【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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159球目 世界最速

 

 

 

 

5試合目の稲城実業対青道高校は、0-5で青道高校が圧勝していた。

どうやら、2年生エース赤松では青道高校を抑えられなかった様だ。

 

 

「降谷ー!!ナイスピッチ!!」

「稲実相手に9回無失点……カッケー!!」

「薬師にだって勝てるスターが揃ってるぞ!!」

 

市大三高とは違いしっかり稲城実業と青道高校を警戒していた彼らは、現地観戦で絶句していたという。

 

 

「なんかさ……青道高校って強すぎね?」

「ドラフト上位クラスの沢村さんと、通常ならドラフト1位の降谷さんがいますからね……それに、U-15で主砲を務めた園大和が入りましたから

今の青道高校は、地区が違えば甲子園決勝で当たってもおかしくない超強豪校ですよ」

 

タイプの違う優秀なピッチャー2人に、薬師下位打線レベルの打撃能力を持つ主砲。

この3人が揃った青道高校は、場合によっては薬師高校に勝てるのではと言われる超強豪校になっていた。

 

 

「こんな強敵……すっげぇワクワクするな!由井!!」

「……そうですね。彼らはあるいは、巨摩大藤巻より強いかもしれませんから……全力で倒しに行きましょう!」

「俺は別に、強敵と戦いたいなんて思ってないんだけどなー。楽に勝たしてはくれないか!」

 

最強のライバルが出現した事が分かり、伊川は表向き嫌そうな顔をしていたが、内心は複雑だった。

彼は『非難されたくないから負けたくない』のだが、親友の北瀬は強敵と戦いたいと思っている事を知っているので、強敵が現れた事を嘆けば良いのか喜べば良いのか分からなかったのだ。

 

(昔、綾瀬川が青道に行ってくれてたらって思った事あったけど……園と同チームに行かれたらマジで負けそうだったな

薬師に来てくれて良かったー!北瀬が程々にスリルを楽しめて勝てそうな試合って、よく考えたら最高じゃね?)

 

「伊川、嫌そうなフリしてるけどさー……なんか嬉しそうじゃん!やっぱり強敵と戦うのが楽しみになって来たか?!」

「ちげーし!俺は負けない試合がしたいよ!」

「ホントかなぁ?」

 

北瀬と伊川がじゃれ合って楽しんでいる時、主砲の雷市と三島キャプテンが大はしゃぎして周りに迷惑をかけそうなのを秋葉が何とか止めようと奮闘している。

 

 

「ガハハハ!青道高校も強くなった!!俺達のホームランで粉砕するのが楽しみだ!!……今すぐにでも勝負したい!!!」

「カハハハ……!!フルヤ、サワムラ……まとめてブットバス!!」

「ここ観客席だから騒ぐのヤメロ!監督もコイツら止めてくださいよ!てか片岡コーチは……2軍選手達の所か……」

「金のニオイがプンプンしやがる……!特に降谷は顔も良いしなぁ!幾らになるのかぁ?!」

 

勝手な事を言いはしゃいでいる最上級生達を、止められる後輩は居なかった。

割とマトモ枠な疾風とか緑野は何とか先輩達を止めようか迷っていたが、常識的な体育会系の人間なので止めるに止められなかったのだ。

 

 

「センパイ達チョー楽しそうにしてるじゃないっスか!俺も何か言う感じの空気かな……?」

「涼太……何か違う気がするんだけど……」

「打倒青道高校!来年は俺が投げてやるッスよ!!」

「うっせぇ!こんな所で騒ぐな!!」

 

黄瀬涼太も勝手に同調してはしゃいでいた所で、2軍の笠松が背中を蹴り飛ばした。

格下相手に舐められていると感じた黄瀬は、冗談の様にクレームを入れたが内心イライラしている。

 

 

「痛てっ!……笠松クン、酷いっしょ暴力は!」

「お前がこんな所で騒ぐからだ!……綾瀬川も、不味いと思ったら止めてくれよ。同じ1軍なんだからさ」

「うん、ごめんね……」

「何で俺が悪い感じになってんの?!てか俺より先輩達の方が騒いでんじゃん!まずはあっちを止めて来てよ!!」

「全部先輩達のせいにすんじゃねー!」

「また蹴った!酷いッスよ!!」

 

イケメンでスポーツ万能、家もそこそこ裕福と非の打ち所がないスペックをしている黄瀬は、大変調子に乗っていた。

体育会系の部活などにも所属していないので、薬師1年生達の空気に馴染めていないのである。

 

 

 

 

 

 

5回戦を観戦していた薬師高校の言動が若干ネットで炎上した数日後、準決勝薬師対青道の試合が始まった。

実質甲子園決勝だと観客達から騒がれる中、彼らの試合が始まろうとしている。

 

 

「既にシードは貰ってるし、負けても良い試合っちゃ試合なんだが……まさか手加減しようって奴はいねぇよな?

春のセンバツ準優勝、青道高校と戦うんだ!お前らの打撃を最大限に発揮できるライバルなんて滅多にいねぇ!

___相手にとって不足なし!全力で楽しんで、試合に勝ってこい!!」

『おうっ!!』

 

 

 

 

対して青道高校の落合監督は、珍しく楽しそうな顔をして試合に臨もうとしていた。

 

 

「まさか、あの薬師に対抗出来るだけの戦力が集まるとは俺も思ってなかったよ……

ここで勝てば、一気に甲子園優勝有力候補まで躍り出るな。まぁ勝てばの話だが

……相手は高卒メジャーの天才達だ。勝てば一生自慢出来るから、まぁ頑張ってくれや」

「……はいっ!」

 

大舞台の前で下手くそな演説を聞かされ、若干嫌そうにしている青道部員達。

確かにコレは酷いが、選手への指示はかなり的確なので許して上げて欲しい所である。

 

 

 

 

 

 

こうして、共に昨年春のセンバツ決勝戦に進んでいる薬師高校対青道高校の試合が始まった。

たかが春季大会とは思えないビッグカード同士の戦いなので、立ち見席まで埋め尽くされる程の観客達で大層賑わっていた。

 

 

「北瀬ー!お前が最強だー!!」

「園ー!!今回もホームラン頼むぞー!!」

「沢村ァ!!お前のバントが頼みの綱だぁ!!」

「伊川ー!実質打率10割頼んだぞぉ!!」

「轟ィ!今日もホームラン見せてくれぇ!!」

「青道ォ!大物食いを見せてくれぇ!!」

 

 

 

 

口々に叫んでいる観客達を背に打席に立つのは、1番レフト園大和。

 

戦艦大和の異名を持つ大砲であり、彼のライバル校所属の三島キャプテンがその渾名を聞いた時は、俺もカッコイイ渾名が羨ましいと叫んでいたという。

薬師雷砲の轟や日本の北極星北瀬、10割の伊川に人望投法の真田など、個性的な渾名を持つ選手達を三島はかなり羨ましがっていたのだ。

 

ちなみに真田の異名は、「危険球を投げても何となく審判に許される」事を揶揄した微妙な渾名だったりもするのだが……そんな事を三島は知らなかった。

 

 

___バシッ!

___ブォォン!

 

「ストライク!」

『わああぁぁ!!』

 

1球投げただけで大歓声が鳴り響く、異様な光景。

園大和と北瀬涼の戦いは、それだけ注目されていたのだ。

 

今打席に立っている園のステータスは、パワプロ表記にするならミートBにパワーS。1年生の頃の轟と、同じ程度の能力である。

バントの神様に繋げば初回得点の可能性も高いとして、かなり注目されていた。

 

 

___バシッッ!

___ブォォン!

 

「ストライク!」

『……??!』

 

『170km!!世界最速記録を、日本の北極星が超えてしまった!!!何という剛腕、何という才覚!!

この男に限界など存在しない!!これが日本史上最強の大エース、北瀬涼の実力だっ!!!』

『……キャーッッ!!』

 

暫く放心していた観客達は、実況の声により何とか復活。

奇声じみた大歓声を上げ、観客達は薬師圧勝ムード。

 

 

「ナイスキャッチ、由井!」

「ありがとうございます!……そもそも北瀬さんは、半年前位には170km投げられたんですけどね……俺が取れなかったから、封印していただけで」

 

「ガハハハ、これでこそ俺のライバル!超え甲斐のある奴だぜ!!」

「カハハハ……カッコイイ!!」

「煩ぇな……無観客でやってくれれば良いのに」

 

「やっぱすげぇ……!アイツが、俺の超えなきゃならない日本最強左腕……!!」

「栄純くん、まだそれ言ってたんだ……」

「甲子園決勝戦でバントランニングホームラン2発なんて奇跡起こせたんだから、もうそれだけで良くねぇ?」

 

相手チームすら感動させてしまう北瀬のピッチング。

高校生だとか関係ない、既にプロを含めて史上最強投手と言われる実力を、遺憾なく発揮していた。

 

大注目の3球目。

獰猛な笑いを見せながら投げる北瀬に対し、園は冷静な顔付きをしていた。

まぁこのバッターは、非常に顔に出にくい選手だから何を考えているのかは分からないのだが。

 

 

___ガギン!

 

「……セーフ!!」

『ぎゃああぁ!!』

 

そんな、観客達全員が北瀬の圧勝を望む空気の中でも、結局園は空気を読まずにヒットを打った。

若干怪しい当たりだったが瀬戸が取れず、結果的にツーベースヒットになってしまう。

 

一応ショートはミットで触っていたので、野手のエラーとして表記されるだけマシだっただろうか?

まぁ、どうせ薬師は記録に残らないエラーをするので、関係ない話かもしれないが……

 

 

「またクソ守備かよ!!空気読め!!」

「巫山戯んな!!」

「薬師に守備を求める方が馬鹿だろ……」

 

 

 

 

「わーっはっはっは!よくやった園!!俺がお前を返してやるからな!!」

『…………』

 

シラけた空気が漂う中、高校左腕3本の指に入ると言われている沢村栄純が堂々と打席に立っている。

 

___彼が北瀬相手に出来るのはバントのみ。

それが分かっていながらも、薬師野手陣は警戒を解かない。というより解けない。

絶望的な守備力をしている彼らは、ここで1点取られても仕方ないのだ。

 

 

___カーン!

 

ファースト三島方向を狙った、絶妙なバント。

後1cmズレていたらファールだったかもしれない、ギリギリの所を狙えていた。

 

 

「……アウト!」

『わああぁぁ!!』

 

だが三島は、何とか捌き切って1塁沢村をアウトにした。

これでワンアウトランナー3塁。ツーベースは許さず、今回はしっかりアウトをとれている。

 

 

「なははは!俺はアウトになってしまったが、得点圏にランナーを置いてやったぜ!」

「後は、小湊か東条が打てば1点先取だな……」

「___頑張れ小湊!やってくれぇ!!」

 

 

___バシッッ!!

___ブォン!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

『わああぁぁ!!』

 

 

___バシッッ!!

___ブォン!

 

「ストライク!バッターアウト!……チェンジ!!」

『わああぁぁ!!!』

 

「確かに沢村くんと園は怖いバッターだけど……後はあんま怖くないんだよねー」

「ナイスピッチです、北瀬さん!」

 

味方のエラーなどで得点圏に進まれようと、北瀬のピッチングは一切影響無し。

身体の制御は完璧な彼は、感情を無視して投げ込む事が出来るのである。

これがもし、投げる所まで北瀬に決めさせていたら感情に振り回されていただろうが……言われた所に投げ込むコントロールも、地味に高校最高クラスだった。

 

 

「沢村と園に打席が回ってくる回数は最大5回だから、今回最大まで打たれたら、8失点か……」

「そうなのか?始___なら俺達は、20点取ってコールドにしてやるぜ!!」

「カハハハ!フルヤにサワムラ、纏めてブットバス!!」

 

(まぁ園が全打席打って沢村が全打席バントランニングホームランをする確率なんて、0に近いんだけどなー

緊張感が有ったほうが北瀬も皆も楽しいだろ)

 

めちゃくちゃな理論で、周囲のバカ達を騙している伊川。

ちなみに彼は本心から、チームの為を思ってふざけた理論を提唱している。

 

そもそも「今回最大まで打たれたら8失点」という言葉に嘘は無いので、彼は全く悪い事をしていると思っていない様だ。

伊川の倫理感はかなり問題があるので、今回は完全に正しい事をしたと本気で思い込んでいる。

 

 

 

 

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