【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
今日の打順
1.瀬戸(遊)
2.奥村(捕)
3.秋葉(中)
4.伊川(二)
5.三島(一)
6.真田(三)
7.結城(左)
8.友部(投)
9.桜木(右)
関東大会2日目、轟監督は先発を友部にすると話し、1年生達を少し驚かせていた。
「パワプロさんでもなく黄瀬でもなく……友部先輩?」
「いや確かに弱くないけど、5番手投手じゃん。関東大会に出しても良いのかな……」
1年生達が話している事が運悪く聞こえてしまった友部は、左手を強く握りしめ悔しがっていた。
パワプロや黄瀬の様な才能がない事位、分かってるんだ。
北瀬さんや綾瀬川になんて、100年あっても追い付けないだろう。
……でもやっぱり、どうしても俺がこのチームでエースになりたいって、心のどこかで思ってしまうんだ。
そんな友部を心配そうに見ていた北瀬は、1年生達がいなくなった後で友部に意を決して話し掛けた。
「……気にすんなよ!お前だって甲子園で戦える、凄い選手なんだ!上級生達は、皆分かってるからな」
「……はい、ありがとうございます」
友部は北瀬の言葉に納得しきれていなかったが、気遣ってくれた事を感謝してお礼を言った。
友部という選手は世間からも最強と呼ばれる薬師高校のエースになるには足りないが、そこそこ強い事は本人も気付いているのである。
まぁ甲子園で投げれる程の実力はないとも思っていたが。
関東大会2回戦の相手は、神奈川県大会準優勝校の市川大学付属冨士崎高校。ちなみに通称は冨士崎。
今春のセンバツで3回目のセンバツ出場の、弱くもないが強い印象もないチームである。
高校野球ファンによれば、強いというよりは野球が上手いという印象があるらしい。
「えっ、俺を外野手に置いてくれないんですか?その上雷市まで?」
長打力もあるエース北瀬が、監督の采配に若干クレームを入れていた。
実力的に考えるなら、確かにフル出場させてくれてもおかしくないからだ。
彼は鉄人だからこの前の試合の疲れなんて全く残っていないので、体力が有り余っていた。
「しゃーねーだろ、次の育成もしなきゃいけねーんだからよ!前伊川も温存したんだから、それ位想定しとけ!」
「うす……」
若干不服な決定だが、納得はしている北瀬。
そりゃこんなに部員数がいたら、俺ばっかり出る訳にはいかないよなと元々思っているからだ。
監督に抗議したのもダメ元だったので、理由を言われたらあっさり諦めた。
「ナハハハ!キタくんはこの天才が出るのが不満かね?……この桜木が、すぐにスタメンを掴んでしまうと思っているんだろう!!」
「いやお前も凄い事は分かってるけど……まず結城とのスタメン争いに勝たなきゃじゃね?」
元不良の桜木を若干苦手にしている北瀬が、ピッチャー兼任の俺より先に勝つ相手がいると冷静にツッコんだ。
「モチロン勝つ!!ナーッハッハッハ!!」
「……負けない」
実はバチバチにライバル意識をしている彼ら。
だが正直、来年の春は両方スタメン出場すると思われるのであまり意味が無かった。
1回表、冨士崎の攻撃。1番打者はファーストの川久保。
(北瀬とか綾瀬川が出てこなくて良かった……!これで俺達にもチャンスがある!!)
友部を舐めていると言うよりは、俺達のエースと同格レベルの投手が出て来てくれて良かったと考えている川久保。正直、2大エースが出てきたら全く勝ち目が見えなかったからだ。
彼は5%位は勝ち目があるかなと考えながら、努めて普段通りの動きをしながら打席に立った。残念ながら、少し身体は強張っているが。
薬師打線の様に、緊張を全くしないで打てる選手は少ないから仕方ないのである。
___バシ
___ブォン
「ストライク!」
___バシッ
「ファール!」
___カキン!
「セーフ!!」
クリーンヒットを許した友部。
悔しげな表情をして帽子を被り直した後、バッテリーの奥村を見た。
悔しげに闘志を燃やしている姿を見て少し安心し、次のバッターを見据え始める。
次のバッターは、2番村雨。
何やら冨士崎の監督が、バッターと1塁の選手に対して身振り手振りで指示を出している。
城本監督は、薬師守備の弱点である1塁3塁を崩すべく左の2番村雨にヒットエンドランを命じていた。
___ガギン!
「ファール!」
___バシ
___ブォン
「ストライク、ツー!」
___バシッ
___ブォン
「ストライク!バッターアウト!」
しかし初球、外低めのスライダーを打ちファウル。
2球目真ん中低めにくるスライダーで空振り、3球目外ボール1個分外れた直球を空振り三振に打ち取られヒットエンドラン不発である。
ワンアウトランナー1塁で、打席には3番原村。
原村は、俺が打って内野の頭を越せば1塁の川久保がエンドランで3塁まで回って、4番の杉山で確実に1点取れると考えていた。
___ちら、ちら
(う、うぜぇ……!)
___ガギン!
___バシッ
「アウトッ!ゲッツー!!」
『わあぁ!』
しかし最近の友部はビデオで青道高校の沢村から学び、1球ごとに1塁走者を2度チラ見してから投げる様になっていた。
川久保は走る機会を得られず、4球目内角スライダーの打ち損ねの時に遅くスタートしてしまいセカンドゴロゲッツーに。
「ナイス友部!0点に抑えたのは大きいっ!」
「カハハハ……ナイストモベ!!」
和気あいあいと薬師ベンチが祝福している中、冨士崎先発の菅平も負けじと初回裏を三振・一塁飛・右飛に打ち取っていた。
彼の直球自体は135kmと平均だが、同じ腕の振りからカットボール・フォーク・スラーブ・シンカーを投げ分けられる天才的体幹の持ち主の為、薬師打線が多少苦戦するのも仕方なかった。
___カキーン!
___ガギーン!
2回表、伊川が当然の如く2塁打を放つと、三島がボテボテの打球を1・2塁間に放ち1死3塁。
次の打順は……公式戦初出場の2年生、真田太平である。
「頑張れ太平!」
「ガハハハ!お前なら打てる!ホームラン狙いだ!!」
「カハハハ……タイヘー、ガンバレ!!」
「頑張って太平くん!」
「真田先輩!頑張ってください!!」
薬師のベンチメンバーから本気の声援が聞こえる中、冨士崎高校は公式戦初出場の太平に対し、内野は前進、外野もポテンヒット阻止のため前進。
___グッ、バシッ
「セーフ!」
さらに2塁の伊賀に1球伊牽制を入れることでスクイズやホームスチールにも備える万全の態勢を整え、エースの菅平は万全の姿勢で太平に正対していた。
しかし……彼らは忘れていた。
初スタメンでも、太平は薬師のバッターであることを。
___カキーン!
「わあぁ!」
初球ホームタッチアウト狙いで投げられた内角低めの直球を、太平は何ら疑うことなく振り抜いた。
飛距離は前進守備のレフトの3歩後ろ位だが、落ちた場所が三塁線のギリギリ内側という最悪の展開。
伊川は謎のドヤ顔をしながら先制のホームイン、太平は相手のバックアップの遅れを突いてギリギリで3塁到達。
「よっしゃあ!!」
「太平ナイス!流石は真田先輩の従兄弟!!」
「ガハハハ!ホームランとはいかなかったが、迷いのない良いバッティングだった!!」
「すっげぇ、これが14番の打撃かよ……?!」
薬師ベンチは喜んでいるが……対照的に、セオリーがデタラメ薬師野球に破られたエースの動揺を抑えられないキャッチャー。
___カッキーン!!
「わああぁぁ!!」
次のバッターである結城のスイートスポットにカットボールを投げてしまい、強振でレフト特大ホームランをかまされていた。
「勝ったな」
「ああ、勝ったな!」
「ガハハハ、結城のパワーは素晴らしい!俺も見習わなくては!!」
「ちゃんと厳しい所を攻めないと、結城を討ち取れる訳が無いよなぁ」
さらに友部や桜木にもヒットが出たため、フォーム対策もロクになされないまま3回途中まで17失点で菅平はノックアウト。
こうなると左腕速球派リリーフでも止まらず28-0の5回表。将司を笠松に、友部の代わりに黄瀬が登板した。
「えっ?あの、俺のポジションは捕手なのですが……」
「……まぁダイジョーブだろ、早々飛んで来ねぇしこの点差だからな!」
無名かつロクな野球歴のない黄瀬相手だが、冨士崎打線に気力なく3つの変化球だけで三者凡退。
5回コールドで、激戦区の神奈川県準優勝校を撃破した。
「太平も笠松も、初出場おめでとう!」
「ありがとうございます!先輩達と肩を並べられなくて残念ですが、出場機会を与えて頂けて良かったです!!」
「ありがとう、ございます……」
(5回裏で外野に立ってただけで、試合に出場したと言って良いのだろうか……?)
笠松の素朴な疑問は解消されないまま、関東大会2回戦は終わりを告げた。
ちなみにシニアの頃、市川大学冨士崎高校のスカウトに熱心に勧誘されて悩んでいた彼は、誘いに乗らなくて良かったとこっそり安堵していたという。
試合後、北瀬は準々決勝で投げるだろうからと由井を連れて室内練習場に行った時、その場には田川と奥村がいた。
「田川は、何で菅平さんは途端に崩れたと思う?
あの人は優秀なピッチャーだったし、ここまで打ち崩される程弱くなかったと思うんだ……」
「案外、キャッチャーの動揺がピッチャーに伝わってしまったのかもしれないと思ってる。
ピッチャーは思うより繊細だ。だから、こっちの動揺を伝えちゃいけねぇだろ」
「……俺達の投手陣を見てると、そんな感じは全くしないけどな」
「メンタル強い人が多いよなぁ……それにキャッチャーが甘えちゃいけねぇけど」
変な組み合わせを気にしてしばらく耳を傾けていると、どうも先の冨士崎エースの動揺ぶりを見た奥村は何か思うことがあった様だ。
同じ複数の投手を受ける、現在ベンチ入りは出来ていない田川捕手から何に気を遣ってリードしているか、原村が何をしくじったかを真剣に聞き取ろうとしていた。
(良かった……奥村にも瀬戸以外の友達いたんだ
それにアイツも傍若無人に見えて、他の選手達の事をやっぱりちゃんと考えてるんだよなぁ、これからの薬師野球部の未来も明るいな!)
「北瀬さん、どうしたんですか?」
「いや、俺達の後輩達も頼もしいと思ってさ!」
「北瀬さん、来てたんですか」
「す、すみません!今退きますね!」
「……邪魔して悪いな、ありがとう!」
後日の由井曰く、その時の北瀬はなんだか嬉しそうに笑っていたという。
「伊川ー!奥村のヤツ、田川に色々チームの事を聞いててさぁ!アイツも色々考えてるんだなーって思ったよ!」
「気付いてなかったのか?奥村もいいキャッチャーだぞ」
「そりゃそうだけどさー、アイツ一匹狼じゃん!あんまチームメイトには興味ないのかと思ってて……」
「そういう所もあるけど、しっかりした奴でもあるからな……アイツが他の選手達の事を見れる様になったのは、良い成長かもな!」
部屋に帰って伊川と2人きりになった時、北瀬は嬉しげに報告していた。
次期正捕手候補の成長が嬉しかったのだろう。
今まで相棒の由井が正捕手だったのに、取られるかもしれない事はどう思っているのだろうか?
……彼の野球人生の中で、実は絶対的キャッチャーという物に出会った事がなかった。
中学生の頃は試合を押し付けられた誰かが渋々やっていただけだし、高校1年生の頃は伊川と渡辺先輩が分業していて、2年生からは由井と奥村が分業している。
だから北瀬は、ナチュラルに由井と奥村両方の成長を応援出来ていた。
細かい所が気にならない点は、確かに彼の美徳なのかもしれない。
相棒のポジションが掛かっていると解っていたら、奥村の成長を素直に応援出来なかったと思われるので。