【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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本日のスタメン選手

1番 流川(ショート)
2番 花坂(サード)
3番 結城(レフト)
4番 三島(ファースト)
5番 パワード(ピッチャー)
6番 桜木(センター)
7番 真田(セカンド)
8番 疾風(ライト)
9番 笠松(キャッチャー)


3年生・甲子園編
179球目 同情


 

 

 

 

最近、3年生になってから守備練習に顔を出す様になった男がいる。

 

 

___バ、コロコロ……

 

「クソッ、取れなかった!」

「今のは惜しかったぞー!」

 

ファーストの打撃専門野手、三島裕太である。何で急に守備をやる気になったのか、多くの部員が疑問に思っていた。

確かにスタメンを取り戻すなら妥当な選択肢なのだが、なぜ今更取り組もうと思ったのか知らないのだ。

片岡コーチの発言を聞いていたのが奥村だけだったので、他の誰にも話が伝わっていなかった。

 

普段はしない動きをして疲れている三島に対して、丁度良いタイミングで水を持ってきた選手がいた。

 

それは、次期エース筆頭候補の綾瀬川だ。

観察力がある彼は、優しい人柄も合わさって色々な人のフォローに回っていた。

 

チームメイトからは、正直自分の練習にだけ集中して欲しいとも言われている。

格上の選手に手間を掛けさせると、逆に疲れてしまう人もいるのだ。

 

 

「お疲れ様です!良ければスポーツドリンクをどうぞ!」

「おっ、サンキュー!」

 

 

三島は軽くお礼を言った後、直ぐに受け取ってゴキュゴキュと飲み干した。思っているより喉が渇いていたのだ。

 

 

「最近三島さんは、守備練習やる様になりましたよね

何か心境の変化があったんですか?」

 

地雷らしき話を突っ込んで聞いてしまった綾瀬川。

悪気があった訳ではなく、只管に間が悪かった。

 

 

「ああ。俺は先に、野手を極める事にした!」

「え、そうなんですか?」

「ガハハハ!ピッチャーでもバッターでも最強になるが、先にこっちを極める事にしたんだ!」

「そうなんですか!確かに1つに絞った方が、実力が上がりやすいですよね!」

 

だが三島は細かい失言を気にする事はなく、大きな声で笑いながら自身の方向転換を告げた。

他の選手達の多くは、確かに野手に専念する方が強くなれそうですよね。前向きにチャレンジ出来ているみたいで安心しましたと考えている。

 

彼は、どんな状況でも後ろ向きという言葉が全く似合わない人間だ。

 

 

 

 

 

 

7月8日、強豪校の薬師や青道などが所属する西東京地区の地方大会が開幕した。

北瀬達はシードなので試合は6日後の14日からになる。

 

帰りのバスで、キャプテンの三島は大きな声で宣言した。

 

 

「ガハハハ!全部コールドで勝ち、気持ち良く甲子園に行こう!!」

「……一応言うけど、決勝戦はコールド無いからな?」

「それ位は知ってるぞ!出来る試合は全部って事だ!」

 

三島と秋葉がバカっぽい会話をしているが、本人達は真面目に話し合っているつもりだ。

常識がズレている人が多いので、分かり切った事でも一々確認しないと後で大変な事になると学んでいるらしい。

 

 

「まあ青道は決勝戦だから、行けるかも?」

「俺達には北瀬さんと綾瀬川の2枚看板がいますからね

そこに投壊打線が加わるんですから、可能性は高いと思います!」

「ガハハハ!俺達は最強だな!!」

 

北瀬と由井も会話に加わり、俺達は最強のチームだと誇っている。

周りからのプレッシャーを一切感じていない様な明るさも、薬師野球部の強みなのだろう。

 

 

大事な公式戦が近づいても、いつも通りの彼らに安心しながら轟監督は大あくびをかいていた。

 

 

「ふあぁあ、準々決勝は青道vs市大だから見に行かねぇとな」

「……確かに、もしかしたら市大三高の紛れ勝ちもありえるかもしれないですね」

「打撃力は今でもけっこうあるんだがなぁ、今の市大はピッチャーがダメ」

「確か……エースは1年の照井でしたよね。そんなに駄目な選手なんですか?」

「まー1年にしては悪くないんだが、今の段階だと西東京所属のピッチャーとしては足りねぇな」

 

監督は隣に座っている伊川に今後の予定を説明しながら、パラパラとスコアブックを確認している。

片岡コーチは別のバスに乗っているから、伊川が隣に座る事になったのだ。

轟監督と強い親交があるのは3年生で、普通に考えたら落ち着いた性格をしている秋葉か伊川を隣に置く事になるので妥当な席割りである。

 

 

 

 

 

 

1回戦の相手は常波高校。

特に目立った選手もいない、毎年1回戦突破を目標にしているチームである。

正直、薬師と当たった瞬間に勝つ事を完全に諦めている。

 

北瀬は弱腰な相手チームを見ながら、普段通りの笑顔でパワプロに話しかた。

 

 

「コレ相手なら余裕だな!」

「ッスね!」

 

ちょっと酷い事を言っているかもしれないが、実際楽勝だから仕方ない。

地方大会1回戦突破が限界みたいなチームに、今の薬師が負ける筈もないのだ。

 

対して1年生の桜木は、大層気合を入れて試合に挑もうとしている。

 

 

「夏の甲子園を掛けた大事な初戦!この桜木花道が最高の活躍で、このチームを勝利に導いて……!」

「いや、何があっても負けようがないっしょ」

「何を言うのかね!こういう時こそ、勝って兜の紐を締めよと言うだろう!」

「紐じゃなくて緒だからな?」

『へー』

 

空回りしそうな程やる気を出している桜木を宥めている、黄瀬と笠松。

但し本当に緊張しているのは、センターの桜木ではなくキャッチャーの笠松な様だ。

練習中も偶にパワプロ先輩の荒れ球を落としている彼は、初の高校公式戦キャッチャーとしての重圧に飲まれていた。

 

地方大会1回戦といえど、甲子園春夏連覇校の薬師として注目されている事も大きいだろう。

類まれなる観察眼でそれに気付いた伊川が、彼の背中を軽く叩いた。

 

 

「最善のリードなんてしなくて良いぞ?この程度の相手なら、俺達の実力でゴリ押せる

普段の半分の実力を出せれば余裕な相手だし、滅茶苦茶やらかしても奥村達が何とかしてくれる……だから、楽しく野球をしよう!」

「あ、ありがとうございます」

 

あまり関わりのない日本最強格の先輩から唐突に話しかけられた笠松は、自分が緊張している事を自覚した。

冷静に勝てると判断している理性と、自分へのプレッシャーは別物だと気付いたのだ。

実力に関係なく出場機会が減らされているにも関わらず面倒見の良い先輩に感謝しつつ、俺とパワード先輩の実力を最大限発揮してやろうと内心燃えている。

 

そんな彼を見て伊川は、失敗した時に凹まなきゃ良いけどと少し心配していた。

彼は割と悲観的な性格をしている。

 

ちなみに……1年生キャッチャー笠松の過度な緊張に綾瀬川や黄瀬も気付いていた。

だが綾瀬川は人の事を気にし過ぎな性格から逆に励ませず、黄瀬は根本的に笠松に興味がないので気付かなかった事にしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

1回表、薬師高校の攻撃は1番流川。

薬師高校の1年生バッターとして最強クラスの実力を持つ、ユーティリティプレイヤーだ。

他の甲子園クラスのチームなら、1年生の内にスタメンを狙えたかもしれない実力を持っている実力派。

……正直、最初から活躍したいと考えていた彼は高校選びに失敗していると思われる。

 

ちなみに会場中の誰も気にしていないが、常波高校のエースピッチャーは3年生の池尻。

2年前に烏野高校の主将をやっていた澤村の後輩らしい。

彼は親の転勤で東京に引っ越して来て、なあなあで野球を続けている凡人だ。

 

 

___カッキーン!

 

『わあぁ!』

 

実力に天と地ほどの差がある為、初球からホームランをぶちかました流川。

迷いが全くない美しいスイングをした後、ボールが何処に飛んだか確認もせずに確信歩きをしていた。

 

 

「流川!カッコつけてんじゃねー!」

「うるせーどあほう」

 

「来年の薬師も安泰だなぁ!」

「流川楓はリトルからチェックしてたんだよ!!」

「守備は劣化してそうだけどな!」

 

桜木がベンチからいちゃもんを付けているが、彼は気にせずにスタスタと歩いている。

流石はリトル時代からの有名選手なだけあり図太かった。

 

 

 

 

ノーアウトランナー無しで、打席には2番花坂。

薬師野球部の2年生として考えても、そこそこの打撃力を持つ選手だ。

他校ならクリーンナップ級なのだが、あまりの選手層の厚さによって控えに甘んじている。

取材で分かる自信の無さからネットでは不憫な選手だと言われる事もあるが、彼がここまで成長したのは薬師野球部に入ったからなので仕方ない事だろう。

 

 

___カキーン!

 

彼もツーベースヒットを放ち、観客達に初回大量得点の予感を与えた。

 

 

「ナイス花坂!でも次はホームラン打てよ!」

「ナイスバッティング!これからもこの調子で頼むぜ!」

「えっ、ホームラン狙いの方が格好良くね?」

「……アイツはパワーあんまりないから難しいだろ、変な癖を付ける位なら今のミート打ちに徹する方が強い」

「そんなもんかー」

 

北瀬と伊川が今更な事を話している間に結城がホームランを放っていた。あまりにも展開が早すぎる。

これが薬師の投壊打線。平凡なピッチャーを相手にすれば100得点は硬いと言われる史上最強の高校生達だ。

……まあ守備力は甲子園史上最弱なのだが。

 

 

 

 

「ガハハ!今日は10回ホームラン打ってやるぜ!」

 

ノーアウトランナー無しで、打席には4番三島。

無茶苦茶な事を言いながら威風堂々とバッターボックスに立っている。

ある意味ではチームメイトの打撃力を信頼していると言っても良いのかもしれない。他の選手が強くなければ、10回も打席が回ってくる訳がないので。

 

 

___カッキーン!!

 

『わあぁ!』

 

「三島エグいわ!」

「コイツが4番じゃないとかおかしいだろ!」

「よぉ飛んだなぁ……」

 

案の定、初球から場外への特大ホームランを放った。

弱小校相手なのに割と多い観客達が、ワイワイガヤガヤと盛り上がっている。

 

 

「キャプテーン!ナイスホームランです!」

「カハハハ!ナイスホームラン!!」

「やっぱカッケー!」

「太平だって打てるさ!」

 

薬師ベンチも楽しげな観戦ムードだ。贔屓のチームが大差勝ちしている時の様な雰囲気が感じられる。

負けると1ミリも思っていないから、甲子園に繋がる大切な試合で余裕をかましていられるのだろう。

まあ同格の強豪校相手でも、薬師高校の上級生達は楽しげに野球を続けるだろうが。

 

 

 

 

 

 

薬師高校の攻撃は一周しても止まる気配を見せず、最終的に1回表で15点先取した。

会場中は完全に彼らの圧勝ムード。轟監督はこっそり、全くこの試合と関係が無い資料の確認作業に移っていた。

いくら何でも舐めプ過ぎるが、確かに何をやらかしても負けそうにないから仕方ないのかもしれない。

 

常波高校とは、他のベンチメンバーに経験を積ませる事すら出来ない実力差がある。

というか今回の虐殺劇は、スタメンを殆ど入れ替えた上での結果だからこれ以上はどうしようもない。

 

 

既にコールドの点差が付いているが、5回までは戦わなければいけないので薬師高校は守備に付いた。

マウンドに上がったピッチャーは、4番手のパワプロくん。恐らく監督は、プロに行かせる為に速球を見せつけようとしているのだろう。

ちなみに予想では、弱小チームならパワプロの投球を見た瞬間避けてくれるだろうと思っている。

 

 

___バシッ!

 

「ひええぇっ……」

「ボール!」

 

キャッチャーは外角高めを指示していたが、初っ端から逆球が飛んでいった。

危うく頭部に当たりそうだった155kmに、相手バッターは完全に戦意を喪失している。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、ツー!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!!」

 

常波高校の1番バッターはルール上許される限界ギリギリまで外側に立ち、バットを振る素振りすら一切見せなかった。

身体に来たら避ける事に全神経を注いでいたらしい。

 

さぞかしキャッチャーは楽が出来るだろうと思いきや、笠松は何処に飛んでいくか分からない荒れ球に大層苦戦していた。

普段からパワプロ先輩はコントロールが酷いのに、輪をかけて制御出来ない豪速球に振り回されているのだ。

高校初の公式戦で後逸しそうな予感に、彼は冷や汗を滲ませている。

 

 

「ガハハハ!アイツの荒れ球は、この俺ですら絶対打てるとは言えんからな!」

「ストライクゾーンに来るかも分からないしな……」

「パワプロー!頑張れー!」

「多少遅くなっても打ち取れる!だからストライクゾーンに入れてくれ!」

「おいパワプロォ!全力出せなんて言ってねぇぞ!」

「…………」

 

 

 

 

何回かの後逸がありながらも試合は淡々と進み、30-0で圧勝した薬師高校。

常波野球部の選手達は、殆どバットを振ってすらいなかった。

彼らは完全に腰が引けていたが、態々見に来ている観客達はヤジを飛ばしていなかったという。

 

寧ろ怪物球威を持ったピンボール投手と不幸にも当たってしまった弱小校に、同情している雰囲気すら出していた。

ガラの悪い人も多い高校野球ファン達にしては、珍しく人道的な反応だと言えるだろう。

それだけ彼の投球は、観客達に生命の危機をひしひしと感じさせていたのかもしれない。

まあ打者はヘルメットを被っているから死にはしないと思われるのだが、それでも大多数の観客達がバッターに同情する程のボール球祭りだった。

 

そんな微妙な勝ち方だったが、薬師部員一同は勝って当然だなという余裕な空気を醸し出しながら、ダラダラと撤収作業をしている。

 

 

「いやー笠松、ナイスリードだったぜ!」

「……俺は、何も出来ていないと思います」

「いや、俺はパワプロの逆球祭りを3後逸で済ませたのは良かったと思うぞ!」

「ヒデーっす!俺だって頑張ったんすよ?……もし計測してたら155km何回も出てたと思うんで!」

「パワプロは速球に拘るより、死球を無くした方が良いと思うけどな」

「やっぱ秋葉もそう思ってたか」

 

凹んでいる笠松を慰める筈が、参考試合とはいえ零封したパワプロのダメ出し大会になりつつあった。

初球から無駄にデッドボールを当てかける彼が大体悪いのだが、薬師野球部の求める水準が高く成り過ぎている面もあるだろう。

彼は全く気にしていないのが幸いである……いや、もう少し普通の感性をしていたらコントロールが良くなってくれたかもしれないので、本当に良い事なのかは分からないが。

 

ちなみに、薬師部員達どころか試合を見ていた観客達の話題すらも、試合の展開ではなくパワプロの制球ガチャに乗っ取られていたらしい。

残念ながら常波高校が弱すぎて、それくらいしか見所が無かったのだ。

 

普通に考えたら155kmのストレートは怪物扱いの筈なのに、残念ながらパワプロは珍獣の様に周りから言われていた。

多分この扱いは、エースが世界最速の173kmを記録しているせいだろう。

ベンチ入りメンバーは基本的に気にしていなかったが、薬師野球部は凡人のやる気を根こそぎ枯らしかねない魔境になっている。

 

 

 

 




ちなみに三島キャプテンは流石に10回ホームランは打てませんでした
ですが、もし故意三振をせずに全員打ち続けていたら出来ていたと思われます
無駄に疲れるだけなので有り得ない仮定ですが
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