【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
西東京の準決勝が始まる日、成宮は珍しく練習を軽く済ませて自分の部屋のテレビの前に齧りついている。
1年間バッテリーを組んだ多田野樹と、世界最高のサウスポー北瀬涼が戦う事を心配しているのだ。
高卒1年目にも関わらず先輩にほぼタメ口で話す、超ナマイキな成宮は1軍の選手から距離を置かれていた。
これがドラフト1位といえども現在2軍の選手なら簡単にシメに行けるのだが、彼は現時点でパ・リーグでの防御率1位と大活躍している。
実力が全てであるプロの世界にいる以上、ある程度は成宮に敬意を持って接しなければならない所が先輩達は気に食わなかった。
そりゃ今のお前は結果を出してるけどよ、先輩に敬語位は使えや!常識だろ!!
そんな感じで憤慨している選手は多く、同期が1軍に1人もいないので半年位ボッチ飯もよくある感じになってしまっている成宮だが、全く気にしていない。
そりゃまだ結果出してないしね、俺の実力を認めれられなくてもしょーがない。
後半年すれば、否が応でも分からせてあげる!
成宮鳴は、強い選手に敬意を払わなければならないと思っている。そして非常に自信家でもある。
その結果、周りが自分と同レベルに近い実力者になっても偉そうな姿勢を崩さなかった。
___コンコン、ガチャ
部屋に入って来たのは、正捕手の太野。
珍しく成宮にも好意的な選手であり、彼とはバッテリーを組んでいる。
人が良くリードも良く、後逸も殆どしない彼の事を成宮は割と好いていた。
「お、そろそろ高校生は大会の時期だな。母校の試合見てんのか?」
「そーそー、薬師との試合がもうすぐ始まるんだよね。タノさんも見てく?」
「じゃー見てこっかな。最強伝説を築き上げてる薬師も気になるし」
成宮は無糖の紅茶を、太野さんは酒を飲みながら大きなテレビで観戦している。
先行は稲城実業、後攻は薬師に決まった様だ。
薬師高校の先発ピッチャーは、2番手エースの綾瀬川。
たかが1年生の2番手エース……なんて思う人は、野球ファンの中に1人もいないだろう。
U-15ワールドカップMVPである彼は、現時点ですら成宮以上の実力を持っている。
今は北瀬フィーバーによって若干影が薄くなっているが、彼は世紀の天才と言って良い実力を持っている。
「ちぇっ、2番手エース出してくるのかよ」
「北瀬涼が出てきたら、稲城実業は勝てなくなるぞ。いや、綾瀬川に勝つビジョンも思い浮かばないが……悪いな」
成宮の母校である稲城実業に対して、試合始まって直ぐに勝てないと断言した事を謝った太野。
だが彼は、間違った事を言っていると思っていない。
勝負に絶対はないと言うのはウソだ。試合を決めるピッチャーに、隔絶した実力差があるなら勝てる訳がない。
「ま、俺も樹達じゃ勝てないとは思ってますよー……お前がアイツらに勝てって言っちゃったけど、重荷になっちゃったかもね」
彼は珍しく、罪悪感を感じさせる顔で話している。
俺の最後の夏、絶対に勝てない試合だったかとは思わない。でも……残念だけど、樹達は絶対にアイツらには勝てない。
俺なら、薬師打線を無失点に抑えられる可能性も0じゃなかった。試合を10回やれば、1回位は出来たんじゃない?
北瀬からホームラン打つのは無理でも、運良くヒットを打ったり向こうがエラーをしてきたら1点位は取れる。
だから、絶対に勝てない試合じゃなかった。
でも、赤松が薬師打線を無失点で抑えるのは無理だ。
どんだけ贔屓して考えても、5失点位が限度だろうね。
で、谷間の世代とか呼ばれちゃってる今の稲実が、綾瀬川から5点取るなんて不可能。
……太野さんの言う通り、勝ち目なんて1つもない試合。
成宮は、なぜ一応大切な後輩にあんな事を言ってしまったのかと後悔し始めていた。
「そうか?……寧ろ、元エースに勝利を求められてるってのはある種救いになってるかもしれねぇぞ
端から勝ち目のねぇ戦いって思ってたら、普段の練習にも支障をきたしかねねぇからな。逆に野球人生を救ってるかもしれねぇぞ」
だが太野は、そう思わなかった様だ。
寧ろ、傲慢不遜なコイツが引退した後に後輩を励ますなんてするのかと感心し、内心成宮への好感度を上げてすらいた。
プロまで来るような奴は、自尊心が高い選手ばかりだ。
だから自分が出ない試合なんてどうでも良い所か、後輩如きが俺より良い結果なんて出すなと思っている奴も多いだろう。
にも関わらず、目上の人なんて知ったこっちゃないと勝手な言動を繰り返す成宮が、下級生を目にかけているのは意外と感じていた。
「…………」
成宮は黙り込んだ。
彼は今までの野球人生で、負けても良いなんて思って戦った事が1度も無いのだ。
だから、勝ち目が無いと思って戦う人の気持ちなんて全く分からなかった。
でもそこそこ信頼してる太野さんが言うならそうなのかもと少し思い、結局口をつぐんでいる。
アンタは樹の事なんて全く知らないのに、良くそんな分かった様な口聞けるよねとも思っている様だが。
彼は、良くも悪くも自分の感受性を信じ切っている。
___バシッ!
『わあぁ!』
『綾瀬川!圧巻の三球三振劇!!たった9球で稲城実業の攻撃を終わらせた彼を、ベンチは当然とばかりに迎え入れています!
流石は世界のMVP!自チームエース、170kmに勝るとも劣らない圧巻のピッチング!!』
___カキン!
___カキーン!
___カッキーン!
『わああぁぁ!!』
『流石は薬師高校の黄金打線!!2番秋葉のヒットと3番北瀬のツーベース、そして4番轟のホームランで一気に3得点!!
堂々たる王者の凱旋を見せる選手達、次の5番打者火神はこの波に……逝ったあぁ!!初回特大ホームラン!!豪快なスイングで、稲城実業を初回から追い詰めています!!』
『いやぁ、これは……虐殺になりますかね』
実況も完全に薬師一強ムード。
北海道日本ツナの寮で試合を観戦する、稲城実業を応援している成宮もやっぱりなと諦めた顔だ。
ベットにだらりと腰掛けながら、偶にテレビから目を逸らして窓の外を眺めている。
___コンコン、ガチャ
「鳴、入るぞ」
「あ、雅さん!良いよー」
微妙に緩い空気が流れる成宮と太野の所に、高卒2年目の原田が訪ねてきた。
元々何となく成宮と母校の試合を見る約束をしていたが、2軍の先輩方との練習が思ったよりも長引いたらしい。
「た、太野先輩!……すみません!!」
「良いよ、一緒に見よう……原田だっけ?」
「はい!」
割と軽い気持ちで後輩の部屋を訪ねた原田は、なんと先客に1軍の大先輩がいたので慌てて頭を深く下げた。
2軍の原田は殆ど話した事がなかったので知らなかったが、かなり寛容な性格をしている太野は全く気にせず、一緒に試合を見ようと提案。
原田は恐縮しつつも、プロで結果を出し続けている大先輩の解説が聞けるかもしれないと喜び、ドキドキしながら床に座った。
「あれ、雅さん何で床に座ってんの?やっぱゴリラだから、ベットは馴染めないんでしょ!」
「んな訳ねぇだろ!」
「イタタタ、バカ握力で頭握らないでよ!」
茶番を繰り広げながら、点前側に座っていた成宮は中央に座り直した。
原田は太野の様子を伺いつつ立ち上がり、ベットに座る。
太野は興味なさげにちらっと見た後、テレビに視線を戻した。
「あー……鳴、今試合どんな感じだ」
「3回が終わって0-6、ボロ負け……まぁ仕方ないよね!俺みたいなスーパーエースがいないんじゃ、綾瀬川がいる薬師打線には何回戦い直したって勝てないと思うよ」
「…………そうか」
直接的な関わりはあまり無いとはいえ、後輩達がボロ負けしていると聞いて少し落ち込む原田。
元キャプテンとして、責任を感じなくもなかったらしい。
『5回裏が終わり0-9、薬師圧勝ムード!会場中から、彼らへの声援が聞こえて来ます!
ここまで綾瀬川の球数は45!15打席三球三振を貫いています!!』
『いやぁ、新時代の幕開けって感じですね。ここ数年、日本高校野球界の実力は大いに上がっています
北瀬に伊川、轟に本郷や降谷と言ったU-18組は勿論、火神や綾瀬川などの下級生も今までの甲子園では見られなかったスケールの選手ですよ』
稲城実業は5回コールドを免れたものの、いつ試合が決まってもおかしくない点差が付いていた。
まあ寧ろ、世界のバグじみた実力を持つチート集団に対して現在一桁得点で済んでいる時点で快挙なのかもしれない。
なにせ今の稲実には、天才が1人もいないのだ。
精々プロ入りの可能性があるのはキャプテンの多田野とエースの赤松位。スタメン全員がドラフト上位有力候補な薬師とは、天と地ほどの才能差がある。
それでも一応戦いが成立しているだけ、彼らの努力は実を結んでいる……付いた実力は薬師の天才程ではないが。
___カッキーン!
『わああぁぁ!!』
『最後は場外への特大ホームラン!!代打の三島が試合を終わらせました!』
『轟監督は、この回で試合を終わらせる自信があったんだと思います。そうじゃなければ、エース級ピッチャーに代打は出さないでしょう……彼も薬師を代表する打者の一角!控えにこれだけのバッターがいるのは怖いですよ』
『薬師高校はファースト2人を試合に応じて使い分けていますからね!打撃も守備も出来る真田くんも、相手にとって厄介な選手です!
……決勝は8月2日の朝10時から!圧倒的実績を誇る薬師高校に、青道高校はどう立ち向かうのか?!ぜひ会場でお確かめください!!』
予定調和の如く、薬師の看板級選手が出場し試合が終わった。
『…………』
都合が悪い事が起きると喚きがちな成宮すら、ぐうの音も出ない特大ホームラン。
原田も太野も、何も言わずに黙り込んでいる。
一般人が巻き込まれたら即座に逃げ出すであろう重い空気の中、成宮は垂れ下がっていた頭を何とか持ち上げて、苦笑いした。
「……あーあ、9回まで持たなかったかぁ。にしても、6回コールドはなー……残念」
「あれじゃ、俺が居た頃でもキツいな。いいたかねぇが、順当に負けたって所か」
成宮が発言の通り残念そうに述べると、原田は所感を口にした。
彼らは割と、別の観点から話し合う事が多い。そうなる理由には感性の違いもあるだろうが、お互いの気付いていない所を無意識に補填している所もあるのだろう。
分かっていたとはいえ母校が酷い負け方をしたショックから落ち着いた2人を見て、太野はようやく話し始めた。
彼は実力の割に、空気の様に目立たない事も多い。
「北瀬もそうだけど、綾瀬川も強過ぎるよな。頼むから同じリーグには来ないでくれって感じだわ
つか、エースはメジャー行きだから来ねぇだろうけど伊川はヤクルス行きだっけ?ファイナルでどう倒すよ」
「伊川が止められなくても、アイツ以外を進ませなきゃ勝てるね!」
「強気なんだか弱気なんだか分っかんねぇ発言だな」
「……鳴は薬師と4回戦っているんですが、伊川相手だと1回ゴロ取れただけなんですよ。今ん所、妥当な評価になると思います。パ・リーグでは通用してますし……」
「まじか……いや、まじかぁ…………」
まだ1年も組んでいないが、今までの野球人生で出会った相手の中でもトップクラスに入る実力だと確信している成宮が、伊川相手にそこまで負け越しているとは知らなかった太野。
相性がすこぶる悪いにしてもエゲツナイ負け方に絶句した後、伊川始の脳内能力予想値を2段階程上げた。
なんかの間違いで俺達のチームに来てくれねぇかなと現実逃避しつつ、暗雲立ち込める未来の日本野球界を考え内心頭を抱えている。
成宮相手に打率9割超えが出来るなら、かなり軽く見積もってもプロで5割を超えるだろう。
仮に全試合出場されたとしたら、野球界がエンターテイメントとして成り立たなくなるんじゃないかと思ったのだ。
ちなみに、それは杞憂である。
常勝軍団が好きなにわかファンは多く、彼の活躍を見に新規ファンが詰めかける事になるからだ。
まあ伊川は他のチームの人気を根刮ぎ奪いかねない、毒なのか薬なのか分からない選手になる訳だが……