【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

221 / 288
シナリオをくださった方、ありがとうございます!


199球目 1年前

 

 

 

 

本郷達にとっても最後の夏となる、甲子園決勝戦。

試合の前日になると、巨摩大藤巻高校の絶対的エースと呼ばれる本郷正宗は1年前の事を思い返していた。

 

 

 

 

朝の静けさが巨摩大藤巻高校の寮内を包んでいた。

前日、甲子園決勝で薬師高校に敗北した巨摩大藤巻の選手達は、疲れ果てた身体をベッドに沈めたまま動き出せずにいる。

勝利を目前にしての敗北。それは、想像以上に心身ともに消耗するものだったのだ。

 

 

本郷正宗は薄暗い寮の部屋で目を覚ました。

カーテン越しに差し込む朝の光が、彼の顔を照らす。ベッドに横たわったまま、昨日の試合を思い出していた。

 

 

「……やはり、届かなかったか」

 

心の中でそう呟くと、本郷は右手をゆっくりと握った。

何度もボールを投げ、何度も振りかぶり、そのたびに全力で放った球。

それでも、北瀬涼の怪物の様な投球には及ばなかった。

 

 

己の投手としての格が北瀬に及ばぬ事は、今更誰に言われるまでもなく承知している。

 

一面が豪雪に支配されようと白球を追い続けた巨摩大藤巻野球部が積み上げていた力が、薬師であろうと他の誰かに劣るなどありえない。誰もがそう望み、全国最高の舞台に臨んだ。

士気、練度共に最高の状態であった筈。自分のピッチングだって十分通じていた……

 

 

 

 

勝つことが当然などと、思っていたわけではない。だが同時に、負けると思って臨んだわけもない。

全国最強投手の名を持つ男が相手だったが、俺もまた最強を目指してきた。

あの試合、投げるたびに重く感じたプレッシャー。

相手のキャプテンに、捕手に、誰もが全てを絞りつくして立ち向かったあの怪物に打ち返されるたびに、何かが崩れ落ちる音が心の中に響いた。

 

 

何が足りなかったのか。あの試合の中で何が起こったのか、まだ心の整理ができていない。

全てが完璧だったわけじゃない。それでも、俺も最善を尽くしたつもりだ……だが勝利は、手の中に収まらなかった。

 

優勝旗を北海道に持って帰る。その誓いを共にしたチームメイトには……特に最後の夏である3年生には、自分と共に全てを絞りつくして立ち向かってくれた事に、感謝している。

 

 

『あともう少し、もう少し早く俺が投げれてれば、刺せれたのに、見逃して次に繋がれたり、しなかったのに』

『ハハ、俺……逆転されて、ちょっと違う球投げてきたぐらいでビビッて、なにやってんだろうな……』

『本郷……すまん……』

 

感謝しているのだ___本当に。

 

 

 

 

 

 

彼はベッドから体を起こし乱れた布団を一瞥してから無言で部屋の外に出た。

寮の窓越しに見える青空がやけに広く感じる。

昨日まで熱狂渦巻く甲子園の土を踏んでいた場所から一転、戻ってきた日常の景色がどこか現実味を感じさせない。

 

無意識にグラウンドへと向かっていた。誰もいない静かなグラウンド。そこで本郷は土の上に立ち、深呼吸をした。

 

 

「…………クソッ!」

 

敗戦の後、チームメイトたちの沈んだ顔を見たとき、胸の奥で何かが軋む音がする。

俺がエースとしてこのチームを引っ張ってきたことは、誰もが知っている。それでも、結果がこれでは……

 

グラウンドを去るとき、俺の背中には敗北の重さがずっしりと圧し掛かっていた。

相手が北瀬涼だから仕方がないと言う慰めも聞こえてきたが、それが嫌いな言葉の最たるものだ。

どんな相手でも、あの球の本家本元だろうと、俺は勝つために投げてきた。それがエースとしての誇りだった。

 

 

 

 

拳を握りしめ思わず声が漏れ、悔しさが胸にこみ上げる。

何度も何度も繰り返してきた練習。どんなに追い込んでも、それでも北瀬には届かない。その現実が自分を苛立たせていた。

 

すると、背後から聞き慣れた足音が聞こえた。

 

 

「よう、正宗」

 

小学生の頃から共に戦っている円城蓮司が、グラウンドの入り口から歩いてくる。

彼もまた眠れない一夜を過ごしていたのだろう、目の下にはクマができていた。

だが、彼はいつものように冷静な表情を崩さない。

 

 

「……お前もか」

 

本郷は彼の顔を見ずに呟いた。

 

 

「まあな。昨日の試合、忘れるのは簡単じゃないだろ?」

 

円城は隣に立ち、無言でグラウンドを見つめた。

しばらくの間、二人の間に会話はなかった。彼らはそれぞれの思いを胸に秘め、静かな時間を過ごしている。

 

 

「お前はどう思う」

「どうって、何がだ?」

「昨日の試合……俺の投球はお前から見てどうだった」

 

その問いに円城は少し考え込んだ。

正宗は普段あまり自分の感情を表に出すことがない。だが、昨日の試合が彼にとってどれだけ重要だったかは、蓮司にも理解できた。

 

 

「お前のピッチングは悪くなかった。寧ろ、完璧に近い。

だけど……」

「…………」

「北瀬は……あの男は、お前とは違う次元にいた」

 

本郷はその言葉を聞いて、静かに頷く。彼自身もそれを痛感しているからだ。どれだけ努力しても、どれだけ自分を追い込んでも、北瀬涼の持つ「怪物球威」は超えられなかった。

 

 

「……分かっとった、お前がそう言うと。あいつにはまだ投手として敵わないってことくらい、わかっとった……でも諦められん。俺は本気で___あの舞台であいつを超えたかった」

 

円城は本郷の言葉に心を揺さぶられながら、何も言わない。

ただ、彼が語るのを静かに聞いていた。

 

 

「俺は……あいつをライバルだと思ってた。だが……あいつは俺はただの障害でしかなかったのかもしれん……とな」

「んなことはないだろ、北瀬もお前を認めてた。ライバルってのは一方的なものじゃない。お互いが認め合ってこそだしな」

「そうか」

 

本郷はその言葉に驚き、蓮司の顔を見つめる。彼の目には、確かな信念が宿っていた。

 

 

「つまり……ヤツに比べれば、俺はまだまだ未熟」

 

ふと気づけば、本郷はすっかりいつもの不愛想な顔に戻った。そんな彼に、蓮司もまた微笑んだ。

 

 

「お前は強いよ、正宗。だけど、まだ成長できる!それはお前自身が一番1分かってるんだろう?」

 

その言葉に、本郷は少しだけ肩の力が抜けたように感じた。

 

 

「……そうだな。俺はまだ、強くなれる」

 

彼は再び、晴れ渡る空を見上げる。

 

 

「まだ、終わってねぇ……」

 

その言葉には、新たな決意が込められていた。

本郷正宗の戦いは、まだ終わっていない。彼はこれからも自分自身と向き合い、成長し続けるだろう。

 

 

 

 

 

 

次の日、巨摩大藤巻高校が準優勝校として注目を浴び、エースである本郷がメディアからの取材を受けることとなった。

 

巨摩の選手たちはまだ疲労感が抜け切れていない。

それでも本郷の周りには、あの激闘で彼が入団即プロ1軍入りが確実のエースと目されていることもあり、多くの記者たちが集まっていた。

 

本郷正宗は、無数のフラッシュを浴び無言で立っている。

準優勝校としての重責、そしてエースとしての責任感が彼の肩に重くのしかかっていたが、彼はいつもと同じ仏頂面を崩すことはない。

巨摩大藤巻高校のエースであり全国最強と称される彼は、最後の最後、9回に劇的な逆転を許して結果的には準優勝という形で幕を閉じた。

 

だが……冷静さと鋭い投球で数々の強豪を沈黙させ、決勝戦でも史上最強打線と謳われる薬師高校の強打者たちを8回まで無得点に抑えた事実も変わらない。

特に本郷が地区大会を通して成し遂げた「71回連続無失点」の記録は正に前人未踏の偉業であり、誰もがその記録を讃えていた。

 

しかし本人にとってその記録は、むしろ心に重くのしかかるものだったらしい。

決勝戦の9回、ついに破られた無失点記録。

それまで築き上げてきた鉄壁の投球が、他の誰でもない北瀬の逆転打によって崩された瞬間は……本郷に忘れがたい記憶だ。

 

取材陣は彼の前に集まり、次々と質問を浴びせていたが、本郷は一言応じるだけ。

無口な彼を前に、記者たちはなんとか話題を広げようと試みるが、彼のそっけない返事に苦戦していた。

 

 

「本郷選手、まずは準優勝おめでとうございます!

ですが、あと一歩のところで優勝を逃しました。今のお気持ちをお聞かせください」

 

記者の1人が、できるだけ和やかな声で質問した。

本郷は一瞬記者の方を見たが、すぐに視線を外しぼそりと答えた。

 

「……ただ、悔しい」

 

本郷は基本的に口数が少なく、取材に応じるのも不慣れな様子だった。彼の表情はいつもと同じく無愛想で、仏頂面を崩すことはない。

周囲の熱気とは対照的に、彼はまるで報道陣になど興味がないかの様にじっと立っている。

 

最初の記者が、彼にマイクを向けた。薬師高校との決勝戦は全国でも注目を集めていた一戦で、特に本郷のピッチングは圧巻だった。

全国最強とされる薬師の打線を8回まで封じ込め、打者たちは本郷の速球と変化球に苦しめられていた。それでも9回裏、北瀬のフォークに屈し、結果として巨摩は惜しくも敗北を喫した。

 

 

「長い間続けてきた連続無失点記録、素晴らしいですね。

地区大会から甲子園決勝戦の9回まで、実に71回もの間、相手打線を封じ込めました。あの9回、薬師高校に初めて点を許してしまった瞬間は、どんな気持ちでしたか?」

 

質問を受けた本郷は、一瞬表情を曇らせる。しかし、すぐに無表情に戻り、短く答えた。

 

 

「……特に何も感じなかった。全力で投げて、結果北瀬に打たれた、それだけだ。」

 

その言葉には一切嘘偽りはない。

本郷にとって、無失点記録というのは単なる結果であり、目の前の打者を一人一人抑えることだけに集中していた。しかし記者たちはそれ以上の反応を期待していた。

 

「ですが71回連続無失点というのは、全国的にも非常に大きな記録です。その記録を意識することはなかったのでしょうか?」

 

しつこい質問に、本郷は眉をわずかにひそめたが、それでも冷静な声で返答する。

 

 

「記録なぞどうでもいい。俺の仕事は打者を抑える事、最後の9回で打たれたなら俺の力不足だ。強いて上げるとするなら……裏で打ち返してやりたかった」

 

どんなに記録や功績を持ち出しても感情的な言葉を引き出すことができない本郷に記者たちは困惑しつつも、次の質問に移ろうとした。

 

 

「昨日の試合で、薬師の北瀬選手と対決した感想をお聞かせいただけますか?お互いに強力なピッチングを見せ合いましたが、対戦相手としてどのように感じましたか?」

「……特にありません」

 

またしても短い返答が返ってきて、記者たちはますます戸惑いを深めた。

本郷のそっけない態度に、場の空気が重くなる。彼が無口な選手だということは知られていたが、これほどまでに言葉を発しないのは想定外だった。

 

本郷の話している相手を無視している様な態度には、海千山千のリポーター達も対応に苦慮していた。

それでも何とか場を盛り上げようと、別の記者がさらに質問を続ける。

 

彼の内側で燃え上がっているであろう感情は、基本として苛立ち以外が表に出ることはない。北瀬への言及も、一言だけで自らの悔しさを封じ込めた様だ。

記者達はそれでも何とか言葉を引き出そうと続けたが……

 

 

「……彼はこういう子です。あまり感想を話すのは得意ではありません」

 

新田監督のフォローに、記達ちはなんとか場を和ませようと微笑んだが、本郷の冷たい態度は変わらない。

 

監督もまた、本郷がメディア対応に向いていないことをよく理解している。

何度も取材の場で彼がそっけなく時には無言で通すことも少なくなかった。それでも彼の実力がすべてを物語っていたため大きな問題にはならなかった。

しかし、今日の取材は必要なのだ。本郷は日本を代表する投手として次のU-18代表にも選ばれているのだから。

 

 

「本郷選手!今後の進路についてもお聞きしたいのですが、U18への出場が決まっていますね。薬師高校の北瀬選手と共に、日本代表としての戦いに挑む意気込みを教えていただけますか?」

 

質問がようやく核心に触れた。

 

成宮、本郷、北瀬は全国の高校野球界を代表する三大3エースであり、互いにライバルとして認め合っているのだ。

神宮、選抜、そして夏で、正にその3者が正面から激突し壮絶な投手戦を繰り広げていた。

記者達も、U-18での2人の共闘には非常に大きな期待を寄せている。

 

本郷の表情が一瞬だけ変わった。

仏頂面から鋭い目つきへと変わり、記者達もその変化に気付く。

 

 

「……U-18」

 

本郷は一瞬考える素振りを見せた後、今までの無愛想な態度とは一転。真剣な表情で言葉を続けた。

 

「___U-18での戦いは、俺にとっては次の挑戦だ。

これまでやってきたことを全てぶつける。北瀬とは、また敵として向かい合いたいと思っている」

 

その言葉には、これまでの冷めた態度とは違う熱が感じられる。彼の声には確かな闘志が込められており、記者達もその変化に驚きを隠せない。

 

 

「北瀬君との戦い……つまり、再びライバルとしての対戦を期待されているということでしょうか?」

 

記者が更に質問を重ねると、本郷は頷きながら答えた。

 

 

「そうだ。昨日の試合で北瀬は見事だった。が、あの試合だけで終わらせるつもりはない。U-18での日本優勝は当然だと思ってる。そして神宮の舞台で、今度こそ俺が勝つ」

「おお……!!」

 

その言葉には、昨日の試合で敗北したことへの強い悔しさと、次に向けた決意が込められていた。

今までの取材で見せていたそっけない態度とはまるで別人のような力強さに、記者たちは再び興奮を取り戻す。

 

 

「優勝旗を掛けて争った北瀬君と、U-18での共闘がますます楽しみですね!日本代表として世界に挑む意気込みを、もう少しお聞かせいただけますか?」

 

記者がさらに問いかけると、本郷は少し間を置いてから静かに、しかし力強く答えた。

 

「日本代表として、いや選手としてプレーする以上、負けるつもりはない。どのチームが相手だろうと勝つ。

昨日の試合で、俺はまだ成長できる余地があると気付いた。北瀬や他の選手と共に、世界に俺達の野球を見せつける」

 

本郷の言葉に、取材陣は大きく驚かされた。

彼の冷静さの中には確かな自信と闘志が感じられるのだ。

新田監督もこの本郷の変化には少し驚きを隠せなかったが、同時に彼の成長を大いに歓迎している。

 

 

「___良い表情をしているじゃないか」

 

監督が笑顔を浮かべながら言うと、本郷は少しだけ口元を緩めた。

 

「ジジ……監督、俺は次こそ勝つ。北瀬にも、そして世界にもな」

「___期待しているぞ。本郷」

 

その言葉に、本郷は不愛想ながらも静かに頷いた。

 

 

 

 

「それでは最後に、本郷選手!今後の目標や夢についてお聞かせください」

 

本郷は、強い意志を込めた目をしながら答えた。

 

「俺の目標は1つ。世界で一番のピッチャーになる事だ。

これからも全力で突き進む。U-18での戦いは、そのための1歩に過ぎない。

今この国で、この世界で1番強い投手は北瀬だと思っている___俺はいつかアイツを超える……!!」

 

インタビューの音声に、記者達の感嘆が混ざった。

仏頂面で無愛想だった本郷が、これほどまでに熱く、力強い言葉を発するとは思っていなかったからだ。

無愛想過ぎる本郷を内心疎んでいた取材陣の中にも、彼の強い決意に心を打たれた者が多くいた。

 

インタビューは、最後に大きな拍手で締めくくられた。

記者達は彼の言葉に感銘を受け、U-18での彼の活躍に期待を寄せ、大きく枠を使って彼の記事を書いたらしい。

 

 

 

 

 

 

まさかこの時は、圧倒的な攻撃力と引き換えにした三島のザルさに発狂しかけ、怪物球威によって得た圧倒的ゴロ能力に頼り気味だった彼が三振主義に大きく傾く事など……

良くも悪くも本郷正宗の投手観に大きく影響を与える戦いになる事を、過去の本郷は知る由もなかった。

 

 

 

 




Q.怪物球威の本郷は三振狙いよりゴロ狙いの方が強くね?
A.多分、そうなりますね…

Q.何で1年生の時の方が得点数多いの?
A.相手投手の心が折れて完全に投壊する事が減りました。昔と違い、格上相手だと認識しているので。
後は正直、薬師側の舐めプです。ギリギリの戦いにならないので、実力の80%位しか打力が出せてません。

どの漫画のキャラを多めに書くかなどで悩んでいるので、読んでくださっている方の性別をもし良ければ教えてください。

  • 男性
  • 女性
  • その他・無回答
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。