【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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192球目 未来

 

 

 

 

『わああぁぁ!!』

「良くやってくれた!!北瀬!!」

「このままの調子で行けぇっ!!」

「お前が最強だーーッッ!!」

 

9回裏、薬師高校は大差を付けたままエースが続投。

会場全体から大きな大きな歓声が聞こえ、薬師野球部の選手達の士気を上げていた。(伊川は除く)

 

 

「由井!最後の回も楽しんで行こう!」

「はい!北瀬さん」

 

バッテリー間で会話をした後、彼らは堂々とした態度で指定のポジションに付いた。

そうして9回裏が始まる直前、北瀬は今日の試合に思いを馳せている。

 

 

最高の仲間達がしっかりと打って、7点分も優位にしてくれた。これなら絶対に負けない。

俺は普段通りのピッチングをしているのに今日は何故かエラーが出ないから、その分だけ失点を防げてるし。

やっぱ凄いな、皆!

 

でも何というか……このまま試合が終わっちゃうのは寂しいし、残念だと思っちゃう。

 

薬師野球部の選手として地方大会で戦えるのは、残念ながらこれで最後。

序盤はちょっと負けててハラハラしたけど、3回表からは余裕な感じになってたのがなぁ。いや、大差勝ち出来るのは良い事なんだけどさ。

 

……それに、せっかく降谷さんと戦えてたのに不完全燃焼のまま終わっちゃったし。

俺の成績は、降谷さん相手に3打席1安打。全然打ててないから次こそ打ってやるって思ってたのに、途中で交代されちゃったんだよなぁ。

まだ勝つ事を諦めてなさそうだったし全然まだまだ投げられそうに見えたのに、何で青道高校の監督は交代させちゃったんだろ?

いや、確かに沢村くんも良い投手だけどさ、剛腕の降谷さん程の脅威じゃないでしょ。

 

ま、良いや。俺達は今日も勝って甲子園に行けるんだし!

 

 

 

 

___バシッ!

___ブォン

 

「ストライク!バッターアウト!!」

『後2人!!後2人!!』

 

普段通りの軽い笑みを浮かべながら、北瀬は打者を完膚なきまでに薙ぎ倒している。

相手は所詮9番バッターとはいえ、高校最後の試合にも関わらず完全に仰け反らせてしまう、人間技とは思えない曲がり方をした変化球を投げていた。

 

 

 

 

次のバッターは、初回にホームランを放った園。

1年生ながら豪快なフルスイングで相手投手を打倒してきたバッターであり、薬師高校次期エース筆頭の綾瀬川のライバルでもある選手だ。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライクッ!」

『わあぁ!!』

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、ツー!」

『わあぁ』

 

追い込んでからの3球目。北瀬は特に気負わず、いつも通りの豪速球を投げた。

 

 

___ガギ

___バシッ

 

「アウトォ!!」

『……わああぁぁ!!』

 

園は170km超えのストレートに何とか合わせるも、ボテボテのゴロになってアウト。

マトモな野手なら後ろに逸らす訳がない、コロコロと転がる打球だった。

まあ当てられるだけでも凄い事なのは確かだが、野球に全てを注いできた本人が納得出来る筈がない。

悔しげな顔をしながら地面を踏みしめ、暗い足取りでベンチに帰って行った。

 

 

 

 

『後1人!!後1人!!』

「ここで打って!!俺達は全国に行く!!」

『後1人!!後1人!!』

 

北瀬への大歓声の中、リリーフ沢村は大胆不敵な宣言を観客達に告げた。

まだ負けてない、俺達は諦めてないという意思表示だ。

 

 

「沢村ぁ、良くやった!」

「お前は頑張ったぞ!」

 

……だが、勝手に盛り上がっている観衆にその声が届く事は無かった様だ。

大きな大きな歓声に沢村の声はかき消され、試合終了ムードが蔓延し続けている。

 

(なんなんだ、まだ俺達は戦ってるんだぞ?!

……まだ試合は終わってないって、結果で教えてやるんだ。俺のバントで出塁して、後ろに繋ぐんだ!!)

 

悪意なしで慰めの言葉を掛けてくる群衆に一瞬苛ついた沢村だが、結果で反論するしか無いと直ぐに思い直した様だ。

プレッシャーに押し潰されそうな固い顔をしながら、それでも彼は前を向いている。

 

これが不屈の闘志を持つ、原作主人公の底力。

どんな場面でも諦めを知らない、生来の明るさを持つ男。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!!」

『後2つ!!後2つ!!』

 

「沢村ーーっっ!!打てーーっっ!!」

「栄純くん!!頑張れっ!!」

「打て!栄純!!」

 

その前向きさに感化され、青道高校を応援する人々は最後まで応援を続けている。

残念ながら、この回で最後だという認識は変わらない様だが。

 

 

___カーン!

 

「ファール!!」

『後1つ!!後1つ!!』

 

「北瀬ーッッ!!」

「沢村!沢村!」

「頑張れー!」

 

根性で160kmの変化球相手にバントを狙うも、2球目はファール。

追い詰められた沢村。後がない青道に対し、薬師のエースはちょっと油断している。

 

(勝ったな、ほぼ試合終了!……ま、俺は最後まで由井のリードに従って投げるけど)

 

 

___カーン

___バシッ

 

「アウトォ!……試合終了ーッ!!」

『わあああぁぁ!!!』

 

「お前らぁ!良くやった!!」

「ガハハハ!良い試合だったぜ!!」

「イテテ、潰れちゃうって!」

「ナイスピッチ!北瀬!」

「これで甲子園に行ける……!!」

 

それでも沢村は、バントを決める事が出来なかった。

170kmのストレートに合わせるだけで精一杯で、完璧な場所に決める事が出来なかったのだ。

 

薬師ベンチは湧き上がり、我先にと北瀬に駆け寄ってぶつかりに行った。

連続出場している彼らでも、やはり甲子園という舞台は特別なのだ。元から勝てるだろうとは思っていても、やはり勝利の味は格別だったのだ。

 

 

一方青道高校の選手達は皆、俯きながら大粒の涙を零している。

大勢の観衆の前だとかテレビカメラに撮られている事なんて全く考えられない程、悲しくて悔しかったのだろう。

 

 

「ぐすっ……これで、俺達は、終わりなんだ……っ!」

「うぅ……こんな結果じゃ!頑張ったとすら、言えねぇんだよ……」

「僕にはスタミナが足りないって、分かってたのに……」

 

悲嘆にくれる選手達。

正捕手の狩野は涙を流し続けながら、最後まで力の限り戦ってくれた2人のエースの方へ近付いて行った。

 

 

「沢村、降谷」

「……何だよ」

「……」

 

沢村も降谷も、人の言葉を聞ける様な精神状態では無いと分かっている。

それでも狩野は、衝動的にこの言葉を言っていた。

 

 

「___ありがとう。お前らがいたから、俺達は最後まで夢を追えた!ありがとう……!!」

『…………』

 

最後の試合を終えて感謝して来た正捕手の狩野の言葉を聞いて、沢村は違和感を覚えた。

だから、泣きながら彼の言葉を否定した。

 

 

「違う。俺と降谷がいたから戦ったんじゃない

___青道の皆がいたから、ここまで頑張れたんだ」

「……そうだな。お疲れ様……沢村キャプテン!」

 

 

 

 

 

 

薬師高校と青道高校の選手達は、対照的な表情をしながら姿勢を正して並んだ。

観客席から盛大な拍手が鳴り止まず、まるでこの場所が夏の甲子園かの様な盛り上がりを見せている。

 

 

『試合終了!8-1で、薬師高校の勝ち!礼!!』

『ありがとうございました!!』

『……わああぁぁ!!!』

 

「良くやった!!薬師も青道も!!」

「最高の試合だったぞ!!」

「パパ!僕も野球やってみたい!!」

「伊川!!伊川!!」

「このまま全国制覇してくれよォ……!!」

「超カッケェ……!!」

 

一騎当千のスター達が集まる3年前に突如現れた新星、薬師高校の選手達は誰もが見惚れてしまうような輝きを放つプレーを見せた。

170kmの北瀬、今試合打率10割の伊川、特大ホームランを放った轟を筆頭に、素晴らしい選手ばかり集めたチームだと言えるだろう。

現在の彼らを止められる高校生なんていないと、観客全員が確信する実力を見せつけていた。

 

そんな薬師に対して、最後まで気迫溢れるプレーを見せ続けた青道高校も素晴らしいチームだった。

そもそも170km相手では、マトモに振る事すら非常に難易度が高い。それでもチーム全員が怯まずに戦い、ほんの少しのミスを逃さずにホームランを打った。

ここが甲子園だったなら……と、多くの野球ファン達に思わせる実力を持っていた。

 

 

 

 

試合終了の礼をした後グラウンドから撤収する最中、北瀬と伊川は2人で並んで歩いていた。

 

 

「よし!これで甲子園に行けるな!」

「そうだな、北瀬……どこ見てるんだ?」

「いや、ちょっとな」

「へー」

 

今年も甲子園に行ける!大舞台で皆と遊べるのが楽しみだなぁと喜んでいた北瀬。

だけど泣き崩れる青道高校の選手達を見て、アイツらみたいに負けたら泣ける位の思い入れはないかもなと思い、少し気まずくなっていた。いつも通りの思考をしている。

 

 

「ガハハハ!甲子園が楽しみだな!!」

「そうだな……最後の夏、全力で戦って勝とう!!」

「カハハハ!!タカダ!ヒナタ!ホンゴー……打つ!!」

「大阪桐生も烏野も、巨摩大藤巻も!全部勝つ!!」

『おー!!』

 

(お、北瀬復活したな)

 

だが大切なチームメイト達が楽しげそうにはしゃぐ姿を見て、他校の生徒なんてどうでも良くなったらしい。

少し遠い所にいる三島に賛同し、甲子園優勝のイメージで盛り上がっていた。

 

 

そんな風に薬師高校の選手達が盛り上がる中、降谷と沢村が彼らに近付いて来ている。

正確に言うなら、降谷が薬師野球部の所に行こうとするのを沢村が軽く引っ張って止めようとしているが、体格差で逆に引っ張られていた。

 

 

「おい暁、今行くのはマズいだろ!」

「……」

「ムシすんな!」

 

ズンズンと近付いて来る降谷に、北瀬は当惑している。

何で負けた直後なのに、わざわざ近付いて来るのか全然分からなかったからだ。

 

(えっ、何で降谷さんが近付いて来るの?!)

(んー、激励とか掛けに来たんじゃね?)

 

今までも似たような事はあったが、自分が終わらせた尊敬する人が向かって来ている事に平静では居られなかったらしい。

降谷にあまり興味がない伊川は平然としているが、北瀬はドキドキしながら降谷と沢村の方を向いた。

 

 

「北瀬くん」

「……何ですか?降谷さん」

 

恐る恐る返事をした北瀬に気付かず、彼は感情の読み取れない顔で囁いた。

 

 

「凄かった。今日も僕の負けだったと思う

___メジャーリーグで待ってて。僕も追い付いて、次こそ君に勝ってみせる」

「……今日はホームラン打たれちゃったんで、別に良いピッチングじゃなかったと思いますけど。それに、勝てたのは俺達の打力が勝ったからで、降谷さんに勝ったなんてとても……」

「違う、君の勝ちだ」

「そうですかね……?」

 

(いや、薬師打線を4回4失点にされちゃ、勝てたなんてとても言えないんですけど。俺出来るか分かんないし

でも……野球に俺より詳しそうな降谷さんが言うならそうなのかな……?)

 

降谷の発言に少し首を傾げながら、彼は一応同意した。自分の意見に自信が無くなってきたからだ。

 

 

「うん。今は北瀬くんの勝ちだよ

後、ずっと思ってたんだけど……僕に敬語使わないで」

「えっ……?」

「なんか北瀬くんに敬われるとモヤモヤする。僕は先輩じゃないし……」

「そうで……そっか。じゃあ降谷くんって呼んで良い?」

「うん、そっちが良い」

 

感情を表現する事が苦手な降谷は、言語化出来ない不快感を出しながら北瀬を説得した。

本人は気付いていなかったが、格上で同学年の選手に敬われ続ける事が少しストレスになっていたのだ。

 

そんな降谷の心境は分かっていない北瀬だが、同学年だという主張に納得してタメ口で話す事にした様だ。

無意識に出てしまう敬語を出さない様にしながら、友好的に話そうとしている。

 

 

「そうだぞ北瀬!俺達はライバルなんだ、片方だけ敬ってたらフェアじゃねーからな!___俺も!いずれメジャーに乗り込む!それまで首を洗って待ってろ!!」

「うん!」

「……じゃあ、甲子園ぜってー勝てよ。俺達の分まで!」

「うん……」

「もちろん、負けるつもりで戦ったりしないよ」

 

最後は会話に割り込んだ沢村が締め、両チームのエースは自分のチームメイトがいる方向へ歩いていく。

降谷も沢村も北瀬も、お互いに思う所はあるが……彼らのいるべき場所はここじゃない。今まで共に戦って来た、チームメイトが待つ所へ帰って行った。

 

 

 

 






「降谷くんも栄純くんも……凄い発言だね」
「おお!ライバルに置いてかれる訳にはいかねーし!」
「僕も、負けない!」
「もうお前らは次の事考えてんのかよ……」
「凄いよね、2人共…………甲子園、行きたかったな」
『…………』

沢村と降谷は明確な目標を持って前を向いています。
他の選手達は薄々負けそうだと思ってたので、泣きつつ100%悔しがる事が出来ませんでした。

「今からメジャー行く宣言って……俺達はプロに行くのが夢なのによ」
「俺はあんな風にはなれないけど……何でだろ。沢村も降谷も、きっと夢を叶える気がするんだ」
「俺らだって叶えようぜ!プロで1軍昇格、試合で活躍してやるって夢をよ!」
「うん、そうだね!」

今回負けると思っていた選手も、プロ入りを夢見て努力しています。彼らの人生は、ここで終わりではありません。
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