【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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194球目 最後

 

 

甲子園を掛けた試合が終わり、寮のおばちゃん達が運転するバスに乗り込んだ北瀬達。

ワイワイガヤガヤと盛り上がりながら、1軍メンバーは試合を振り返っている。

 

「今日も大差勝ちで良かった!俺も試合に出たかったけど……」

「今回の試合は出れる場面無かったッスよ!俺含めて」

 

「まさか北瀬が失投するとは思わなかったよな」

「下手したら公式戦初じゃないですか?」

「あんな明らかな失投は初めてやっちゃったよ」

 

「上位打線しか点取れてないぞ!超天才の俺だったらバッコンバッコン打って20点差付けてやったのによぅ!!」

「ドアホーに出来っかよ」

「お前が入れ替えられたのは自業自得だったけどな」

 

危うい発言もありつつ、楽しく寮まで帰って行った。

甲子園行きが確定したのだから楽しい雰囲気で当然だ。

強豪校としてのムードが出てきている薬師は、勝てて当然というプレッシャーが掛かっている。

これで負けていたら、多くのメンバーが非常に強いショックを受けていた事だろう……3年生達以外は。

 

3年生達からすれば、5回目の甲子園。

1年生の夏からスタメンとして試合に出続けた彼らは甲子園のベテランを名乗っても良い位なのだが、妙に弱小校のムードを引き摺り続けていた。

 

ここ数年で積み上げて来た校風もあるだろうが、恐らく本人達の資質も大きいのだろう。

三島や雷市をはじめとした、良くも悪くも周りの細かい感情に気付かない性質に他の生徒達も流されて名門校特有の性質を持たなかった様だ。

 

 

 

 

1軍メンバー達はバスを降りた後、素早く他の野球部員達と合流して寮に向かう。

すると、何やら寮の前に見覚えのある人達が立っていた。

 

 

「わはははは!流石はワシの見込んだ男達じゃ!!あの青道相手に大差勝ちしてしまうとはのぅ!!」

「おめでとう、みんな!素晴らしい試合だったわ!!」

 

「ガハハハ!俺達は強いですから!」

「……優太は今日出てないけどな」

「先輩達凄かったです!!」

「甲子園でも頑張ります!!」

「てか、何で直ぐ帰って来た俺達より速いんだ……?」

「美味そうな匂い!!」

 

玄関には理事長と真田母の姿がある。

どうやら、学校中の期待を背負い戦って勝ってきた生徒達をいち早く迎え入れようとしてくれたらしい。

野球部を支えてくれている彼らに部員達は軽く頭を下げ、直ぐに食堂に向かって行った。試合の影響もあり、凄くお腹が空いていた様だ。

 

 

「すっっげぇ肉のニオイ……!」

「よっしゃぁ焼き肉!」

「美味そー!」

 

食堂の机を見ると、沢山の食器の上に溢れんばかりの肉、肉、肉!まだ温かい、程よく焼けて油の乗った肉の匂いに高校球児達は歓声を上げていた。ガツガツ脂っこい物を食べたくなるお年頃なのだ。

 

 

「まだまだ焼いてくからね、遠慮せず食べて!」

『はいっ!!』

「えー甲子園出場決定を祝って……カンパーイ!!」

『カンパーイ!!』

 

食事の前、轟監督は一言だけで祝いを済ませ、直ぐに肉を食べ始めた。食べ盛りの生徒達の為を思ってというより、本人ががっつきたかっただけの様に見える。

 

まぁそんな事は気にしてない北瀬と伊川、雷市と三島と秋葉は普段通り近くの席に座ってガツガツと肉を頬張り始めた。

 

 

「めちゃウマ……!」

「そりゃ空腹だからな……いや、この味は本当に良い肉使ってるか」

「ガツガツ!!ガツガツ!!」

「もぐもぐ……うっっま!!」

「雷市も優太も、あんま下品な食べ方すんなよ……いや凄っごい美味いけどさぁ……」

 

しばらくの間、無言の飲食タイムが続いた。

流石は道楽で野球部を運営している理事長が持ってきた肉なだけあり、バイトもしてない貧乏学生では中々食べられない味だったらしい。

 

 

……

 

 

暫く高級肉を堪能した後、ようやく野菜を食べ始める生徒が出てきた。その頃になると、今回の試合の感想を言い出す部員も出て来た様だ。

 

 

「やっぱ降谷先輩達も凄かったな!あの人達が甲子園で投げられないって……」

「伊川先輩達が凄すぎるんだって!!僕も、最後は一緒にあの舞台で戦いたいなぁ……!!」

「ていうか……吸い寄せられる様に北海道から西東京に来た降谷さんって、なんかに呪われてないか?」

「あー……昔はソレ、市大三高に思ったな!」

 

1軍2年生メンバーで固まっているパワプロと花坂と瀬戸の会話に、北瀬も紛れている。

暴飲暴食をする体質でもないので、そろそろ食欲も落ち着いて来ているからだろう。

 

見かけより北瀬を尊敬している由井は、彼の言葉を聞いてなら少し考えた。

 

 

「確か2年前、夏には先輩方に負けて冬は鵜久森に負けたんでしたっけ?その結果で、最近は弱体化してますよね」

「俺達が入学した頃の市大は格上だったし、正直俺は勝てる感じしてなかったんだけどなー」

「はぁ?……コールド勝ちしておいて、そんな事を考えていたたんですか?」

 

また奥村が若干噛みついているのは気にせず、秋葉も一緒に驚いている。

 

 

「マジか、伊川がそう思ってたの今更知ったよ!余裕そうな表情してたのになー」

「あー、うーん。あの頃の俺は……何となく入った野球部で友達が出来たから続けてて、試合も好きじゃなかったから……試合に勝てば先輩達の引退が伸びて良いなとは思ってたけど」

『えぇ……??』

 

さらっと昔の心境を話した伊川先輩に、ドン引きしている後輩達。

そんな生温いという言葉すら過小表現に感じる思考で、甲子園の主力として戦い抜いた事実に引いているのだ。

尚、今の伊川は野球が嫌いではないとはいえ、別に好きでも無い事は黙っておく事にしたらしい。

 

 

「昔……北瀬さんも似ている事を言っていましたね___俺、先輩達が野球を選んでくれて本当に良かったと思ってます」

「ありがと___俺も、本当に良いチームメイトに恵まれたから……野球を選んで良かったと思ってる!」

 

珍しく、本当に嬉しそうな顔で笑っている伊川。

本心から話している事がはっきりと分かる、珍しい恋人の華やかな笑顔を見た結菜は顔を赤らめていた。

 

 

「真田先輩の事を、伊川さんも本気で尊敬してましたよね。メジャー行きを断るのは理解不能でした」

「ホンットにに素直じゃねーなぁ、奥村は。お前だってさぁ、真田先輩と一緒に北瀬からエースナンバー奪い取るとか宣言してたじゃん!……あれ聞いた先輩、見たこと無い位ビビってたけど」

 

奥村の話題として欠かせない武勇伝を語りながら、伊川は苦笑した。

あの発言がなければ未だに奥村の事を嫌っていた事は自覚しているが、それにしても突拍子もない言動に驚いた当初の感情を思い出していたのだ。

 

 

「真田先輩、ビビってたんですか?」

「うーん。怖がってたって言うより、口をあんぐり開けてたって感じ?背番号発表の時に言うのは大胆不敵過ぎたし、気持ちは分かるけど!しかもアレ、真田先輩に無断でやってたらしいしな……」

「おま……お前、マジかよぉ!!」

「え?それマジすか!巻き込まれた前のキャプテンはチョー可哀想っすね!!」

 

今更な事なので、若干センシティブな話題で盛り上がりながらはしゃいでいる1軍メンバー。

昔の事でも、思い返す度にちょっと笑える感じの宣言の裏事情を知って面白がっているのだ。

ちなみに会話を聞いていた他の選手達にも伝わったらしく、後輩達に代々受け継がれる薬師全盛期の武勇伝に自然と盛り込まれていた。

 

 

「真田先輩が可哀想って……何が言いたいんだ?」

「おーい光舟、後輩怖がらせんなって!」

「真田先輩のピッチングも、俺受けて見たかったです!」

「え、俺とか綾瀬川っちじゃ足りないって事っすか?!」

「ちげーって分不相応だと思ってるっつの!!でも気になるだろ!黎明期を支えたドラフト1位投手とか!!」

「そりゃそーっすね!」

 

若干真田先輩の実力不足も笑った黄瀬に、もちろん奥村は噛みつく……が、周りも言われた本人もあまり気にしないで、さっさと話題を変えた。

彼の生真面目さと言うか融通の利かなさに、周りが慣れきっているのだろう。

 

 

「ドラフトと言えば……俺以外の3年生は、どこに指名されるかな?!てか、1位指名取れると思う……?」

「絶対取れますよ!先輩達は大注目の目玉選手ですし!」

「俺も正直、多分取れるんじゃないかって思ってるけど……これで下位指名だったら慰めてくれ」

「下位指名は流石に無いと思います!」

「秋葉センパイが下位指名だったら、他に誰を指名してるのとか意味不明っすね!」

「だよな!!心配いらないってさ、秋葉!」

 

普通の食欲の生徒はおしゃべりタイムに入ってしばらく時間が経った後、ようやく火神や三島といった暴食勢が食べ終わった。

全員の箸が置かれた事を確認し、轟監督と片岡コーチがボードの前に立っている。

 

 

「えー全員食べ終わった所で……1週間後の甲子園の話をするぞー」

『はいっ!!』

 

甲子園の話と聞き、何やかんや野球に熱心な生徒達は大きな声で返事をした。

 

 

「首尾よく甲子園行きを決めた訳だが……俺達は、甲子園出場を狙ってる訳じゃねぇよな。勿論___目標は全国制覇だ」

「轟監督のおっしゃる通り、俺達は甲子園4連覇を目指し戦っていく___野球部320人、全員で勝利を掴もう」

『はいっ!!』

 

力の籠もった声で返した部員達。それを確認した監督は、ちゃんとやる気あんなら別に鼓舞なんて要らねぇなと思って、いつもの適当モードに戻った。

 

 

「じゃーお前ら、スタメン以外は明日も練習あんぞー。今日はゆっくり休めー」

『うーっす』

 

シリアスムードは一瞬で終わり、薬師部員達はまたダラダラモードに入った。

やはりリトルから活躍して来た選手が多く在籍する強豪校と言えど、先輩方から受け継がれてきた適当な空気には抗えなかった様だ。

まあ練習中や試合中にふざけている訳ではないので大丈夫なのだろう。1・2軍の生徒達はだが……

 

 

パラパラと自室に帰っていく部員達。暇な時は固まって行動している最上級生達も、少ししんみりしながら部屋に帰っていく。

 

 

「……1週間後、俺達は最後の試合だな」

「思えば色々あったよな……入学した時は、まさかこんなに強くなれるなんて思ってなかったよ」

「ガハハハ!俺達の総決算、日本中に示してやろう!!」

「カハハハ!ソウケッサン!!」

「……最後まで楽しく、本気で勝ちに行こう!」

『おうっ!!』

 

(泣いても笑っても、これで最後。伊川、雷市、優太、秋葉と一緒に戦えるのは最後かもしれない。だから伊川の言う通り、俺達全員で勝ちに行くんだ!甲子園を!!……いやまぁ、その後に国体はあるけどね)

 

(雷市と優太と野球をやり始めて10年、色んな事があったなぁ。無茶苦茶な監督に引きずり込まれて……俺はアイツらに引っ張られて来て、ここまで来れたんだ)

 

(高校球児全員が夢見る聖地!甲子園!!俺達は最初から最後まで出られた!俺の実力もあるが、仲間に恵まれたと言うのも大きいな!!流石、俺が選んだチームだぜ!雷市にも北瀬にも、本郷にも負けん!!残り1週間、練習あるのみ!!)

 

(野球が好きで、薬師も好き!チームメイトも好き!!プロに行くのも楽しみだ!野球ってサイコー!!)

 

(俺の人生は北瀬と出会って……薬師野球部に入ったのがターニングポイントだ。これから先も色んな出会いがあるのかもしれないけど……絶対、この3年間を忘れない)

 

思い出に浸りながらも、全員がバラバラな事を考えている最上級生達。だがチームへの愛着や、甲子園優勝への思いは変わらない。

彼らは前代未聞の甲子園4連覇を目指し、最後の戦いに挑んでいく。

 

 

 

 

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