【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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練習試合が終わり、半日休暇になった日。

3年生5人組は何となく図書室に集まり、雑談し始めた。

 

 

「ああ……卒業したくないなぁ……」

「後3ヶ月ちょいで引退なんて、考えたくもない」

 

人生の中で最高の時間を過ごしている北瀬と伊川。

いくら大金が貰えると謂われようが、知らないチームに行くよりずっと薬師野球部にいたいらしい。

 

 

「ガハハハ!そんな事を言っている暇は無いぞ!!

俺達は再来年のWBCに出て、大活躍するんだからな!」

「カハハハ……!皆で出たい!!」

「えっ、皆で出られる大会あるんだ!出たいな!!」

 

高卒1年目で、世界一の国を決める大会に出場するのは難易度が高過ぎると思うのだが……雷市と北瀬は気付いていなかった。

まぁ北瀬と伊川なら出られるかもしれないが、流石に2年後に3年生組全員でWBCに出ようというのは無理があるだろう。

 

 

「いや無理だろ……でも北瀬と伊川なら行けるか?」

「世界一の野球大国を決める大会だよな……いつか、皆で出られたら最高だろうな!」

 

再来年後は厳しいが、6年後や10年後なら行けるかもしれないと思った伊川。

また皆と戦えるかもしれないから楽しみにだなと思って、無意識に笑っていた。

 

そして伊川は、今まで温めていた案を話しだした。

 

 

「後さ……俺達って修学旅行行けなかったし、本契約終わったら数日間旅行に行かないか?契約金あるから行けるだろ」

「良いかもな!」

「ガハハハ!俺はバットを持っていきたいな!」

「カハハハ、俺も……」

「じゃあ宅急便でホテルに送って、公園か何かで振れば良いんじゃね?俺はキャッチャーミットも持ってって、北瀬とキャッチングしよっかなー」

「そこまでしなくても……バットだけで良いよ」

 

旅行に1度も行ったことが無いにも拘らず、色々調べている伊川。この5人で旅行に行きたくて仕方がないのだ。

 

 

「俺的には……無難に京都とか良いんじゃね?隣が大阪だからUSGあるし」

「行けたら凄く楽しそうだな!!」

「カハハハ……楽しみ!!」

 

こうして薬師5人衆は、引退したら一緒に旅行に行こうと約束した。

……だが、実際に行ける余裕があるのかは不明である。

 

 

 

 

 

 

5月に入り、関東大会の季節がやって来た。

この大会はシード権などが掛かっていないのでさほど重用ではないが、今回のベンチ入りメンバーには大きな注目が集まっていた。

薬師野球部がどういった選手を起用していくのかが、この采配で分かるからである。

 

 

「3年組は全員ベンチ入りするとして……伊川は誰が入って来ると思う?」

「分かんねぇけど……俺が気になるのは、守備重視で行くのか打撃重視で行くのかだな」

「普通に考えたら、俺達だし打撃重視じゃね……?」

 

一応、薬師が打撃重視の学校な自覚はあるらしい北瀬。

ちなみに彼らは打撃重視というより打撃偏中なのだが、そこまでは気付いていない。

野球の常識を薬師野球部で学んでいる為、変な偏りが産まれているのだ。

 

 

「でもさぁ……北瀬と綾瀬川がいるなら、正直守備面を強化した方が勝率高くないか?

俺達の中では貧打だろうと、他のチームで考えたら十分打てる奴も多いし……」

「そうかな?そうかも……」

 

野球知識がある程度身に付いた伊川は、かなり今更な所を北瀬に指摘した。

北瀬と綾瀬川が無失点で切り抜けられる様に、ある程度は守備が出来る奴で固めて1点取れば良いのではという話である。

 

大エース北瀬はそれを聞き、チームの方針とズレているから生理的に拒否反応が出たが否定は出来なかったらしい。

実際北瀬は、野手陣が優秀だったU-18で1度も失点していないからだ。

 

 

「その場合……三島は太平か花坂に変えられるかもな」

「え゙っ!……それは何か、違うだろ」

 

太平や花坂の事も好きとはいえ、3年間一緒にやって来た三島とプレーしたい北瀬は咄嗟に否定した。

それに彼は、三島の打撃力は強力だから太平ではまだ太刀打ち出来ないと思っているのである。

 

 

「そりゃ俺も、実力から言えば三島だと思うけど……チームバランスって物があるから……

ファーストもサードもガラ空きなのは、けっこう不味いし……万が一の覚悟はしておいた方が良いかもな」

「…………」

 

仲の良い部員を過大評価する伊川は、今回は何故か冷静に考えていた。

両方と仲が良いからこそ、どちらかを過小評価したりせず一歩引いた立場で考えられたのだ。

 

 

 

 

 

 

練習が終わり、静まり返った薬師寮。

監督室で、轟雷蔵と片岡鉄心は編成について深く話し合っていた。

 

 

「まず、ベンチ入りメンバーですが……

北瀬・由井・三島・伊川・轟・瀬戸・火神・秋葉・結城・綾瀬川・黄瀬・奥村・真田・花坂・疾風の15名は確定っすよね」

「そうですね。今回のベンチ入りメンバーについては、残りの5名を決める事になるだろうと私も思っていました」

 

お互いの想定を確認しあった監督達。

次は、個人的に誰を推薦するかの話になってくる。

 

 

「俺は、パワプロ・三井・緑野・桜木・流川の5人かなーと思ってます」

「……私は友部・笠松・桜木・流川・國神の5人を想定しています」

「えっ?ちなみに何でその選出なんですか?」

 

轟監督は普通に、今実力がある選手を選んでいる。

対してまだまだ実力が未熟な選手を選んだ片岡コーチに対して、轟監督は不思議に思った。

三井や緑野の方が、明らかに國神より強いからだ。

 

 

「パワードではなく友部を選んだ理由はコントロールです

……対戦相手に毎回死球を与える様な選手を、マウンドに上げ続ける訳にはいかない」

「それはまぁ……」

 

パワプロくんの壊滅的なコントロールを十分知っている監督は、項垂れた。

球速は現時点でプロ注目、打撃力も悪くない彼の最大の欠点は、人に危害を与えかねない死球グセなのだ。

 

 

「笠松と國神を選出した理由は、次世代の育成です

1年生で1番有望な捕手と、有望なバッターを入れておきたいと考えました

轟監督はどういった理由で、選手を選びましたか?」

「……俺は普通に、実力ある選手を選びましたね

豪速球のパワプロに守備の三井、打撃の緑野に総合力の高い桜木と流川って感じっすよ。外野に偏ってるのがアレですけど」

 

本当にただ、実力だけ考えて入れていった轟監督。

確かに部員達は納得しやすい選び方だと思うが、学年もポジションもこんなに偏っていて良いのだろうか……?

まぁスタメン内野陣の雷市より、桜木や流川にやらせた方が上手くやりそうだから細かい事は関係ないのかもしれないが。

 

 

「うーん、やっぱり片岡コーチの案の方が上手く行きそうな気もしますね。でもパワプロはプロに行ける才能を持ってるし、出来れば入れてやりたい様な気も……」

「総合的な実力だけで言えば友部よりパワードの方が確かにありますし、難しい人選ですね」

 

ギリギリまで悩み続けた轟監督と片岡コーチは、結果的にお互いの選出を混ぜたような選び方になった。

 

北瀬・由井・三島・伊川・轟・瀬戸・火神・秋葉・結城・綾瀬川・黄瀬・奥村・真田・花坂・疾風の15人。

そしてパワプロ・友部・桜木・流川・笠松の5人である。

 

投手の枯渇を恐れた事や状況によって使い分けられる利点、そしてパワプロと友部のどちらを選べば良いのか決められなかった事でこうなったのだ。

ベンチ入りを賭けて戦っていたパワプロと友部は、元々の性格の合わなさもあり若干仲が悪くなっていたのだが、今回2人共選出された事で関係が修復されたとか。

 

 

 

 

 

 

ベンチ入りメンバーを決めた後、まだまだ話し合う事が沢山あった。

それは、スターティングメンバーをどうやって決めるかという問題である。

 

今は、外野は火神・秋葉・結城・北瀬の4人で

内野は雷市・瀬戸・伊川・三島

投手は北瀬・綾瀬川の2大エースで

捕手は由井・奥村の2人で回している。

 

だが、例えば……

外野を火神・秋葉・雷市の3人で回して北瀬を温存

内野は花坂・瀬戸・伊川・太平にすれば、内野なら飛ばしても問題ない、今よりもずっと固い守備に出来るのだ。

 

スタメンを変えようと、薬師野球部の打撃力が異常に高い事に変わりはない。

どんな采配にしようと甲子園優勝を狙える事は間違いない事が、逆に監督やコーチを悩ませていた。

 

誰を選ぼうと勝てる可能性が高いなら、好みで選手を選ぶ事になるからである。

 

 

「やっぱし俺は、今まで通り打撃偏中で選んだ方が良いと思いますよ。打撃力ばかり育てて来たせいで、打撃一本でプロに行けそうな奴が何人もいますから」

 

轟監督は今までの経験から、打撃力のある選手を多く出す事を考えていた。

だが片岡コーチは次世代の育成も兼ね、守備も重視していこうと話した。

 

 

「……私が1番勝てる采配を考えた場合、

北瀬や綾瀬川が投げる時は、ファーストに太平、セカンドに伊川、ショートは瀬戸、サードは花坂で、レフトに雷市、センターに秋葉で、ライトは桜木か北瀬

 

……つまり、内野にだけは飛ばせて良い采配にします。彼らなら上手く調整して、効率良く球数を減らしてくれるでしょう

 

パワプロ・友部・黄瀬が投げる時は今までと同じ采配にします。大量得点大量失点になりますが、仕方ないと割り切ります

これなら次世代の選手を育成しつつ、今活躍している選手も出場出来るでしょう

 

それ上、疲れが残る選手も減ると思います」

 

片岡コーチの、攻撃型と守備型の2チームを作るという大胆な案に驚いた轟監督。

普通のチームは、投げるピッチャーに合わせて野手陣を変えたりしないからだ。

 

……だが薬師は、異常に打撃力が高い選手が多いチーム。

状況に応じて使い分けするのもアリかもしれないと、轟監督は思案し始める。

 

 

「確かにそれもアリですね……ただチーム編成がコロコロと変わるのは連携面でのリスクも大きいと思いますが……」

「連携面のリスクは、練習を重ねる事である程度低減出来ると思います。但し北瀬や綾瀬川が大崩れした場合、打撃力が足りない事で負ける可能性もあるでしょうね」

「うーーん。どっちを選んでも強いせいで、逆にどっちを選べば良いか考えるのがむずいっすね」

 

冷静に話し合いを進めていく2人。

だが轟監督は、内心罪悪感を感じていた。

 

(俺は今、薬師野球部の事を第一に考えられているだろうか……三島が下げられると得点力が下がるなんて言い訳で、本当は教え子に試合に出てほしいだけなんじゃないか……?)

 

監督本人に自信が無いまま、話し合いは進んでいく。

片岡コーチは、轟監督が息子を贔屓しようとしている可能性など全く考えていなかった。

片岡鉄心は、性善説の塊の様な人間である。

 

 

「……そうっすね、確かに北瀬と綾瀬川が投げる時は、スタミナ温存させた方が合理的っすね」

 

轟監督も、2大エースが投げる場合は数点取って逃げ切りの方が効率が良いと認めた。

投げる数が減った分だけ、彼らを登板させられる機会が増えるからである。

多少連携面で問題が出ようと、守備特化選手達なら個人能力で対応してくれるだろうと判断もしていた。

 

 

「___では北瀬と綾瀬川が投げる時は守備優先、黄瀬と友部とパワードが投げる時は攻撃優先の布陣に決まりですね」

「ええ……なるべく多くの選手を甲子園に出してやりたいですし」

 

こうして薬師野球部の編成方針は少しだけ代わり、守備特化選手への需要も多く生まれるようになった。打撃が苦手な選手達には朗報だろう。

まぁ薬師野球部は、北瀬と伊川のパワプロ能力によって打撃効率が異常に上がっている為、苦手とする選手はあまりいないのだが……

 

 

 

 

 

 

関東大会まで2週間を切り、ベンチ入りメンバーと采配方針が発表された直後、珍しく綾瀬川と黄瀬が話していた。

彼らは共に1年生投手でベンチ入りしている為、仲が良くてもおかしくないのだが……あまり性格が合わない様だ。

黄瀬の弱者をあからさまに見下す悪癖を、綾瀬川の方が苦手に思っているからである。

 

 

「……にしても、俺だって練習試合でほとんど点取られてないんだから、守備重視にしてくれても良いと思うんスけどねー」

「涼太はリリーフだから、そういう判断は出来なかったんじゃないかなぁ」

「冗談だって!俺が投げてる時にちょっとしか取れなくて、リリーフが炎上して打線がちょっと湿ってて負けるとか、まーありそうな話じゃないっすか!」

 

(まぁセンパイ達に限って、大事な場面で打てないとか有り得ないッスけどねー!大人はリスクばっかり考えるから仕方ないっス!)

 

リリーフ陣は、自分が打撃重視の布陣で投げる事に対して割と納得していた。

だって北瀬先輩も綾瀬川も、自分とは投球の次元が違い過ぎるのだ。

 

そりゃ方針だって変わるだろ……寧ろ作戦を聞いた後だと、変えなかった場合の方が指揮官としておかしいとまで思っていた。

納得出来ていなかったのは、偶にスタメンから外される事になった三島だけである。

 

 

「俺はこのチームが負けるなんて、思えないけど……

リスク管理は大事だもんね!」

「そっすよね!」

『……』

 

話す事がなくなって、黙り込んだ2人。

黄瀬は話す事を考えた結果、そういえば本人には宣言してなかったなと思い、決意を話し始めた。

 

 

「そういや、北瀬センパイ達って夏で引退じゃないッスか……そしたら俺と綾瀬川っちで、エースナンバーを賭けて戦う事になるっすね!!

今は綾瀬川っちの方が格上だと思うけど、俺だって負けるつもりねぇっすよ!」

「うん、そうだね……」

 

若干上の空で返事をした綾瀬川を見て、ぷくっと頰を膨らませて黄瀬は抗議した。

 

 

「何?俺程度じゃライバルされないって事っすか?!」

「違う!そうじゃなくて……北瀬さんに、あの人に……勝ちたいなって……」

「えっ?……170kmに勝つのは無理っすよ!」

 

黄瀬は端から、日本の北極星と呼ばれる大エースに勝てると考えていなかった。

寧ろ、俺が絶対に勝てない北瀬センパイという存在が好きなのだ。割と彼は、人をラベリングするし理想を押し付ける所がある。

 

 

「そうかな……?俺は北瀬さんが出て来るまで、世界一の才能があるって言われてたんだけど……

___1人で頂点に立つのは寂しかった。だから今度は、俺が北瀬さんに挑戦する番だと思うんだ」

「…………」

 

綾瀬川の様に世界で活躍した訳ではないが、彼にも思い当たる所があった。

 

……誰も俺に勝てない。俺がいるとスポーツが、勝負にならないから詰まらないんだ。

だから俺は、一生孤独なのかもしれないと思ってた。けど薬師高校には沢山の天才達がいて、1人じゃなくなった。

 

だけど……北瀬センパイに立ち向かえる投手は、今の所1人もいない。

打者として対等に戦える人は割といるけど、役割が違うんじゃセンパイは挑む事を楽しめないままなのかも。

 

それは、嫌だな。

 

 

黄瀬は勝手に、昔の自分みたいで可哀想だと思っていたが……実際の所、北瀬はそこまで気にしていなかった。

確かに彼も対等なライバルがいた方が楽しめる人種だが、そもそも彼はスポーツに強い執着を抱いていないのだ。

 

彼にとっての野球はまだ、凄く楽しい部活でしかない。

 

 

「……なんてね!別に北瀬さんは、試合に沢山勝てて嬉しいとしか思ってないかも

でも……それでも俺は、北瀬さんに勝ってみたい!だって、初めて出会った、同じポジションのライバルだから

あ、涼太の事を弱いって思ってる訳じゃないよ?」

 

優し過ぎて人を蹴落とせない綾瀬川だが、闘争心がない訳ではない。

格下を薙ぎ倒す事に、罪悪感を覚えてしまうだけである。

 

だから、本気で戦っても中々勝てないだろう北瀬先輩に対しては、闘争心が掻き立てられていた。

いつか彼と対等に戦える日を、楽しみにしているのだ。

 

 

 

 

 

 

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