【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「伊川の先発予想合ってたなー」
「えっ、伊川っちは綾瀬川っちが投げるって予想してたんスか?」
バスの中で北瀬が伊川に話しかけている最中、黄瀬が割り込んで来て質問していた。
彼は全く強豪校がどのチームか分かっていないので、なぜ予想出来たか分かっていないのだ。
(綾瀬川っち……?そういや、俺も北瀬っちとか呼ばれてたけど……そういや尊敬する人には『っち』って付けて呼んでるんだっけ?お前も尊敬されてるじゃん!良かったな!!)
(そういやそんな事言ってたかも……トラブルメーカーに好かれても困っちゃうけどな)
謎のテレパシーで会話している北瀬と伊川。
黄瀬に好かれているらしい伊川は若干困っている様な顔をしていたが、内心は意外と喜んていた。
案外ちょろい所がある彼は、最近好意に弱くなっていたのである。取り繕う事が元々上手過ぎたので、チームメイト達には伝わっていなかったが。
「あ、あぁ……準決勝にエースが投げるとしたら、今回は裏エースの綾瀬川だろうって予測してたんだよ
お前も強いけど、やっぱりシニアでの実績もあるしな」
「へー、やっぱり綾瀬川っちも昔から結果出してたんスね!」
『えぇ……??』
「も……?確かに由井とかも実績凄いしな」
1年生の頃の北瀬や伊川並みに野球を知らない黄瀬は、U-15で大車輪の活躍を見せた綾瀬川の事も知らなかった。
そんな彼の率直な感想をスルーした伊川は、追加情報をさり気なく教え始めた。
「えっ?北瀬っちとか伊川っちとか、轟っちは中学の頃に結果出して無かったの?」
「完全に無名だったな」
「へー……俺みたいな選手ばっかりって事っすね!」
「確かにそうだな」
『……』
北瀬や伊川が黄瀬の言葉に納得する中、他の部員達は似ているのか疑問視していた。
なんか、生育環境とか生育環境とかが違うんじゃないか?
黄瀬が有名じゃなかった理由はよく知らねぇけど、雷市はシニアに行くお金がなくて、北瀬と伊川は酷い野球部に幽閉状態。
だから黄瀬みたいな選手ばかりと言うのは違うだろ……それに、自分を高評価し過ぎじゃね?
ベンチ入りしている2年生達からの評価は、大体こんな感じだったらしい。
「そういや話変わっちゃうけど……伊川の予想だと、次の登板は黄瀬らしいから楽しみにしてなよ!」
「マジすか!やった!ピッチャーとして初登板ッスね!」
「ガハハハ!俺達は打撃の薬師!どれだけ打たれても必ず逆転してやるからな!」
「いやいや、俺が打たれる前提で話さないでくださいよ!綾瀬川っちみたいに完全試合してみせますって!」
「高いハードル立ててくなぁ……頑張れよ」
「アザース!」
黄瀬が大変高い目標を立てて周囲を驚かせた後、バスは野球部の寮に付いた。
各自荷物を取り出し、自分の部屋に帰ろうとしている。
「北瀬先輩!俺荷物運んでおきますね!」
「あーありがとう!じゃあよろしくね!」
「伊川先輩!お荷物お運びします!」
「ありがとな」
「三島先輩!荷物はいつもの所で良いっすか?」
「ガハハハ!それで良いぜ、サンキュー!」
「雷市先輩!洗濯物洗っておきますね!」
「カハハハ……うん、アリガト!」
「秋葉先輩!荷物は運ぶだけの方が良いんですよね?」
「うん、人に荷物触って動かしてもらうのはちょっとな……ありがとう」
薬師野球部の上級生達は、人に勝手にお世話される事に慣れつつあった。
最初は気後れしていたのだが、(別に俺が命じてやらせている訳じゃないし、やらせても良いのでは……?)と思い始めていたのである。
実際、3軍や4軍のファン達は喜んでいたので問題ない。
ミーハー気分が抜けないのは問題なのだが、馬鹿と鋏は使いようと言う事だった。
戦力増強にはならないが、マネージャーをやらせたり新聞部を兼部させる事によって多少役に立つ人材にしているのだ。
「キタセ達の荷物を2年生達が運んでるのか……俺もやった方がええか?」
「やらなくて良いよ。あの人達は多分、やりたくてやってるから……」
「荷物運びがやりとうてやるなんて、変な奴らじゃ」
「……あの人達は先輩達のファンなんだ。自分が活躍したいと言うより、先輩達の活躍を近くでみたいって感じの」
「そうか……じゃあ俺もそう言われる位、強くならなな!」
一応手伝おうかと提案した青井だが、北瀬が断っていた。
自分から色々手伝ってくれる後輩は沢山いるので、別にやりたくもない人にやらせる必要が無いのである。
若干後ろめたそうに話した北瀬を見ながら、青井は納得していた。
あんなプロみたいな活躍する選手がいたら、憧れる奴はまぁいるよな。じゃあ俺が頑張って先輩達の事をやる必要はねぇのか!良かったー楽で。
青井の反応は、大雑把に言えばこんな感じだった。
明日が試合の日でも、普段通り筋トレをして汗を流している伊川。伊川は鉄人だから、明日の試合に疲れを残さないだろうと本人が無意識に判断したらしい。
彼は自分のが筋トレ中に付いた汗を拭き取った後、他の人が使った拭ききれていない器具を掃除し始めていた。
ボトルの設置中にそれに気付いた、結菜が慌てて止めようとしている。
メジャークラスの選手に、そんな雑務をさせ続ける訳にはいかない! 先輩はそういう細かい事はせずに、練習していてください!! と思っているのだ。
「あっ、伊川先輩! 片付けは私がやっておくんで、気にせず練習に行ってください!!」
「ありがとう! やる気があるマネージャーが入って来てくれて、本当に助かってるよ!
……でも、この大所帯を支えるのは大変だろ? 困った事があったら、俺に相談してほしい」
可愛らしい美青年である伊川の、優しい一面に触れてキュンとした結菜は、少しだけ顔を赤らめながらもマネージャーとしてしっかりと断った。
「ありがとうございます! でも、これはマネージャーである私の仕事ですから、気にしないでください! ……心配してくれたのは嬉しかったです!」
「そっか……」
表情には出さなかったが、内心しょんぼりしている伊川。
せっかく話す口実に使えるかと思ったのに……下心がバレてないと良いけど……
そう考えている彼は、結菜が伊川の言葉に内心キュンとしていた事は知らなかった。
試合直前、北瀬と伊川は今更な会話を始めていた。
「今日の試合は仙泉?だっけ、どんなチームなんだ?」
「地味だけど堅実で、地区大会ベスト8常連らしい」
「俺らと真逆なチームじゃん!」
「ガハハハ!伊川から良い情報を得られたのか?!」
三島が会話に加わり、北瀬が今の会話について説明し始めた。
「うーん?地味だけど堅実な仙泉高校って、俺達と真逆だなって話してたんだ」
「なるほどな!確かに俺達のコンセプトとは逆なチームだ……打ち崩し甲斐があるな!」
「カハハハ……モリタ、打つ!!」
「森田って誰だっけ?」
「……仙泉の選手なんて覚えてねぇぞ!」
『えぇ……?』
相手のどんな情報を聞いても、ホームラン打ちたいとしか言わない三島キャプテンに呆れていた下級生達。
だが、相手エースの名前を全く覚えていないと暴露した北瀬と三島には度肝を抜かれた様だ。
情報の大切さを知っている綾瀬川は大層驚きながら、北瀬達に相手選手の説明をしようとしていた。
「えっと森田准さんは2年生エースで、137kmの直球とカーブと……」
「おっしゃそろそろ時間だ!一応聞いとけよー」
『はい!』
だが説明している最中に、轟監督の話が始まってしまった。当然綾瀬川は説明を中断し、監督の話を聞く体制に入っている。
「相手の仙泉は、地方大会ベスト8常連のチームだ。まぁ俺達の敵じゃないな!
勝てる相手だから、気楽に勝ちにいこうや!一応北瀬は、リリーフで使うかもしれないからそのつもりでいろよ!」
『はいっ!!』
こうして、薬師高校対仙泉高校の試合が始まった。
観客達全員が、薬師が勝つと予測している戦いである。
正直な所、仙泉高校の選手達も薬師高校に勝てる気がしていなかった。
付け入る隙なんて、薬師高校の一部生徒が仙泉高校を知らない程度の事しかないのだから当然である。
1回表、仙泉高校の攻撃は1番セカンド。
(何で無名の1年を俺達に当てて来るんだよ……いくら何でも舐めすぎだろ!!)
薬師高校の采配に不満を覚えながら、一矢報いてやると黄瀬をギラギラした目で見据えていた。
残念ながら、薬師高校の舐めプ行動はそれだけではない。
1番ヤバいのは、仙泉スタメン選手の資料を欲しい人にしか配らなかった事である。
轟監督を含めた薬師野球部のメンツは、大層仙泉の事を舐めていた。負けようがないと確信しているから、資料を読み込む時間が無駄だと判断したのである。
相手バッターから睨まれている黄瀬。彼は公式戦初登板ながら、一切相手バッターの事を気にしていなかった。
(どうせお前らは雑魚なんだろ?つまんねー試合になりそうだけど、俺がセンパイ達に認められる為に頑張んなきゃなー)
___バシッ!
___ブォン!
「ストライク!バッターアウト!!」
「……クソッ!!」
まだ高校生になって2週間弱の黄瀬が、仙泉高校を大層舐めている空気はバッターに伝わっていた。
キレながら振ったバットは盛大に空振りし、黄瀬をますます調子付かせる結果になっていた。
才能が、完全に努力に優った瞬間でもあった。
ワンアウトランナー無しで、打席には2番ショート。
スライダーとカーブが判明したので、それを頭に入れて戦おうとしていた。
___バシッ!
___ブォン!
「ストライク!」
___バシッ!
___ブォン!
「ストライク、ツー!」
___ブォン!
___バシ
「ストライク!バッターアウト!」
「マジか?!」
超スローボールも使い、贅沢に相手バッターを倒した黄瀬-奥村バッテリー。
変化球を7つも持っているので、3つ位なら見せても大丈夫だと奥村は判断したのだ。
黄瀬はその辺の読み合いに疎いので、取り敢えずキャッチャーのリードに全て任せていた。
ツーアウトランナー無しで、打席には3番キャッチャー。
(参ったな、予想以上にこの1年強いぞ
___けど、コイツを攻略しない限り俺達の勝機は無い……やってやる!)
既に、相手は1年生という侮りを捨てて戦いに挑んでいる仙泉高校の選手達。
並大抵のチームならエースクラスの男を相手にしていると、気を引き締め直していた。
___バシッ!
___ブォン!
「ストライク!」
___ブォン
___バシ
「ストライク!」
___バシッ!
___ブォン
「ストライク!バッターアウト!チェンジ!!」
『わあぁ!』
「やられたっ!」
ボールゾーンの球に釣られた仙泉のキャッチャーは、悔しげな表情をしながらベンチに帰っていった。
「ナイス黄瀬!」
「これなら完封出来るかもな!」
「ガハハハ!俺のライバルに相応しい男かもしれんな!」
「あざーす!俺けっこう出来る子なんスよ?!」
軽いノリではしゃぎながらベンチに帰っていった黄瀬。
彼はこの程度の相手なら勝てて当然だとナチュラルに思っているので、北瀬センパイ達に俺の凄い所をアピール出来たなとしか思っていなかった。
……
「コールド!試合終了!20-1で、薬師高校の勝ち!礼!!」
『ありがとうございました!!』
「うう……勝てないって、確かに思ってたけどさ……!」
「そんな……こんな負け方をするなんて……」
仙泉の選手達が絶望している中、黄瀬は全く気にしないでむくれていた。
「しまった……最後に1点取られちゃったっす……」
「俺達の守備はアレだから仕方ねぇ」
「次は完全試合目指せば?北瀬でも中々出来ないけどな」
「この程度に打たれるとか、チョー悔しいっス!」
「それ今は言っちゃ駄目だから!」
雑魚の心境など知った事ではない黄瀬は、相手が目の前にいるにも拘らず酷い言葉を吐いていた。
流石、場合によっては全国大会決勝戦でゾロ目ゲームを提案する奴なだけはある鬼畜ぶりだった。