【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
他校との練習試合がまた決まった薬師高校。
高校野球の頂点と1度戦っておきたい野球部は多いらしく、片岡コーチが必死に対応していた。
今日戦う相手も当然、大量の練習申し込みの中から選ばれた強豪校である。
「よっしゃー!久しぶりに登板!!」
「パワプロセンパイおめでとー!……でも公式戦の登板は俺が貰うっスよ!」
「はっはっは!そういう事は球速が150kmを超えてから言うんだな!」
「ノーコンのクセにぃ!」
『……あはは!!』
割と久しぶりに先発させて貰えたパワプロくんは、完全に浮かれ切っていた。
投手が充実してきてノーコンを出す必要が無くなってきたのは一応把握している為、まだ試合に出場させて貰える事が嬉しかったのである。
……ノーコンがレギュラー争いの敗因になるかもしれないと分かっていても、改めようとしない所がパワプロくんクオリティだ。
浦島学院の生徒達は、バスの中で薬師高校を評していた。
「薬師って……何であれだけ活躍出来てるんだ?公式戦見ただけだけど、あからさまに緩すぎる……」
林堂監督の思想と完全に一致している主砲は、なんで雰囲気ユルユルな薬師が無双してるか全くわからずイライラしている。
ハードな練習が、強靭な肉体を作ると信じているのだ。
スポ根物の野球漫画みたいな練習がしたいと思っている彼は、絶対に薬師みたいなチームに進学してはならない選手だった。
もし進学していたら、奥村より空気を乱していただろう。
「それに……伊川が堂々とセカンドに立ってやがるのが腹立つわ!あのクソリードは忘れてねーぞ!!」
伊川アンチの森川が、後輩に飲み終わったペットボトルをぶつけながらイラついていた。
皆が羨む身体能力をしているのに、あんなゴミリードで甲子園まで行った彼が許せないらしい。
伊川は超常現象みたいな打撃力のせいで相手の考え方が分らなかっただけで、別にサボりまくっていた訳でも無いのだが……そんな事を浦島学院の生徒が知っている筈が無かった。
まぁそれを知らないにしても、今の彼は最強の安打製造機セカンドとして活躍しているのだから許して上げて欲しい所だが。
『おなしゃース!!!』
『よろしくお願いします!!』
バスから降りた後、爆音で挨拶した浦島学院。
荒々しい挨拶のだけで、若干治安が悪い事が分かる。薬師野球部は敬語を使っているから尚更。
ちなみに彼らは夏8回・春5回甲子園出場という県内屈指の強豪校で、マンモス校らしく部員数は100名を超える規模だ。
朝練開始が5時半と早く、軍隊みたいな練習をするくせに寝るのが午後11時な、割と最悪な学校である。
監督が、根性があれば何でも出来るという思想だからだ。
ちなみに、今回は埼玉県大会を準優勝している。
「あの薬師さんと戦えて嬉しっス、今日はよろしくお願いしゃす!」
「浦島学院も熱心な野球部って言ってました!それに、真田前キャプテンみたいなピッチャーもいるとかって聞いて楽しみにしてたっス!よろしくお願いします!!」
「……ああ!」
キャプテンの櫻庭と三島が、にこやかに握手した。
浦島学院の櫻庭は内心、お前らは熱心な高校球児じゃねえだろと反論していたが、薬師野球部の三島は本心から言っている。
練習中に怪我した右膝が壊死寸前になるも驚異の回復力で夏大会前に復帰したエースがいると聞いた時、まるで2回の怪我から華麗に復帰してドラ1で指名された真田キャプテンみたいだと三島は思ったからだ。
実際の所、前キャプテンの怪我は浦島学院エース青野より大分浅かったのだが、その辺は気にしていなかった。
超えるべき壁とはいえ、尊敬するエースの離脱に動揺して大きな怪我だと錯覚していたのも大きい。
「浦島学院って今まで戦った事無いチームだよな……エースがそんなに凄いんだ!」
「確か平均140キロ前後というストレートを軸に、スライダーとフォークを使う人だから……確かに速球派だな」
「じゃあフォークをカーブに変えたら、ほぼ友部だな!」
「言われてみれば似てるな……」
(えっ、俺の事を甲子園クラスのピッチャーだって思ってくれてるんですか?!)
大エース北瀬と打率10割の伊川が会話しているのを聞いた友部は、柄にもなく感激していた。
飄々とした選手だろうと、メジャークラスの先輩に褒められるのは嬉しかったらしい。
「おっ、ヤクルスワローズのスカウトさんじゃないですか……誰を見にきたんです?」
「そりゃあの薬師ですから全員を見ますけど……阪真さんは誰を観に来てるのか教えてくださったら言いますよ?」
「……あくまで俺個人はですが、パワプロを観に来てますよ。なんせ最速150kmオーバーとも言われる豪速球に、えげつないノーコン。上位指名がアリかは気になりますからね」
「もう来年のドラフト構成について考えてらっしゃるんですね……私は轟を観に来てますよ」
「ああ、あの長打力は確かに欲しいですね。それに今のDHの選手は怪我で怪しいし……即戦力になりそうな彼は気になりますよね」
今日の練習試合の噂を聞いて集まってきたスカウト達。
割と仲が良いらしいヤクルスワローズのスカウトと阪真のスカウトは、牽制しあいながら情報交換をしていた。
「ちなみに……勝手に聞いていた皆さんも答えてくれますよね?」
「……薬師3年生なら、2位指名出来れば誰でも欲しいとしか言いようがありませんね」
「そりゃ確かに、地元怪物枠を捨てる訳にはいかないでしょうからねぇ」
北海道ツナのスカウトは、あっさり白旗を上げた。
どうせ本郷正宗を指名するとバレているので、言ってもダメージが少ないのである。
「で、それは当然として、2年生か1年生で注目している選手はいないんですか?」
「……まぁそりゃ、綾瀬川以外にいないでしょう。メジャー行きそうな感じもしますが……」
「無難な所を突きましたな」
当たり前の事しか言っていないとはいえ、2人分バラしたから許された北海道ツナのスカウト。
彼は年若い割には機転の利く人物だった。まぁどうせ、彼に指名権は無いから気にされていなかった面もあるが。
「西部さんはどうです?」
「秋葉選手ですかねぇ……今フィーバーしてる成宮が、絶対に欲しい選手だと力説してましたし」
「確かに守備もそこそこで打撃が異常な、良い選手ですし……でも正直、競合するんじゃないですか?」
「何球団かはするかもしれませんが、成宮程はいかないでしょう。なんせ超豊作年、秋葉・轟・本郷・三島・影山・降谷・日向にバラけるでしょうから……」
「まぁ、確かにそうでしょうね」
結局4人で話し合い始めたスカウト達。
試合が始まるまでに、暇つぶしがてら話しても問題ない事を言い始めた。
「いやぁ……まだ1か月ちょいとはいえ、成宮の防御率1.06には度肝を抜かれましたよ。流石史上初の10球団複数指名……少なくとも新人王は彼に決定でしょうね」
「本当に羨ましい……」
「とか言いつつ、ヤクルスワローズも真田をかっさらって行ったじゃないっすか。どうなんです?彼は……」
「今の所、怪我の後遺症を無くす為に休養ですね
本人の申告通り大体治ってたんですけど、やっぱり蓄積した疲労は消しきれていませんでしたよ」
薬師高校の前キャプテン、真田は無理やり休息を取らされていた。
本人はちゃんと、昔怪我をしていたとドラフト前に報告していたから問題にはならなかったが、入団早々で1年登板禁止を宣告されていたらしい。
真剣に野球を始めてからずっと練習を続けていた彼は割と嫌がっているが、上の命令には今の所逆らわず真面目に休息を取っている。
「あー、1位指名にも拘らずオープン戦に出さなかったのはやっぱりソレですか……で、能力はどうなんです?」
「ソレ聞くなら、1位指名選手について全員ある程度話して貰いますよ?……マジでイイッスね、打撃も投球も
3年後にはスタメン入りしてそうですよ。まぁ打撃で行くか投球で行くか、まだ決まってないみたいですが」
史上最多のハズレ1位という称号を手に入れた彼は、入団して半年経った今でも決めきれていなかった。
……というか、真田本人は打撃も投球も自信が無いから決められないのだ。
どっちを選んでも天才達と戦わなければならない茨の道だと、野球人生に対して今更躊躇している。
「後輩達や監督の熱気に感化されて2番手ピッチャーやってたら、こんな所まで来てしまいましたね……
正直、俺なんか指名されると思ってなかったッスよ!育成指名なら大学行きを公言してたし、何ならもう入学金払ってたのに!
そりゃプロ行きを選んだのは俺だけど、初年度からコレはかなり凹みますよ……今までの野球人生で、2軍にいた事無かったんですよね……まぁ2軍とかあったのは、そもそも高校3年生の時だけですけど」
大体こんな感じの話を聞いた先輩達や、御幸にカルロスは呆れていた。
お前そんな生半可な覚悟でここまで来たの……というか来れちゃったの?!という反応である。
というか、ドラフト1位が何で入学金を払ってるんだよ……とも困惑されていた。
ちなみに理由は、野球に詳しくない真田父が彼に大学に行けと言ったからである。
父親はドラフト後、息子に1億5000万が支払われたと聞いて卒倒していた。
全く、息子にそんな才能があると思っていなかったのだ。
仕事が忙しかったので、真田父は「俊平は絶対的エースがいる薬師高校の2番手投手として、甲子園に行って優勝した」としか聞いていなかったという。
社内にも高校野球ファンがいなかったので、詳しい事情は一切伝わっていなかった。
ついでに彼は、妻が強豪校のスカウトをしている事も全く知らない。
なんか縁あってバイトをし始めたとしか聞いていないので、職場を紹介されたら失神しかけると思われる。
スカウトのお話し合いなど知らない選手達の、薬師高校対浦島学院1回表、薬師高校の先発はパワプロ。
彼は今回調子が良かった様で、ボール球を出さずに三者三振にした。
「良いぞパワプローっ!」
「普段からそれやれよー!」
ベンチメンバーから喜ばれつつも、普段からやってくれねぇかなと思われている。
別にパワプロくんは弱いバッターでも無いのだが、守備は全部ピッチャーの責任という気風のある薬師では物足りないのだ。
そもそも常時魔物が発動している野手陣のせいで、パワプロくんが1人で勝てる速さに固執する様になったのかもしれないのだが……
1回裏、薬師高校の攻撃は1番秋葉。
___バシッ
___ブォン
「ストライク!」
___バシッ
「ボール!」
___カキン!
「セーフ!」
3球目で彼はフォークを掬い、センター前ヒット。
ベンチはいつもの喧しい事を言いながら、一応祝福している様に見えなくもない対応をしていた。
ヒットを打った味方打者への声かけには一切見えないが、これが薬師流だから仕方ない。
ノーアウトランナー無しで、打席には伊川。
捕手が妙に外に構えているのを見て、彼は確信した。
___バシ
「ボール!」
___バシッ
「ボール!」
そう、あからさまな敬遠である。
当然伊川は最初から気付いていたが、別に無理に打ちに行く必要も無いので普通に構え続けていた。
相手ピッチャーは、(ここで油断してくれたらストライク狙いに行けたのに)と内心思っていたらしい。
残念ながら、伊川がどれだけ油断していた所でこのピッチャー程度がアウトを取れる筈もないのだが。
3球目、浦島学院のピッチャーが投げようとした瞬間、伊川はまた確信した。
(このボール……外に外れ過ぎる!!)
___バシ
___ブォン!
「ストライク!」
「ランナースタート!」
キャッチャーの構えた所がより大分外れた所に投げた為、秋葉がこの隙に盗塁するなと確信。
だから、ワザと空振りしてキャッチャーの妨害をした。
「セーフ!」
体勢が悪くなった浦島学院のキャッチャー森山は、悪送球を恐れ投げられず2塁を許した。
地味だがしっかり、味方へのサポートを熟している伊川。
守備でもチームメイトを支えている彼は、案外秘書などをやらせても活躍するのかもしれない。
(はぁ……こういう駆け引きをするのは苦手なんだけどな。難しい選択をさせないでくれよ……)
本人の認識では、味方のサポートは苦手らしい。
そもそも彼は能力が高すぎて、基本的に自分だけで動いた方が上手くいく事が多い人間である。
それでも友人のサポートをする事自体は嫌いでも無いあたりが、伊川の精神的な本質を表している。
無失点に抑えたパワプロくんが続投し、5回表ツーアウトの場面。ここで点をやらなければ、参考試合とはいえ埼玉県屈指の強豪校相手に薬師野手陣込みで零封という快挙になる。
「パワプロー!行けーっ!!」
「パワプロもやっぱりスゲェ!!綾瀬川がいるのに、次期エース候補って言われ続ける訳だ!!」
公式戦でも無いのに集まってる観客達も、この試合を見て喜んでいた。
9割以上が最強の薬師を観に来ている為、活躍を喜んでいるのである。
まぁ、投壊薬師守備が見たい人も一部存在しているが。
___カキーン!
油断したのか2球目が外に甘く直球が入り、流し打ちを喰らい打球はフェンスに直撃という所。
「あ゙っ!コレはランニングホームランか?!」
「何とかしてくれぇーっ!」
レフトあたりに飛んでいく球を見た誰もが、長打になると確信していた。
___だがここで、赤髪の漢桜木が魅せた。
彼は打者が打った瞬間、既に打球の来る場所に向かって本能で走っていく。
走って走って走って、背中がフェンスに向けられたところでジャンプした!
___バシッ
「あ……アウトォ!」
『わあぁ!』
これで試合終了。1軍当落線にあるとすら言われているパワプロは遺憾なく実力を見せ付け、同時に桜木花道の守備力を全国に見せつける格好となった。
「パワプロ先輩も、思ったより凄い!」
「普通のリリーフみたいなイメージだったけど……上位指名クラスじゃね?!」
2軍の1年生達は、想定しているよりも遥かに凄かったパワプロの評価を完全に見直していた。
浦島学園相手に5回で24点も取れる薬師打線にしょっちゅう挑んでいた為、ボコボコに痛打されているイメージしか無かったのである。
……薬師打線を相手にするには、まだまだ足りないパワプロくんだった。
彼は最強打線と高校在籍中に戦う事はないからそんなに問題は無いが、主力メンバーが抜けた後は打撃能力が大幅に下がるのであまり失点しないで欲しい所である。