【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
3回裏、5点薬師が先取している場面。
ワンアウトランナー無しで、打席には5番火神。
「よっしゃー!テンション上がってきた!!」
「頑張れよー火神!」
「ガハハ!2連続ホームラン頼んだぜ!」
強敵相手にいつも言っている事を言いながら、火神は楽しげに打席に立った。
味方ベンチからも楽しげなエールが届き、彼は嬉しそうにバットを握っている。
___カキーン!
「クソッ、ホームランにはならなかったか!」
「惜しかったな!次は俺に任せろ!!」
「ナイス火神!」
「ツーベースもけっこう良いぞ!」
イケイケムードの流れに乗って、火神は初球フェン直ツーベースを放った。
本人は悔しげだったが、普通に考えたら優秀な成績だと言えるだろう。
ワンアウトランナー2塁で、打席には6番三島。
「ガハハハ!満塁じゃないのは残念だが、一発打って突き放してやるぜ!」
「頑張れ三島ー!」
「フォアボールは要らねぇよな!」
「カハハハ……!打てミッシーマ!!」
「伊川まで変な事言うなよ……」
彼は競争心を燃やしながら、バッターボックスでふんぞり返っている。
自分の事を最強になる男だと本心から思っているので、薬師野球部の中で1番態度がでかかった。
まぁ敬語が使えない火神とか、誰にでも喧嘩を売る奥村とか、別ベクトルでヤバイ奴は何人もいるので彼だけ悪目立ちなどしてないが……
こんな超人ばかりの学校に在籍しておいて、自分が1番になると信じ切れるのは奇妙だが凄い事である。
若干卑屈になった秋葉とか、天才の後輩達を立てようと考える真田の方が普通な感性をしているのだ。
それでも自分が活躍しようと努力し続けられる辺り彼らも強いメンタルをしているのだが、三島の異常なタフさには勝てなかった。
___ブォォン!
___バシッ!
「ストライク!」
「まだワンストライクだぜ、ですー!」
「ホームラン頼んだぜ!!」
1球目は速く振りすぎてしまい空振り。
火神や北瀬は、ホームランがみたいから真剣に三島を応援していた。
他の選手達は……一応応援しているが、圧勝ムードで真剣味に欠けている。
___ガギン!
「……セーフ!」
2球目は、若干怪しい当たりだったが意外と速い足を活かしてセーフ。甲子園選手としては遅めだが、体格を考えれば思ったより速い動きで1塁を陥れていた。
「くそーっ!こんなカス当たりじゃ、打ったって言えねぇ!!悔しい!!」
「ドンマイ三島!次はホームラン打てよ!」
「カハハハ……ドンマイミッシーマ!」
「ナイスです!……いやドンマイです!」
「アウトになんなかったし良くねー?」
「三島の向上心はヤバいからなぁ……」
悔しがる三島だが、薬師ベンチは微妙な顔をしていた。
まぁホームラン打ちたい気持ちは分かるけど、そこまで悔しがらなくても良くね?と思った選手も多かったのだ。
頭薬師してない新入生が入ってきた事で、異様なホームラン狙いの異常さに気付いた部員も割といたのである。
ワンアウトランナー1・3塁で、打席には7番由井。
守備もそこそこ出来て、バッティングは他校ならクリーンナップ級の超高校生級選手である。
___バシッ!
「……ストライク!」
1球目、ギリギリの所に決まった球はストライク判定。
「惜しい!」
「うーむ、フォアボール狙いは好きじゃないんだが……」
「後輩に思想を押し付けるなよーっ!キャプテン!」
___バシッ
___ブォン!
「ストライク、ツー!」
ベンチの伊川と1塁に立っている三島が話している途中でも、試合は進んていく。
ツーストライクに追い込まれた由井だが、あくまで冷静に長打を狙っていた……この場面で長打を狙い続けるあたり、割と薬師野球部の気風に影響を受けているのかもしれない。
___ガギン!
___バシッ
「アウト!ゲッツー!……スリーアウトチェンジ!」
「あちゃー……ドンマイ由井!」
「ゲッツーは強打者の宿命だ!仕方ねぇ!」
ショート方向に鈍いゴロを飛ばした由井は、2塁に進もうとしていた三島を巻き込んでゲッツーにされていた。
これで0-5。一般的な感覚なら大差と言えるが、薬師野手陣の守備を考えると割と逆転負けも有り得る点差だった。
4回表の青道高校は、北瀬に三者三球三振にされて終了。
4回裏は8番結城が単発ホームランを打った後、9番瀬戸がフライアウト。1番秋葉がヒットを打って、2番伊川がツーベース、3番北瀬が犠打を打ち、4番轟がゲッツーで終わった。
これで0-7。北瀬が投げている事を加味すれば、早々負けない点差になっていた。
「勝ったな」
「油断すんなって言ったのは伊川だろ?……まだ青道の勝ちがあるかもしれない!全力でホームランを打とう!!」
「ガハハハハ!俺達が絶対勝つが、ホームランを打つのは賛成だ!やはり野球の華はホームランだからな!!」
「ドラフト上位名狙いなら、ここでアピールするのは大事ですしね!皆で打って行きましょう!」
油断している部員に一応注意を促した北瀬も、正直負けるとは思っていない。全員勝てると確信しながら戦っている。
彼らの思っている通り、5回表の青道下位打線も三者三球三振になり楽勝ムード。
5回裏の薬師打線は、5番火神と6番三島に7番由井がヒットを打ち満塁になり、8番結城が犠打で1得点。
9番瀬戸がヒットを打ってまた満塁になった所で1番秋葉がゲッツーで終わった。
「ドンマイ秋葉!……今日俺達、妙にゲッツー多くね?」
「そうかな?そうかも……」
「ガハハハ!気にする事は無い!!ゲッツーは強打者の宿命だからな!俺達程のパワーなら、運が悪けりゃそうなるだろ!!」
「何か対策されている様な気もするのですが……」
「やべー……今回の俺、既に3回もアウト取られてるんだけど……」
別に対策という程でもないが、何回も何回も投壊打線と戦っている青道高校は、実はかなり危うく長打の球をゲッツーにする動きに慣れていた。
長打コースだと思った球が、何故かアウトになっているのはそういう理由である。
特に、1番打席数が多い秋葉は非常に研究されていた。
薬師最強のバッター、伊川始の下位互換な事もありめちゃくちゃ研究されているのである。
秋葉は伊川の様な選球眼は持たないが、スイングや打席での考え方が似ている事もあり研究され尽くされ、高校野球界隈では割と不利になりつつあった。
逆に言えば、そんな状況下でもかなり打てるから秋葉はドラ1指名確実と言われているのだが。
6回表、青道高校の攻撃は9番から。
___バシッッ!
「ストライク、バッターアウト!」
『わああぁぁ!!』
U-18にも出場している二刀流をあっさりアウトにした北瀬は、警戒している様な目でネクストバッターサークルを見ていた。
次のバッターは、1番の園である。
ワンアウトランナー無しで出てきた、次世代最強バッターと噂される園大和。
敢えて最強チームと戦う道を選んだ彼は、一部から大いに絶賛されていた。
「バッテリーとして、1番警戒しなきゃいけない選手です。全力で戦いましょう!」
「俺のやる事はあんま変わらないけど……やっぱ野球って楽しいな!」
___バシッッ!
___ブォォン!
「ストライク!」
『わああぁぁ!!』
初球、伝家の宝刀170kmビタビタストレートで、ストライクを取った薬師バッテリー。
「ガハハハ、良いぞ涼!……失敗しても、俺達が取る!」
「それは無理だろ……」
「北瀬!……さん!背後には野手がいますから!」
「寧ろ不安になってこないか?それ……」
ボロボロ守備のスタメン選手達が何か言っているが、北瀬はあまり気にせず2球目を投げた。
___カッキーン!
『あああああ!!』
この試合では1度も使っていなかった超スローボールを指示した由井だが、読まれていたのかホームランを打たれてしまった。
「……やった、やったーっっ!!」
「うわ、やられたぁ!」
「俺のリードミスです、すみません……」
「ん?由井が悪い訳じゃない、俺が弱いのが悪いんだ」
正捕手の由井が打たれる采配をしてすみませんと謝っていたが、北瀬は別に彼のせいだとは思っていなかった。
確かに俺はけっこう強いけど、絶対に打たれないピッチャーじゃないしな。そんな事もある程度に考えていたのだ。
まぁ北瀬の本心からの言葉は由井の心には届かず、最強のエースを活かせなかったと反省し続けていたが……
ちなみに園が今回打てたのは、ストレートを狙おうとして失敗したスイングが、体勢を崩した所でたまたま超スローボールに当てられただけである。
配球が読まれていたという事実は無いので、本当に由井の考え過ぎだった。
ワンアウトランナー無しで、打席には2番沢村。
三島みたいな豪快な笑い方をしながら、バッターボックスに立っている。
薬師高校の6番は豪快なスイングをするのに対し、沢村は基本的にバントしかしないという大きな違いがあるが……妙に彼らは似ていた。
北瀬はそんなクセ球サウスポーを見ながら、内心ため息を付いていた。
(はぁ……バントされんの、正直苦手なんだよな……
だってさ、俺が出来る事何も無いじゃん!殆ど野手陣任せの博打だし、やる気起きねぇよ!……まぁバントってズルじゃないし、対応出来ない俺が悪いんだけど)
そんな事を考えている彼は、相棒である由井の不調に気付いていなかった。
___カーン!
「アッ……」
「ヤベッ……」
「バックホーーム!!」
サード轟を抜けた先は、レフト火神。
当然対応出来る筈もなく、3塁まで悠々と進んだ沢村。
レフトが何とか捕球した時、由井は咄嗟にバックホームを指示してしまった。
___ガシャーン!
「……せ、セーフ!!」
『ぎゃああぁぁ!!』
そして送球☓を遺憾なく発揮。
明らかにキャッチャーが取れない方向に暴投し、バントランニングホームランを決められてしまった。
「あちゃー……まぁそういう事もあるよな!」
「カハハハ……ごめん!」
「悪いな!ます!」
「気にすんな!次アウト取ればオッケーだから!」
軽く雷市と火神が謝った後、悲惨な味方守備を気にせず北瀬は三振を2つ取った。
これで2-7。普通に考えれば楽勝に勝てる場面だが、観客達に一抹の不安を与えていたという。
6回裏、薬師高校は2番伊川がヒットを放ち、3番北瀬はゴロアウト。4番轟がヒットを放って5番火神もヒットを放つ。
___カッキーン!!
『わああぁぁ!!』
そして絶好のチャンスで出てきた満塁男、三島優太の満塁ホームランで一気に9点差で突き放し、少し薬師高校を心配していた観客達を安心させた。
「ガハハハ!俺最強!!」
「ナイス三島!ナイスホームラン!!」
「かっけぇなぁ、三島!!」
「カハハハ……!ミッシーマ!ナイスホームラン!!」
「ホームランも良いなぁーっ!」
「悔しいが、格好いいと言わざるをえない」
薬師野球部のベンチは大層盛り上がりながら、場外への満塁ホームランを放った三島を祝福していた。
最高峰のピッチャーや打率9割の安打製造機など、個性豊かな最強選手達を抱える薬師高校だが……あくまで彼らの追い求める選手像はホームランを打ちまくる長距離砲なのだ。
轟親子のせいもあって、部員のほぼ全員が1番格好いいと思うのはホームランを打つ姿だった。
稀に北瀬や伊川に憧れた選手達が、別の事を考えているが……大体の選手達は薬師野球部に汚染されていた。
大学やプロに行った時の事が、かなり不安である。
三島が打った後の7番由井はフライアウト、8番結城がツーベースを打つも9番瀬戸がゴロアウト。
7回表、青道打線が三者三球三振にされ……春季大会、西東京準決勝は終わった。
「コールド!2-11で、薬師高校の勝ち!……礼!!」
『ありがとうごさいました!!』
深々と両者が頭を下げた後、ベンチに帰っていく。
「降谷……やっぱ俺達の壁は、高いな!
___けど、諦めねぇ!夏はアイツらに勝って、絶対また甲子園に行ってやる!!」
「うん___僕達は挑戦者だ。次は絶対勝つ
それと、僕は北瀬くんの170kmを超えなきゃ……!」
「俺もNO.1サウスポーの座は譲らねぇ!!」
試合を終えた青道高校の2大エースは、2人で固い決意を語っていた。
この大会も負けて良かった訳ではないが、本番はやはり地区大会。甲子園に向けて特訓だと、沢村と降谷は闘志を燃やしていた。
「えっ……?俺、4打席1安打で終わっちゃった?!」
「……ドンマイ秋葉!」
「別にそれ、普通に考えたらそんなに悪い成績じゃないですから……」
ちなみに、薬師高校の選手としては最低限以下の結果を出してしまった秋葉は愕然としていた。
ドラフト会議に影響してしまったらどうしようと、慌てふためいていたが……今までの彼の成績を考えると、完全に杞憂である。
守備も出来る安打製造機の力を、1番軽視していたのは秋葉本人だった。