【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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展開をくださった方、ありがとうございます!


薬師スタメン

1番 火神  レフト
2番 三井  ショート
3番 北瀬  サード
4番 雷市  ライト
5番 奥村  キャッチャー
6番 花坂  ファースト
7番 流川  セカンド
8番 綾瀬川 ピッチャー
9番 疾風  センター


170球目 疾風俊

 

 

 

 

関東大会1回戦の相手は、群馬県大会準優勝の中崎商業。

優勝最有力候補だった白龍高校を3回戦で土俵から引き摺り降ろし、そのまま準優勝したチームである。

 

前年度より白龍高校のバント率が妙に高かった結果、エースの今泉が完封勝ちしたらしい。

どこかの投壊野球部の影響を感じる話であった。

 

彼は高校投手としては速球派といえる141キロの直球をコーナー深くに投げ込む選手だ。

変化球は天久を参考に途中から大きく曲がるスライダーと、成宮からはチェンジアップを取得し、詰まらせる球にSFFとシュートまである。

 

……と言えば聞こえは良いが、メンタルが若干弱いという最大の弱点が目立つ。

薬師高校の秋葉の様に、チームメイトと比べて相対的に悪い訳でもなく、単純に打たれ弱いのだ。

 

 

 

 

 

「おし……じゃー今日も気持ち良く打ち勝とうや!」

『おうっ!』

 

轟監督が簡潔にいつも通りの方針を話すと、ベンチメンバーは当然と言うように頷いた。甲子園春夏連覇校として、勝てて当然だと考えているからである。

威風堂々としたこの場面だけ切り取ると、本当の強豪校の様であった。

いやまあ薬師野球部が超強豪校だと言う事は正しいのだが、雰囲気が緩すぎて普段はそう感じられないのである。

 

 

「いやちょっ、待ってくださいよ……何で俺がサードなんスか?!練習やった事もないんですけど!」

 

何故かサードで出場する事になった北瀬が、困惑しながら力説していた。

投手と外野しかした事がない彼は、サードの守備なんて全く自信が無かったからである。

 

 

「んー、俺の気分……?どーせ元々は雷市が守ってたんだ!飛んできたボール、全部エラーしても良いぜ!」

『えぇ……??』

 

思い付きで練習していないポジションで出場させる事をあっさり暴露した監督を見て、流石に驚いた部員達。

というか、せめて伊川先輩がサードだったら分かるけど……コレは無いでしょと思っていた。

 

ちなみに一応、この迷采配に理由はあった。

どうせ勝てる試合だから、全国の強豪校に欺瞞情報を押し付けてやれと考えたのだ。

その理由よりも、北瀬の内野適性が気になったという理由が多かったらしいが……

 

 

「……まぁ試合を見てるだけよりは、楽しそうだから良いですけど」

「だろ?良かったじゃねーか!」

「こっのクソ親父!テキトーな思い付きで皆を振り回すんじゃねー!!」

「ギャー!痛い痛い!」

『?!』

 

雷市は適当な思い付きで後輩達を振り回す監督に怒り、首元あたりを掴んで振り回し始めた。

今まで、監督に物理的に掴みかかった状況をを見た事がない1・2年生達は大層慌てている。

 

 

「オイ雷市!一応監督に掴みかかるんじゃねーよ、周りビビってるだろ!」

「バーカバーカ!いっつも親父はテキトな事ばっかり!」

「イテテテ!良いだろ別に!どうせ勝てるんだから!」

 

「ど、どうしましょう北瀬さん?!とりあえず止め……」

「いや、試合前に疲れちゃうからほっといて良いよ。俺が1年生の時はよくあったし」

「俺が引き離すか?」

「いや、桜木がやるとマジで痛そうだから放置で……」

 

 

 

 

試合開始の時間になり、ようやく監督と主砲の格闘が終わった。

最上級生5人組は昔はよくあったよなぁとあまり気にしていなかったが、下級生達は試合前に監督達の格闘が終わって良かったと胸を撫で下ろしている。

 

 

1回表、薬師高校の攻撃は1番火神。

お前の一撃で相手の闘志を粉砕して来いと、監督はニヤァと笑っていた。

轟監督の思惑通り今泉−澤田バッテリーは、初回から薬師バッターに気圧されて神経を無駄に消費している。

 

 

(伊川相手だったら、打たれても仕方ないと諦めがつくのに……)

(今泉……強打者相手だ、厳しい所攻めてくぞ!)

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

 

初球インコースに厳しくいったバッテリーだが、それを難なくレフトスタンドギリギリに運ばれ、開幕先頭打者初球本塁打を献上してしまう。

 

 

「よっしゃ!ホームラン!でもギリギリだった……」

 

「良いぞ火神!」

「ガハハハ、初球ホームランとはやるではないか!」

「偉そうだぞーキャプテン」

「火神くん!ナイスホームラン!」

 

薬師ベンチの選手達は火神なら当然だと思いながら、早速一発花火が打ち上がったなと喜んでいる。

 

 

 

 

「ば、ばかな。俺のピッチングは悪くなかった筈……」

 

 

___バシッ

 

「ボール、フォア!」

 

焦っているエース今泉は、2番三井に四球を献上。

 

 

___バシッ

 

「ボール、フォア!」

 

次の3番北瀬にも、1球もストライクを投げられず四球にさせていた。

 

 

「これはまさか……四球で決まる流れか?」

「流石にずっとフォアボール連発は無いと思うけど……」

「OKOK!相手弱ってますよ!」

「流石、先輩方を警戒してますね……!」

「ねっむ、参考書持ってくりゃ良かったな」

 

薬師のベンチメンバーは若干白けつつ、これは勝負あったなと思っていた。

この調子のピッチャー相手なら、ストライクゾーンに投げられた瞬間ホームランが打てる選手が7人もスタメン入りしている。

 

フォアボールなんて要らない。

早くまたストライクゾーンに投げて打たせろと、ホームランに頭を侵された選手達は願っていた。

 

 

 

 

ノーアウトランナー1・2塁で、打席には4番雷市。

珍しくやる気のなさそうな顔をしている。ボールがストライクゾーンに来ないのなら、自分が打席に立つ意味がないからだ。

 

 

「ガハハハ!雷市、フォアボールなんて要らねぇぞ!!」

「いや、ストライクゾーンに来なかったら仕方ないだろ」

「いや雷市のパワーなら、明らかにボールゾーンの球でもホームランに出来る……かも?」

「どうだろ、流石にやってみた事ないしな……」

 

薬師ベンチの上級生達は、無意識に相手投手をめちゃくちゃ見下しながら雑談している。

関東大会に出てきて良いピッチャーじゃないな、何でこんな程度の奴と当たるんだよと内心思っていたのだ。

 

……今泉はけして、弱い投手ではない。

ただ彼の打たれ弱さが、薬師打線を相手取りには致命的だったというだけなのだ。そんな事実は、彼らにとって関係ない事だろうが。

 

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

「カハハハ……来た!ストライク!!」

 

「雷市ー、ナイスホームラン!」

「ガハハハ!打て打て、ドンドン打てーっ!」

 

流石にこれ以上四球を出す訳にはいかないと、ストライクゾーンに置きに行った今泉。

絶好球だったので、当然雷市は思いっ切り芯にぶち当ててホームランにした。

 

 

 

 

ノーアウトランナー無しで4点差が付いている場面、打席に立ったのは5番奥村。

才能はあるんだから偶には上位打線を体験して来いと、轟監督が内心思っていたらしい。

 

(俺の打力は周り程じゃない……だから今がチャンスだ)

 

 

___カキーン!

 

良い所に飛ばした打球を気にせず、ランナーコーチャーの指示で必死に走り抜く奥村。

 

 

「おおーっ!」

「三塁打キターっ!」

「ホームランより珍しくね?」

 

結果、一発で得点圏まで進む事に成功。

彼は自分の打力も少しずつだが上っている事を確信した。

 

 

 

 

ノーアウトランナー3塁で、打席には6番花坂。

 

(よぅし……伊川先輩みたいなヒットを出すぞ!)

 

真面目な彼は、あからさまな勝ち試合でもやる気十分だった。憧れの先輩みたいなスイングがいつか出来るように、今打ってやると思っているのだ。

 

 

___カキン!

 

「セーフ!」

『わあぁ!』

 

クリーンヒットでランナーを返すと、嬉しそうに小さくガッツポーズ。

 

 

「伊川っぽいバッティングだな!」

「ガハハハ!次はホームランを狙うんだぞ!!」

「アイツは安打型だぞ?無理にホームランを進めんな」

「学くん!ナイスヒット!!」

 

この打撃に、概ねの選手が満足していた。

もしこの打撃を伊川がやったらもっと真面目にやれと怒るが、花坂は真剣に打っていると分かっているから応援しているのだ。

 

頭の中にホームランしか無い三島や火神は不満そうだったが、殆どの部員は打ててよかったねと喜んでいた。

 

 

 

 

ノーアウトランナー1塁で、打席には7番流川。

地味に公式戦初出場の選手である。

 

(今んトコ、桜木に出場数で負けて……負けねぇぞ!!)

 

永遠のライバルに内心闘志を燃やしながら、彼は打席に立っている。

 

(チッ、初出場な1年の癖に生意気な顔しやがって……俺だって、中崎商業エースのプライドがあるんだよ!!)

 

流川の表面上クールな顔にイラついた今泉は、ストライクで仕留めてやろうと決意していた。

パワプロで言うなら金特の、挑発する力が感じられる。本人は完全に無意識な様だが。

 

 

___カキーン!

 

「うおぉ初球からフェン直!」

「やっぱ薬師強えぇ!!」

 

結果は花坂を返す、フェンス直撃打。

まずまずな結果に、一応流川は納得している様だ。

 

 

「オイ流川!!ここはホームラン打つ場面だろーが!!」

「うっせー。黙れよ」

 

何やらベンチの桜木と揉めているが、試合前監督に主砲が掴みかかった場面を見ていた部員達は気にならなかった。

完全に何事も無かったかのようにスルーしている。

 

 

 

 

ノーアウトランナー1塁で、打席には8番綾瀬川。

 

(絶対勝ったし相手可哀想だし、俺は打たなくても良いよね……?)

 

 

___バシッ!

___ブン

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

「ガハハハ、運が悪かったな!綾瀬川!」

「次はホームラン打てよー!」

「まだアイツには若干厳しくないか……?」

 

薬師メンバーの中で最上位レベルに非力な綾瀬川に対して、部員達はエールを送っている。

そもそも打つ気が無かった事は、完全にバレていない。

 

(よ、よかった……これでワンアウト)

(流石に薬師打線とはいえ、2番手ピッチャーまで打ってくる事は無かったか……)

 

中崎商業のメンバー達は、ようやくワンアウト取れたと、死んだ目をしながら喜んでいた。

観客満員な中での公開処刑ターンに、メンタルがやられかけているらしい。

 

 

 

 

ワンアウトランナー1塁で、打席には守備職人の疾風。

何回も試合に出ているにも拘らず、1度もホームランを打ったことがない選手である。

 

(俺だってずっと、打とうと努力して来たんだ……強豪校相手にやるなら、今しかない!!)

 

相手ピッチャーが明らかに凹んでいるこの場面で、一発打ち上げてやろうと決心している。

そんな事情はつゆ知らず、相手バッテリーは舐めた事を考えていた。

 

 

(コイツの打率は1割台、打たれる事はねぇ!)

(休憩処だな……漸くツーアウトかよ)

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

「やった……!出来た……!!」

 

「よっしゃ!!見たか!!これが疾風の力!!!」

「まさか卒業前に、疾風のホームランが見れるとは!!」

「カハハハ……!ナイス!!ハヤテ!!」

「あいつも、ずっと頑張ってたからな……!」

 

衝撃の、弾道2ミートEパワーDな疾風のホームランに、薬師ベンチは多いに盛り上がっていた。

この試合は正直どうでも良いと思っている薬師選手は多かったが、そんな盛り下がりを吹き飛ばす一撃だったのだ。

 

実はスタメン組の打球速度と飛距離がぐんぐん上がるなか、なかなか打てないことに疾風は引け目を感じていた。

それを見かねたコーチによるマンツーマンでの特訓で、青道OBの前園健太の打撃スタイルを習得。

コーチが連れてきたスポーツ医学部生の宮内に鍛えられた結果、徐々に打撃能力が向上していたのである。

 

 

 

 

 

 

「コールド、試合終了!

44-0で薬師高校の勝ち!礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

綾瀬川は全打席三振とはいかなかったが毎回三振を奪い、数は14。

相手打線は流川の真上に打球を上げた位でろくな抵抗もできず、バントしようにも球が当たらずで全く試合にならなかった。

 

 

「おめでとう疾風!!初ホームランだ!!」

「ありがとうございます、伊川先輩!!打てて、すっっげぇ嬉しいです!!」

「疾風くんがホームラン打ったの、凄く感動した!!」

「花坂……俺もう、ここで死んでも良い位だ!!」

 

基本的にクールな疾風だが、試合が終わった直後は飛び跳ねながら喜んでいた。

ちなみに、今までの人生でトップ3に入る位には嬉しい出来事だったらしい。

 

 

「どんっだけ喜んでんだよ!そこは、次も打つで良いだろーが!」

「三井……ああ、そうだよな!いつか絶対、まだホームラン打ちます!!」

「頑張れ!!」

「頑張ってください!!」

「ガハハ!!これでお前も投壊打線の仲間入りだな!!」

 

薬師メンバーは、寮に帰った後も食堂でどんちゃん騒ぎだった。

監督や理事長も混じってワァワァとはしゃぎ、まるで甲子園出場が決定した時の様だったと後に取材で誰かが話している。

 

 

 

 

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