【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
過去甲子園でも戦った強豪、稲城実業を6回コールドで捻じ伏せた薬師高校。
最上級生の三島達は、無邪気に決勝戦まで進んだ事を喜んでいた。
「ガハハハ!やはり俺達は強いっ!!」
「よーやく俺が先発出来るな!にしても、薬師は強いピッチャー多すぎるって!」
「前の3連北瀬よりはよっぽどマシだけどな」
「あれはキツそうだった……なぜかピンピンしてたけど」
北瀬達が1年生の頃は投手が枯渇していて、どうしても彼に頼らざるを得ない状況だった。
だが、今の彼らは違う。投手が足りていると言うより、優秀な選手が多すぎてマウンドの奪い合い状態だ。
ベンチ入りメンバーの誰が投げても勝てる試合も多く、監督達は頭を悩ませている。
「カハハ……フルヤ、速くなってる?」
「なってんじゃね?確か、春は156kmだったよな……160km超えてるかも!」
そんな薬師に対して、青道高校は2枚看板体勢。
薬師と比べるとピッチャー層が薄く、貧弱な体勢に見えてしまうのかもしれないが……
けして彼らは、投手不足な中堅チームではない。
甲子園上位クラスの投手を2人も抱えている青道は、高校屈指の投手王国である。
甲子園でもある程度は投げられる金田や九鬼というリリーフまで在籍しているので、基本的に投手枯渇は有り得ないチーム状況だった。
それでも勝てないだろうと言われるのが、轟雷蔵監督率いる薬師高校。
彼の指導の賜物か、天才は天才に引き寄せられるのか。1人在籍していれば全国を狙える様な逸材が、スターティングメンバーを超える程に集まっていた。
「そうなってたらメジャークラスだな!やっぱ降谷さん達と戦うの、楽しみだ!」
そんな異次元のスタメン入りを掛けた戦いの中、堂々と1番を身に着けている人物は世界最速170kmのサウスポー、北瀬涼。
異次元の豪速球だけではなく強打者が多い本大会で高校3本の指に入ると呼ばれる強打者でもある彼は、正に二刀流が似合う男だろう。
高校生としての集大成となる本大会、どの様な活躍を見せてくれるのかとの期待が、かつてない程に高まっている。
「降谷さんが160kmを超えているかは分かりませんが、準決勝で力投を見せた沢村さんからエースを死守し続けた実力は確かだと思いますよ!」
そんな大エースの相棒として甲子園制覇を目指す正捕手は、背番号2の由井薫。
薬師高校でなければ主砲の座を手に入れていたと言われる彼は、昨年春の甲子園で本塁打3本を放っている。
投壊野球部としては少なく感じられるかもしれないが、分業制で出場機会が限られる中、薬師高校が甲子園に出る前までの最多本塁打に並ぶ活躍を見せていた。
「ガハハハ!スゲェ選手を打ち砕くのが薬師流!今日もホームラン打ちに行こうぜ!!」
投壊薬師打線を語るなら、この男を忘れてはならない。
薬師野球部の土台を作った3年生の1人、三島優太は優れた長距離砲である。
守備の悪さが邪魔をしてファーストは真田太平との併用扱いされているが、最近はその弱点も克服しつつあるのだ。
「ま、キャプテンの言う通りだな。俺達は打つ事しかできねーし、好き勝手楽しめば良いだろ!三島が出場出来るのかは分からねぇけど……」
背番号4、セカンドを守るのは驚異の2年間公式戦打率9割超えという記録を持つ伊川始。
甲子園決勝戦まで進んで打率10割だった事もある、既存の常識では語れない異次元のミート力を持つバッターだ。
ちなみに、エースの北瀬より強い選手なのではという噂もあるが本人は否定している。
「カハハハ……ミッシーマ、出ないの?」
「俺だって出たいっつの!!」
5番サードは、高校最強の長距離砲である轟雷市。
薬師雷砲と学校の名と本人の名前をもじった異名で呼ばれる彼は、高卒でメジャーリーガーとなる北瀬に尊敬される程のバッターである。
守備の不安は非常に大きいが、プロに入ればDHがあるから大丈夫なのだろう……多分。
「……俺個人としては、降谷さんよりも小湊さんのバッティングが気になってるんですよねー」
内野の要であるショートは、打力も高い……というよりは打力が高いと表現した方が適切な瀬戸拓馬。
どちらかと言うとパワーヒッター型な選手だが、完全にアベレージヒッターである小湊のバッティングには内心かなり感銘を受けているらしい。
いや、彼も同チームの伊川の方が上位互換なバッターである事は分かっているのだが、あまりにも上手過ぎて参考にならないのだ。
「そうか?タクマの方が良いバッターだと思うけど」
7番、基本的に1番守備が下手な人が立つポジションに付いているのは壊滅守備の火神大我。
悲惨なキャッチングを補って余りある破壊的な一撃を打つ彼は、高校2年生の中で最強と謳われる長距離砲である。
ちなみに中学では無名だった火神も、薬師高校に来るまでは守備が上手かったという噂もあるが……真偽不明。
「総合的に……パワーとか精神力とかを含めて考えると瀬戸の方が良いバッターだけど、あの凄いミート力は学びたいって言いたいんだと思うよ」
「へー、なるほどな!」
無惨な外野守備を一手に引き受けるのは、薬師野球部不動の8番、センターの秋葉一真。
守備良し、打撃良し、性格も割と良しの三拍子揃った彼は、なんと片岡コーチが来るまでは野球部の会計まで任されていたらしい。
本人は地味で目立たないなと自嘲していたりもするが、ドラフト1位候補なので滅茶苦茶目立っている。
「ミート打ちなど邪道。狙いはバックスクリーン直撃のホームラン___そうだろう、瀬戸」
「……いや、俺は別にホームランだけ狙ってる訳じゃないかなー」
「結城、気持ちは分かるぜ!」
「ガハハハ!ホームランが1番気持ち良いからな!」
9番ライトという、三振狙いのピッチャーが多い薬師ではあまりボールが飛んでこない場所を任されているのは結城将司。
そこそこのミート力と、当たれば長打確定と謳われる超パワーを持ち合わせた長距離砲である。
守備が相当酷いのでちょくちょく他の選手と交代させられているが、他のチームなら不動の4番として活躍出来たであろう選手なのだ。
スタメン選手9人以外にも、U-15MVPの綾瀬川や7種の変化球を持つ黄瀬、守備力に定評のある桜木や由井と同格と謳われるキャッチャーの奥村など、実力派が揃っている薬師高校。
彼らを止められるチームなど高校野球に存在するのかと、熱心な野球ファン達から称賛されている。
西東京決勝戦当日、青道高校のエース降谷の身体は少し震えていた。
「おいっ、どうしたんだよ降谷!……まさか薬師が怖くて震えてんのか?!投げれねぇなら、俺が代わっても良いんだぜ!」
「……?別に怖いとは思ってないけど」
いつも通りの無表情ながら、不思議そうな声色で沢村の言葉を否定した降谷。
彼は、自分の身体が揺れている事に気付いていない様だ。
「……あ、武者震いって奴じゃないかな。身体を震えさせることで体温を上げて、パフォーマンスの向上に役立てようとする動きらしいよ?あの降谷でも緊張するんだね」
「……ほんとだ。僕、緊張してたんだ」
東条の発言で、降谷は自らの緊張に気が付いた。
今までどんな試合でも緊張した事なんて無かったのに、何でこんなにドキドキしているんだろうと不思議に思い……楽しかった高校野球を思い返した。
「今までの人生で1番、このチームにいた時が楽しくて。それは皆のお陰で……だから終わらせたくない
___いや、終わらせない!僕が皆を、甲子園に連れて行く!!」
スタンドにいる選手達にも聞こえる様な大きな声で、甲子園に連れて行くと宣言した降谷。
大胆不敵な発言に感動してはいるものの、それより普段の彼の声量の小ささを知っているチームメイト達は、非常に珍しい降谷の大声に驚いていた。
「ふふ、任せたよ。降谷くん!」
「北瀬相手だろうが、俺達の力を信じて行こうぜ!!」
「わーっはっはっは!!暁!お前のスタミナが切れたら俺が投げる!後の事は気にせず全力で行けよ!!」
エースの言葉に盛り上がった青道メンバー達。
勝って甲子園に行く為に、彼らは全員の思いを背負って戦い抜こうとしている。
「……よし、そろそろ試合の時間だぞー」
そんな時に水を差してしまうのが、落合監督の言葉。
あまり生徒に慕われていない彼の方を向きながら、選手達は少しテンションが下がっていた。
彼は技術指導能力がずば抜けている為けして悪い監督ではないのだが、モチベーションを向上させる能力には欠けている。
「相手は豪打かつ大エースもいる薬師高校。決勝戦の相手って事を考えても強すぎるチームだ
勿論俺達の事もスカウトは見てるから、気を抜くんじゃないぞ……悔いが残らない様、全力でプレーしてくれ」
『はい!』
直接的には言っていないが、実質勝てない相手だと思っている事が伝わってしまう言葉遣いをしている落合監督。
選手達のモチベを少しさげている事に気付かないまま、一瞬で話を終えた。
長々と話して不味い発言を繰り返すよりはマシだろうが、余りにも言葉が足りな過ぎる。
彼の発言からは、薬師が強い事と勝てないであろう事しか伝わって来なかった。
落合はドラフト1位狙いの降谷には特に頑張って欲しいと思っていたり、ベンチ外メンバーの進学の為に健闘して欲しいとも考えているのだが、一言も口に出していなかった。
まあそんな事を言われてもやる気は出ないと思われるので、言う必要もないかもしれないが……
監督の話が終わり、沢村の指示で円陣を組んだ青道高校。
彼らは真剣な顔をして、キャプテンの方を見た。
「___俺達は誰だ!」
『王者青道!!』
「誰より汗を流したのはっ!」
『青道!!』
「誰より涙を流したのは!」
『青道!!』
沢村はひたすらに練習を続けた3年間を脳裏に描いた後、これからの試合を勝ち抜かんと声を張り上げた。
「戦う準備は出来ているか!我が校の誇りを胸に、目指すは全国制覇___行くぞぉ!!」
『オーーッッ!!!』
相手チームのカッコいい掛け声を聞きながら、轟監督の話を聞いている北瀬達。
別に変な事を言われている訳でもないが、どうも緊張感に欠けている北瀬は、伊川と謎のテレパシーでどうでも良い会話をしている。
(いやぁ、やっぱりあの掛け声カッコいいな!俺達にも導入してくれねーかなー)
(うーん、そりゃ格好良いけど……ああいうのは今までの歴史が積み重なってるから良いんじゃね?強豪歴3年の薬師が言い出してもなぁ)
(そりゃそうか!)
「黄金世代の実力を見せつけてやれ!」
『おうっ!!』
気付けば話が終わっていたらしく、周りに合わせてそれっぽく返事をした北瀬達。
決勝戦を目前にして上の空だった事がバレてないかと、ヒヤヒヤする羽目になっていた。100%自業自得である。
「北瀬さん!今日も良いピッチングお願いします!」
「オッケー、今日も得意のストレートとスライダーで打ち取るよ!」
「そうですね!……でもHスライダーにカーブ、フォークも投げて貰います!」
「そんなの分かってるって!いつも通り、由井のリードを信じて投げるから」
正捕手の2年生である由井と話しながら、北瀬は監督の話を聞いていなかった事を取り繕おうとしていた。
彼も、先輩としての威厳を少しは保ちたいと思っているのだ。
だが、流石に伊川と脳内で会話していた事まではバレていないが、北瀬のやる気が低めな事を見抜いて話し掛けられているので今更な話である。
まあ後輩達に、最強と謳われる実力と優しい人柄をちゃんと尊敬されているので問題はないだろうが……もう少し野球に対して真剣に取り組んで欲しい所だ。
まあ練習量だけ見れば人一倍取り組んでいるので普段のやる気の無さは露呈していないので、薬師野球部としては大丈夫なのだろう……多分、恐らく。
4軍がサボりがちなのは、最上級生の責任ではないのだ。
野球部の体系の不備など、彼らに何とか出来る範囲では無いと思われる。