【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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感想が沢山来てくれて嬉しいです!
励みになります、ありがとうございます!

無印は夏の甲子園までかと思っていたのですが、確認したら春の甲子園まででした……言ってしまったので後7万文字程、8日で書き切ります。できれば応援よろしくお願いします!

誤字報告を沢山してくださり、1話で平均10個位来ています。書き続けていて確認する時間がないので凄くありがたいです!
実質第二の作者だと思っています、ありがとうございます!


16球目 どこかで見た顔

 

 

 

西東京地区で優勝した俺達。勝利に湧いたその後、地獄の守備特訓が待ち受けているのを、あの頃の俺達は知らなかった。あの頃は若かったんだ……

 

北瀬は練習中、完全に現実逃避していた。

普段の練習もたまに吐きそうになるくらいキツいのに、更に上があったからだ。

なんで試合が数日後にあるのに、こんな死ぬ限界まで練習をしているのか……サボって3DSでもやりたい北瀬だが、絶対にサボれない理由があった。

 

 

地区大会が終わってから大体1週間後位に、甲子園が始まる。

 

バント練習を急にやると言われた彼らは、そもそもバントまともに出来るのは監督しかいないのに、どうやって練習をしっかりやるのか分からなかった。

いい歳のおっさんな監督がシートバッティングをするのには限界があるだろう。

出場予定の無いベンチメンバーに無理やりやらせるのだろうか、でも練習してない事を急にやれと言われても難しいと思うが、と、

 

 

それが___まさか、俺達が負かした青道高校に練習相手を頼むなんて。

 

「馬っ鹿じゃねぇーの!」

「悪魔かテメー」

「嫌だァ泊まり込みなんてー!」

「ゲームの持ち込みはアリですかぁ?」

 

 

……何で俺達が数日前に潰した相手に頼もうって。なんでそんな度胸があるかな、この監督は。常識的な部員は、この常識外れのおっさんのモラルを疑った。

 

 

 

 

 

(……はぁ。もし西東京大会を優勝したらハッピーハッピーハッピーな日々が待ってると思ったんだけどな

クラス中の女の子達に格好いいって言われる日々が、待ち受けてるかもって思ってたのに)

 

 

クラスメイト達にチヤホヤされたいという北瀬の妄想は一部叶っていたが、結局3日だけで飽きられてしまった。確かに甲子園出場チームのエースで主砲なんてもっと騒がれても良いだろう。

まあ1回の試合で11点も取られたピッチャーを、エースと呼べるのかは分からないが……

大体の原因は、薬師高校は小さな学校で全校生徒が200人もいない事にある。

普通の性格をした北瀬達の言動を見られているし、元々の友人も普通にいる。凄くてカッコいい選手だという幻想を見てくれるような生活を、彼らはしていないのだ。

 

 

 

確かに言われたけどさ、3人位に……でも3日も立てば飽きられたよ! メールも一瞬で雑になったし、やっぱ俺なんかに興味ないんよね!

 

 

「おいおい北瀬ぇ、投げた後硬直するんじゃねー! 打球を探すのが遅いんだよ!」

 

(ちょっと待ってくださいよ。全身を使って全力で振りかぶってるんスよ? ……そりゃ、一瞬硬直位するでしょ!)

 

 

監督が頼み込んだのか、それともあちらから言い出してくれたのか知らないが、何故か1週間位青道高校に泊まり込み、引退した青道の3年生と一緒に練習する事になったのだ!

全く予想していなかった薬師部員一同は最初こそ青道高校の豪華な施設に感動していたが、30分も立てば己の置かれた最悪な状況に気付き始めた。

 

 

「ちょっと。なに今のエラー……目が腐ってるんじゃないの?」

「基礎が積み重なっていないから、そういうミスが起こるんだ……もっと、己の実力を高めようと精進したらどうだ……」

「チッ! こんな雑魚に負けたのかよ!!」

 

大体、青道さんも青道さんだ。よく知らない、仲良くもない地区予選敵の強化を、よくやろうと思ったよねぇ。いっそ断ってくれたら良かったのにさ。

確かに練習相手は欲しかったけど、こんなガチの強豪校相手とやりたかった訳じゃ無いんだよ!

野球バカの雷市と、ポジティブシンキングの過ぎる三島以外の全員が、開始1時間で脳内で監督に不満をぶちまけていた。

 

 

 

薬師高校の大多数の部員にとって、悪夢の合同合宿。

青道の先輩は、薬師の先輩と違って圧があるし。ミスが出ると怒ってくるし……いいじゃないか。たった数回のミスなんだぞ!

1回のミスで泣く甲子園。

その聖地を前にした薬師高校は、それでもエラーの影響を軽視していた。

 

いくらキャッチャー伊川の配球が酷いとはいえ、仮に青道のような鉄壁の野手陣だったら大量失点なんてしないのだが。

そんな事は些細な事だ……野球は点を取ったほうが勝つという信念(?)をそのプレースタイルで証明し続けている薬師高校野球部員は、青道の最上級生を若干疎ましく思っていた。

 

ライバル校相手に、快く練習に付き合ってくれているにもかかわらずだ。確かに言い方は少しキツいけど理のない事を言っている訳でもないんだから大人しく聞いておけばいいのに。

守備への意識は、強豪とは全く思えない程低レベルな薬師は、指導されている事が守備面である事もあり疲弊しきっていた。

 

最上級生の薬師メンバーは、指摘してくる相手が同学年でマジで羨ましいと下級生達は思っていたが……逆に遠慮なく強く罵られ、魂が抜けたような顔をしている3年生が多数いた。

 

 

「それでも最上級生か! 下手くそ!」

「下級生にスタメン取られまくってんだぞ! もっとシャキっとしろや!!」

 

このたった数日間の合同練習で、エラーをしなかった薬師メンバーは1人もいない。迫力のある強豪校の選手に散々罵られ、部員達はもう限界だ。

 

それでも。彼らにとって心の支えになる、素晴らしい出来事があった!

なんと、元弱小校の彼らに、吹奏楽部の応援がつくのだ!

 

 

全国大会まで勝ち進むと思われていなかった薬師高校野球部。吹奏楽部も取り立てて優秀な部活では無い為、甲子園ですら応援は声援のみかと思われたが。

 

___そこに、青道高校吹奏楽部が名乗りを上げてくれた。

基本的に青道野球部の使い回しにはなるが、俺達に応援が付くらしい。しかも、3曲までなら新しい曲を1週間で仕上げてくれると言ってくれたのだ!

 

まあ薬師メンバーオリジナルの曲を使えるのは、普通に選ぶなら雷市、北瀬、伊川の3人だが。俺達専用の曲というのはワクワクする!

基本的にノリで生きている彼らにとって、最高の餌をぶら下げられていた。だからどうにか昨年度の3年生の様に逃げ出さなかったのだ。

もしそれが無かったら、甲子園前に部員が減って、ベンチ枠が埋められずに出場する事になっていたかもしれない。

 

 

 

「……」

「……?」

 

青道3年生からの視線に晒されていて中々休めなかった北瀬だが、どうにか地獄の練習を抜け出す事に成功し、木陰で休息していた……実際のところ休憩時間では無いのでサボりに近いが。

 

暫く佇んでいると、同じ影に長身の男がやって来た。

 

(サラサラしてそうな、球児にしてはちょっと長い前髪の……誰だったっけ。なんか見覚えのある顔してる)

 

北瀬が覚えている青道高校の部員は、衝撃の打球を素手で取ったキャッチャー御幸と、ヤンキーセンサーが反応した倉持、キャプテンに絡んでいた様に見えた結城主将と、豪速球の降谷だけだった。

それでも少し気まずい空気を一方的に味わいながら、彼はどうにか目の前にいる男の名前を思い出そうとしていた。

 

青道高校の地図を知らないからどうにか見つけたサボりゾーン、それを知らない相手に明け渡すのを不満に思っていた。不満も何も、明け渡せとは言われていないので被害妄想だが。

北瀬は強い割にビビりなので、先輩だったら場所を譲らなければと考えていた。

 

 

(……あ、そうだ。割と速い球投げてた降谷暁だ!)

 

北瀬にしては早い段階で、相手の名前を思い出した。薬師高校相手に、2回1失点。

投球回数は少なかったけど、薬師相手への失点の少なさは成宮クラス。もし降谷が最後まで投げていたら、薬師高校が勝てたか分からなかっただろう……そう直感していた北瀬は、珍しく対戦しただけの野球部員の名前を覚えていた。

 

それなら場所を譲り渡さなくても良いと考えた北瀬。ついでに強豪校の部員という存在がどんな物なのか、少し気になったので話しかけて見ることにした。

青道高校の生徒が気になっているなら、指導してくれている(?)青道高校の上級生に話しかけてみれば良かったのだが、完全に萎縮していた北瀬は考えもしなかった。

 

実際の所話しかけた場合、別に北瀬を嫌っている訳でもない青道部員は割とフレンドリーに話してくれたのだが。

実際の所、青道高校は強豪校の割に優しい部員が揃っていたのだが、弱小校の空気が漂う薬師高校の先輩に慣れていた北瀬は全く気付かなかった。

 

 

「あっ豪速球の降谷か……何でこんな所に来たんだ?」

「君は……エースの北瀬くん」

『……』

 

降谷は一言だけ話したきり無言に戻ってしまった。

これはもしかして、話しかけてはいけなかったのかも。そう思いつつ、気まずい空気のままも嫌だし退きたくも無かった北瀬は、勇気を出して話しかけ続けた。

 

「……ごめん、話しかけちゃマズかったかな?」

「ううん……そんな事は無いよ……」

「そっかぁ……君もサボりだよね?」

「……」

 

また無言タイムが訪れてしまった。北瀬は安易に、球児にとってよろしくないサボりという言葉を使ったのを後悔した。

 

違う。別に降谷は、サボりというワードに怒った訳ではない。

確かに北瀬は、気力が足りないという球児からしたら完全に怠慢な思考で勝手に休息を取っていたから、相手もそうだと思うのは仕方のない事だ。

だが降谷は、吐きそうな位キツいという感情論ではなくガチで吐いても収まらない倦怠感を減らし、野球を全力でプレーする為に休息を取ることにしたのだ。

だからこれは北瀬のいうサボりなのか分からなかった降谷は、つい思考に沈んでしまっただけである。

 

……今の所部員に恵まれただけ、なんちゃって強豪校の薬師高校なら帰らせた上でお見舞いに来てくれるかもしれないレベルの話だったが、強豪校の生徒だと、それすらもサボりと言われてしまう話である。

 

 

「……違うか。そういえばさ、君も強豪校の選手じゃん。普段どんな事してるんだ? 俺とか弱小校部員だから分からなくてさ」

 

他人との無言に耐えられないが、何を話せば地雷を踏まないか全く分からなくなった北瀬。

彼はどうにか、そういえば最初に話しかけた理由だった気がする、強豪校はどんな事をしてるのかという質問をひねり出した。

……話題自体は問題ないかもしれないが、甲子園出場校の、それも負かした相手に対して弱小校を自称するのは嫌味に思われても仕方ない。

 

運良くというべきか、降谷は基本的に言葉尻まで気にするタイプではなかったので反感を感じなかった。

 

 

「……先輩みたいに。1日、1試合を、全力でプレーするだけ。君達と変わらないと思う……」

 

当然の様に、世界の普遍的な事実を語るように。降谷は毎日全力でやっていると答えた。

君達も強いから当然、毎日夜中まで、体力がなくなるまで努力し続けてるよね。

それ以外の可能性には全く気付かず、降谷にとっての常識を語った。

 

 

降谷にとっては意外だろうが……努力はしているつもりだが、強い意思を持って野球をしている訳ではない北瀬は気圧された。

 

(凄く格好いい事を、なんて澄んだ目で答えるんだ……こいつの目、決勝で戦った成宮みたいな……野球狂いの轟親子みたいな目をしてる)

 

降谷の瞳には既視感があった。

俺が投げる時に見せる、雷市の顔。ふとした時に見せる轟監督としての信念。そして、初めて楽しい野球をさせてくれた、成宮鳴の姿。

 

 

「そっかぁ……凄いな、君は」

 

 

なるほど。こういう奴らが、プロに行くんだろうな。

北瀬は無意識の内に、相手を持ち上げる思考になった。実力だけで言えば、彼も十二分にプロになれる実力があるのだが、それに気付いてすらいない。

 

(こんな奴、俺なんか眼中にないだろうな! だから最初、返事してくれなかったのか)

 

対戦する可能性のある全ての強豪校から熱烈な視線を浴びている事に無自覚な北瀬。

彼は口下手な降谷の事を、眼中に無い奴には反応しないキツい性格のクールキャラだと誤解してしまった。

 

が、北瀬は降谷の事を尊敬し始め、全く好感度は下がらなかった。そもそもいわゆる、努力の天才という奴は眼中にない相手なんて、興味が無い物と相場が決まってると考えていたからだ。

漫画にいるよな、そういうキャラ。北瀬はこの、恐らく自分だけが気まずかった空気に納得した。

 

 

こういう奴らがプロになる。なら、当然俺はプロになれない。

プロ野球選手なんて考えた事も無かった北瀬は、自分の考えた思考を疑いもしなかった。

 

そして、それに悔しさすら覚えなかった。

才能があるのに、将来野球で食べていこうと考えすらしない。そういう弱気で根性無しな思考の弱みを突かれ、序盤稲実相手にバントを決められまくっていたのだが、それを思い付く程スポーツマンとして成熟していなかった。

 

野球に焦がれる第三者からすれば、才能に対しての冒涜だ。運良く天才が入ってくれたといえばそうなるが、彼を自分の息子と同時期に、それも監督暦2年生で指導しなければならない轟監督には多少同情しても良いかもしれない。

 

 

「……?」

「いや、降谷さんには分からないと思うけど。そんだけ野球を真剣にやれるのって凄いと思いまして」

「……別に。君もそうだよ……」

 

高校球児として尊敬できる降谷に対して、無意識の内に敬語を使っていた北瀬。その降谷から北瀬を認める発言が出てきて、非常に驚いた。

 

(この人にそう言われるとは……でもこんな天才に、そこまで言われる程真面目にやってないし……申し訳ない)

 

「そこまでじゃないと思います……降谷さんみたいな人が、プロになるんでしょうね」

「……僕が、プロ……? 勝ててないのに。君はそう思うんだね……」

 

薬師高校に勝ててないのにそう思うのかと、降谷が意外に弱気な発言をしてきた事に驚いたが、北瀬からすれば的外れも良い所だった。

 

(確かに青道高校は俺達に負けたけどさ……降谷さんが打たれて負けた訳じゃないでしょ)

 

彼が最後まで投げていたら、俺達は負けていたかもしれないと分かっているのだ。

評価は人に偏っていて試合の勝ち負けはあまり評価していない北瀬にとって、論ずるに値しない発言なのだ。

だから当然、プロになれると即答した。

 

「普通にそう思いますね」

「……僕は……君も。プロになれると思うよ……」

 

 

降谷は今の北瀬が思うほど孤高の天才ではないし、実力的には格下の相手でも本人なりに真剣に対応してくれる人間だった。

降谷は思った事を話しただけだった。

それは後々、北瀬も分かるのだが。自分にとって尊敬できる選手に言われたこの一言は、北瀬の運命を徐々に変えていく事になる。

 

 

そして……この一言はバッテリー間で、野球への熱意の差を浮き彫りにするきっかけとなる。

 

 

 




練習試合・地区予選・甲子園で戦う学校募集と、新1年生で、薬師高校に入ってほしいメンバー募集を、活動報告でかけています。もし一緒に考えてくださる方がいれば、活動報告に書いてくれると嬉しいです!
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