【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
16年前、俺は青道高校に入学した頃……どうしようもない悪ガキだった。
上級生に敬意を払えず、同級生は見下し、チームの全員の勝利など考えもしない。
自分だけが投げれれば良いとすら思っていたのだ。
「ったく……この悪タレ小僧が」
「___いいか鉄心、確かにエースに1番必要なのは実力だが……青道高校の歴史を背負う覚悟はあるのか?」
「チーム全員が、信頼して己の野球人生を託せる。そんなエースにお前がなるんだ」
そんな俺を榊監督は導いてくれた。
総勢100名を超える、野球に全てを掛けた男達の運命を背負うエースになるという事を、恩師が教えてくれた。
だから俺は、チームを背負う覚悟を決めた、青道高校のエースになれた。
だから俺は、いつしかチームメイト達にも信頼される、青道高校のエースになれた。
そして3年生の頃、全員の力で春のセンバツベスト8まで進み、小さい頃に思い描いた栄光を手にする事が出来た。
最後まで優勝する事は出来なかったが……友人達と共に全力て戦い抜いた事は、皆にとっても最高の思い出になったと思う。
引退間際になると、プロからのスカウトも多く来ていた。
確かに自分の力を新たな舞台で試してみたいとは思った。
だが俺は、最高の時間をくれた青道高校で榊監督と共に、後輩達を教え導きたいとも思っていた。
プロに1度なってしまうと、高校野球の監督に就任する事は出来ない。
どちらの夢を追うか、俺は決めきれないでいた。
___バタッ
『榊監督?!』
俺がギリギリまで進路を迷いながら引退試合を決行している最中、恩師の榊監督が急に崩れ落ちた。
「監督は……監督は大丈夫なんですか?!」
「榊監督は治るんですよね?!俺達とまた、野球が出来るんですよね?!」
「監督は、命に別状はないようだ。だが……監督復帰は難しいだろう」
「そんな……」
どうやら気付かぬ内に監督の持病が進行していたらしく、監督続投は難しいと判断せざるを得なかったらしい。
これから先も、榊監督が青道高校を導いていくと信じていた俺にとって、衝撃的な出来事だった。
「とりあえず、コーチのワシが緊急で指揮を執るが……今までの青道高校の伝統では卒業生が監督になっているからな。これから先、どうして行くべきか……」
コーチの言葉を聞いて、俺は決心した。
「なら___俺が5年後、青道高校の監督になります」
「は??……いやいやいや、お前はプロからのスカウトが沢山来てるんだぞ?!片岡が不利益を被る必要なんて無いんだ!!」
「不利益なんかではありません。元々俺は、青道高校のコーチになりたいと思ってたんです
最高の時間をくれた、このチームで生きていきたいと」
「そうか……正直ワシも、そろそろ引退しようと思ってたから有り難い話ではあるが……気が変わったらいつでも言え。プロを排出する事も青道にとって重要なんだからな」
「はい」
こうして俺は、プロではなく青道高校の志す事にした。
大学でも野球を続けながら教員免許を取り、念願の監督業に携わる事に成功。
選手達を導ける様、俺なりに努力を続けていた。
だが俺には___大切な生徒達に野球を教える実力が何年経っても身に付かなかった。
「もう監督が就任してから、7年も甲子園に行けてないすよねぇ……困るんですよ、学校側も大金掛けて野球部を維持してるんですから」
「申し訳ありません。全て私の不徳のいたすところです」
俺にとって1番大切な、青道高校野球部を自分で穢している事が腹立たしかった。
そして何より、努力し続けている選手達に結果を出させてやれない事が申し訳なかった。
「……今年中に結果を出せなかったら、悪いんですけど監督交代して貰いますよ?
私達だって、片岡さんが十分努力している事は分かっているのですがね。こういうのは結果が全てですから……」
「___分かりました、ご迷惑を掛けてしまい申し訳ありません。生徒達の実力を十分に発揮させられる様、精進します」
俺の受け持つ生徒達は、素晴らしい選手ばかりだ。
それでも青道高校が甲子園に出場する事が出来ないのは、俺が選手を導く事が出来ないから。
……特に俺には、投手育成の実力が足りないのだろう。
今まで教えて来た、何人もの優秀なエース候補達の弱点を克服させられず、故障する者も出してしまい、退部してしまう者までいた。
そんな俺に対して、新たな監督として呼ばれた落合コーチの指導力は素晴らしかった。
___パシ
「ちぇ、チェンジアップ?!」
___バシ!
「高速チェンジアップまで?!」
「リードする側がどう扱うかによりますが、あのキャプテンなら上手く扱えそうですよね」
「落合さんが教えたんですか?」
「本人が変化球を求めていたので、軽くアドバイスしただけです。所詮、一夜漬けの付け焼き刃ですが……」
彼はたった一夜で沢村に変化球をいくつも教え、降谷に縦スライダーまで取得させた。
……俺は、彼らの持つ素質に気付いてすらいなかった。
最後の夏、9回裏ツーアウトランナー無し。青道高校は7回でリリーフ沢村に託していた。
この回はしっかり締め、勝負は次の回で決まるかと思われたが……高校野球は最後まで、何が起こるか分からない。
___カッキーン!!
『試合終了ーーっっ!!9回裏、最後は都のプリンスが、自らのバットで勝負を決めました!!
秋季大会、稲城実業が決勝戦に進出!夏の屈辱を晴らすべく、西東京の名門が戦います!
決勝戦は11月7日、12時から。熱中症などにお気をつけてご覧ください』
成宮鳴は強打者とはいえ、怪我明けで不調の筈だった。
確かにピッチングは完全に元の水準まで戻っていたが、打順は下位に置かれ、調子を取り戻せていない筈だった。
それでも……
チームを背負う大エースの意地に、青道高校は負けた。
「ボス……ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
「片岡監督……俺達にはまだ、教えて貰いたい事が沢山……!!」
「監督が辞めるなんて、嫌です!教頭だって、きっと皆で話せば分かってくれる筈……!!」
多くの生徒達が引き止めようとしてくれたが、俺の意思は固まっていた。
「今まで青道高校が甲子園に出場出来なかったのは、全て俺の責任だ。今回も、お前達を導いてやる事が出来なかったのだから……
これからは落合監督と共に、青道高校を甲子園に導いて欲しい___ずっと見ているからな」
『…………』
こうして俺は野球から一線を引き、青道高校の教師として生徒達を見守っていく筈だった。
「あー、片岡さん。8年間の監督業務、お疲れ様でした
教師としてチームを見てくれると話していましたが……実は薬師高校の理事長が、コーチを募集してるらしいんですよね
片岡さんの話をしたらぜひとも紹介してくれって言われたんで、そっちに行ったらどうです?」
思いも寄らない話だった。
全く結果を残せていない同地区で戦っていた俺に、まさか薬師高校からオファーが来るとは思っていなかったのだ。
「___ですが私は、監督を離れても青道野球部を見守りたいと思っています
直接サポートする事は出来なくても、私に出来る事はきっとありますから」
「いやまぁ、片岡さんは野球部以外の生徒達からの信頼も厚いですがね?正直辞任した人がいつまでも学校にいると、政権交代が進まなくて困ると思うんですよ。片岡さんの人望が厚いからこそ……」
その可能性を、俺は考えていなかった。
確かに俺が落合監督の邪魔をするつもりが無くても、生徒達は揺らいでしまうかもしれない。
……でも俺は今まで、青道高校野球部の監督だった。
だから生徒達を裏切る様な、ライバルチームへの移籍なんてして良い筈がない。
確かに結果を出せなかった俺が、薬師高校で野球に携わる事が出来ると言うのは魅力的な話だ。
だからといって、同地区のライバル校に移籍するという不義理な真似をする訳にはいかない。
俺が邪魔になるなら青道高校の教員は辞め、他の学校で教員になるのが正しい選択だろうと、その瞬間は思っていたが……
___ガチャ、バンッ!!
急にドアを勢い良く開けて入室して来た、大切な生徒達。
ぞろぞろと列をなして校長室のソファーに群がり、俺の事を見ていた。
「ボス!薬師高校から誘われているんですか?!」
「良かった……監督はまだ、野球に携われるんですね!」
「行ってください!!俺達は大丈夫です!!」
「お前達、何でここに……?」
突然現れた生徒達に驚いて、思わず本題と関係ない事を聞いた。
沢村は堂々した態度で胸を張って、とんでもない事を言い始めた。
「そりゃ、ボスを辞めさせないでくださいって全員でお願いしに来たんですよ!
……でも良かった、ボスは野球を続けられるんですね!」
「いや、俺は……」
「俺達は大丈夫ですから!行ってください!!」
「監督がいなくても、きっと頑張りますから!!」
「俺……監督の野球を終わらせてしまったら、一生後悔すると思うんです!!」
「……次は戦う事になっちゃいますけど、でも片岡監督と戦うのを楽しみにしてます!!」
どうやら部員達全員で直訴しに来た様で、校長室の外からも賛同する声が聞こえて来ていた。
監督を解任させられてしまったのは、8年も結果を出せなかった俺が悪い。
その事実を無視して、校長室に詰めかけて続投させようなんて考え方は間違っている。
後で叱らなければならないと心の片隅で考えつつも、気付けば俺は涙を流していた。
「お前達、すまない……」
『監督……!!』
「いやもうマジで薬師に行ってくださいよ?!校長室に何十人も詰めかけるなんて前代未聞ですよ?!困りますって!めっちゃ怖い!!」
こうして俺は、薬師野球部のコーチに就任する事にした。
急に新たな生徒達を指導する事になった俺は、まず彼らの練習風景を眺める事にした。
___カキン!
___バシッ
「伊川ぁ!だから投げる所が間違ってるって!!」
「すみません!間違えちゃいました!!」
「ガハハハ!まだまだ未熟だな!」
「北瀬と伊川には、半年間で詰め込んだからなぁ……」
___カキン!
___コロコロ……
「アッ……」
「雷市は一応、昔から野球やってただろ!」
「まー雷市も、部活には参加してませんでしたけどね」
「俺らと同じくらい下手な奴がいて良かったー!」
案内してくださった轟監督が、試合の時と同じ様な若干胡散臭い顔をしながら話し掛けてくださっている。
……いや、これから共に戦っていく事になる監督に対して胡散臭いなどと思ってはいけないな。申し訳ない。
それに監督は弱小校だった薬師高校で、たった2年で青道高校に勝ち甲子園に出場しているのだ。
当然、只者である筈がないだろう。
「どうです?薬師野球部は」
「全員が練習で生き生きした表情をしていて、良い雰囲気だと思います」
「そうでしょ?まー緩すぎるのが弱点ですが、俺達は元弱小校なんでね!あんま締め付けたら人数足りなくなっちゃいますわ!」
「確かに、部員総勢12人でしたね」
今までの野球人生で経験した事もなかった楽しげな空気に、最初は戸惑っていたが……こんなチームもあるのだと納得した。
「マジ才能に恵まれまくった選手が沢山いますからねー
めっちゃ運が良かったんですけど、やっぱやる気ねぇ奴までやらせるのは無理でしたよ」
昔はこれ以上酷かったと聞き、若干顔が引き攣りつつも何とか返事を返した。
今までの野球人生では順当に強いチームに所属していたからか、成り上がったチームの空気感がこの時は掴めていなかったのだ。
「……甲子園を目指すなら、部員達の団結が必須です。轟監督は間違った事をしていないと思います」
「そう言ってくださると助かりますよ、マジで
色々やる事が多くて大変なので、片岡コーチが来てくれて良かったですよ!これから共に頑張って行きましょう!」
「___よろしくお願いします」
「今日からこの学校に赴任してきた、片岡鉄心だ
___よろしく頼む」
『えっ?……えぇっ??』
こうして俺の野球人生は、様々な人に支えられて続いていく結果になった。
……置いてきてしまった選手達の為にも、このチームの選手達を正しく導ける様なコーチになる。
俺は、そう強く決意している。