【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
伊川から、メジャーリーグに行かないという衝撃的な話を聞かされた轟監督と片岡コーチ。
本契約にはなっていないとはいえ、ほぼ纏まりつつあったスカウトの話を破談にしたのだ。かなり揉めた。
結局は相手が、「後でうちに来るって言ってる金の卵と揉めるのも良くないな…ライバルチームに行く訳でもないし」という判断で引いてくれたが、監督達は冷や汗をダラダラかいていた。
それでも生徒のやりたい事を優先して動いてくれる薬師高校の監督達の監督達は、凄く優しいといえるだろう。
まぁ野球連盟の人達からも、「北瀬くんと伊川くんはまず日本で育てましょう!!日本所属の轟さんも分かってますよね(意訳)」と言われていたのも大きいが……
最悪他の選手のプロ入りに支障が出かねない騒動だったので、伊川が日本でやりたいと言うなら止める必要までは感じなかったのだ。
名誉を考えると高卒メジャー行きの方が良いのだろうが、轟監督の求めているのは甲子園に行く事で、片岡コーチの求めている事は選手達を成長させる事なので気にしなかった様だ。
なんとかお話し合いが終わりげっそりとしている轟監督が、気を紛らわせる為に片岡コーチに話し掛けた。
「いやまさか、伊川が日本でプロ入りするとは思いませんでしたよ。北瀬に付いてくだろうなーって思ってました」
「私も驚きましたが___北瀬に依存している節のあった伊川にとって、良い挑戦である事に変わりはありません。応援して行きたいと思っています」
2人共彼の選択に驚いているが、反対する気はない様だ。
だが、そんな彼らの思った事はそれぞれ違ったらしい。
「でも勿体ないですよねぇ。せっかくメジャーからスカウトが来てんのに日本でやるとか、真田に懐き過ぎでしょ」
「真田と長く一緒に戦えた訳ではないので、詳しい事情は分かりませんが___彼は部員達全員のやる気を引き出せる、良いキャプテンでした
尊敬する先輩と一緒にと望む気持ちも分かります」
轟雷蔵は伊川の選択を勿体ないと思っているが、野球に関心の無い彼が始めて自分の意思で選んだ道を応援している。
野球という競技に対しては信念を持って取り組んでいる彼は、教え子が野球に目覚めていく事は嬉しいのだ。
片岡鉄心は伊川が始めて自主性を持って決断した事を嬉しく思っている。
彼が本気で、真田と野球がやりたいと思っている事を察したからだ。今までの人生の選択を全て北瀬に委ねてきた伊川が、始めて別の選択をした重大な事実が分かっているからである。
「真田は妙に後輩からの人望ありましたよねー
北瀬とか伊川が2年にいても、最終的に纏めてるのはキャプテンって雰囲気ありましたし!
そーいう事情よりも……アイツが野球が好きになって来てる事が嬉しいっすね!」
「人生の選択肢を決めるのは生徒自身ですが……俺も、伊川が野球を好きになってくれると嬉しいです」
轟監督も片岡コーチも、考え方は違えど伊川が野球を好きになって嬉しい気持ちは変わらない。
彼らは両方、熱心に生徒達を導こうと努力しているのだ。
まぁ野球に関わる方向に導きたい轟監督と、生徒達に豊かな心を育ませたい片岡コーチでは大分方向性が違ったが。
最上級生5人組は、伊川の日本野球をやるというホットな話題で彼の部屋に集まっている。
「ガハハハ!まさかメジャーリーガーにならないとは……全く予想付かなかったぜ!」
「いやならないんじゃなくて、目標だと7年位は真田先輩と日本でやって移籍かなって思ってるよ。そう上手く行くかは分かんないけど」
「勿体ないっスね。俺なら絶対行きます」
同部屋の流川は不満げな顔をしていた。
せっかくメジャーリーガーになれるのに何故ならないのか全く理解出来ないのだ。
「まぁ俺達は世間の常識を知らないから、日本野球で学んでから行くのも良いんじゃないか?」
「確かに……」
秋葉の言葉に対して納得した顔を見せる北瀬。
太田先輩のキツい発言もあり、これからの事を考えてビビっていた。
メジャーリーグという舞台は結果が全てだ。
だから、キレキレの170kmを出せる時点で何か言われる事はないと思われるのだが……彼はそういう情報を知らない。
「それよりも伊川を、ちゃんとヤクルスワローズだけが指名してくれるのか?
他のチームに入れられる事になったら泣くに泣けないと思うんだけど」
「あー話し合った結果、その場合入団交渉待たずにアメリカ飛ぶ事になってる」
『へー』
見様によっては凄まじく不義理な事を平然と言う伊川。
彼は野球界の常識が分かってないので、この行動は当然の事だろうと思っていた。
だって、指名すんなって言ってるのに勝手に指名して来たんだろ?聞く義理ないじゃんと、彼は考えている。
そんな伊川の理屈が通用する程、日本プロ野球という連盟は優しくないと思われるのだが……その辺を説明しないで説得したヘンソンスカウトの勝ちだと言える。
ちなみに当然、轟監督達は当然分かっていたが、先に不義理を働いたのが自分達なので見なかった事にしていた。
下級生達にも、伊川がヤクルスワローズに行くという噂が矢の様な勢いで伝達されていた。
何となく室内練習場に集まっている彼らは、誰から口を開くのか……と、妙な緊張感に包まれていた。
「理解出来ない。絶対伊川さんはメジャーに行くべきだ」
結城が、無表情ながら強い口調で言い放った。
部内は、何となく賛成する人の空気や、何となく反対する人の空気が流れてぼやけた印象を受ける。
「そうかー?最初は国内でやりたいって気持ちは理解出来るけどな」
国内に尊敬しているプロ野球選手がいる瀬戸は、伊川の選択に対して賛同していた。
強い選手を最初から海外に輸出してしまうのはどうなんだと、元々考えていたらしい。
「俺はそれより、俊平先輩ってどんだけ尊敬されてんだよって思ったな。200億だぜ?普通そっち行くだろ!」
真田前キャプテンの従兄弟である太平は、俊兄はどんだけ求心力があるんだよと半ば呆れていた。
伊川先輩みたいな人類を卒業してるレベル完璧超人から、そこまで求められる人なのか……?と困惑しているのだ。
奥村はそんな太平の姿を見ながら、どこか遠くを見つめる様な顔をしながら呟いた。
「あの人は本当に凄かった。北瀬さんが凄すぎて感覚がおかしくなった観客も多かったけど、真田さんはドラフト1位にふさわしい選手だ」
「確かにあの人、なんかカリスマもあった気がするな」
「そうか?最初見た時は正直、野球好きのお兄さん位にしか見えなかったけどなー」
2年生達は伊川の進路について気になってわらわらと集まりながらも、全然関係ない話を始めていた。
高校生はそういう所がある。
一方1年生達……というか黄瀬は、伊川の進路に納得がいかない様で喚いていた。
「意味分かんないッス!才能の無駄!!時間の無駄!!」
「うっせえ!先輩の進路に口答えするな!!」
「痛ってぇな!今不機嫌なの分かんないの?!」
黄瀬と笠松がまた揉めている所から少し離れた位置で、他の1年生達がボソボソと話し合っている。
「黄瀬の騒ぎ方はヤバいけど、言いたい事は分かる」
「あの人には、上の舞台でやって欲しいって気持ちは正直あるよなぁ……」
「分かるー!」
「いやいや、日本野球界の実力を上げるには伊川先輩が居てくれた方が良いって!」
「そんなの伊川先輩の責任じゃないだろ?!」
「あの人はメジャーでやるべき人だ!!」
「はぁ?日本のレベルが低いって言いたいのか?!」
伊川との関わりが薄い1年生達は、段々と本人の意志を無視した討論を開始し始めた。
同級生達のトゲトゲとした言葉をすみっこで聞いている綾瀬川は、心を痛めている。
(進路って本人が決める事じゃん、そんなに騒がなくても良いのに……伊川先輩が可哀想。きっと暫くは色んな人から言われ続けるんだろうな)
野球部の図書室で騒いでいる彼らを見ながら、不思議そうな顔をしている木兎は赤葦に話し掛けた。
「つかさー___俺達が怒鳴り合う意味ってあんの?
全部、伊川センパイの意志で決めた事じゃん」
彼は怒鳴った訳でもないのに、何故かここにいる全員が聞き取れていた。
彼らは図星を突かれたのか、急にあたりが静まり返った。
『…………』
「……確かに、伊川先輩の居ない所で俺達が勝手に言い合うのは良くないよな。だからと言って、あの人に突撃インタビューする訳にはいかないし」
赤葦が追加した言葉で、周りは冷静な空気を取り戻した。
良く考えると、スーパースターの道を俺らが指図するなんて烏滸がましいんじゃねぇかと言う雰囲気が流れ出したのである。
これでとりあえず、揉め事らしき空気は消えてくれた。
厄介な伊川ファン達がこの突然の方向転換にどう思ったのかが違う事が問題だったが、とりあえず沈静化してくれたのだ。
1軍2軍の生徒達は基本、自分の事で精一杯なので口論には加わっていなかったのが幸いだが……厄介な部員モドキ達である。
野球部マネージャー兼新聞部部長の佐藤は、早速時間を貰って伊川に取材をしていた。
薬師高校の生徒達や野球ファンの方々へ、いち早く情報を伝える為にである。
ちなみに佐藤が今回の伊川の発言を纏めた資料は、学校新聞掲載前に有名新聞社に独占販売する取り決めになっている。
入手したお金は、薬師野球部の運営などに使うらしい。
「記者の佐藤です、よろしくお願いします!」
「薬師野球部2塁手伊川始です、よろしくお願いします」
『……はは!』
いつものやり取りだが、妙に畏まった言い方が笑えてきて2人はまた笑っていた。
「伊川さんはメジャーからのスカウトを断り、ヤクルスワローズへの入団を表明したとの事ですが……本当ですか?」
「本当です、自分のやりたい事をやる為に決意しました」
既に佐藤も知っている事の話だが、取材の為にワザと聞いている。世間に求められている情報を、正確に伝える為だ。
「伊川さんの、世界最高のメジャーリーグを断念してまでやりたい事とは何ですか?」
「……真田俊平先輩と、また一緒に野球をする事です!」
自分の執着心が異常だと若干気付いている伊川は一瞬口籠った後、大きな声でハッキリと答えた。
俺の選択は、俺にとって間違っていないと信じているからだ。
「今までの取材でも、真田先輩の事を良く話していましたよねー!そんなに慕っているんですか?」
「もちろん慕ってます!あんな良い人なかなか居ないですよ!野球のお陰で先輩と出会えた事を、感謝しています」
元キャプテンって人望あるよね、こんなに懐いているのは伊川と北瀬だけだけどと思いながら佐藤は更に質問を続ける。
「なるほど〜。では真田先輩と同じチームになったら、どんな選手として活躍して行きたいですか?」
「先輩に使える奴だと思って貰える様な、優秀な選手になりたいです!」
伊川は本心から答えていたが、佐藤から見たら微妙な答えだった。
お前のなりたい、具体的な選手像を言ってくれよ!と思っているからだ。
この友人兼マネージャーは、そもそも伊川になりたい選手像が無い事を薄々気付いていた。
だから本人の為にも、この取材で少し考えさせておこうと思ったのだ。
「そういった漠然とした目標ではなく……
ミート力を伸ばして最多安打の日本記録を更新したいとか、守備力を強化してゴールデン・グラブ賞を7連続で取りたいとか、そういう感じの事が知りたいです!
寧ろなってみたい姿なら、前代未聞のめちゃくちゃな話でも良いですよ!」
「えーっと、ちょっと考えてみます……」
数分間、真剣に悩み始めた伊川。
別になりたい姿とかは特になかったのだが、友人の頼みならなるべく答えてやりたいと思っているのだ。
佐藤と伊川は、地味に仲が良い。
程々の距離感だから一緒にいて居心地が良いし、お互いに対するリスペクトがあるからだ。
「うーん、うーーん…………
実はちょっと、ピッチャーに憧れてるんですよ
今まで1度も挑戦した事がないんですけど、やっぱ北瀬とか真田先輩とか見てるとカッコいいなって思います
だから先輩が先発して俺が抑えたりしたら、凄く面白いよなと思ってます!絶対ありえない話だと思いますが……」
思ってもみなかった事を言われ、ぽかんとしている佐藤。
取材用の口調ではなく、普段通りの言葉遣いでつい聞き返してしまった。
「え、じゃあ何で今まで捕手とセカンドやってたんだ?」
「普通に中学の頃、人が足りない所に行ってたんで
セカンドに適性があったらしく、そのまま……」
「えぇー、マジで?」
既に世界レベルの野手だと思われる、伊川の今更な発言に呆れている佐藤。
お前これから先どうするつもりなんだと心配もしている。
「そういや……そう言えば、言われてみれば伊川さんは送球もかなり上手いですよね。本当にポジション移動もできてしまうかもしれませんね!」
「流石にこんな無茶を通そうとは思ってないですよ
多分、基本的に求められているのは打撃力なんで……」
野球に執着がない伊川は、今まで自分の想いを主張する事なくキャッチャーやセカンドの練習に取り組んでいた。
だから、彼の憧れを全く知らなかった片岡コーチはかなり焦るだろう。
本人のやりたい事を最後位はやらせてあげるべきか、流石にこの時期のポジション移動は迷惑だから止めるべきかと迷ってしまうのだ。
薬師野球部のコーチは、人が良すぎてチームバランスを考慮し辛い面があるらしい。
「うーん難しい話ですね……話題を変えて、次は背番号の話にしましょう!もし好きな番号が貰えるとしたら、伊川さんはどの番号が欲しいですか?」
「真田先輩が11番を貰ったので、俺は隣の12番が欲しいっすね!ついでに俺の誕生日も12月なんで、丁度良いと思います」
「伊川さんの誕生日は12月26日、プロ野球誕生の日でもあって縁起が良いですよねー!」
「クリスマスと1日違いなのが面倒ですけどね
いっそ被ってた方がマシでしたよ」
「はは、確かに……」
この後は殆ど雑談になったが、会話文は全て有名新聞社の手によってどこかの雑誌に掲載されたらしい。
伊川のピッチャーがやりたいという言葉に、野球ファン達は悲鳴を上げたとか。
絶対バッターを極めた方が良いから辞めろ!と、迷惑なファン達の反対運動まで起きる始末だったという。
ちなみに佐藤記者は、名選手の伊川に対して不敬だ何様だと若干炎上していた。
だが高校在籍中の選手の交友関係に、勝手にケチを付ける一般人のモラルの方が問題だろう。
誰にも聞かれなかったので言いませんでしたが、伊川は中学生の頃から野球の中ではピッチャーが1番好きでした
少しだけ、魔球を開発してみたいかもと思ってました
伊川の進路はどうなると思いますか?
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望んだ通り、ヤクルスワローズ入団√
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クジが外れて、メジャーリーグ√
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まさかの、日本の他球団で投手√
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その他・無回答