【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
書いていたら展開が変わってしまってすみません……
作者がリードをよく分かっていないので、おかしかったらコメント欄で正しいリードを教えてくださると嬉しいです。直します。
「頑張れ薬師ィ!!」
「県立希望の花ー!!」
「大河さん頼んます!!」
「打撃の神様魅せてくれー!!」
甲子園初戦前、あまりの応援の圧に圧倒される薬師野球部。
場の空気に飲まれているメンバー達をシャキッとさせようと轟監督が声を掛けるも、声援がうるさ過ぎて部員に届かない。
「木山!! 木山!!」
「雷市!! 雷市!!」
「この対戦は薬師勝ったっしょ!!」
「真田くーん!」
「好守の堅固見せてくれーっっ!!」
「160kmを見せてくれーっ!!」
地区予選の時も歓声が大きすぎると思ってはいたが……これはあまりにも、あり得ないほど鮮明に響いてくる声援。
「お前らぁ!」
「……」
観客席から大きな大きな歓声が届いているとはいえ、監督の声は聞こえないレベルではない。それなのに気付きもしない部員達に苛立ち、近くにいた伊川を軽く叩く。
「……おい、聞いてんのか伊川!」
「? あっ、はい」
監督が伊川を叩く動作が目に入り、ようやく監督が話している事に気付いた薬師メンバー。
「いいか、試合前にもう1回言っておくぞ。相手は堅固高校、堅い守備と堅実な試合運びのチームだ」
『へぇ……』
薬師部員は、へぇ、そうなんだとしか思えない。なぜなら彼らは、堅実な試合運びの強豪と戦った事が無いからだ。
……西東京3強の、市大三高も青道高校も打撃のチーム。そして決勝で戦った稲城実業は、バントのチームだった。
(堅実な試合運びって、どういうチームなんだ? 伊川)
(多分、1回で1点ずつ取っていくチームって事じゃないか?)
北瀬達は普段通り、謎のテレパシーで会話していた。
このテレパシーは普段の部活でも何気なく披露しているが、どうなっているんだと気になっている部員は、今では1人もいない。
そして超技術で話し合った相談内容の結論は、全くもって間違っていた……1回毎に1点取るチーム、つまり1試合で9点も取るチームは、全く持って堅実な試合運びではない。
そんな事に気付かない程に野球の常識がなく、薬師の強打投壊戦術に慣れきっていた彼らだった。
……ちなみに、稲城実業はバントのチームという訳では無い。
相手の酷い守備の弱点を突く為セーフティを実行しただけであり、本来は積極的にバントで点を取るチームでは無いのだが。薬師高校の一部の部員はそれに本気で気付いていなかった。
「注目しときてぇ選手は、キャッチャーの木山。イヤラシイ組み立てが得意だな。後はピッチャーの田中。
成宮と全く同じ球種を使う。スライダー、フォーク、チェンジアップって事な。球速は144km、キレも成宮程じゃない……まー劣化版成宮だ」
(イヤラシイ組み立てって何だ? 何を組み立ててるんだ?)
(さぁ……?)
「じゃあ。俺達の野球をすれば勝てますね」
「そうだ! 甲子園初戦でキンチョーしてるかもしれねぇが、締まって行けよお前ら!」
北瀬達は言っている事を殆ど理解していなかったが、監督の話は終わってしまい……薬師高校の初戦が始まる。
兵庫県内で非常に有名な県立高校・堅固は、悲願の甲子園のグラウンドに選手として立っている。
この場所に立てなかった、観客席にいる選手達、無念を抱えたまま卒業していった先輩……彼らの想いを抱いて、彼らは甲子園初戦を迎える。
胸踊る甲子園初戦を突破し、これを勝てばベスト16になる2戦目。相手は甲子園初出場校の、私立薬師高校。西東京大会のビデオを見るに、どう見ても攻撃特化の守備難チーム。
バントで次々と得点されていく場面を見た時は、こいつら相手なら勝てそうだと楽観視していたが……薬師高校の攻撃を見た瞬間、一筋縄ではいかないと思い直す。
「いいかお前ら! 相手は強打の……だが、守備の大切さを理解していない連中だ! お前達の鉄壁の守り、相手に思い知らせてやれ! 行くぞっっ!!」
『ハイッ!!』
1回表、堅固高校の攻撃。打席に入るのはセンター富田。一番打者らしく、いぶし銀な打撃と俊足が光る打撃。
対して相手ピッチャーは背番号9を背負う、薬師2大エースの北瀬。
高校生で160kmという、前代未聞の豪速球。カーブ、スライダー、フォーク、スローボールまで使い熟す、高校最強ピッチャーだ。
これだけ聞くと弱点が無いように聞こえるが、上記全てにケチを付けざるを得ない大きな大きな弱点がある……とは言っても、それは彼に責任がある訳では無い。
正捕手が彼のボールを取れないのか、バッテリーが急造捕手なのだ。
配球が酷いというか、なんというか……恐らくテンプレを事前に30個程用意し、その順番に投げてさせているだけ。
1人の打者に対し3回程投げさせれば、次はどこに投げさせるか9割分かる程、酷いリード。何故これを直さないのか、監督の手腕を疑わざるを得ない。
実際のところ轟監督は、まさか伊川がテンプレを作って投げさせているとは分かっていなかった。
相手打者のデータをマトモに見ていないのは分かっていたが、まさかそんな意味不明な事をしているとは思いつかなかったのだ。
伊川の対戦パワプロ脳は、こんな所でも悪影響を出していた。
___バシッッ!
「ストライク!」
初球はフォークボール。内角一杯に決まった球を、全力で振り切り空振り。
普段なら様子見したかもしれないが、こいつらはボールゾーンに殆どボールを投げないので、これではストライクをタダであげるのと変わらない。
(次は3択。高め外角ストライクか、低め内角ストライクか、低め外角カーブボールが来るな……)
富田は少し悩んだが、バットに当たった時に1番飛びやすそうなカーブボールを狙うと決めた。
___バンッッッ!!
「ストライク!」
相手キャッチャーが選んだのは、高め外角ストライク。ノーボールツーストライクと追い込まれたが、逆に富田はやりやすいと思った。
(ラッキー。この後は絶対、低め外角カーブボールが来る!!)
そうやって読まれているとはつゆ知らず、相手ピッチャーは可哀想になる位、相手キャッチャーを信じて投げ込む。
___ガギン
(痛ってぇ、これがカーブの威力かよ?! 決め打ちしてたのにちゃんと飛ばなかったぞ!)
アウトにされると思っていたが富田は全力で走り切った。
打球は運良く、守備の大穴、サード轟の方向へ飛んだ。反応こそ早かったが、捕る姿勢が悪かった彼の送球はあらぬ方向に飛んでいき、エラー。
ランナーコーチャーに指示された富田は、無我無心で2塁まで走る。ギリギリだったが、判定はセーフ!
「ウオオォォ!!」
『良いぞ、良いぞトミタ!! 良いぞ、良いぞトミタ!!』
初甲子園でツーベースを決めたキャプテンが吠える。堅固高校側の応援団は、大きな歓声を彼にかけた。
「やっぱ薬師の守備は酷いなぁ」
「はははっ! これが県立堅固高校の力だぁ!!」
「市大・青道・稲実に勝った薬師が勝つと思ってたが……こりゃ波乱もあり得るか?」
学校を挙げて応援に来ている訳でもない観客達は、今のプレーを見て考えを改める。
順当に、打撃が優れている薬師が勝つと思っていたが……波乱もあり得るぞ、と。
___ガキン!
___ガキーン!
この後も堅固は必死に北瀬のボールを打ち続け、脅威の初回3得点。打撃に特別優れている訳でもない彼らでも、ここまでやれる事を証明したのだ。
いや、このクソキャッチャー相手に打っただけでは、彼らの実力は分からないかもしれないが。
1回裏、薬師の攻撃。1番レフト、秋葉一真。1年生ながら鋭い打撃で薬師の重量打線を支える。そして守備が悪くない!
薬師では比較的珍しいタイプの選手相手に、堅固高校のエース田中が相対する。
初めて戦う相手に対し、秋葉は初めからバットを短く持つ。少しだけだが、無意識に打席の外に立った秋葉を見て、頭脳派キャッチャーの木山は考え、サインを出した。
(元々、こいつはインコース打ちが得意だ。恐らくだが、この打席はインコース狙いで来る……分かってるよな、田中)
(だよね! 流石木山さん、相手の嫌がる所分かってるじゃん)
___バシッ!
「……ボール!」
内角高め、ギリギリの所に決めたストレート。審判は迷ったがボールと判断。
その結果には頓着せず、バッテリーは相手に考えさせる間もない位素早く次の投球に移る。
___バシッッ!
「ストライク!」
外角低め、スライダーがビシッと決まる。逆サイドにしっかり決められた秋葉は、コントロール良いなぁこの投手、と甲子園とは思えない感想を脳内で漏らした。
畳み掛けるように堅固高校のピッチャー、田中はすぐ投球態勢に入った。
コントロールの良いピッチャーだから、四隅にズバッと決めてくる筈だ。さぁ次はどこに置きに来る? 秋葉は相手バッテリーに敬意を示しつつ、絶対に打とうと奮い立った。
見た瞬間、ど真ん中に来ている様なボールが飛んでくる。しかしこんなにコントロールの良いピッチャーが、そんな所にストレートを投げる筈も無い……スライダーか、それともフォークか?
悩みながらバットを振った秋葉。
振り終わった直後、驚愕した。
___スパッ!
(ど真ん中に、チェンジアップだと?!)
体勢を崩されながらも打った打球は、しかしセカンド真正面。
全力で走り抜いた秋葉だが、当然アウト。
この回は伊川、轟、北瀬で1点だけ取ったが、堅固高校に2点リードされる幸先の悪いスタートとなってしまう。
……
5回表終了時点では、7対4で堅固のリード。堅固高校は、北瀬と轟に対し敬遠気味なボール多用策を取り、彼らからの失点を最小限に留めていた。
選手の層が厚いわけでもない新たな強豪、薬師高校。エラーも多く出させ、主砲達の攻撃は上手く決まらない……ここまで徹底的にやれば、心のどこかで諦めが出てきてもおかしくないが。薬師高校の雰囲気は全く下がらなかった。
(守備を軽視し続ける、ありがちな強力選手が入っただけの弱小校かと思っていたが……あの監督、意外とやりおるわ)
堅固高校の片桐監督は心の中で、相手監督の評価を1段階程上げた。緩いながらも、勝負所でしっかり勝負する。その勝負観は、たかが高校生が持っているものではない。
酷い守備とリードを許容する……というよりも手綱を握れていないダメ監督かと思っていたが、一部認識を変える必要があるようだ。
___カン!
伊川が1塁に出てしまった。だが、これは予想の範囲内だ。
彼は成宮へのピッチャー返しでのアウト以外、1度も塁に出なかった事が無い。そんな彼に打たれるのは分かっていたが……ランナーを1人置き、打席にあの男。北瀬涼がやって来る。
「行けー! ヤれ北瀬、エラー4の責任を取れー!」
「青道高校との地獄を思い出せー!」
「それ打撃と関係ねぇよな?!」
表情には見せなかったが、重量打線との戦いで疲弊していた田中はあの北瀬に対して失投を投げてしまう。
___カッキーン!
『わああぁぁ!』
「場外まで飛んでったぞ!」
「やっべぇ流石薬師!」
場外まで届く、あまりにも高い打球のホームランを浴びた田中は、気力で保ち続けていた緊張感を保てなくなってしまった。
___カキーン!
___カキーン!!
___カッキーン!!
エースが連打を浴び降板。このまま出しておきたかったがやむを得ない。リリーフの渡辺が緊急登板する。
逆転されこそすれ、これでこの回の打撃は止まるかと、楽観視していたが……
___カン!
___ガギン
___カキーン!
流れに乗り切った、薬師打線は止まらない。結局この回7失点。燃やしに燃やし尽くされた堅固高校の心の隅に、少しだけ諦めが生まれてしまった……
……
点差がつこうとも守備で魅せ続けた堅固高校。それでも薬師の打撃に抗い切れず、10対20で夢の舞台を去る事になる。
「礼!」
『ありがとうございました!!』
高校最後の試合に涙を流しながら、キャプテンの木山は相手エースの北瀬に話しかける。
「……凄かった……実はけっこう、お前らの野球が好きだわ」
堅い守備と、定石から外れない堅実な試合運びに定評のある堅固高校。その主将である木山は、実は強打の捕手に憧れを持っていた。
いやまあ、伊川みたいなトンデモリードがしたい訳ではないけれど……それでも、やはり男なら打撃特化のチームに1度は憧れるだろう!
最後まで全力で戦い玉砕した堅固高校のキャプテンは、涙を流しながらも北瀬達の健闘を称える。
「え……あっ、あざーす?」
その心情を、自称弱小校の9番は全く理解しないまま適当な返事を返した。
相手の顔を見る余裕の無かった木山が、それに気付かなかったのは幸いだっただろう。
次の展開が思いつかなくて筆が折れそうになる度、コメントを見て奮い立たせています。ありがとうございます!
私語ですが、作者は風邪を引いてしまって寝込んでます。コロナじゃなければいいんですが……
寝込みながら書き続ける予定ですが、春休みまでに無印編完結できなかったらすみません。その場合、授業受けながら2日で1話位の頻度で投稿します。
前言撤回してしまうかもしれなくてごめんなさい。