【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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184球目 有名

 

 

 

 

準決勝まで残ったのは、甲子園優勝候補筆頭の薬師と今年の春の甲子園準優勝の青道、昨年の春の甲子園準優勝の稲城実業に、これらのチームと同格扱いされている市大三高。

どのチームが優勝しても十分甲子園で戦えるだろうと言われているが、やはり観客達が1番応援しているのは薬師高校である。

 

甲子園打率10割を記録した怪物に、1年生の頃から長距離砲として名を轟かせていた怪物、そして世界最速172kmのストレートを投げる怪物の3人が所属する薬師を、甲子園でまた見たいと思っている人は多い。

 

 

今から戦うのは、青道高校と市大三高。

大方の観客が、158kmの豪速球エース降谷と変化球7つ持ちのサウスポー沢村が所属する青道高校が勝つと睨んでいた。

だが、勝負に絶対は無い。多少の有利不利は、試合の流れによって覆る事があるのだ。

だから薬師野球部は珍しく、しっかりと偵察するムードで観戦しようとしている。

 

テンション的にはエンジョイ系に近い部活ではあるが、やはり甲子園に出たいという気持ちは全員にあるらしい。

実質高校生から野球を始めた北瀬や伊川ですら、地方大会を必ず勝ち抜かなければならない通過点として見ている。

これは、環境が人を作る典型例だろう。

周りが野球狂ばかりだからか、大切なチームを良い形で存続させる為に戦わなければとかなり思っている。

 

 

「青道か市大三高か……どっちかって言うと降谷さん達と戦いたいなぁ!」

「俺は市大三高の方が良いな。楽そうだし」

「そう言う事こんな所で言っちゃダメだろ、前も片岡コーチに怒られたじゃん!」

「小声で言ったから、北瀬以外には聞こえてねぇよ」

 

北瀬と伊川は普段通りのテンションではあるが、目はしっかりグラウンドの方を向いている。

彼らは興味がないチームの試合では最初から爆睡体勢に入るので、ちゃんと見る気はあるのだろう。

それに、2人の手にはピザとポテトとフローズンドリンクがあり、楽しみ尽くす気満々だと分かる。

 

……高校球児なのに、堂々と食事をしながら観戦出来る所が薬師らしい。

良くも悪くも、人に迷惑を掛けないなら何でも自由にして良い雰囲気のチームなのだ。

通常練習時間は通常の強豪校より1日あたり4時間位少なく、下手な弱小校に入るより自由に活動出来る野球部だった。

まあ遊び呆けた結果、実力が伸びなくても自己責任な所が怖い話だが。

 

 

 

 

後輩達も、先輩達が屋台で堂々と買っている姿を見て触発されたのか、手に食べ物を持っている人が多い。

5月頃は一分の生徒が申し訳なさそうにコソコソと食べていたのだが、今では多くの生徒が堂々と食べている。

 

シニアでは目立っていたとはいえ今は2軍の1年生である木兎と、妙に気が合うらしい同期の赤葦は焼肉弁当を仲良くシェアしていた。

本当は1人で全部食べられる量だが、少ない小遣いで捻出するには高過ぎたらしい。

具材やお米を綺麗に半分に分けた後、赤葦の分はは弁当の蓋に移し替えている。

 

 

「セイドウvsイチダイサンコー!楽しみだな!!」

「うん。どっちも全国に名の知れた強豪校だから、凄い試合になりそうだよね」

「オレ、甲子園の決勝戦は見たぜ!サワムラセンパイのバントが凄かったよな!……2得点だっけ?」

「うん、バントランニングホームランが2回も出てた……今の薬師なら起きないだろうけど、あれは衝撃的だった。俺がピッチャーだったら、進学するの躊躇したかも?」

 

高校生になってからは誰にも言っていないが、実は赤葦は木兎に憧れて薬師高校に入学している。

だから彼が青道高校に入っていたらそっちに行っただろうし、白龍に行っていたらそっちに行っていたのだ。

そういうチーム選びをした彼は、こんな雰囲気が良いチームを選んでくれた木兎に勝手に感謝している。

 

 

「そぉ?確かに守備は悪いけど、1番強いチームじゃん!推薦来た時、オレの時代キター位に思った!!」

「甲子園3連覇校だしね。シニアで大活躍だった木兎でも、選ばれるかギリギリだったと思う……ちなみに、何で選ばれたとかってあるの?」

「んー、何か言ってた気がするけど分からなかった

まぁどんな選ばれ方されてても、推薦くれた中で1番強いチーム選ぶつもりだったし関係ねーけど!」

「へー……」

 

超強豪校から推薦が来た理由を覚えていない木兎。

彼はなぜ選んでくれたのかよりも、どのチームから選ばれたのかを重要視している。

 

中学生の頃の彼は、甲子園に行ってるチームに誘われたいなー、どっちにしろ勝ちまくれば関係ないけど!でも強いチームに行けば、強い奴と一緒に試合出来るしなぁと考えていた。

だから高校最強と謳われる薬師野球部からのオファーが来た瞬間、他の選択肢は一切考えずに即決したのだ。

 

木兎の所属していたシニアは東東京大会ベスト8の常連。

強いと言えば強いが、全国に行ける程ではない感じのチームだった。

波に乗った時は優秀なピッチャーとはいえ、調子を崩すと非常に脆い性質もあり、どんな高校から推薦を貰えるかは全く分からなかった。

どこからも声を掛けられなかった場合、修北高校に行く事になっていたらしい。

 

修北高校は、口さがない人からは地方大会ベスト4入りが目標と揶揄されるチーム。

最近の話題と言えば2年前、青道高校のエース丹波にデッドボールを当ててしまい大会直前に負傷させた事位しかない。

木兎の所属していた丑三シニアは、修北高校と連携しているらしい。

丑三シニアに所属している生徒の実力から考えて、妥当な提携先だろう。

彼は薬師高校から推薦が来た瞬間忘れたが、修北高校の監督から熱心に誘われていたらしい。

 

良く言えばしがらみがない、悪く言えば頼れる身内のチームがない薬師高校は、なりふり構わずに今まで関わりのなかった強豪シニアから引き抜きを掛けている。

 

 

 

 

 

 

青道高校vs市大三高の試合が始まった。

1回表、市大三高の攻撃は1番センターから。

対して青道高校のピッチャーは、9番の沢村栄純。今回はエースではなく、2番手投手を登板させたようだ。

 

 

___ガギ

___バシッ

 

「アウトォ!」

 

 

___バシッ

___ブォン

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

 

___ガギン!

___バシッ

 

「アウト、チェンジ!」

 

初回から良い立ち上がりでスリーアウトチェンジ。

試合を一緒に観戦している友部、パワプロ、黄瀬は思わず唸っていた。

 

 

「いやーあのピッチャー、そこそこ球速いし意外と強いんじゃないッスか?俺負けてる気がするっす……」

「知らねーの?あの沢村さんって投手、甲子園決勝で投げてたスゲェ選手だぞ?そりゃあ野球始めたての黄瀬じゃ勝てねーよ」

「変則……普通とは違う動きをする球を投げるサウスポーで、他のチームならエースだったって有名なんだ」

「へー、確かに変な曲がり方してるっすね」

 

黄瀬の無知が過ぎる発言に、パワプロと友部は呆れながら解説してあげている。

友部は最初、変則サウスポーと端的に説明しようとしたが、よく考えたら黄瀬に言っても意味が分かるのか不明だったので分かりやすい言葉に言い換えたオマケ付きだ。

薬師野球部はバカが許される環境である。

 

 

 

 

1回裏、青道高校の攻撃は3番金丸がヒットを打つも後が続かず、初回はお互い無得点で終わった。

2回表は市大三高の主砲がヒットを打つも、その後は沢村がピシャリと締めて得点ならず。

2回裏は5番東条と6番沢村のヒットでノーアウト1・2塁になったが後にダブルプレーで凌がれてしまい、またも得点なし。

3回と4回は両者ともノーヒット、硬直状態のまま試合が進んでいる。

 

 

そんな緊迫した試合を見て、なぜか薬師の絶対的エースは不思議そうな顔をしていた。

 

 

「あれ、青道の圧勝だと思ったんだけどな?」

「そりゃピッチャーの実力で言えばそうだけど、バッターは同じ位だし。つーか、市大三高の方が若干強い?

まあ俺達程の打線じゃねーし、1点勝負になってもおかしくねぇだろ……そうなってくると青道のマグレ負けも有り得るかもな」

「えー、なんかヤダな」

「ま、そうなったら楽させて貰えたと思えば良いさ」

 

 

 

 

5回表、市大三高の下位打線はフルカウントまで粘りつつも凡退。5回裏、青道高校の下位打線も単打を出しつつ後ろは続く気配を見せない。

甲子園を掛けた決勝戦で当たる相手として、薬師高校はこの試合に対して注目しているが……火神や黄瀬といった脳筋選手は、もはや沢村栄純の投げる所にしか注目していなかった。

 

 

6回表、市大三高の攻撃ではツーベースとエラーが絡んで危うく失点しかけていたが、キャッチャー狩場の傍目からは落ち着いている様に見えるリードで本塁を踏ませない事に成功していた。

後に彼は、「沢村の安定したピッチングに助けられた。正直俺は動揺していた」と語っているが……真相は不明。

 

6回裏、青道高校の攻撃は1番から。

ワンアウトランナー無しで2番小湊がヒットを打ち、本日ノーヒットの主砲、降谷暁に打席が回った。

 

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

 

結果的に、それが勝負の分かれ目だった様だ。

市大三高1年生エース照井の失投を逃さず、落ち着いたスイングで柵越えの一発を放った。

 

北瀬と伊川、ついでに彼らの後ろの席で観戦していた由井と太平も歓声を上げている。

 

「さっすが降谷さん!これは決まっただろ!」

「まぁ例え巨摩大でも、今の青道から3回3得点は難しいだろうし……決まったな」

 

6回裏の時点で、青道高校の勝利を確信している伊川。

沢村と降谷の実力を鑑みて、2点差あれば99%勝てる。楽勝だろうと冷静に喜んていた。

本人自体は楽に勝ちたいと思っているのに、結局親友の意思を優先するあたりが伊川らしい所である。

 

ちなみに当の北瀬は、まだ青道高校が勝つと信じきれていなかった。

自分の予測能力に自信が持てない上に、嫌な事は起こりやすいと未だに思っているのだ。

まだまだ彼は、極亜久中学の呪縛から解き放たれてはいないらしい。

何やかんや、意外と伊川の方が今はフリーダムに日常を送れている可能性がある。

 

 

 

 

 

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