【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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195球目 OB

 

 

 

西東京決勝戦が終わった次の日、北瀬と秋葉はソワソワしながらグラウンドに立っていた。

昨日の今日と言う事でスタメン勢は休みにも関わらず、何故かユニフォームに着替えている。

 

 

「……久しぶりです!先輩!」

「小林先輩、日本ガスでの活躍見てます!……今日は試合が無いんですか?」

「うん、今日はOFFだ。大学の日程は分かんねぇけど」

「今の時期は俺らも試合はねぇな!……練習はあるけど、母校に行くって言ったら快く送り出してくれたよ。後輩勧誘して来いとも言われたけどな」

「あ、それ俺もー」

 

監督からは何も通達が無かったが……甲子園出場を決めた薬師野球部に、2年前のキャプテン達が尋ねて来る予定だったらしい。

どうやら周りの大人達の思惑もあり、後輩達の姿を見に来る事が出来た様だ。

 

 

『チワーース!!』

「どうも……」

「こんにちわー……すげぇ人いるなぁ、100?いや、200人超えてるんじゃね?」

 

薬師伝説の一端を担ったOBの来訪に、後輩達は姿勢を正して大きな挨拶をした。

それを聞いた先輩達は、大学である程度慣れているとはいえ超体育会系の返事に顔を引き攣らせている。

別に悪い訳じゃないけど、2年前と雰囲気変わり過ぎだろと内心思っていた。

 

そんな元部員達に轟監督はいつも通りのスタスタ歩きで近付いて、ニヤッと笑いかけた。

 

「ひさしぶりだなぁ!お前ら!おっ、前より筋肉付いたんじゃねぇの?!」

『久しぶりです!』

「そりゃー大学でも絞られてるんで!」

「ほんと、監督のシゴキが懐かしいですよ……」

「あぁ?!そりゃそうだろ、半年で出来る事なんて高が知れてるからな!」

 

懐かしそうな顔をして話し込んでいる監督達を尻目に、由井と奥村と瀬戸も先代のキャプテン達を見て何かを話している。

 

 

「あの人達が先々代のOB……優しそうな人達だね」

「伊川先輩達の先輩ってだけで優しそうな感じはしてたけど、やっぱりそうだよな」

「あの人が元正捕手の渡辺さんか……」

「ん?奥村が前の正捕手の人を気にするのは珍しいな!」

「いや、うん。確かに2番は渡辺さんだったね……」

 

 

 

OBが来るとは一切聞いていなかった後輩達がざわめいているが秋葉は気にしない事にして、彼らに今の薬師野球部を説明し始めた。

 

 

「試合に出てた選手は休養日なんで練習してないんですけど、2・3年も凄い奴が入ってきてるんですよ」

「おぉ、試合見てたから何となく知ってるぜ!有名な所で言うと、強打の捕手の由井薫とか次期主砲の火神、それにU-15MVPの綾瀬川だろ?」

「そうそう!他にも沢山凄い選手はいるんですけど、ベンチ外にも良い選手居るんですよー。肩以外は強い三井とか強打の國神とか、やべぇチェンジアップの木兎とか!」

「へぇ……ベンチ埋めるのが精一杯だった前とは比べ物にならないな」

「お前に野球推薦来たの奇跡だったよな」

「うっせ!」

 

大量の後輩に驚いたOBだったが、直ぐに気を取り直して雑談モードに入っていった。

彼らは普段からノリとテンションで生きているので、真面目そうな雰囲気を保つのが難しかったらしい。

だから全員が本気で野球をやっている大学野球の選手達と、馴染む事に苦労しているのだが……

 

 

 

「……そういや、北瀬はメジャーリーガーに内定してんだよな……甲子園で戦ったら直ぐに行くのか?」

「えっと……スカウトの人が横入りされたら堪らないとか言ってて、俺が甲子園の最中に成人するんで、終わったら直ぐにアメリカに飛んで契約して一旦帰って来ます。

高校を卒業するのに最低133日の出席が必要なんで、10月下旬に向こうに行く感じっすね」

『へー』

 

北瀬の説明を聞いた上級生達は、良く考えたら日程を聞いても向こうの事情なんて分からねぇなと思って曖昧に頷いてちる。

だが大田は、ふと気になった事があったらしく一瞬首を傾げた。

 

 

「……あれ?でも10月下旬って、レギュラーシーズン終わってるよな。それだったらスプリング・トレーニングが始まる2月26日からで良くないか?いや、俺は全然詳しくないんだけど」

「うーん、言われて見ればそうかもしれないです……」

「いえ、身体の不具合とかを確認するメディカルチェックと、普段の練習の確認と指導をする時間が必要とかで早く行く事になってます」

「あーなるほど、すまん」

 

大田先輩の指摘を聞いて、もっともだと感じた北瀬。

スカウトの人が日程を考えるのを失敗しちゃったのかなという雰囲気を出していた彼に対し、自分の事でも無いのに事情を把握している弟が説明を挟んだ。

大田先輩は伊川の発言を聞いて直ぐに納得して、素人知識で聞いた事を謝った。

 

 

「いえ、俺も日程を聞いた時は不思議に思ったんですよね……それより、メジャーリーグの日程なんて何で知ってるんですか?実は野球好きの間では有名だったり……?」

「それはどうなんだろうな。俺は後輩がメジャーに行くって聞いたから、気になって軽く調べた感じだけど」

「え!わざわざ調べてくれたんですか?!ありがとうございます!!」

「……おう」

 

大田は、そりゃ後輩がメジャーリーガーになるって聞いたら調べたくもなるだろと微妙な顔をしつつ、一応返事をした。

北瀬は今だに中学時代の先輩のイメージで物を語っていて、それを薄々察しているのである。

 

 

「そういやさぁ、U-18のMVPのトロフィーとかって家にあんのか?」

「いえ、守れないんで学校に寄付しました!」

「お、おう……?」

「いや違う、理事長は預かっとくって言ってたぞ」

 

治安の悪い所にある無人の自宅に置いておくと、何をされるか分からないから寄付した方が良いと考えた北瀬。

それを聞いた先輩達は当惑しているが、伊川は理事長との会話を覚えていた。

人の良い理事長は、わざわざ自分から欲しくなったら返すと宣言していたのだ。

 

 

「じゃあ学校のどこかに飾ってあんのか?見たいな」

「はいっ!校長室の前に飾ってあります!行きますか?」

『行く行くー』

 

 

その場のノリで校長室前まで突撃して行ったOB達。

分厚いガラスで守られた、北瀬が手に入れたトロフィーを見て感嘆している様だ。

 

 

「すっげー!これが世界一の証って事かぁ!!」

「思ったよりデカいな!」

「写真だと小さめに見えてたのになぁ!」

「北瀬が持ってたからじゃね?今はもう190cm超えてるよな」

 

ガヤガヤと楽しげに見ている先輩達は、幼少期から野球に費やして来た訳では無いが、本気で好きだとは思っているのだろう。

次元が違う後輩の偉業を見ながら、はー凄いなぁと今更感動していた。

 

そんな風に盛り上がっている時、校長室から理事長が颯爽と出てきた。

 

 

『こんにちは!!』

「おや、こんにちわ……おお!君達は野球部のOBじゃな?!部活の訪問に来たのか!じっくり見て行くと良いぞい!!」

『あざーす!』

 

そう言った後、彼は用事でもあったのかほぼ駆け足で歩いて行った。

 

 

「元気な爺さんだな……多分70は超えてるよな?」

「ホントにそうですよね。あの人も試合の観戦までしてたんですよー!」

「熱中症にならないか少し心配でした」

 

理事長の話題を挟みながら、野球部のグラウンドに帰って行くOB達。

綾瀬川の綿密に計算されたピッチングや、優秀な人材が多く在籍している事で隠し玉の様になっている選手達に驚いた後、締めの挨拶をして去っていった。

 

「皆さん野球が上手くてビックリしました!もう俺らの頃とは別のチームっすね」

「大学進学を考えている皆さんは、ぜひ早瀬田大学を検討してみてください!」

「法正大学もお願いしまーす!」

「後輩達の野球を見て、凄く刺激になりました。今日1日見学させてくださり……」

『ありがとうございました!』

『ありがとうございました!!!』

 

こうして、伝説の幕開けを作ったOB達は惜しまれつつも帰還して行った。

話しかける隙が無かった後輩達は、多少ムリにでも話しかければ良かったと後悔していたとか。

 

 

先輩達を見送った北瀬は、秋葉と嬉しそうに会話をしていた。

 

「先輩達はとっくに卒業してるけど……俺達を気にしていてくれたんだな!」

「そりゃそうだろ。1回戦負け常連から奇跡の甲子園出場を成し遂げたチームなんて、忘れたくても忘れられないって」

「そっか、そうだよなぁ……よし!最後の甲子園も優勝しよう!!」

「そうだな!……しないと周りがうるさそうだし」

 

 

 

 

 

 

1週間後、夏の甲子園が開幕した。1回戦の相手は、つい先日練習試合で戦った私立近葉山高校。

今日はエースの牧山が登板すると言う事で、観客の一部はは20失点以内に抑えてくれるかもしれないと期待(?)している。

 

 

「北瀬さん!俺、貴方に凄い憧れてて……!今日の試合を楽しみにしてました!!」

「う、うん。今日は投げないけど、打撃で貢献するつもりだから負けないよ」

 

両チームのエースが試合前に偶然会って会話をし、初戦が始まった。

今回は薬師が表。エース牧山が持ち堪えられるかどうかに注目が集まっている。

 

 

___カキーン!

___カキーン!

___カッキーン!

___カッキーン!

___カキーン!

___カッキーン!

___ガギン!

___カキン!

___バシッ

___カキーン!

___カキーン!

___バシッ

 

「……ストライク、バッターアウト。チェンジ」

 

残念ながら持ち堪えられなかった様だ。初回で一気に7失点、これでは挽回の目処なんて立ちようがない。

薬師は相手を舐めているのかで、4番手ピッチャーのパワプロを登板させた。

あわやデッドボールの内角攻めらしき投球を挟みつつ、三島や雷市、火神に結城と言う投壊野手陣を背負いながらも初回2失点に抑えた。

 

 

「ナイスパワプロ!」

「久しぶりの投壊野手陣だなぁ……」

「まっ、これが無いと薬師って言えないですよね!」

 

薬師野手陣はその後も打ち続けて相手エースを引きずり降ろし、守備でのエラー数も順調に増やし、5回裏で友部に変わって失点まで増やしながらも順当に勝ち進んだ。

 

 

 

 

「試合終了!52-27で、薬師高校の勝ち!礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

トンデモナイ大乱打戦が終わった後、北瀬は欠伸をかきながら大げさな事を言った。

 

 

「あー疲れたぁ!」

「ぜぇ、ぜぇ……嘘つけ!お前は全然疲れてねーだろ!」

「カハハハ……明日の試合も楽しみ!!」

「いや、3日後だから!明日だったら瀕死だろ!」

 

北瀬や伊川は鉄人持ちなので気分的に疲れただけだが、他の選手達は相当疲れている様だ。

本人達は切実だがどこか寸劇らしき会話を挟みつつ、彼らは次の試合を見据えている。

伊川は次の相手を見て、強そうだなぁと顔を顰めた。

 

 

「次の試合は……あの烏野を打ち倒した白鳥沢学園だな。流石に油断は出来ねぇぞ」

「えっ?あの影山達が負けたのか??」

「固い守備とエース牛島の奮闘が合わさって、12失点に抑えたんだと。主砲でもある牛島が7打点を上げて、ギリギリで勝ったんだってさ」

『へぇ……』

「ま、勝っても体力を消費しちゃう烏野と当たるよりは断然マシだけどな!」

 

烏野と当たるよりは楽だという予想は交えつつも、強い相手だと話す伊川。

2年生の頃に死闘を繰り広げた、あの烏野を下している相手が弱い筈もないのだ。

聞いた所、宮城では3年前まで絶対王者と呼ばれていた名門校らしく、エース兼主砲を重点的に育てる所が持ち味だとか。

 

 

「へー、でもスッゲェ楽しみだな!どんなピッチングをするんだろ?!」

「カハハハ……ウシジマ、打つ!!」

「よっしゃー!テンション上がって来た!!」

「いや、テンション上げんのは試合直前にしとけよ……」

 

北瀬や雷市に火神などはそれを聞いて、全力で戦える相手だと判断してワクワクしている。

残念ながらエース北瀬が投げる試合に火神は出られないと思うのだが、そんな事を考える冷静な判断力を持っていない様だ。

 

ちなみに実は2軍の木兎が牛島先輩をライバル視している事なんて、1軍の選手達は知らない。

彼に聞けば、牛島の詳しい情報が手に入ったかもしれないのだが……

 

 

 

 

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