【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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感想欄で頂いて気付いた、入れ忘れた描写です。投稿が前後してしまってすみません。


204球目 義務

 

 

 

 

最後の甲子園が終わった2日後には、アメリカワシントン州に向かう事になっていた北瀬。

彼にはメジャーリーガーとして活躍する前から通訳と護衛が付く事になっていて、その厚遇に多くの部員達が驚いていた。

 

 

「シアトルまで、直行便で10時間か……遠いなぁ」

 

スマホと3DSだけ持って空港に来た彼を、伊川が少し寂しそうな顔をしながら見送りに来ている。

今日はまだ部活が休みだから、彼は大腕を振ってここまで来れたのだ。

まあ心配性な伊川は、例え部活があろうとも無理やり空港まで着いてきたかもしれないが。俊椀マネージャーが付いていると分かっていても、心配な物は心配なのである。

 

 

「確かに遠いけどさ!1か月後にはまた会えるし、不安そうな顔すんなって!」

「……そりゃそうだな!しばらく忙しいだろうけど、週1位は電話しろよ?」

 

彼らが話し込んでいる所を、多くのファン達が固唾を呑んで見守っている。

今日からアメリカに飛ぶという事がどこからかリークされた為、沢山の日本人が見送りに来ているのだ。

 

北瀬本人は、見られている事にあまり気付いていない。

空港あんまり来ないから分かんないけど、見られてないか?なんか変な事したっけ?位に思っている。

 

名声に無頓着と言うか、学生として守られてきた彼は、視界が埋め尽くされる程にファンが付いていると言う事に気付いていなかった。

もし気付いていたら、別に 野球してる所が見られる訳じゃないのに何で見に来てんだよ、暇なのか?と困惑していただろう。

 

 

「絶対する!……引退直前まで皆と居られないの、やっぱりちょっと寂しいな」

「じゃー見送り断らなきゃ良かったのに」

 

実は野球部全員で見送るかと言う案も出ていたのだが、本人が断っていた。

わざわざ空港まで来なくても、寮内で見送ってくれれば十分だと話したのだ。

部員達も伊川と2人で行くと言う言葉を聞いて、兄弟水入らずの時間を作ってあげようと判断していた。

 

正直心細いから見送りは欲しかった北瀬だが、200人分の電車代が勿体ないと思ったらしい。

意外と彼は、こういう所は遠慮しがちな性格をしている。

 

 

「そこまでして貰う必要は無いかなって。

それに___引退しても、会えなくなる訳じゃないから」

「___そうだな……また会えるよな!」

 

中学時代は人間不信に陥っていた彼らだが、ついに人を信頼する事を覚えていた。

卒業したからと言って、大切な縁が切れる訳じゃない。また会えるんだと信じているのだ。

 

 

「うん、絶対!」

 

時間を忘れて、2人で話し込んでいる北瀬達。

だが通訳の人に「そろそろチェックインの時間です」と言われ、名残惜しげに北瀬は搭乗口に向かって行く。

 

 

『またな、国体で会おう!!』

 

前を向きながら同時に全く同じ事を言い、俺達はやっぱり兄弟だなぁと思いながら去っていく2人。

 

北瀬はやっぱり寂しいと思いながら、ワクワクしていた。

これから、1番凄い人達と野球が出来るんだなと。

 

 

 

 

 

 

後ろを振り向かず、泣くのを堪えながら唯菜の元へ向かって行く伊川。

2度と会えなくなる訳でもないのに、ここで泣いたら先輩として恥ずかしいと思っているのだ。

彼はブラコンなので進路が分かれてしまった事は凄く寂しいのだが、表には出さない様にしていた。

 

 

「北瀬先輩の事、沢山の人が見送りに来てるね!

……伊川先輩は会えた?」

「うん。こんなに沢山の人がアイツを見送りに来るとは思ってなくて焦ったけど、警備の人が通してくれたんだ」

 

混雑が予想されていた為か、多くの警備員が北瀬の周りを囲っていた。

遠くにいるとはいえ、これで周りの異変に気付かなかった彼はどれだけ鈍いのだろうか?

 

……まぁ勿論、普段からこんな感じな訳ではなく、彼も緊張していて周囲に気を配れていなかっただけだが。

そうでなければ、とっくに中学時代あたりで悪い人達に捕まっていただろう。

 

 

「良かったー!こんなに人がいたら、遠くから眺めるだけになっちゃうんじゃないかって思っちゃったの

……じゃあ、遊園地行こっか!」

「待っててくれてありがとな。唯菜との初デート、凄く楽しみだったんだ」

 

ちなみに、今日が伊川と唯菜の初デート日である。

年中無休の高校球児なので、今日位しか空いている日が無かったのだ。

 

流石に他の部員にはある筈の休暇すら、伊川は沢山の取材などで丸潰れになっていた。

本当に僅かな時間を縫って、彼は兄弟の見送りと彼女とのデートを遂行しようとしている。

 

 

 

 

 

 

ファーストクラス専用のラウンジから、怖々と飛行機に乗り込んだ北瀬。

母からの仕送り額が多かったので金銭面には割と余裕があるとはいえ、流石に100万円以上もする座席には乗った事が無かったのでそれも緊張する要因だった。

 

 

 

「おはようございます。ご挨拶に伺わせて頂きました、CAの春乃と申します」

「あっ、どうも。北瀬涼です」

 

わざわざ挨拶に来たCAの人に驚きながら、北瀬は何とか返事を返した。

彼は人見知りだと自覚しているので、もししょっちゅう乗務員の人に来られてしまったらさぞかし気まずい時間を過ごす事になるのではと戦々恐々としていた。

 

だが流石ファーストクラスのキャビンアテンダントと言うべきか素晴らしい話術で話を盛り上げてくれ、意外にも快適な時間を過ごせたらしい。

食べ盛りの野球部員なので人と比べて大食いだと言う事も、沢山食事が欲しいなんて言えないという気持ちも全く起こさせずに気付けば話していて、彼にとって丁度いい量が盛られていた。

 

 

「うっまいですね!何これ?!」

 

後で伊川に送る用の写真も取った後、普段通りに沢山食べて満足した北瀬。

気付けばあっという間に10時間が過ぎ、空港に到着していた。

 

 

着いた後、もっと全力でファーストクラスを楽しめば良かったかなと少し思ったらしい。

でも、まあもしかしたら帰りも乗れるかもしれないし良いかと、直ぐに切り替えたのは流石と言うべきだろう。

 

ちなみに彼は、5年150億円の契約によって何時でも乗れる額が手に入ると言う事はすっかり忘れている。

 

 

 

 

 

 

「ここがキタセのロッカールームだ!使用人にチップを払うのを忘れない様に。

最も、君には通訳を雇っているからね。忘れていても代わりに払っておいてくれるが!」

「え、チップ?あ、ここは外国だし……分かりました!

でも、まだ結果を出してないのに、俺用のロッカーなんて用意して良かったんですか?」

「ハッハッハ!___5年1億ドルの106マイルピッチャーだぜ?結果は出して貰うよ。まっ、君なら実力の70%でも出せれば勝てるだろうからな!」

「は、はいっ!!」

 

次の日になると北瀬はマリナイズに到着し、軽く施設を見学させて貰った後すぐにスカウト達に日本語の契約書を渡され、伊川に問題ないか確認して貰っていた。

 

もちろん北瀬が不利にならない様に、隅から隅まで確認した伊川。

素人知識で見ただけなら怪しい所は特に無かったので、契約書にサインして良いと通話で話した。

 

細かい所で騙そうとされたら、それはどうしようも無い。

少なくとも、北瀬の身に何かしようと言う害意が無ければそれで良いと伊川は判断したのだ。

それと、天下のメジャーリーグは流石に騙して来ないだろうとも思っている。それでも文章の確認はしたが。

 

 

 

 

 

 

莫大な金額が書いてある事実に、内心震えながら契約書にサインをした北瀬。

これだけ期待して貰ったのだから、結果を出さなければと内心冷や汗をかいていた。

 

正直ここまでの期待に応えられる自信は無いが、メジャーリーガーになってみたいから仕方ないとも思っている。

メジャーリーガーとして考えても、給与がかなり高い可能性は見なかった事にしていた。

 

ネットに正確な額は乗ってないのだから、他の人も貰っているに違いないと現実逃避していたのだ。

日本一の野手である選手の給与が5年1800万ドルであると言う情報も、嘘だと思い込もうとしていた。

 

 

「これで君も、マリナイズの一員だ!エースとしての活躍を期待している!!

……では先ず、我がチームが誇る日本人選手を紹介しよう!彼が、首位打者と盗塁王。そして年間最多安打記録を持った選手だ!同郷として、しっかり交友を持ってくれ」

「甲子園での活躍を見たよ。ぜひ活躍して欲しい」

「えっ、あのパワプロにも沢山出てた選手ですか??!」

 

次元の向こう側の人が話しかけて来た衝撃に、思わず変な事を口走った北瀬。

パワプロに出ている選手と言うより、現実で大活躍してパワプロにも収録されたという方が明らかに正しいだろう。

 

俗っぽい発言を聞いた、北瀬に紹介された彼は「まだまだ高校生だな」と思いながら返事を返した。

 

 

「そんなに驚かなくても、すぐに君もパワプロに出るさ」

「えっ、そう……ですかね?」

 

 

 

 

お互いに印象的な第1印象を残した彼らは、その後バーベキューに参加したり一緒に筋トレをしたりして、そこそこ交友関係を深めた様だ。

北瀬は体育会系の上下関係に疎く日本人選手としてはマズいラフさも披露していたが、さほど煩いタイプでは無い先輩選手が許してくれていた。

 

北瀬には実力が確実にあるのだから、多少の事には目を瞑ろうと思ってくれたのかもしれない。

彼は自分の成績と勝敗に拘りたい性格だったので、最高の投手が入団する事を内心では大層歓迎していたのだ。

 

 

 

 

「最近、そっちはどうだ?伊川」

「いつも通り、楽しいよ。昨日花坂がさ、久しぶりに練習見て欲しいって言ってきたから監督に確認取って、練習見に行ったんだけど〜。

……あ、俺達は甲子園終わってほぼ引退してるから、練習場所が違うんだよ。で、俺なりに後輩達のフォームの確認とかしてたら綾瀬川も来てさ!

バッテングに興味が有ったのか?って確認したら……」

 

途中、野球部の佐藤マネージャーからの質問に答えたりしつつ、伊川と毎日の様に通話をしていた北瀬。

他の交友関係がある人達からも連絡が途切れなかった為、ホームシックには掛からないで済んで感謝していた。

毎日のホテル暮らしには、暫く慣れそうに無かったが……

 

 

 

 

メディカルチェックや練習内容なども確認された後、国体が始まる直前に帰る北瀬。

マリナイズの人達からは「わざわざ学生の国内試合の為に、無理して帰国しなくても良いだろう」と言われていた。

 

だが大切なチームメイトとの最後の試合だと言った後、そもそもそういう契約だろうと説き伏せて帰って行った。

彼はメジャーリーグも楽しみにしていたが、何より薬師野球部というチームを愛している。

 

 

 

 

飛行機から降りてチェックアウトすると、何やら非常に視線を感じた。

まさかと思って周りを見渡すと、群衆の群れが一心不乱に北瀬を見ている。

 

 

『……わああぁぁ!!』

「北瀬ーー!!記事は全部見たぞーー!!」

「キャー!北瀬くーん!!」

 

まるで英雄の様に、歓声で迎えられた北瀬。

薬師野球部での2年半とメジャーリーガーとしての1か月で培ったプライドで、どうにか後退りはしなかったが割とビビっていた。ファンが熱狂的すぎたのである。

 

 

引きつり笑いながらも手を振り返した彼は、ボディガードに守られながら薬師高校の寮に帰って行った。

ちなみに、気付けば専属のボディガードも寮に寝泊まる事になっていた。

8割は後払いとはいえ、150億の権利を持つ人間を警備がザルな場所に居させる訳には行かなかったらしい。

 

学校の授業にも当然付いて行くと言われ、彼は乾いた笑いしか返せなかった。

流石にこの待遇は大げさで、かなり恥ずかしいらしい。

俺だけ保護者付きで毎日授業参観かよと苦笑いしていた。

 

 

 

 

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