【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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196球目 東北二強

 

 

甲子園2戦目。次に薬師高校が戦うチームは、かつて本郷と並んで東北2強と呼ばれた牛島若利率いる白鳥沢学園。

地元では東北のウシワカと称される大エースで、投手としての実力は烏野の日向翔陽をも凌ぐと言われている。

 

彼のストレートは152kmにも達し、鋭く縦に割れるカーブとついでにスライダーを駆使する大エースだ。

 

 

「白鳥沢は今の俺たちでも油断はできねぇ位強えぇ!

……つってもスタメン全員が強いって訳じゃなくて、エース兼主砲兼キャプテンのウシワカがスゲェ感じだな

烏野の台頭で弱体化したんだろう。つまり!コイツを降板させれば100%勝ち!バンバン打って、俺達のエースが楽に投げられるようにしてやれ!!」

『ハイッ!!』

 

全盛期の薬師野球部を全面的に信頼している轟監督も、珍しく相手の実力を認める発言をしている。

相手エースの牛島は、最後の先発完投型投手と呼ばれた伝説の選手に酷似しているのだ。

彼は、スピードガンが精密でなかった昔に活躍した元讀売の大エースと同等の球速に同じ球種を使い、地方大会で全試合完投という偉業を成し遂げたという。

 

だからこそ、彼にも熱心なファンが付いているのだろう。

甲子園4連覇が掛かっている薬師野球部のファンの方が確かに多いが、牛島若利単体を応援する声も大きく聞こえて来ていた。

 

轟監督が幼少期に活躍したエースと似ていることもあり、甲子園3連覇の薬師高校から真面目に警戒されている白鳥沢学園。

果たして彼らは、それ相応の実力を示すことができるのだろうか?

 

 

 

 

一方、1戦目を順当に勝ち、明日に2戦目を控えている巨摩大藤巻の選手達。

しかし、因縁のライバルである薬師高校を最大限に警戒する彼らは、今日の薬師対白鳥沢学園の試合を全員で見に来ていた。

 

 

「東北のウシワカ対、日本の一等星の戦いか……まぁ薬師が順当に勝つと思うけど、この試合は見逃せないよな!」

「…………」

「正宗も東北2強とか言われて比べられてたじゃん!何か思う所ないのかよ?」

「___北海道は東北では無い。」

「え、そっち?」

 

本郷と仲良く会話していた選手たちは、試合が始まった途端に真剣な顔付きに変わった。幼少期から野球漬けだった彼らは、オンとオフの切り替えが上手いのだろう。

 

巨摩大藤巻の選手たちは、甲子園のスタンドで一心に薬師対白鳥沢学園の試合を見守っていた。

 

 

「北瀬相手に1点取れるのか……いや、それより牛島がどこまで持つかだよな」

「こういう試合こそ、打倒薬師の突破口になりそうだ!」

 

観客たちが注目する中、序盤は白鳥沢の監督の予想通りに進んでいった。

エース牛島は、試合開始から全力で投げ続けていた。

彼の投球はまさに圧巻で、152kmを記録する速球に、縦に落ちるカーブが冴え渡っている。

1回、2回、3回と、薬師の強力打線を相手に無失点で抑え続けていた。

 

観客席からは歓声が沸き上がり、白鳥沢の応援団も牛島を称える掛け声で盛り上がる。

「ウシワカ!ウシワカ!」という声が、スタジアム全体に響き渡っていた。

そんなジャイアントキリングを望む声が鳴り響いていても3年生が余裕ムードを崩さなかった結果、薬師野球部の選手達は全く動揺せず王者の貫禄を漂わせている。

 

 

「あの薬師が3回無失点……東北のウシワカヤベー!」

「さすが本郷の元ライバル!……いや、こんなピッチングされちゃあライバルとして認めるしかねーかもな!」

「……俺の方が強い」

「それに守備も高校生離れしてやがる!そこだけ見れば俺たち以上じゃねぇか?!」

「打撃力は北瀬相手じゃ分かんねぇけど……他の試合を見た感じだと微妙だったな。ウシワカだけで半分以上の打点稼いでたし」

「でも波乱はねぇな……見ろよウシワカの顔」

 

ポーカーフェイスと呼ばれている牛島の表情に、疲労の色が滲み出ている。

白鳥沢学園の守備は強力だが、薬師の打者達は圧倒的なパワーと打撃への執着心でで確実にボールに食らいついて来ている。

打撃に関して言うと……正直ウシワカ以外の選手では、北瀬が投げる球に掠らせることすら不可能だろう。

 

エースとしての責任を強く感じている牛島。

だが相棒の白布が崩れかけている今、頼れるチームメイトがいない孤独感を少しだけ感じてしまっている。

 

 

 

 

5回表、薬師高校の攻撃は驚異の通算打率9割9分バッター、伊川始が打席に立った。

今までは無得点だったのが割と気になるとは言え、相手エースの疲労度を見て勝てると確信している様だ。

 

 

___カキーン!

 

『わあぁ!!』

 

普段通りのツーベースヒットを放った彼の次のバッターは、1回戦で8安打を放った秋葉。

またヒットを放ち、安打製造機としての力を見せ付けた。

 

 

___カキン!

 

「セーフ!」

 

 

次の打者は、自分が投げている時は特に調子が良くなる北瀬涼。薬師吹奏楽部が演奏している「煌めく瞬間に捕われて」という曲の切ないメロディが、どこか試合の終わりを連想させていた。

北瀬は別に相手を絶望させようと曲を選んだわけではないが……受け取り方は自由だろう。

 

 

___カッキーン!

 

『わああぁぁ!!』

「よくやったァァァ!北瀬ェ!!」

「ウシワカ……流石に限界か」

『北瀬!!北瀬!!』

 

北瀬が力強く振り抜いた打球は、左中間を一瞬で通り過ぎ、スタンドに突き刺さった。

ベンチからは歓声が上がり、スタンドの観客も一気に立ち上がる。牛島はマウンドで孤独に、拳を握りしめていた。

 

 

「牛島さん……切り替えて。試合はまだ……」

「___俺はまだ、負けてない。」

「っっ!!はいッッ!!」

 

7回表になっても、牛島は力を振り絞り投げ続けていた。

彼は明らかに疲労でボロボロに崩れ落ちかけているが、その目にはまだ熱が宿っている。

……しかし、薬師の攻撃は止まらない。再び4番打者の北瀬が、豪快にホームランを放った。

 

 

「ここで1発か……牛島、こりゃもう耐えきれないな」

「ああ……俺もけっこう心に来る」

「___いや、俺達は勝つ」

 

巨摩大藤巻の選手数名は無意識に自分たちと重ね合わせてしまい、唇を噛みしめながら試合を見つめている。

 

牛島は一人で全てを背負い込んでいる。

打線が彼を助けてくれる可能性が欠片も感じられない中で薬師打線を相手にするのは、いかに優れたエースであっても無理があるのだろう。

その悔しげな表情で前を向き歩いていく後ろ姿を見て、どうしても自分達のエースに重ね合わせてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

9回表、白鳥沢学園は完全に敗色濃厚。

牛島の体力は完全に限界を迎え、球速も落ちている。

 

それでも彼は降板を拒み、最後までマウンドに立ち続けた。

普段は非常に厳しい鷲匠監督も彼の主張を認め、エースに完投させることにした。

烏野に負け続けた事によって不当な評価を浴びせられながらも、自分の力を最後まで信じ、甲子園に連れて行ってくれた彼の意志を尊重したのだろう。

 

 

ワンアウトランナー2塁で、打席には伊川始。甲子園打率10割を何度も出している異常なバッターである。

キャッチャーの白布は、冷静に敬遠の指示を出した。

 

 

「次の北瀬を仕留めるぞ!ここは冷静に敬遠だ!!」と、信頼する仲間の声が牛島の耳に届く。

しかし、牛島は心の中で葛藤を抱えていた。共に戦って来たチームメイトに迷惑は掛けられない。だが……これが伊川と戦う最後のチャンスかもしれない、と。

 

伊川は正直、いつメジャー挑戦を表明してもおかしくない。牛島が1年2軍で燻っていたら、2度と対戦出来なくなってしまうかもしれないのだ。

 

___牛島は結局、勝負する事を選択した。

 

 

 

 

力を振り絞り、今までで1番のピッチングを披露しようとしている牛島。

彼を少しだけ警戒した伊川は、まず牛島のストレートを見極め様としている。

少しずつタイミングを取りながら、牛島の投球フォームに目を凝らす。牛島は全力で投げ、強烈なストレートを放った。

 

 

___カキーン!

 

「ファールか……!」

 

息を吹き返した牛島の投球を見て、観客が息を飲む。

牛島の球目は徐々に落ちて来ていたが、今、まさかの自己最速153kmを出して来た。

伊川はやっぱり烏野を倒して来たのは運だけじゃないなと思いながら、次の球を冷静に待っていた。

 

 

___バシッ!

 

「す、ストライク……ツー!!」

 

牛島は次にスライダーを投げた。これがまた鋭く曲がり、打ち取られると思った伊川は空振りを選択。

「これがウシワカの真骨頂……!」と、思わぬ健闘を目撃した観客達は息を飲んだ。

 

 

___牛島の目には業火が宿っていた。

自らに言い聞かせるように目を瞑り、次の球を投げる心の準備をした。

得点圏にランナーを置いた状況で伊川と真っ向勝負など、愚かな身勝手だと分かっているが……これまで支えてきてくれた仲間達に、最後に自分の力を示したいという思いが強くなっていく。

 

目を開いた瞬間、牛島は力強く投球モーションを取り、最高速のストレートを放つ。

 

 

___ガギン!

 

ボールは伊川のバットに触れ、内野に転がる。内野手は素早く動き、1塁に送球したが……

 

 

「セーフ!!」

『わああぁぁ!!』

 

結果は完全にセーフ。伊川の走力Sを活かした全力疾走によって、際どい球を完全にセーフに変えていた。

 

 

……だが、伊川はかなり動揺している。

殆どの場合に置いて完全に打ちたい所に打てる彼は、内野ゴロなんて打った事が無かったからだ。

 

(いやいや、ウシワカはパワーカーブ使いだったじゃん?何で急に高速カーブ投げてきた訳?!)

 

想定と完全に違う球が来て、一瞬混乱してしまった伊川。

その微かな硬直は、彼のバッテングを一時的に狂わせてしまった様だ。

まあ結果はセーフだから試合中は気にしなくても問題ない気もするが……彼にとっては大きなミスだったらしい。

 

 

ちなみに、勝負が決まり切っている場面で急に決め球を使って来た理由は、まだ練習中の球だったからだ。

成功率は30%位で、大体の場合において打ち頃の球になってしまう。そんな博打投球をする価値を感じる場面が、今までの試合に無かったらしい。

 

 

 

 

歓声と悲鳴が混ざり合う中、牛島は一瞬だけ悲痛な表情を見せる。

だがそれも束の間、次の打者が立ち上がる。次の打者は秋葉で、今日も3本のヒットを放っている。

 

 

___ガギーン!

 

「アウトォ!」

 

バッターの秋葉はアウト。だが3塁ランナーの真田が帰還したので犠打扱い。1塁ランナー伊川も2塁に進み、本日絶好調の北瀬の前で得点圏に進ませた。

 

 

 

 

本日の最強打者・北瀬。バッテングは調子のムラが激しい彼は、既にこの試合で2本のホームランを放っている。

 

 

「牛島、やってやれーっっ!!」

「最後だけでも負けるなァァ!!」

 

観客席からの悲鳴が響き渡る中、牛島は気合を入れ直して北瀬に挑む。

彼はこれまでの全てを賭ける様な強気な表情で、白鳥沢学園の絶対的エースとしてマウンドに立っている。これが高校最後の試合になる、そんな諦めは胸に秘めて。

 

北瀬は珍しく、ベンチでも相手ピッチャーの投球フォームをじっと見ていた。

牛島のストレートは、初回よりスピードが落ちている。伊川を相手にしている時の豪速球は、力を振り絞り切って何とか出来たんだろうと判断してはいる。

それでも彼の自信に満ちた顔付きに、少し憧れを覚えた。

 

 

彼はまたも真っ向勝負を選択。観客が一斉に息を飲んだ。

 

 

___カキーン!

 

『わああぁぁ!!』

 

今度も北瀬のバットがしっかりとボールに当たった。

その瞬間、観客のボルテージが上がる。打球は高く舞い上がり、外野へと向かって飛んでいく。

スタンドが沸き立つ中……牛島は一瞬、全てを忘れてその瞬間を見つめた。

 

「いけぇぇぇ!」と両チームから仲間達の声が響く。

 

 

___バシッ

 

「アウトォ!!」

『わあぁ!!』

 

打球は外野のフェンスに届かず、外野手がジャンプしてキャッチ。大歓声の中で、牛島は思わず息を呑む。

 

 

「___俺らも一緒に、戦ってんだ!!」

 

 

 

 

 

 

『11-0で、薬師高校の勝ち!礼!!』

「ありがとうございました!!」

 

試合は結局そのまま薬師の勝利で幕を閉じたが、牛島は自らの誇りを保ったままマウンドを降りることが出来た。

勝てなくても全力を尽くし切った、最強のエース率いる薬師打線相手に最後まで全力で完投した彼の姿は、観客達の心に深く刻まれた。

 

 

「牛島さんは……ずっと俺達の憧れでしたっ!これからも俺の憧れです!!今まで本当に、本当に……!ありがとうございました!!!」

『ありがとうございました!!』

 

牛島は後輩達の言葉を胸に刻みながら、彼自身も次のステージへ向かう。彼にとって……この試合は終わりではなく、次のステージの始まりだった。

 

 

 

 




Q.白鳥沢学園の選手達、諦めが速すぎない?
A.現在の彼らは甲子園「出場」が目標のチームなので、北瀬と当たったら端から諦める感じのチーム状況です。
県立烏野高校に2年間負け続けた事で、ショボい新入部員しか入って来ない悪循環に陥り掛けてました。
もしエースの牛島若利が5年前位に入学していれば、全国「制覇」も目指せましたが…
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