【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「次期エース綾瀬川対、投壊薬師打線!」
「くうっ!どっちが勝つか全然分からねぇぜ!!」
「綾瀬川なら、綾瀬川なら絶対に勝つ!筈……」
「北瀬センパーイ!ホームランオナシャス!!」
高校最強打線vsU-15MVPの戦いで、薬師部員達のテンションはバク上がり。
各々勝ってほしい選手の名を叫びながら、どちらが勝つのかと勝負を楽しみにしていた。
(皆、俺達の勝負を見るのが楽しそう……!
俺は、薬師高校に来るために野球をやって来たんだ!辛い日々は、無駄じゃ無かったんだ!!)
楽しげなチームメイトを見て、綾瀬川も嬉しくなっていた。彼は勝負に向かないレベルで、致命的に人好きである。
だから1人だけ目立たずに楽しく埋没出来る、薬師高校というチームの事が大好きだった。
まだ入部して1か月も経っていないにも拘らず、このチームに来て良かったと感動している。
ノーアウトランナー無しで、打席には1番秋葉。
ミートSパワーBに、安打製造機やアベレージヒッターにパワーヒッターを持っていて、将来メジャー挑戦もあるかもと気が早い人達には言われているバッターである。
ちなみに打席を重ねるごとに能力がすごく上がる昇り龍や、ヒットを打つと打力が上がる固め打ちも持っているのだが、この勝負では関係ない。
(青道にも1安打で北瀬にも抑えられて、その上1年にまで抑えられたら笑い者になっちゃうかも……だから絶対打ってやる!
てか真田キャプテンとか、よく俺達の事可愛がれたよなぁ……正直、格上が3人もいる後輩とか扱い辛くね?)
割と後ろ向きな思考だが、絶対綾瀬川の球を打ってやると考えている秋葉。
___バシッ!
___ブォン
「ストライク!」
___バシッ
「ファール!」
___カキン!
「セーフ!」
『わあぁ!』
「ナイス秋葉!」
「ガハハ!流石は俺の親友!」
「そんな…………あの綾瀬川が、打たれた?」
追い込まれながらも何とかヒットを打った秋葉。
綾瀬川が打たれる所を始めて見た1年達は動揺している。
だが上級生達からすれば、特に驚く必要もない事だった……投壊薬師打線を背負う、高校史上最強の1番打者秋葉の実力を認めているからだ。
まぁそれはそれとして、ちゃんとホームランを狙って欲しいとも思っているが。
「綾瀬川___次、アウト取るぞ」
「うん!」
野球を始めてから、園以外にヒットを打たれるのは始めてだった綾瀬川だが、特にショックは受けていなかった。
先輩達の打力が凄まじい事は元から分かっていたし、そもそも彼は勝敗に拘る質ではないからだ。
ノーアウトランナー1塁で、打席には2番伊川。
普段通りのツンとした無表情で打席に立っている。それでも若干可愛く見えるのは、童顔美青年の特権だ。
___カキーン!
『わあぁ!』
『えぇえ?!』
初球からツーベースヒットを放った伊川。涼しい顔をして2塁に進んでいた。
若干鈍足気味の秋葉が前にいなければ、スリーベースヒットになっていたかもしれない。
……傍目からはそう見えるが、彼は内心、完璧に打てなかったと反省していた。
打つ予定だった所より落下地点が、1m程右にズレていたのだ。
運が悪ければアウトだったなと、こっそり1人反省大会を開いている。
ノーアウトランナー2・3塁で、打席には3番北瀬。
「綾瀬の投球、すげー楽しみにしてたんだよな!!」
「俺も、北瀬さんと戦うの楽しみにしてました!」
「よっしゃ!……勝負だ!綾瀬!!」
意気揚々とバッターボックスに立ち、キラキラとした目で綾瀬川を見ている北瀬。
彼は互角の相手と勝負する事が好きなので、どちらが勝つか分からない綾瀬川との戦いを、前から楽しみにしていたのだ。
___バシッ!
___ブォォン
「ストライク!」
「うわスゲェ!俺のスライダー以上じゃね?!」
「北瀬の方がスゲェぞ」
「ガハハ!魔球スライダーを持ってても、綾瀬川のスライダーに対応出来ない様だな!」
「そりゃ、自分の球は打てないからな……」
初球、綾瀬川のスライダーに空振りした北瀬。
実際の所、スライダーだけ見れば北瀬の方が明らかに優れているのだが、本人は無自覚だった。
___ガギーン!
「……アウト!」
センター方向に飛んだ打球を、疾風が掴んでアウト。
だが3塁ランナーはちゃっかり帰塁し、犠打になった。
「あー負けた!悔しい!!」
「俺を帰塁させたからセーフじゃね?」
「ガハハ!まだまだ精進が足りんな!!」
北瀬は悔しげな口調で話しているが、やはりどこか楽しそうな顔をしている。
(良かった……この人は、打ち取っても嫌がらないんだ!
それなら、俺は全力を出しても良いんだ!)
野球というスポーツを侮辱しない為、仕方なく普段から全力を出している綾瀬川は、割と仲が良い先輩が落ち込んでなくてホッとしていた。
彼は大切な場面で強い相手を打ち取れても、泣かれると悲しくなってしまう様な甘すぎる性格をしている。
だから……全力を出しても誰も悲しませない薬師野球部が、彼の様な優しい天才にとって最高の場所だった。
ワンアウトランナー2塁で、打席には4番轟。
「カハハ、カハハハ___アヤセガワ、打つ!!」
「ガハハハ!ホームラン打てー!雷市ー!!」
「綾瀬川も頑張れー!」
「頑張れー!」
「2人共!頑張ってぇ!!」
凶悪に釣り上がった口角。雷市は明らかに悦んでいた。
普段静かに佇んでいるからあまり目立たないが、彼もバトルジャンキー。強いピッチャーと戦う時の方が、明らかに楽しめる性格をしている。
まぁチームメイトの期待に応えようとすると、自分のスイングが出来なくなる密かな弱点もあるのだが……雷市に頼り切りになりようがない投壊野球部に所属している間は、全く関係ない事だった。
___バシッ!
「……ボール」
初球は見逃し、ギリギリボール判定。
地味だが、彼の選球眼が光るワンプレーである。
「雷市ー!フォアボールなんて要らねぇぞー!」
「頼む!俺の代わりに伊川を返してやってーっ!」
「……公式戦より盛り上がってません?」
___バシッ!
___ブォォン
「ストライク!」
___バシッ
「ボール!」
___ガギーン!
「ファール!」
___ガギ
「……アウト!」
「カハハ……凄い!!凄い!!」
追い込まれて5球目、バットには当てられたが芯に当たらず、三井の軽快な守備によってアウトにされた雷市。
負けたにも拘らず、彼はベンチに帰りながらぴょんぴょん跳ねて喜んていた。
綾瀬川との戦いが大層楽しかったらしい。
北瀬と勝負するのも確かに楽しいのだが、お互いの手の内が完全に分かり切っていてマンネリ気味だったのだ。
そこに颯爽と現れた最高のピッチャーを見て、雷市はめちゃくちゃ喜んでいた。
彼は、公式戦で綾瀬川クラスのピッチャーが現れても喜んでしまう様な無邪気さを持っている。
ちなみに……普段と全く違うマトモな薬師守備に、北瀬は感動していた。
俺達でもこんな凄い守備が出来るんだとワクワクしていたらしい。まぁ守備だけで集めたメンツでも、守備を総合的に見ると他西東京4強の2軍選手程度だが。
ツーアウトランナー2塁で、打席には5番火神。
「おっしゃー!打ってやるぜ!!」
普段と若干違う事を言いながら、明るい笑顔を見せてバッターボックスに立つ火神。彼は根っからの陽キャである。
___ガギーン!
「アウト!」
『おお……!』
「あーっ!やっちまったぁ!!」
初球からボール球に手を出し、ライトにゆっくりと飛んでいってあっさりアウト。
寧ろ、クソ玉に手を出しても飛距離が出る所が凄いのではないだろうかと思わせる豪快なスイングだった。
ちなみに、伊川はその隙に3塁まで進んだので一応進塁打になっている。
「ガハハハ!今から場外ホームランを打って、俺が最強になってやる!!」
「言い過ぎだろ!でも頑張れよー!」
「実際、可能性が無い訳でもないからな……」
「カハハハ……頑張れミッシーマ!」
スリーアウトランナー3塁で、豪快に笑いながら出てきたのは薬師6番の三島。
親友でライバルの雷市がアウトになったのを見て、俺が打てば注目されるのではと意気込んでいる。
___バシッ!
___ブォォン
「ストライク!」
___ガギーン!
「ファール!」
___ガキン!
「ファール!」
___ガッキーン!
「ファール!」
「くっそぅ!ちゃんと当てらんねぇ!!」
「三島センパーイ!ホームラン見せてくださーい!」
「流石は綾瀬川っち!三島センパイもホンローしてるじゃないッスか!!」
「三島ー!打てーっ!」
「綾瀬川の球にあそこまで合わせられるなんて……流石は投壊薬師打線……!」
「魔の2008年ドラフトで1位有力候補だしなー。あの人は、名ばかりキャプテンじゃない」
人によって評価が分かれるこの勝負。
だが大方、三島を高評価しつつ綾瀬川の実力に慄く人が多かった。キャプテンの才覚が良く分かっていないのは、ほぼド素人の黄瀬位である。
___ガギン!
「……アウト!」
『わあぁ!』
「くっそー!まだ振り込みが足りん!!」
「惜しかったなー三島!」
「次はホームラン打てよー!綾瀬川、ナイスピッチ!」
粘った三島だが、最後はシュートにしっかりと当てられずゴロアウト。
悔しがりつつ次はホームランを打ってやると考えている彼は、1年生からの評価が大幅に上がっている事を気付いていなかった。
確かに三島キャプテンは投壊薬師打線の選手だけど、所詮下位打線相応の実力だろうと誤解している新入生も割といたのだ。
今回のバッティングで、他校なら主砲確定クラスの天才バッターだと評価を変えた奴も多かったのだが、今までの自分への評価をそもそも彼は一切気付いていなかった。
三島は自分の事を天才だと信じていて実際試合で結果も出しているので、まさか過小評価される可能性があるとは思っていないのである。
彼は未だにガラケーを使っている位、世間の細かい事に興味がない。野球で最強になる為に努力し続けているから、流行や世間の戯言に一切耳を傾けていなかったのだ。
秋葉や伊川にも見習ってほしい姿勢である。
フォーアウトランナー3塁で、打席には7番結城。
メラメラと闘志を滾らせながら、バットを異常に長く構えている……薬師特有のホームラン狙いに、完全に汚染されていた。
ちゃんと打力が上がっているから問題ないのかもしれないが、将来が心配になる頭薬師ぶりである。守備も酷いし。
___ガッキーン!!
『えっ……?ええぇ……??』
あからさまなボール球に手を出しながらも、何か芯に当たったのかホームランを出した結城。
流石の綾瀬川も度肝を抜かれていた。
かなりボールゾーンに投げたのに、当てられただけでホームランになるのは予想外だったのだ。
結城のバッティングは、実はギャンブラーに大人気。
低打率ながら、当てられたら最強な彼の打撃の虜になる野球ファンはけっこう多かったらしい。
流石、日本の主砲轟と同等のパワーを持つだけの事はあるエゲツナイ馬鹿力だった。
これで綾瀬川は3失点してしまった。
玉突き事故の様な運の悪さだったが、この勝負でやはり北瀬がエースだと思った部員は多かったらしい。
この後の綾瀬川は順調に薬師打線を抑え、9アウト終了という変則的な勝負を3失点に抑えていた。
流石、U-15で文句無しのMVP選手である。
「いやーマジで凄かったな!綾瀬!」
「ありがとうございます!でも、けっこう打たれちゃいました……これが公式戦だったらと思うと怖いです……」
「んー、でも薬師打線と公式戦で当たる事は無いからなぁ……あんま気にしなくて良いんじゃね?」
だが綾瀬川は自分ならあんまり打たれないと調子に乗っていた事を猛省し、チームの為に打たれないピッチングが出来るようになろうと決意していた。
そもそも綾瀬川は偉そうにしていても誰も不思議に思わない位素晴らしい才能と実力を持っているのだが、今回の勝負で俺なんてまだ未熟だと思わされたらしい。
彼が本気で強くなろうと努力したら、どこまで強くなってしまうのだろうか……?
「綾瀬川っち良いなー!俺も投げたかった!」
「そろそろ夜飯の時間だから無理だよ……俺も投げたかったけどさ」
「そっか……パワプロセンパイも投げたかったんスか!やっぱ俺も、最強打線に速く投げてみたいっス!!」
いつの間にか意気投合している黄瀬とパワプロくん。
薬師野球部屈指の鬼畜同士、何となく波長が合うのかもしれない。
それに、黄瀬から見てもパワプロくんが才能ある選手な事も大きいだろう。
彼は才能の無い人を露骨に見下す悪癖があるので、ある程度才能がある人相手じゃないと仲良く出来ないのだ。
一応彼らは、ベンチ入りを賭けて戦うライバル同士なのだが……黄瀬は実力者は優遇するべきだという思想を持っているし、パワプロくんは速球に殉じる覚悟をしているので、お互い妨害しようとは思わなかったらしい。