【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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185球目 聖地

 

 

 

「さっすが降谷さん!これは決まっただろ!」

「まぁ例え巨摩が戦ってても、今の青道から3回3得点は難しいだろうし……決まったな」

 

降谷の一発を見て、どちらのチームが勝つか大方予想が付いた彼ら。

青道贔屓ではない後輩達も、試合の行方はは決まったなと思っている。

 

 

「もし沢村さんが急に崩れても、後ろには降谷さんがいますしね。順当に勝つと思います……凄く今更なんですが、何で北瀬さんは降谷さんの事を敬語で呼んでいるんですか?」

 

そんな空気の中、前々から割と気になっていた事を今更聞く由井。

北瀬さんは怖い先輩でもないからいつ聞いても良かったけど、タイミングを毎回逃して知らないままになっていたのだ。

ちなみに太平は聞いたから知っているが、周りに吹聴していないので下級生達は知らないままだった。

 

「うーん、俺が野球を真剣にやるキッカケの1人だから……かな?

1試合を全力でプレーするだけなんて本気で言われたのは初めてだったし、君もプロになれると思うって言ってくれたのも驚いたしね

高校生になるまで1人で頑張って来たって聞くし、やっぱり尊敬はするよ。俺は、伊川がいなかったら野球続けてなかっただろうし」

「…………俺は、北瀬さんも野球に人生を掛けていると知っています。先輩はきっと、もし薬師高校に来てなくても結局野球をやっていたと思いますよ」

 

ここまで来れたのは偶然だと思い込んでいる北瀬に対して、由井は慎重に言葉を選びながら反論した。

信じて付いてきた、誰もが認める大エース本人が彼自分の事を認めていないのが嫌だったのだ。

 

彼は由井の言葉を聞いて、何かシリアスな空気だなとボンヤリした事を思いながら真面目な顔をして相槌を打った。

結局、自分の発言の影響力を把握仕切れていないのである。

 

 

「そうか?」

「確かに中学でも高校でも、野球に誘ったのは北瀬からだったしな。昔から何やかんや好きだったんだろうし、あんま気にしなくても良いんじゃねぇの?」

 

実質高校から野球を始め、他の選手と比べて中学以前の時間を含めると練習量が少ないのに勝ち続けている事を、無意識に若干気にしている北瀬に気付いている伊川。

だから由井の発言に乗じて、親友の悩みを吹き飛ばそうとしていた。

 

そんな発言を聞きながら、太平は伊川に対してもフォローを入れた。

 

 

「まっ最初の動機が何であれ、北瀬先輩と伊川先輩がスゲー強い事は確かですよ!」

「ありがとな!」

「うーん、否定はしない」

 

見ながらとはいえ、今の試合とは脱線した話をしてしまっている彼ら。

まあ誰も知らない事ではあるが、いわゆるパワプロの友情トレーニングと思われる選手達の好意的な感情に左右される経験値上げ能力にはプラスな行動なので、結果的には問題ないのだろう。

 

せっかく会場まで来た試合を見ずに薬師高校の選手達の話を聞いていた人は、舐めプしている彼らに呆れつつ偶に出る爆弾発言に驚愕していた。

いわゆるOBや関係者が殆どいない薬師野球部は、内部情報が漏れ辛い。誰がバラしてしまったかが一目瞭然な為、誰も重要情報を口外しようとしないのだ。

 

だから、ゆるゆるお気楽な最上級生達の惨状を正確に把握している外部生はいない。

最早生きる伝説と化している北瀬達には、滅茶苦茶な話も含めて大量に流布されていた。

偶に嘘臭い事も真実だったりする所が、かなり質が悪い。

野球部を勝たせる為の情報操作かもしれないとすら言われる程、支離滅裂な噂が流れていた。

勿論、彼らは別にそれを狙った訳ではない。

 

 

「あー、試合終わりましたね」

「ね。やっぱ結局、3-1で普通に青道が勝ったな!」

「やっぱりゴロピッチャーは、球が何処に飛んでくか分からねぇのが怖いな。2回も変な所に飛んでったし」

「球数は抑えられるし、悪い事ばかりでは無いですけど……三振の方が見ていて安心出来るかもしれませんね」

 

好調なまま完投した沢村は、途中1失点するも安定した投球で勝利を手にした。

青道高校が勝つだろうと思っていたとはいえ、北瀬は良かったと安心した様だ。

やはり、万が一を危惧する気持ち多少残っていたのだ。

 

まぁ自分達の勝利は、1年生の頃から何故か確信していたらしいが……北瀬は、根拠のない自信に溢れていた時代もあった。

今は根拠のある自信だから、厳密に言えば違う。

これは北瀬本人の性質というより、薬師野球部の異常に前向きな雰囲気に流されていると言うべきだ。

真田先輩や三島の妙に明るいノリに、上級生達は無意識に影響されていたのかもしれない。

 

 

「じゃあ次投げるのは降谷だな……何かアイツ主人公みたいだし、決勝で投げてくると思ってたんだけど」

「何言ってんだ?伊川、青道高校のエースは降谷さんじゃん。普通に考えたら、1番の強敵な俺達に当てるだろ」

「だよな。俺、何言ってんだろ?」

 

謎の電波を拾った様な思考をしていた伊川。

実は本人なりに、無意識に理屈建てて考えていたのだが言語化出来なかった様だ。

結果、相棒の北瀬に意味不明で片付けられている。

頭が良い割に周りの言いなりになりがちな彼は、その言葉に納得して深く掘り下げなかった。

まあ深く考え過ぎると、アニメの世界にいる事を察してメンタル面にダメージを受けていたと思われるので運が良かったのだろう。

 

 

 

 

 

 

青道高校vs市大三高が終わり、次は薬師高校vs稲城実業の試合になる。

一旦お昼休憩を挟んだ後で戦う事になるが、薬師野球部の選手達は屋台で買って飲食しているので良く言えば手間取らなさそうだ。

悪く言えば、直前にも関わらずしっかりとした物を食べていないとも言う。

 

 

「カハハハ……イナジツ、ブッ飛ばす!!」

「こんなトコでバット振るな!」

「試合前だけどさ、ちょっとその辺に振りに行くか?」

「行く!!」

 

さっさと昼食を済ましてしまい、暇になった北瀬達。

雷市は体力を持て余し、そんなに広くはない控え室でバットを振り始めてしまった。

当然キャプテンの三島が止めに入り、説教が始まりそうになっている。当然だろう。怪物級のスイングで壁を破壊する訳にはいかないし、人に当たったら更に問題なのだから。

 

怒られそうになってしょぼんとしている雷市を哀れに思って、伊川が外への素振りを提案した。

完全に体力の無駄遣いである。

しかも自業自得なお叱りを回避させようとするなど、本人の為にならない。

身内への甘々な対応は、珍しく元の環境はあまり関係ない伊川の短所だった。

 

 

 

 

廊下を通り、外へ向かう3人。

試合前で興奮し過ぎている雷市と、鉄人の体力を持つ伊川と北瀬が行く事にした様だ。

 

 

「後1時間で試合かぁ。稲実ってどういうチームだっけ?成宮さんが滅茶苦茶強かったのは覚えてるんだけど」

「うーん、ピッチャーが高校最強レベルの青道とかバッターが強力な市大三高と違って、全体的にまんべんなく優秀なチームだった筈

3人ピックアップするなら、堅実な判断でチームを支えてるキャプテン兼キャッチャーの多田野と、最速144kmでドロップカーブが武器な本格派な赤松、そして主砲の神宮寺かな?

ま、俺達が負ける可能性はあんまり無いけど」

「144kmって言うと、友部と同じかちょっと速いくらい?……雷市、またホームラン勝負でもする?」

「する!」

「じゃあ他の奴らにも伝えとかなきゃな、お祭り騒ぎが好きな奴ばっかだし」

 

相手の能力をある程度把握しつつも、俺達の敵ではないと判断している北瀬達。

話の流れによって、勝手にホームランダービーを開催しようとしていた。

こういう勝手な事を監督が軽いノリで許可してくれる所が、薬師野球部の良い所でもあり悪い所でもある。

 

 

 

 

ぺちゃくちゃ話しながら外へ向かっている北瀬達。

遠くから、稲城実業の選手が話を聞いていた事には気付いていない様だ。

 

張り詰めた空気の控え室から出て、少しだけ気分をリフレッシュさせようとしていた稲城実業の正バッテリーは苦い顔をしている。

 

 

「……ホームランダービーですか、舐められたものですね。油断してる所を痛い目合わせてやりましょう、多田野先輩!」

「うん……確かに薬師高校は強いけど、俺達にだって意地と誇りがある。負ける訳にはいかない、高校最後の夏なんだから!……それに、鳴さんとも約束したし」

 

名門校としての地位を剥奪されつつある屈辱を胸に、共に苦しい練習を乗り越えた仲間との絆を信じ、史上最強の高校生達に挑む多田野達。

彼らは絶望的な実力差のある格上相手だと分かっていながらも、負けられない理由があった。

 

この試合に掛けているのは、実際に試合で戦う選手だけではない。スタンドで応援している、100名を超える戦友達の運命も背負っている。

夏の甲子園に出場出来れば、強豪大学からの推薦が多く届くだろう。そして、全盛期の薬師高校に勝ったと言う箔まで付く。

それはプロや実業団を目指す選手達にとって、非常に有利になるステータスだ。だからこれからの為にも、絶対に負ける訳にはいかないのだ。

 

 

多田野は勝ちたい理由として、キャプテンとして正しい理屈を脳裏に思い浮かべて……鼻で笑った。

 

仲間の思いを背負って頑張りたいから?

そりゃベンチ入り出来なかったチームメイトの為にも勝ちたいと思うけど、それが1番の理由ではないな。

 

プロになって活躍する為?

俺は天才の鳴さんじゃないんだから、そんな先の事まで考えられない。今を足掻くので精一杯だ。

 

そんな事の為に、俺は今まで頑張って来た訳じゃない。

甲子園という最高の場所にキャッチャーとして出たいから、今まで必死に努力して来たんだ!

 

 

「あれ?何か今、多田野さん笑いましたか?」

「うん、やっぱり甲子園に行きたいよなぁって思ってさ」

「全ての球児の憧れですもんねー!(何で今急に思ったんだろ?)」

 

俺を追いかけて稲城実業に来てくれた、エースの赤松晋二は優秀なピッチャーだ。

MAX144kmと速いストレートを持ち、ドロップカーブの曲がり具合は北瀬くんにだって劣らない。

そりゃ流石に世界でMVPを取ってくる様な選手達と同格とまでは言えないけど、彼は高卒プロ入りだって目指せる優秀な選手なんだ!

 

それに稲城実業のバッティングは、甲子園クラスのチームにも確実に通用する強さだ。

甲子園常連の強豪、白龍高校にだって3得点出来ているんだから。まあ勝てたのは赤松が2失点で抑えてくれたお陰でもあるけど、俺達の強さを証明出来たと思う。

 

 

だから甲子園上位クラスの強さを持つ俺達が、薬師高校に勝つ可能性が無いなんて思わない。

最強相手でも恐れず食い散らかしてやる勢いで挑み、最後の一滴まで力を振り絞り、微かな勝利の可能性を逃さず奪い取る。

 

 

稲城実業から推薦が貰えて良かった。元々行くつもりだった創聖高校に入学していたら、薬師高校に勝ち目なんて無かった。

……もしそうなっていたら、俺はここまで頑張れなかっただろうな。そしたら高校の途中からダラダラと野球をやって、大学生になったら漫画研究会にでも入ってたりして。

 

___絶対に嫌だ!!

甲子園で野球をやる為に、限界まで足掻く。

何があっても、俺達は諦めない。

1%の勝利の為に死力を尽くして戦い、勝ってみせる!!

 

 

「諦めたらそこで試合終了ですよって名言、知ってる?」

「聞いた事はありますね!」

「試合を諦めた瞬間、9回の前に負けが決まるんだ

勝つ事を諦めなければ、例え10点差があっても0.1%位は勝てるかもしれないだろ?

だから俺は___最後まで絶対、何があっても諦めない!

……赤松も、試合が終わるまで勝とうと足掻いて欲しい」

 

リトルの頃から同じチームだった、尊敬している多田野先輩からの言葉を聞いて、彼は決心した。

例え俺の選手生命が終わるとしても、今日のマウンドからは絶対に降りない。

___俺の全てを捧げて、この試合に勝ってやる!!

 

 

 

 

稲城実業のエースが悲壮な決意をしている事などつゆ知らず、雷市達は試合前にバットを振り回していた。

 

 

___ブォォン!ブォォン!

___ブォォン!ブォォン!

___ブォン!ブォン!

 

「いやー、やっぱ雷市のスイングが1番良い音するな!」

「……ありがと!キタセもいいスイング!!」

「そろそろ時間だから移動するかー。遅刻して試合出れなくなったら嫌だしな」

「ヤダーッ!!」

「落ち着け雷市!今から行けば余裕だから!」

 

最早王者の貫禄、あまりにも余裕な態度を醸し出している薬師高校。

彼らに対して、この試合に全てを賭ける覚悟で120%の力を発揮する稲城実業。

多田野達は、一矢報いる事が出来るのだろうか……?

それは勿論、試合が終わってみないと分からない。

 

 

 

 

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