。皆で楽しめれば何でも良いと考えている彼にとっては最高の環境だろう。

自分を高めたいと考えている様な修行僧モドキな選手達は、4軍などの非常に緩い空気が許せないだろうが……

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

『わああぁぁ!!』

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!チェンジ!!」

『わああぁぁ!!』

 

「綾瀬川鬼強えぇ!!」

「次期エース当確だろコレ!!」

「ちょっと!俺も忘れないで欲しいんスけどっ!」

 

薬師ベンチやスタンドの選手達も大層盛り上がりながら、綾瀬川無双の1回表は終わった。

1年生ながらエースの風格の様な物を漂わせる彼に、期待している部員は多かった。

 

特に中学時代、綾瀬川に散々脳を破壊されて来た1年生達はここぞとばかりに騒いでいる。

彼の活躍を気にしていないのは、今までの公式戦で特に活躍もない謎の1年生、黄瀬涼太位だった。

 

 

 

 

 

1回裏、薬師高校の攻撃は1番秋葉。

大豊作の2008年ドラフトでも1位指名の可能性が高いと言われている、大変優秀な選手である。

 

 

___カキーン!

 

「よし」

 

「よし、じゃねーし!」

「次はホームラン狙えよー!」

「打てる相手なら、ホームラン狙った方が楽だぞ?」

「凄い、これが薬師打線……!!」

 

初回から余裕のツーベースヒットを放った彼だが、味方のベンチからはあまり歓迎されていなかった。

単打派の伊川からすら「打てる相手なら、ホームラン狙った方が楽」だと言われてしまっている。

彼からすれば、味方から野次られる位なら多少面倒でも打ったほうが良いというアドバイスのつもりだったが、余計なお世話だった。

 

 

 

 

ノーアウトランナー無しで、打席には2番伊川。

彼は未だに、自分が威圧感を出している自覚が無かった。バッティング練習でも容赦なく打ち続け、2軍投手の一部にトラウマを植え付けているらしい。

監督やコーチも、打たないようにしろとは言えないので頭を抱えている。

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

 

「伊川も大分薬師に染まって来たなぁ!」

「ガハハハ、ホームランを打つのは良い事だ!少々飛距離が足りんがな!」

「伊川っちカッケェ!!俺もホームラン打てるようにしよーかなー!!」

「あの頃の伊川はどこへ……」

「伊川さんはやっぱり凄い!僕もホームラン狙おうかなぁ……!!」

 

「やめとけ、花坂は今のバッティングが合ってるから!」

「はいっ!!」

 

初球打ちであっさり仕留めた伊川はダイヤモンドを一周しながら、地獄耳を活かして花坂にアドバイスをしている。

正直相手投手は、彼にとって弱すぎたので打てて当然扱いだった。打てた事には何の感慨も抱かず、110mをランニングしている。

 

(ホームランは北瀬も楽しいだろうし……唯菜ちゃんも喜んでくれるかな?ちょっとカッコイイと思ってくれたりして……なんて、希望的観測過ぎるか)

 

彼はホームラン教にハマったのではなく、北瀬や唯菜へのアピールの為にやっていた。

まぁ1番カッコイイのはホームランだという事に疑問は持っていないので、多少薬師野球部に洗脳されている節はあるが……

打率9割という稀有な実力だけでは、唯菜を落とすには足りないと思っているのだろうか?

 

……伊川は『薬師野球部の中に、唯菜が好きになっている選手がいる可能性』を把握していた。

___それでも唯菜を諦める気はないのだ。

流石に両思いになってしまったら諦めるけど、唯菜の片思い状況だったら落としてやると覚悟を決めていた。

 

そもそも彼女に、本当に好きな人がいるかも怪しいのだが……伊川は常に最悪を想定して動いている。

 

 

 

 

ノーアウトランナー無しで、打席には3番北瀬。

 

 

「市大って言えば強いんだよな?じゃあ俺もホームラン狙うしかねーな!」

 

謎の薬師理論を振りかざしながら、北瀬はバッターボックスに立った。

弱い相手からはホームランを打つ、強い相手ならホームランを狙うのが薬師流。

……何も変わっていないと言ってはならないらしい。打席に立った時のイメージが違うと本人達は話していた。

 

ちなみに北瀬は伊川から、「139kmの打ち頃の球だった」としか聞かされていない。

それだけ知っていれば問題ないと思ってしまうゆるふわな所が、薬師野球部の悪い所だった。

 

どうせ彼の打力10割が崩れないのなら、ギリギリまで粘らせて球種を判明させれば良いのに、何故か轟監督は指示しなかったのだ。

 

 

「ガハハハ!場外ホームラン狙えよ!!」

「次はオレの番……キタセより飛ばしたい……!!」

「経験値にならねぇ相手だし、適当で良いだろ」

「そんな!いくら俺より凄く弱いからって、経験値にならないと言うのは言い過ぎでは……?!ゴブリン位の能力はあると思います!」

「声大きいし、パワプロの方が言い過ぎ……」

 

まぁそんな事、薬師の面子は全く気にしていなかったが。

俺達が最強打線だと豪語している彼らにとって、もはや市大三高など敵では無かったのである。

仮に甲子園決勝戦でもホームランを打つことしか考えていないであろう彼らなので、チーム作戦などそもそも把握しているか怪しい所だが……

 

ちなみに、轟監督が伊川に球種把握の指示をしなかった理由は一応あるらしい。

どうせ薬師打線相手に球種を温存する余裕など無いので、下位打線に行くまでには判明すると何となく判断していたのだ。

上位打線のメンツは球種が判明してなくても打ちまくる面子ばかりなので、そもそもあまり轟監督が戦略を考える必要が無いのが現状である。

 

……それでも多少の効果はありそうな気もするが、恐らく監督経験の浅い轟雷蔵はそういった細かい判断が出来ないのだ。

一瞬目を離すと大量得点か大量失点しているのが薬師野球部なので、咄嗟に指示しないといけない場面が多い筈だが、彼にそこまでの技量はまだ無かった。

 

轟雷蔵という監督はやる気のない少数精鋭達の士気を上げるのは神がかり的に優れていたが、別に超強豪校を指揮する実力は今の所身に付いていない。

 

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

 

それでも選手達の実力差が、監督同士の能力差を凌駕している。

北瀬の場外ホームランにより、ノーアウトで3点差。U-18MVPの実力を文句無しに見せ付けていた。

 

 

「よっしゃ場外!……雷市、三島、火神!どっちが飛ばせたか勝負だ!!」

「カハハハ……負けない!!」

「ガハハハ!俺が300m飛ばして勝ってやる!!」

「それは無理じゃね……?」

「今までの記録なんて知らん!これからの俺が変えていくからな!!」

「主将三島が300m飛ばすなら!俺が400m飛ばす!!ます!!」

 

既に薬師野球部クリーンナップの面子は、市大三高の投手なんて見ていない。

今回は、誰が最強の長距離バッターか競う事に全力を注ぎ始めていた。

 

 

「こりゃ勝ったな……なんかもう相手が可哀想だし、綾瀬川はさっさと試合を終わらせる事だけ考えてくれ!」

「パワードさん……はい、分かりました……」

「パワードじゃなくて、パワプロさんって呼んでくれ!」

「はい!パワプロさん!」

「それで良し!」

 

ワイワイとはしゃぐ先輩達を横目に、パワプロは可哀想という本音半分と、自分以外が投げている所を見たくないという気持ち半分で綾瀬川にお願いしていた。

言われた綾瀬川は彼の意見に納得し、なるべく早く終わらせてあげようと善意で考え始めた。

 

(そうだよね。こんな公開処刑みたいな試合は、早く終わらせてあげるべきですね___味方の守備能力を考えて、残りは全部、三球三振で終わらせる!!)

 

 

 

 

「コールド!試合終了!!……21-0で、薬師高校の勝ち!!礼!!」

「ありがとうごさいました!!」

『わああぁぁ!!』

 

綾瀬川率いる薬師野球部はその後、本人の考え通り全部三球三振で終わらせて5回コールドで4回戦を勝ち上がっていた。

北瀬という大エースの後釜に相応しい、最高のピッチングだった。

 

ちなみに轟監督は20点差が付いた3回裏の途中から三振策を使い始めているので、市大三高は実質3回コールド負けである。

ちゃんと監督は全員に平等に三振しろと命令していたのだが、目の前のボールを眺める作業に耐えきれなくなった火神が一発ホームランを打って怒られていた。

 

 

「最強薬師に陰り無し……後3年位は負けそうにない」

「エース北瀬に2番手綾瀬川は卑怯だろ……」

「てかさ、もう1人の1年生は誰だよ??」

 

目の肥えた観客達に小さな疑問を残しつつ、最強とは何かを示した薬師野球部。

大エースがとっくに引退している稲城実業の国友監督は、後々の事を考えて内心頭を抱えている。

 

 

 

 

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