【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
打順 名前 1回表 2回表 3回表 4回表
1番 秋葉一真 三振 ゴロ
2番 伊川始 2塁打 2塁打
3番 北瀬涼 三振 四球
4番 轟雷市 封殺 ヒット
5番 火神大我 フライ 三振
6番 三島優太 単打 三振
7番 由井薫 三振 三振
8番 瀬戸拓馬 三振 三振
9番 真田太平 ゴロ
得点 1-0 1-0 2-0 2-0
4回裏、薬師高校の攻撃は6番三島から。
彼の後は下位打線になるが、打力だけを考えると他校のクリーンナップクラスが揃っているので得点も十分あり得る状況だ。
___バシッ!
「アウト!」
___バシッ!
「アウト!」
___バシッ!
「アウトォ!スリーアウトチェンジ!!」
『わあぁ……!!』
得点の可能性も高いと言われていたが……本郷は、投壊薬師高校の下位打線を呆気なく三者三振に仕留めた。
北海道史上、最も甲子園優勝に近かったエースと言う呼び名は伊達ではない。
堂々としたピッチングを見せられたコアな野球ファンは、彼に向かってエールを送っている。
「ほぉ、流石は本郷。これで世代が違えば……」
「なんせ153kmだもんなぁ!170kmがいるせいでド素人には凄さが伝わり辛いが……」
「本郷ーッッ!頑張れーッッ!!」
5回表、太平と秋葉は相次いでアウトになったが、伊川がノルマのツーベースヒットを放つ。これで、ツーアウトランナー2塁。
得点圏にランナーを置いた状況で、北瀬は監督の言葉を思い出していた。
(ちょーっと力み過ぎじゃねぇの、普段通りのバッテングをして来い。かぁ……俺、そんなに変な打ち方しちゃってたかな?)
口調は軽いが事実を口にしている監督の言葉に対して、内心首を傾げながら北瀬は打席に立った。
彼は自分のバッテングにムラがある事を自覚していない。
___ガギーン!
「ファール!」
___バシッ
「ボール、フォア!」
『わあぁ!』
「あの北瀬がフォアボールとか、珍しいな!」
「ほとんどヒットか三振なのになぁ!」
「流石に本郷相手やと無理して狙いに行けないやろな!」
危うく長打になりそうだったフォアボールを出した後、フルカウントになり見逃して四球。
結局ホームランが大好きで頭薬師な北瀬としては、珍しいバッテングをした。しかも、彼は本日2回目の四球選択である。
(うん。打ってないけど1塁には進めたし、これで良い……筈だよね?)
「涼!次はホームラン狙えよ!!」
「相手のミス頼りなんてつまらねぇぞー!俺の言えた事じゃないけど!」
「やっぱダメだよね~」
別に四球を狙うのは悪い事でも無い筈だが、北瀬は三島と伊川からのクレームに納得してしまっている。
……三島は本心からダメ出ししているが、伊川は北瀬がホームランを打ちに行きたい気持ちを察して言っている事を知らない。
「カハハハ……楽しい!甲子園!!」
ツーアウトランナー1・2塁、1点差の場面で出てきたのは4番轟。本日は2打席1安打の彼は、ウキウキ殺る気十分と言った凶悪な顔をしている。
自チームのベンチメンバーからも「打てー!雷市ー!」だの「まだホームラン出てないっすよー!」だの楽しそうに野次が飛んで来ていた。
そして……
___カッキーン!!
『わああぁぁ!!』
『出たーッッ!これが薬師雷砲の一撃!!薬師高校、ツーアウトからこの回3得点!!北海道の怪物を相手に、薬師高校は5点もリードしています!!』
『投げる北瀬くんに打つ轟くん……この2人を相手に戦う巨摩大藤巻高校は、どんな奮闘を見せてくれるのか?注目の決戦です』
かなり薬師高校贔屓な解説が流れる中、轟は楽しそうにダイヤモンドを1周した。
最近の彼は昔より柔らかい顔をして打席に立っていたが、今日は本当に凶悪な表情をして打席に立っている。
恐らく、本郷正宗という男を認めているからこそなのだろう。少なくとも、薬師高校を研究し尽くした巨摩大藤巻高校の記録員はそう判断した様だ。
轟の表情が見えている観客達の大多数は、なんか何時もにも増して怖い顔をしてるなぁ位にしか思っていないが。
「ガハハハ、漸くホームランが出たか!……ここは俺が場外ホームランを打って、試合を更に盛り上げる場面!!」
「打てー優太ー!!」
「久しぶりの試合だろー!思いっ切り楽しめー!」
「カハハハ……うてーミッシーマー!」
4点差、ツーアウトランナー無しで5番三島優太。
快活に歯を煌めかせて笑いながら、ドスドスとバッターサークルまで歩いていった。
___ガギーン!
___バシッ
「アウトォ!スリーアウトチェンジ!」
「クソッ、負けた!」
「ドンマイミッシーマ!次があるぞー!」
「ちょっと気合入り過ぎてんじゃねーのー?!」
「惜しかった!危うく長打だった!」
「秋葉、それ誰目線だよ……」
良いバッテングを見せた三島だが、本郷の怪物球威に圧されフライに。迷いがない動きを見せた、巨摩大藤巻の野手陣の好プレーも光る一戦だった。
これでスリーアウト。次の打席、巨摩大は5番から。
北瀬相手に、薬師高校相手に一矢報いる事が出来るかと、一部の観客からは注目されている。
大方の観客は無理だと判断したり完封して欲しいと願っていたが、まあ投げている本郷からすればどうでも良い話だろう。
彼はマスコミに「外野は黙ってろ」と、暴言を吐いた前科があるので……
「…………」
「本郷……」
新田監督の指示通り、巨摩大藤巻高校が勝つ為には3失点以内に収めるしかなかった。
得点機会を最大限に活かした場合、奪える点数がその程度だと判断しているからだ。
「___まさか、これで負けたなんて思ってねぇよな?」
憤怒のオーラを漂わせている彼に対し、相棒の円城は重い口調で尋ねた。
勿論、帰って来る答えは分かっている。この言葉は、聞いているチームメイトへの問いかけだ。
「……バカな事を聞くな、円城___試合が終わっていないのに、俺が諦める訳が無いだろう」
「そう言うと思ってたぜ!」
この2人の言葉で闘志を取り戻した巨摩大藤巻の選手達。
彼らは北瀬が相手だろうと、5点奪い取ってやると息巻いている。それが今までの試合で、ずっと薬師相手に力投してくれたエースに返せる最大限の恩返しだと。
___バシッ!
「ストライク、バッターアウト!」
___バシッ!
「ストライク!バッターアウト!」
呆気なく三振した、巨摩大藤巻高校の野手陣2人。悔しそうに去っていく姿が、北瀬からすれば逆に印象的だった。
最近は、強豪校の選手でも「北瀬相手に負けるなら仕方ない」とでも言いたげな顔をして打席から去っていく事が多いので。
そんなエースの後ろ姿を見ながら、伊川は彼が内心喜んでいると察している。そして、本人はその気持ちに無自覚だとも。
ツーアウトランナー無しで、打席には7番、本郷正宗。
彼は高い身体能力を持っているが、バッテングに関しては未完成な部分も多い。
ニワカファンからは、彼の体格やピッチングから打ちそうな選手だと思われているが……実際の所はミート力や選球眼が低く、強豪校では下位打線が妥当な選手である。
仕方ない事だ。最強の投手になる為に努力し続けている彼は、打者として生きていくつもりは無いのだから。
それで強豪校で7番を打てているのが、本郷のバッテングの才能を表しているのかもしれない。
薬師高校の前主将、真田俊平は高校までマトモな指導を受けてないにも関わらず投球も打率も良かったと言われると言葉に詰まるが……アレは例外だ。
本人の才能と周りの環境と、いわゆるパワプロ補正によって起こった奇跡だった。
ついでに、周りから打撃まで求められていたと言う点も違う。元々の薬師は成り上がっている途中の弱小校だったので、才能がある選手は様々な能力が求められていたのだ。
そんな、正直北瀬の球を打てる打力があるかと言われれば、一切無いとしか言いようがない本郷。
だが彼は、薬師相手にに打つ事を一切諦めていない。
そして……普段の試合とは異なり、俺が打力で勝利に貢献しなければならないと強く感じていた。
___ガギーン!
『ぎゃああああ!!!』
そして、巨摩大藤巻高校にとっての奇跡が起きる。
1つ目。若干センター寄りのレフトに飛んだ事。
甲子園の風が好守が揃った薬師内野陣を抜いて、ザル守備の火神に飛ばしてくれたからだ。
これがセンター方向に飛んでいたら、こんな弱々しい打球など絶対に秋葉が捕球していた。
2つ目。外野が前進守備を取っていた事。
エースを信頼し過ぎて、深くまでは飛ばないと判断してしまっていたのだろう。結果的に、指示を出した由井の失敗だった。
深く守っていれば、いくら壊滅外野の薬師と言えど取れる可能性は高かった。
3つ目。火神が直ぐに、ボールを追うことを辞めた事。
守備面での期待を一切されていない、今までの試合の積み重ねによって、本人に守備面での諦め癖がついてしまっていた。
これは正直、指導者の育成方針にも問題があったと言わざるおえない。
4つ目。過労死枠の秋葉が、中央に立っていた事。
甲子園の浜風が吹いているとは知っていた。だがマトモに練習もしていないライト轟のフォローを考えると、レフト火神の事だけ考えた位置になど立てなかったらしい。
せめてライトが三島なら、秋葉もある程度は信頼して任せられたのだが。
5つ目。由井のリード能力が、中学時代から大して向上していなかった事。
捕球能力も大幅に向上させ、打力も大幅に向上させた彼のセンスは褒めるべきだ。だが、相棒の投球能力に甘やかされ続けたツケか、由井の組み立て能力は左程上がっていなかった様だ。
選手としては芽が出ないと判断した人物を、由井専属の解析班に配属した巨摩大の非情さと執念が実ったと言える。
『センター秋葉が飛びつきますが……取れない!打球は後ろに転がっていくぞ?!火神は棒立ち!!転々と転がって行きます!!』
『これは元々、レフト火神が取るべきボールでした。直ぐに追う事を諦めてしまった彼の大失敗ですね』
『本郷正宗!全力疾走!3塁を蹴った、おっと伊川がフォローに入っている、凄い肩!!
バズーカ対エースの勝敗は……セーフ!!これで巨摩大藤巻、あの北瀬から1点奪い取りました!!観客席からは悲鳴が上がっています!!』
『いやぁ、うん……伊川くんは凄い肩してますね。本人が投手をやりたかったと話していたのは伊達じゃありません。確かに投手としても通用しそうなバズーカでしたよ』
大まかに考えると5つの弱点により、本郷正宗はランニングホームランを噛ます事に成功した。
投手とは思えぬ激走が、全力の北瀬から1点奪い取るという奇跡を起こしたのだ。
解説者の声が熱くなる。 薬師高校の失敗が重なり、奇跡的に本郷はランニングホームランを放ったが……
打力には期待されていなかったエース本郷がまさか単独で点をもぎ取るとは、誰も予想していなかった。
観客席はざわめき立ち、悲鳴とも歓声ともつかない声が聞こえる中、由井は悔しそうに地面を殴っている。
自分のリードを、完全に読まれた事を察しているのだ。
「やったな!!本郷!!」
「…………」
だが……そんな素晴らしい結果を残した彼は、能面の様な無表情だった。
チームメイトが本郷の様子を訝しんでいる中、相棒の円城が震えた声で呟く。
「___まさか、お前……」
なんと、彼は今の疾走で足首を痛めてしまっていた。
甲子園決勝戦という大舞台で、勝ち目の見えぬ薬師というチーム相手に奇跡的なチャンスを活かして全力で走り切った彼を、責める訳にはいかない。
だが……本郷正宗という大エースの離脱は、巨摩大藤巻にとって重過ぎる痛手だ。
一発のランニングホームランと言う成果など、軽く吹き飛ばされてしまう程。
___試合は、まだ続いている。
Q.なんで轟監督と片岡コーチは、火神に守備の心構えを教えてあげなかったの?
A.轟監督も片岡コーチも、壊滅守備選手に初歩の初歩から教える経験がありませんでした。
後、今までの上級生が教えても治らなかったので、無駄だろうと諦めてしまってます。実際、火神の才能的にそんな事はないのですが……
Q.相手の怪我が多くない?
A.薬師に勝とうと無茶な練習をしたり、野手陣のエラーを期待して無茶な動きをしたりしてる対戦相手が多いです。
打順 名前 5回表
1番 秋葉一真 フライ
2番 伊川始 2塁打
3番 北瀬涼 四球
4番 轟雷市 本塁打
5番 火神大我 四球
6番 三島優太 フライ
7番 由井薫
8番 瀬戸拓馬
9番 真田太平 三振
点数 5-0