【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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173球目 別次元

 

 

 

 

呆気なく関東大会で優勝した薬師高校。

最早王者の貫禄としか言いようがない堂々とした試合で、3年前から応援していた一分の観客達を驚かせていた。

 

 

「1か月後から地方大会か……時間が経つのは早いなぁ」

「ガハハハ!高校最後の大会!当然俺達は優勝して終わるぜ!!」

「カハハ……ホンゴウもフルヤも、スッゲェ強くなってるんだろうな……!楽しみ!!」

 

寂しそうに呟く北瀬に対して、三島と雷市は大きい大会が近付くなとワクワクしていた。

関東大会も確かに楽しかったが、甲子園を掛けて戦う大会は格別だろうと感じているのだ。

 

 

「はぁ……親戚と会ったらさぁ、めちゃくちゃ活躍を期待されてるんだよな……俺、そんな強くなれっかなぁ……」

『……』

「秋葉先輩より強い選手なんて、高校野球界の中で10人もいませんよ……伊川さんとかは、もう例外です」

 

秋葉が冷や汗をかきながら呟いた言葉に、薬師3年生達は反応出来ず。

基本的に彼より結果を残しているか、超ポジティブシンキングのメンバーしかいないので、何を言って良いのか分らなかったのだ。

 

哀悼漂う秋葉の姿を見て、由井が冷静に声を掛けていた。

先輩達のぞんざいな対応を見て可哀想だと思ったのもあるが、単純にツッコミたかったのも大きいだろう。

貴方が評価されないとか有り得ないですよ、スカウト達をどんな節穴だと思ってるんですかと感じたのだ。

 

 

「そうか?そうだと良いな……」

 

(この人、どんだけ自分を過小評価してるんだか

投壊薬師打線で打率3位なのは、どれだけ誇っても良いとおもうんですけどね)

 

秋葉先輩の様子を見て内心ため息を吐いている由井だが、彼も若干自分の打撃能力を過小評価していた。

 

俺はキャッチャーとしての才能が割とあって、打撃力に優れていると考えているが……

高校野球なら問題ない程度のキャッチャーの才能があって、将来的に打撃力はプロで通用するの方が正しい。

 

周りの悲惨な守備を見てキャッチャー能力を過大評価して、周りの最強打線を見てバッター能力を過小評価していた。

まぁ人間は基本的に、周りとの相対評価で考える物だから仕方ないだろう。

 

 

 

 

 

関東大会の疲れを取れと言われ1軍は練習無しになった。

火神の勉強を見ようと考えていた伊川だが、本人に用事が出来て流れる事になっていた。

 

やらなければならない事が無くなったので、野球部寮の中にある図書室で勉強していた伊川。

そこに推薦入学者候補リストを作成している結菜が現れ、伊川の勉強している本を見てギョッとしていた。

 

 

「えっ?!英検1級取得を目指してるんですか?!」

「……うん。その内メジャーに行くつもりだから、英語は出来た方が良いと思うし」

 

結菜はキラキラとした目をしながら、伊川を褒め称えた。

 

 

「伊川先輩はやっぱり凄いですね! あんなに凄いバッティングも出来るのに、英語まで頑張るんだー!!」

「いや、雑用もしながら偵察もしてくれてる結菜も凄いよ

そのお陰で、俺達は野球に集中出来てる……ありがとな」

 

伊川は照れながら、少しでも好きな女の子の好感度を上げようと必死だった。

彼も思春期なので思惑がバレない様にさり気なさを装っていたが、内心は心臓がバクバクしている。

努めて表情に出さない様にしていたので、当然結菜からは見ても分らなかった様だが。

 

 

「そう言って頂けると嬉しいです!

これからも頑張りますから、よろしくお願いしますね?」

「勿論!よろしく」

 

意中の女の子に褒められて、ご満悦な伊川。

元々は部屋でやろうと思ってたけど、北瀬達がゲームを始めたから移動してきて良かったー!と喜んでいる。

 

 

 

 

そんな時、結菜が近くの椅子に座って勉強を始めた。

 

(え、席は沢山開いてるのに俺の近くに座るのか……?!

少なくとも嫌わせてないって事かもな、良かった!)

 

伊川がチラッと結菜の勉強している教本を見ると、英検2級と書いてあった。

実際に受験した訳ではないが、伊川の自己採点評価では余裕で合格出来る範囲の物である。

 

(教えようかって話しかけても良いかな?……でも急に言われたらキモいか

もし困ってる様に見えたら教えよう)

 

しばらくすると、結菜の書いている手が止まり悩んでいる様に見えた。

どうやら文章内の単語が分からず、困っている様だ。

 

伊川は教えたくなる衝動に駆られたが……

ちゃんと勉強するなら、どうしても分からない事以外は自分で考えるべきだと思い直し、黙っている事にした。

 

 

彼女は結局、スマホで単語の意味を調べて分かった様で、伊川の出る幕は無かった。

余計なお節介を焼こうと思ったら行動出来ない所は、一応彼の美徳なのかもしれない。

まぁ困っていそうなら話し掛けた方が、人の好感度は稼げるかもしれないが……

 

 

伊川と結菜はその後、黙々と勉強を続けた。

好きな人に、真面目に勉強の出来ない奴だと思われたくないからだろう。

 

ちなみに、普段より学習の進みは早かったらしい。

恋の力とは偉大である。

 

 

 

 

 

 

伊川以外の3年生達と、瀬戸・綾瀬川・黄瀬・桜木・太平・花坂・疾風・パワプロ・友部・笠松の計14名が集まって部屋でゲームをしていた。

参加人数が多すぎて、人のベッドに何人も乗っている状況である。

 

休みなので、野球以外にも興味がある1軍の面子がなんとなく集まり、交流がてらゲームに興じている。

高校球児なんだから遊ぶなと思う人もいるかもしれないが、パワプロ能力的に考えると友情を深める事に大きな意味があった。

 

……ちなみに雷市は当初ゲーム大会に参加する気がなく素振りでもしようかと思っていたが、今日は休みの予定だろと北瀬や三島が強制的に参加させていた。

伊川は勉強する予定だと話したから見逃されたが、休みなのに素振りをすると言ってしまった彼の自業自得だろう。

 

 

3DSで2組に分かれてマリオカートをしている彼ら。

持ってない人も何人かいたが、なんと北瀬が何台も購入したらしく貸し与えていた。

仕送り額が割と多いのに野球漬けで使わない為、浪費する余裕があるのだ。

 

 

「最強は綾瀬川か?!黄瀬か?!」

「すっげぇデッドヒート!……他の奴らを周回遅れにしてるな」

「えげつねぇー、天才はゲームも強いのかよ?!」

「でも北瀬はあんまり強くないけどね」

 

万能の天才たる黄瀬と綾瀬川が、えげつない攻防戦を繰り広げていた。

空間認識能力以外の頭脳は伊川より優れている綾瀬川と、小足見てから昇竜余裕でしたを地でやりかねない対応力を持つ黄瀬がかなり良い勝負をしていたのだ。

彼らなら、伊川とゲームで戦わせても良い勝負が出来ると思われる。

 

 

「うわぁ、6位かよ……」

「北瀬先輩、妙にゲームは弱いっスね!野球では最強レベルなのに」

 

地味に2位を取っているパワプロが、先輩エースの北瀬を若干煽っていた。

ゲームが得意な面子が別チームに固まっていたにも拘らず、狙い撃ちもされてないのに負けている北瀬の事を不思議に思ったらしい。

 

 

「身体能力とゲームってそんなに関係ないし……

170km投げられても、ドンキーが170kmで走ってくれる訳じゃないしなぁ」

「そりゃそうですよ。初心者同士がやるなら、ショートカットとか覚えてる方が勝ちますから

なんか2人は別次元の戦いをしてますけど……」

 

北瀬グループで1位だった、ゲームが得意な瀬戸は軽い口調で笑っている。

確かにゲームは好きだが、本気で勝ちたい訳でもないので天才が周りに何人いても全く気にならないのだ。

 

 

「凄い凄い!俺、こんなに友達と白熱したゲームするの初めてッスよ!!」

「俺も?まぁゲームの勝ち負けに拘った事ないけど……」

「手加減しないでよ!真剣勝負で勝ちたいっスから!!」

「うんっ!」

「たかがマリオカートをそんな真剣にやらなくても……」

 

気迫や実力で周りを置いてけぼりにしながら、黄瀬と綾瀬川は爆走していた。

先に試合を終えた部員達は、ポテチのツマミに勝負の行方を眺めている。

 

 

「マジで伊川レベルで強いな……あ、先輩からメール来たから俺ちょっと返信するわ」

「おっ、誰から来たんだ?」

「大田先輩から」

「ガハハ!お前はマメにメールをしているな!」

「お前らがめんどくさがりなだけだって!」

 

薬師最上級生の中で1番筆まめというか、OB達と連絡を1番取っている北瀬が呆れた様に言った。

三島は連絡を返すのが2週間後位だし、秋葉と伊川にはどうでもいい事を送り辛いし、雷市はスマホを持ってないので、消去法で北瀬と連絡を取る人が多いのだ。

 

スマホを買った後、先輩達から沢山連絡が来るようになった彼は喜びつつも、筆不精な友達に呆れていた。

北瀬も返信を1日位放置してしまう事があるので、けして筆まめではないからである。

 

 

大田先輩

 

練習キツい…

高校時代が懐かしい…

 

既読
1年位言ってますよね

既読
そんなに大学ってキツいんですか?

 

うん

でもDL学園の元生徒とかは

天国みたいだって言ってるんだよな…

怖っ!

 

 

 

 

大田先輩の言葉で若干将来のメジャー生活が心配になりながら、北瀬は普段通りのテンションで返信した。

 

 

 

大田先輩

 

既読
他の先輩達も言ってますけど

既読
薬師高校ってめちゃくちゃ緩いらしいですよね

既読
俺、色んな意味で薬師高校で良かったです!

 

俺もそう思ってるよ

良い所に進学出来たしな笑

 

既読
甲子園の思い出とかじゃないんですか?笑

 

でも野球推薦なきゃ大学進学も怪しかったし…

いや、甲子園の思い出が大きいのは変わんねぇぞ?

 

既読
ですよね!

 

ちなみに噂で聞いたんだけど

メジャーに100億でスカウトされてるってマジ?

 

既読
マジです

既読
俺もスカウトが来た時はビックリしました!

既読
というか大分昔の話なんですけど

既読
他の人に聞いてないんですか…?

 

 

 

 

メジャーリーグに行く事が決まったのは1年以上前なんですけど……俺の就職先なんて全く興味ないんですかね?と困惑している北瀬。

 

ちなみに大田は全く興味がない訳でもなかったのだが、慣れない強豪校での大学生活でドタバタしている間の出来事だったので、噂を聞くのが遅れていた。

知った後も、超有名人になった後輩に連絡し辛くて気になりながらも放置していたのだ。

 

半年前位に連絡を取ったのも、北瀬には説明していないが大学の先輩に半ば強要された結果だった。

先輩方から「あんな実績残してたら威張り散らしてくるかもな」と言われていたので、前みたいに話してくれる北瀬の返信を見て内心安堵していた。

その後も進路先は何となく聞き辛く、聞くタイミングは今更な時期になっていた。

 

 

大田先輩

 

マジかぁ…

聞いてるけど

流石に本人に聞かないと信じられなくてな

 

既読
俺もスカウトが来た時は超驚きましたし

既読
言われてみれば

既読
信じられないのが当然かもしれないですね

 

いつか試合見に行くからな!

 

既読
活躍出来るかは分かりませんが

既読
ぜひ見に来てください!

既読
実は1回

既読
試合に先輩方を招待しようと思ってて…

既読
どうですか?

 

 

 

 

北瀬は、スカウトとは話を付けてたが本人達には言っていなかった事を思い出して聞いてみた。

見に来てくれれば良いなとかなり思っているが、強要するつもりは無い。

彼は、綾瀬川程では無いが他人に意志を押し付けられない性格をしている。

 

 

大田先輩

 

マジ?やった!

日程によっては絶対とは言えねぇけど

なるべく予定つけて行くからな!!

 

既読
ありがとうございます!

既読
先輩達の試合も

既読
時間を付けて見に行きたいと思ってます!

 

メジャーリーガーが来るとかヤベェな笑

 

 

 

 

「よっしゃ!」

「何か良いことあったんですか?」

 

北瀬が思わず呟くと瀬戸がチラッと見ながら聞いてきた。

 

 

「俺がメジャーに行った時、大田先輩が見に来てくれるかもしれないんだよ!すげぇ嬉しい!!」

「2年前のセンターの方ですよね」

「そうそう!よく知ってるな!」

「俺だって、進学先の試合位は見てますよー」

 

瀬戸の言葉を聞くと、自宅から若干遠くて学費が安くて偏差値も問題ない学校を適当に選んだ北瀬の顔は、若干引き攣っていた。

彼は未だに、後輩達に薬師高校を選んだ理由を言っていないからだ。

 

後々彼がインタビューで正式に暴露した時、後輩達の度肝が抜かれるかもしれない。

9割以上の後輩達が、「轟監督に誘われている」という俗説を信じていたからだ。

 

花坂は伊川達から聞いていたので知っているが、無闇矢鱈に噂を広めたりしていなかった。

正直広めてくれた方が、無茶な期待をされなくて済んで良かったのかもしれないが…

薬師5人組に、めちゃくちゃな幻想を抱いている後輩は割と多かった。

 

 

 

 




追加情報 大田先輩は今、早◯田大学にいます
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