【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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180球目 降谷side

 

 

 

 

 

自分の球を受け止めてくれる捕手などいない中学時代、降谷暁は孤独だった。誰もが彼から遠ざかる中、いつも無機質な壁にボールを投げる毎日を送っていた。

 

降谷暁がわざわざ西東京の青道に入学した理由はただ1つ。雑誌で見た、御幸一也という捕手の存在だった。

そのため、御幸が自分の捕手になってくれるという期待だけが彼を青道へと駆り立てていたのだ。

 

青道に入学してからの日々は想像以上に厳しかった。

周りには才能ある選手が揃っていて、だからこそ降谷もまたその一員として認められたいという強い思いがあった。

しかし一見クールで無愛想な降谷は、チーム内でも馴染むことが難しく、自ら一匹狼のように振る舞うことが多かった。

とはいえ彼は根っからの天然ボケであり、気が抜けた発言や行動で無自覚に周囲を困惑させることもしばしばだったが。

 

 

 

 

___バシッ!

 

「なんやあの球?!」

「150km出てるんじゃないか?!」

「圧倒的エース不在の青道に救世主が……!!」

 

入学早々、降谷はその圧倒的な球速とキレのある変化球で周囲の注目を集めていた。

多くの者が1年でベンチ入り、2年生でレギュラーという夢を持ちながら3年間背番号1度も与えられず去る中で、あっという間に1軍の背番号と次期エースの座を手に入れたのだ。

 

高校球児の誰もが羨ましがる様な才能を持った彼だが、同時にチームの中での居場所を見つけることに苦労していた。

試合中のミスや自分の不調に焦りを隠せず、表情こそ変わらないものの内心では激しく感情が揺れ動いてしまうのだ。

無愛想ながらも、誰よりも熱い闘志を持ち、マウンドに立つたびに自分の全てをぶつける降谷。

圧倒的な力を見せつける中でしかしその強い気持ちは時に空回りし、うまく行かないことも多かった。

 

 

1年目の夏、地獄の合宿を潜り抜けて降谷は初めての公式戦で青道の一員としてマウンドに立った。

結果立ち上がりの不安定さから失点を許し、試合によって好不調の波が激しい投球を見せる。

野球への執着が強い降谷は、失敗するたびに悔しさで胸が締め付けられるようだったが、自分から周囲に助けを求めることはなかった。

練習や試合での悔しさは、彼の中にさらに強い闘志を宿らせていたが、どんなときもマウンドに立ち続けることでしか発散できなかったのだ。

 

 

 

 

夏の地区大会が始まった頃、紆余曲折ありつつも青道高校は強豪らしく順調に勝ち進んでいた。

3回戦が始まる時、青道野球部は次の対戦相手の情報収集のため、センバツ出場校・市大三高と無名校・薬師高校の試合を偵察することに。

薬師はこれまで目立った成績を残したことのない学校であり、今年監督が代わり強打のチームへと生まれ変わったものの守備力が弱小据え置きだったので、先輩達もそれほど警戒していなかった。

 

しかし試合が始まると薬師のクリーンナップを務める轟雷市と主砲北瀬が豪快なホームランを放ち、他の面々も凄まじい猛攻を見せ、まさかの薬師が市大三高にコールドで勝利。

その時の青道のエース、丹波先輩の顔は……きっと忘れることは無いだろう。

 

 

 

 

特に轟のパワーと気迫が目立っていた試合後、降谷と沢村は球場の外でまだ素振りを続けている彼の姿を目にした。

 

(試合が終わったばかりで、もう素振り……!?)

 

降谷が驚く中で、沢村も感心したように頷いている。

その時、不意に二人の耳に聞き覚えのない声が響いた。声の主は薬師のユニフォームを着た一年生の北瀬涼と伊川始である。

 

 

「監督! 取材の方が探してますよぉ!」

「まったく、何で俺と北瀬で探さなきゃいけないんだよ……試合直後だぞ」

「まあ俺達合わせて5エラーしてるし偉そうな事は言えないけど。あれ、君達はたしか青道の……人だよね。何で隠れてるの?」

「いやぁ、なんとなく……」

「てか、何で俺達まで隠れてるんだ?監督達探しに来たのに……?」

 

彼ら2人組は轟親子を探しに来ている様で、轟親子達の様子を勝手に観察していた降谷たちは咄嗟に物陰に隠れた。

それを見た北瀬達も、降谷達に倣って気配を消そうと後ろに隠れた。

何故か成り行きで5人揃って物陰に隠れながら、薬師の監督と選手たちの会話に耳を傾ける。

 

 

「市大三高のエース真中を打ち砕いたんだし、あとは稲城実業、成宮鳴ぐらいしか敵はいねぇな」

 

雷市の父であり、薬師高校の監督でもある轟雷蔵の声が響く。

彼はまるで他の高校は眼中にないかのように語り、息子の雷市もそれに応えるように不敵に笑っている。

降谷達はその会話を聞いて、無意識のうちに拳を握りしめた。

 

トーナメントで進めば、青道は稲城実業よりも前に当たる。

にも関わらず彼らの会話からは、まるで青道が彼らの視界に入っていないような印象を受けた。

心の中にくすぶる悔しさが広がっていく。

 

 

「へぇ、ナルミヤって人そんなに強いんだ……でも正直、戦いたくないよなぁ」

 

北瀬が気怠そうに言い、軽く肩をすくめた。

ライバルチームの選手の飄々としたその言葉に、降谷達の心は更にざわついた。

 

降谷は自身の速球に絶対の自信を持っていたし、それを受けてくれる捕手の御幸を尊敬している。そして、いつか成宮鳴を超える投手になるという強い意志を胸に秘めている。

だがそれをまるで面倒だと言わんばかりに軽々と口にする北瀬の態度に、強烈な違和感と反発心を覚えた。

 

守備でこそ散々だったが試合での打撃陣の凄まじい姿から、薬師の選手は皆、野球に対して真剣で熱心なのだろうと青道高校の選手達は思っていたのに……目の前の彼はまるで違う。

だから3人の中で、彼の存在は何とも言えない引っかかりを残したのだ。

 

「ほら、轟親子呼んでこないと。それじゃ、青道の皆さん、またね!」

 

そんな空気ををものともしない北瀬は、降谷達に手を振り去っていく。

そのあまりにも軽い態度に、降谷達はただただ呆気にとられるしかなかった。

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……ったく、よくもまあ舐められたもんだよな。俺たち青道があそこまで見くびられてるなんてよ!勝ち上がってきたらクリス先輩直伝の俺の球でぶっ潰してやるぜ!」

 

青道でグラウンドで共に猛練習をしていた沢村が、苛立ち混じりに言い放った言葉に、他の選手達も賛同している。

青道に戻ってから彼らの会話を思い返す度に、打倒薬師の思いは胸の中でより一層燃え上がり、次期エース筆頭の降谷も次の試合に向けて静かに闘志を燃やす。

自分たち青道がここまで見くびられていることへの苛立ちと共に、無表情の裏で燃え上がる闘志は彼の中でますます強くなっていった。

 

そしてその後、準々決勝で青道と薬師はついに対戦することとなった。

小湊君が喋ったのか、単なる最後の夏がかかった対戦相手というだけでない風の熱気で先輩方も燃えている様に見える。

 

 

だが降谷がこの時の事を振り返った時、彼等があんな風に言ったこともある種仕方の無いことだったと思い直したという。

だって、西東京で、いや今の高校野球で1番強い投手が誰なのか……既に薬師の彼等は知っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

僕らの前に立ちはだかったのは、やはりあの薬師だった。

正直青道高校のメンバーは、この時まで彼のことはただの強打者だとしか思っていなかった。あの飄々とした態度も、打撃力に自信を持った最上位クラスのスラッガーの1人故だと。

 

北瀬がオーダー表に投手と記載されているのを見た時。青道は驚きを隠せなかった。彼の事を全く投手として意識していなかったからだ。

 

薬師の投手といえば、エース真田を軸に他の投手が交代で投げている印象。

だから、エースのスタミナ節約を考えた野手から最低限の仕事が出来る投手起用だと見ていた、しかし……

 

 

「ひゃ……159km!?」

 

その空気を変えたのは、彼が投げたたったの一球。

僕らのベンチはざわついた。その球威は凄まじく、青道の打者たちはまるで未知の存在に直面したかのように動揺していた。

 

あまりにも唐突に表れた日本最速投手という存在を前に誰もが打ち崩すなんて無理だと感じた。数々の変化球と速球だけで圧倒する姿に僕はただ圧倒されていた。

 

 

「何してる降谷、早くマウンドに行くぞ!」

「……!!ハイ!!」

 

異次元のピッチングに圧倒される暇もなく、あっと言う間に青道高校のの攻撃が終わってしまい心を整理出来ないままマウンドに立った。

 

1番の秋葉くんが、僕のストレートに仰け反ることなく粘る。

最後は三振に仕留めたが、無名の1年生とは思えない気迫を見せつけられた。

次の伊川くんには、彼の速球が頭をよぎったせいか、コントロールを乱して四球を与えてしまう。

 

そして3番目の打席には轟雷市。

誰が見ても一目で分かる、強打者そのものの風格を持つバッターだ。彼の豪快なスイングには、一発でゲームをひっくり返す威圧感がある。

高めの速球で釣ろうとしたがあわや本塁打のツーベースを打たれてしまった。

 

 

「雷市ー!ナイス2塁打!」

「行ける!俺達なら行ける!!」

「北瀬も頼んだぞー!!」

 

初回からピンチを迎え、次の打者は北瀬涼。

打撃もピッチングも高校生とは思えない程にずば抜けていて、まさに薬師の真エース。

 

 

___カキーン!

 

「アウト!ゲッツー、スリーアウトチェンジ!」

 

北瀬の打球はショート正面。飛び出していた轟を併殺で仕留め、なんとかピンチをしのいだが……

僕は冷や汗が止まらなかった。

まだ試合は始まったばかりなのに、まるで最後のような疲労感が押し寄せてきた。

 

ここまで1つ気づいた。彼等はこれまでの相手は全く違う……薬師野球部の彼等は、誰1人として僕を「怪物投手」として見ていない。

彼等は己のバットに絶対的な自信を持っていることは今更言うまでもない事だけれど、まるで平凡な投手の1人を相手にするかの様に、僕を打てる相手だと認識している。

舐められたものと奮い立たせるべきなのだろうけれど、あの圧倒的な球威を見せつけられた後でそれは難しかった。

 

 

 

 

その後もなんとか薬師の下位打線を抑えながらも、僕のスタミナは打線の圧力もあり限界になってしまう。

沢村君やノリ先輩にマウンドを託すと、次々と薬師に点を入れられていく。

 

確かに北瀬くんはは投球能力だけなら高校最強と言っても過言ではなかったけれど、守備と伊川くんの稚拙なリードが足を引っ張り、僕達も得点を重ねることができた。

それでも、薬師の一人一人の常識外れの打撃の破壊力に、試合の流れは完全に薬師に傾いていた。

おまけにこちらと違って彼は息が上がる気配すら全くなく平然としていて、マウンドから降りてくる気配がない。

 

 

「なんだよ、あれ……どうしたら……!」

「こんな投手がいたなんて聞いてねえぞ!?降谷より早えし、おまけにコントロールも変化球の精度も桁違いだ!」

「それでウチでも余裕で主砲張れる1年アーチストってか?全盛りじゃねえかこの野郎」

「あんな凄いピッチングを台無しにするポンコツが捕手なのはなんなんだ……?なんでこんなやつを相方に据えてるんだ……?」

「ってか、薬師の守備力が青道の2軍程度もあったら今頃コールドなんだけど。やばすぎだよ色んな意味で……」

 

彼の速球は160km近く、鋭く曲がるスライダーと驚異的な変化球の数々で青道打線を次々と封じ込める。

僕の視線は、北瀬くんが繰り出す速球に釘付けになった。

 

これは、ただ球速に任せただけの投球じゃない。

相手のミットに完璧に投げ込むコントロールに加えてこのノビ、更にはバットに振れた時のありえない衝撃、他の人とは球質があまりにも違う。

 

別次元の力で青道打線を次々と封じ込める大エースの投球に、強いショックを受けた。

これまでの偵察では全く見せなかった実力。彼がマウンドに立てば、あれほど頼もしかった先輩達の様な強力な打者達でさえまるで歯が立たない。

足を引っ張る捕手のリードとエラー祭りが無ければ、点を取るどころか出塁すら困難だった事だろう。

 

 

 

 

最後の打席に立ったのは下位打線の白洲さん。

薬師の守備力の低さから逆転のチャンスもあったが、結果は無情にも薬師の圧勝だった。

 

14対9で強豪青道は完敗。僕達は、奇跡を起こせずに試合を終えた。

そしてこの瞬間、結城先輩や伊佐敷先輩に小湊君のお兄さん、増子先輩に坂井先輩を始めとした3年生は公式戦を完全に引退。

もう2度と、このチームで戦える事は無くなった。

 

 

『ありがとうございました!!』

 

試合後の挨拶を終えた後、僕達のキャプテンの結城先輩が薬師高校の3年生に近付いて激励を掛けた。

 

 

「おめでとう、てっぺん取ってこいよ……小林」

「あぁ、俺の名前知ってたんだ……」

 

何とも言えない相手の反応を尻目に、強豪青道高校の夏は終わった。

次は頼りになる先輩達抜きで、絶対的エース北瀬くんが率いる薬師高校に勝たなければならない。

 

負けてしまって、凄く悔しかった。

それ以上に、自分と同年代の選手に引き離されていると全く気付いていなかった事が情けなかった。

そして、大切な先輩達の夏を終わらせてしまった事が飲み込めなかった。

 

こうして、僕の1年目の夏が終わった。

 

 

 

 

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