【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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14球目 楽しい

4回裏、ツーアウトランナー無しで打席に立った北瀬。前回三振してしまった事により、彼の脳裏に慎重さが宿った。

 

 

(狙い球を絞らないと当てられないかも……どっちも下に落ちる、フォークかチェンジアップ狙いで行こう)

 

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

「成宮くんと北瀬くんの打席は、成宮くんに軍配が上がりました!」

「あの振りを見るに、狙い球が来なかったんしょうねぇー」

 

なんでだろう。暑くてクタクタで2回も三振しちゃったし、チートみたいに強いバントを連打されて目一杯走らされる嫌がらせを受けて最悪だし、その上負けそうなのに……この勝負をもっと続けていたい自分がいる。

 

 

 

 

「ちぇっ、やっぱ成宮ちょー上手くね?」

「当然だろ! 西東京最強のエースだぞ!」

「そっかー。ま、次は打つ! だよなっ雷市!」

「? カハハハ、ナルミヤ、ブッ飛ばしてぇ!!」

 

5点差を付けられていても、薬師ベンチの雰囲気は軽く、いつも通りだった。

今大会では無かったが、練習試合でもバント攻勢でそれ位失点した事があるのだ。あれはキツかったなぁ、内野は。外野の人は棒立ちだったけどさ……それは今もか。

休憩中にとりとめのない話をする余裕すら伺える薬師高校だったが轟監督だけは、重要な選択を迫られていた。

 

 

 

 

(交代を指示するのが遅かった……)

 

無失点に終わり4回裏終了時点で8対3、薬師高校は5点差を付けられている。轟監督は瞼を強く閉じ、息をゆっくり吐く。

 

 

(北瀬・伊川バッテリーには致命的な弱点があると分かっていたのに、生徒の才能と信頼に溺れて妥当な判断が遅れた。だが、今からでも遅くない、交代させるべきだ)

 

「次の回から真田にリリーフさせる! 真田ぁ、肩をしっかり作っておけ!」

 

轟監督の指示を聞いた時、北瀬の胸の内に生じた強い不快感。

それについて深く考える前に、思わず北瀬は叫んでいた。

 

 

「待ってください! 監督!!」

 

俺は真田先輩を信頼していない訳じゃない。成り行きで、才能だけでやってきた俺や伊川より、よっぽど努力してきた人だ。

だから、ここで真田先輩にマウンドを譲っても……もしそれで負けたとしても、文句を言える立場じゃない。

 

 

___なのに、なんで。俺は絶対、嫌だって思うんだ?

何となく嫌だから、そんな事で、そんな理由で。先輩達が努力して来た野球を踏みにじるかもしれないのに、自分の意見を押し通そうとしている。

 

 

「俺はまだ、行けますよ! それに、相手のバントの成功率も減って来ています。だから……その、俺に行かせてください」

「…………」

 

(今までどこかやる気の見えなかった北瀬が、土壇場でそんな事を言うなんてな)

 

 

轟雷蔵は野球に焦がれる個人として、その言葉に感動した。だが監督として、1人の才能に対する私情で、自分を信じている薬師高校の部員達を負けさせる訳にはいかない。

だから、エースの発言は却下しようとした。だが、この場合1番得をする、登板予定だった真田も同調し始めた事で、一旦話を聞く姿勢に入る。

 

「待ってください監督! 俺も、北瀬に登板させるべきだと思ってます」

「……時間無いから手短にな」

「北瀬、雷市、伊川。3人の才能を信じてここまで来ました。ここでそれを曲げたら、絶対俺は後悔します。だから行かせてやってください!」

 

真田だってピッチャー、この大舞台で投げたいに決まってる。だが、それでも、涼に投げさせてやりたいのは本心だ。

 

(俺達のエースは涼だ。なのに、たった5点差をつけられただけで交代させたら可哀想だ…それに、涼は打撃でもチームを引っ張ってくれている。

その恩恵を無視して合理的に見える利己主義に走るのは、俺達の野球美学に合わない……そうでしょ、監督)

 

 

「……しゃあねーな! 最後までエースと心中してやるよ!!」

 

真田がちょっと良く分からない理屈を脳内で並べ立てている事には気付かず、轟監督は場の空気に流されてやる事にした。

 

5回表だけを考えるなら確実に真田が投げた方が良いが、徐々にバント攻勢に慣れ始めている北瀬に投げさせた方が最終的には良いかもしれない。

そもそも、野球をプレーするのは生徒たちだ。

俺だってどっちが投げた方が良いのかなんて自信が無いのだから、それなら彼らが納得出来る北瀬が投げた方が良い。

 

 

 

 

そんな経緯で投げ続ける事が出来た北瀬は、初めての激情に支配されながらも必死に投げていた。

 

 

(何で、俺はこんなに投げたいんだろう? 何でこんなに、投げられるのが嬉しいんだろう)

 

成宮鳴の、青空の様な瞳に睨まれながら、北瀬はふと思った。

 

___バン!!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

(彼の様に、俺に単体で勝つって顔して全力で挑んでくる相手は初めてかもな。そっか……俺は、そんな相手を倒してみたかったのかもしれない。

だから、成宮鳴。そして彼が率いる稲城実業との戦いが……俺にとって、彼らとの試合が最高なんだ)

 

でもさ、ずっと必死に野球をやって来たであろう、成宮鳴に1人では敵わない。

だから伊川……俺達はさァ、2人で強くなっていこうぜ。

ちょっと待て、そんな面倒くさいって顔すんなよ伊川。次、成宮と試合をする時に、もっと驚かせられる様にする為にさ!

そして、更に強くなった彼と、最高の試合をしたいんだ! ……いやちげぇし、今負けて良いって訳じゃねぇ。野球は団体戦だから、俺が成宮に負けてても、何が起こるか分からねぇだろ。少なくとも俺達薬師は、打撃では勝ってるしな。

 

 

友情と努力、そして勝利みたいな良い感じの事を考えていた北瀬。だがそもそも、投球が成宮より劣っている様に見えるのは、伊川の配球の酷さが9割を占めているのだが……野球経験が浅い彼らは気付かなかった。

 

 

……

 

 

6回裏、ワンアウト満塁。絶好のチャンスに、高校打率10割の男、伊川始が打席に立つ。

 

「ナルミヤァ! お前なら行ける!!」

「がんばれ伊川ぁー!」

「凌いでくれーっ!!」

『成宮! 成宮!』

 

 

球場の大多数が稲城実業を応援している。悲鳴混じりの大声援が、伊川の耳に届いた。

強豪ひしめく西東京で、決勝まで打率10割を維持して来た男は、しかし内心悲鳴を上げていた。

 

 

(勘弁してくれよ、打順的に薄々分かってたけどさァ。ここで俺に回って来ないでくれよ……)

 

伊川は、やる事を思い返して平常心を取り戻そうと努力する。野球に傾倒していないとはいえ、流石にこの大歓声で緊張しない事は難しいらしい。

 

 

(こいつを倒せば甲子園、違う考えるな、相手ピッチャーに打ち返すのが打撃の基本、そうだ。絶対に打ち返せ……成宮に! 打ち返せっ!!)

 

 

 

___カンッッ、ガツン!!

 

 

真芯で捉えた、ピッチャー真正面に飛んだあまりにも低い軌道で進む打球は……成宮の左足に直撃した。

 

 

『キャァァァァ!!』

「直撃?!」

 

(イ゛ッッてぇっ! でも、俺の脚は、タダではヤラせない……!!)

 

 

成宮は激痛の中、執念で手元のボールを拾い、信頼する相方へと投げる。

原田は動揺しつつ、身体に染み付いた動作で、走者の本塁突入を阻止する。

ダブルプレーを取った後、稲実の野手陣は慌ててエースの所へ向かう。

 

 

「おいっ! 大丈夫か!!」

「ぅ……」

 

 

普段勝ち気な成宮が足を抱えて蹲っていて、返事すら返せない状態だった……そう、成宮の脚が折れていたのだ。

 

 




原作では薬師の真田がデッドボールを当て、雷市の打球が当たり、青道の沢村が頭部にデッドボールを当てているので怪我人の数自体は減ってます。作者の最推しは成宮です。
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