【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
ホテルに戻った薬師野球部の選手達は、優勝の興奮が冷めぬ中、各々家族や友人達と連絡を取っていた。
疲れてお腹が空いたので早くご飯を食べたい気持ちはあるが、残念ながら夕食の準備が出来ていなかったからだ。
昼ご飯を食べるには遅く夜ご飯を食べるには早い、中途半端な時間に試合が終わったのだ。
ほとんどの人が話してはいないが和気あいあいとした雰囲気の中、北瀬や伊川も勿論、高校生活で出会った後輩や友人達への返信に追われていた。
彼らが忙しい事は分かっているので今回は連絡が遅くなっても嫌がられないだろうが、意外と真面目な北瀬達はすぐに返したいと思っている。
| 甲子園優勝おめでとう!! |
| 34点差って、マジで圧倒的だな! |
| 見ていてくれて嬉しいです! |
| 真田先輩達の後釜を多少は引き継げました! |
| お前がそこまで言う程、俺達凄くないって笑 |
| これで涼はメジャー行きか、頑張れよ! |
| ありがとうございます!頑張ります! |
真田先輩と会話をして、ほんの少しだけ部活引退の実感が湧いてきた北瀬。
最後を勝って終わらせられたのは良かったけど、やっぱり寂しいなぁと感傷に浸っていた。
| 絶対に優勝すると思ってたよ |
| つか俺達の後輩をボコボコにしたんだから? |
| それ位やってくれないと困るし! |
次に成宮さんからのLIMEを確認した彼は、何て返せば良いか微妙な文明を見て返信を後回しにする事にした。
1番返しやすい「絶対に優勝すると思ってたよ」って言葉にだけ返事するのも変だし、「つか俺達の後輩をボコボコにしたんだから?」って言葉に同意するのも変だし、「それ位やってくれないと困るし!」と言う言葉への返事も思い付かなかったのだ。
| 優勝おめでとう!! |
| 流石俺のライバル! |
| でも |
| WBCでエースの座を奪ってやるからな! |
| 覚悟しておけ!! |
| ありがとう |
| 俺も、WBCでエースとして投げたいと思ってる |
| だから、沢村にも負けない! |
| お互い、野球のプロとして頑張ろうな! |
トーク画面を確認していたら、なぜか気付けば降谷を経由して連絡先を交換していた沢村からもお祝いのメールが来ていた。
最近話すようになったばかりな相手だが、彼の生来の明るさによって何となくいい感じの交流が始まっている。
他にも卒業した先輩方やU-18で連絡先を交換した人達、暫定母親からのお祝いなどにも直ぐに返事をした北瀬。
今までで1番の人数からLIMEが来たので、少し慌てながらも嬉しそうにしていた。
ちなみに、どこからか漏れた知らない人からの連絡は申し訳ないとは思いつつ無視している。
もしかしたら入れ替わる前の知り合いかもしれないが、彼視点からは判別が付かないのだ。
薬師野球部の面子と違い、強い友情を育んだ人は居なかった筈なのでガン無視していた。まぁ、妥当な判断だろう。
一方で伊川も、沢山の人からのお祝いLIMEを見て凄く嬉しそうな顔をしていた。
正直、この幸せだけでも3年間野球をやって来た価値があると思っている。彼は意外と、人からの好意に弱かった。
| 甲子園4連覇おめでとう! |
| てか、打率10割まで維持してて凄げぇな |
| お前が入って来たら俺らも勝てそうだ! |
| ありがとうございます |
| 真田先輩と、また一緒に戦いたいと思っています |
真田先輩からの連絡に喜んでいる伊川。やはり、先輩と一緒のチームを選んで良かったと思っていた。
今年は圧倒的な最下位になりそうなヤクルスワローズへの入団決意を固めている彼は、既にファンから神様扱いを受けていた。
ただ入りたい球団を発表していても、ドラフト指名で他のチームに決まってしまったら入れないのだが……それを、ファンも伊川も何故か忘れている。
| おまえ、やっぱりきゃっちゃーむいてるぞ |
| 優勝おめでとうじゃなくて、今そこかよ |
| ゆうしょうするってわかってた |
| すげぇきゃっちゃーになれるのに |
| おまえがならないのがいやだ |
| さいきょうのらいばるをたおしてぇからな |
| 知らねぇよ |
| 別にセカンドでも良いだろ |
| やりたいならしかたない |
| でもいがわはちがうだろ |
優勝についての話ではなく、いつもの様に捕手を勧めてくる影山のLIMEを見て彼らしいなと思っている伊川。
別に影山の事が嫌いな訳でもないのだが、空気を読まずにゴリ押ししてくるので割と素っ気ない扱いをしていた。
ついでに、それ位の事でへこたれる奴ではないと分かっている事も大きい。
ちなみに影山が送って来た文字が全てひらがななのは、漢字の変換方法が分からないからである。彼はまだまだ、ガラケーを使い続ける予定の機械音痴なのだ。
この世界ではスマホの普及が異常に早く、日本では3年で8割位が使用する様になるのだが……彼にとってはどうでも良い事らしい。
逆に後々スマホに買い換える事すら不自然に感じる程、機械にも興味がない彼は、YuTubeで他の捕手の動画を見る為なら使い熟そうとするだろう。
伊川は影山のLIMEに対して、こういう漢字が使えない不良って偶にいたなぁと思っていた。
彼が中学生の頃はスマホの変換機能があったにも関わらず、ひらがなしか使えない奴もいたらしい。
正直、頭が悪いにも程がある。
そんなのと混ぜられても真剣に授業を聞いていた、伊川の苦労が忍ばれるというものだ。
北瀬と同じく、U-18の選手や卒業した先輩に烏野高校の選手などに返信している伊川。
野球をしている時よりも楽しそうにしている彼に対して、唯菜が遠慮がちに話し掛けた。
「……凄く嬉しそうだね!」
「うん。こんなに沢山の友達が祝ってくれるなんて、中々無いし!」
スマホ画面から目を離した伊川は、唯菜に微笑んだ。
わざわざ連絡をくれた人に早く返事を返したい気持ちもあるが、初めて出来た大切な恋人の言葉には勝てなかった。
「伊川先輩が嬉しそうで、私も嬉しいな……優勝おめでとう!あの本郷さん相手に打ち続ける姿、凄く格好良かったよ!!」
「ありがとう。唯菜にそう言って貰えるなら、甲子園で優勝した甲斐があったな」
年下の恋人に、少し位は格好付けたいと思っている伊川。
頑張ってクールぶっているが、唯菜の甘い言葉に内心舞い上がっている。
「えへへ、そこまで言ってくれなくても良いのに〜」
「ホントだって!キッツイ練習もあったけど、やっぱり野球をやって良かったって思う」
頬を赤らめながら話す2人。恋人が欲しいと思っている一部の後輩達は、羨ましげな顔をして見ていた。
「そっか……野球やってる伊川先輩って、すっごく格好良いもんね!お兄ちゃんも、伊川先輩の事をいっぱい褒めてたし」
「えっ、真田先輩が?!」
別に素晴らしいコミュニケーションが取れる訳でもないのに、家でも褒めていてくれていたんだと驚いた伊川。
一瞬ポカンとしたが、てれてれと凄く嬉しそうな顔になっている。
そんな恋人を見た唯菜は、お兄ちゃんを慕ってくれているのは嬉しいけど私の言葉より嬉しそうなのはなぁと複雑な顔をしていた。
伊川先輩に滅茶苦茶慕われている兄にも、兄弟でも立ち入れない絆を持つ恋人にも若干ジェラシーを感じている。
「う、うん。伊川先輩が入学してからずっと、自慢の後輩だって嬉しそうに話してたよ。私も試合を見てから気持ちが分かるようになったけど!」
「そっか、自慢の後輩かぁ……!!」
キャッキャうふふと楽しそうに話している恋人達。
彼らを見ながら北瀬は、アイツがすげぇ楽しそうで良かった!唯菜ちゃんのお陰だな、俺も良い感じの恋人が欲しいなぁと思いながら眺めていた。
その時ふと、そう言えば先輩に伊川が妹さんと付き合っているって言ったっけ?と思い返して少し青ざめていた。
凄くお世話になった真田先輩に対して、唯菜ちゃんと交際している事を言わないのは不義理なのではと思ったのだ。
北瀬の予測通り、まだ真田先輩に話していない伊川。
彼は面倒くさがって言っていないのではなく、責任が取れる立場になったら言おうと思っているのだが……
正直、付き合い続けるつもりがあるならさっさと話した方が良いのではという感じもする。
薬師野球部は、実は半分以上彼女持ちである。
超有名な部活に所属しているというステータスと、遊ぶ融通が聞く環境が素晴らしくマッチしていた。
ちなみに1軍の試合に出ている人よりも、4軍のファンモドキの方が交際率が高いという不思議な事が起きていたりもする。
恐らく、本気で練習している人達は恋愛にかまける時間がないのだろう。
薬師1軍での恋人持ちは2人。伊川とパワプロくんだ。
中学生の頃から付き合っている彼女がいる彼は、ニマニマとしながら電話をしている。
彼の恋人は、現在の身長が185cmでパワプロくんより身長が高い。体格を生かして日本の女子バスケで大活躍しているらしく、将来はWNBAを目指しているとか。
彼女とのツーショットを見た北瀬は「うわでっっか!」という若干失言らしき言葉を漏らしていた。
別に彼女の身長が高い事には何の問題もないのだが、人様の恋人を見て最初に言うことがソレなのはよろしくないだろう。
パワプロくんは「凄く格好良いんですよ!」と気にせず嬉しそうに話していたので問題はないのかもしれない。
彼は、恐らく長身フェチだ。
長年恋人と仲睦まじいパワプロくんを見て、後々北瀬や伊川が極意を尋ねるかもしれない事を今は誰も知らない。