【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
どうしても相手チームが思いつかないので、ハイキューのキャラからそれっぽいの持って来ました。
真田の妄想力が激しい感じになってすみません。ちなみに私は、真田も推しの1人です。
「甲子園ベスト8を決める戦いは、県立の星烏野対、ファイアーフォーメーションの薬師かぁ!」
「炎上9人組って、可哀想だろ! 3人が酷いだけで、他は下手くそ程度だし」
「もし薬師のくじ運が悪かったらもう1試合見れたのにな」
観客席のおっさん達が盛り上がり、口論が始まりそうな程面白くなりそうな試合。県立高校の烏野対、トンデモナイ打撃と守備の薬師高校の対戦だ。
当然客ウケは凄く良く、テレビでは連日彼らの戦いの予想について報道していた。
甲子園2回戦目、薬師高校の相手は昔、小さな大エースがいた古豪・県立烏野高校。部員は総勢15人しかいない、どうやって勝ち上がってきたのか謎のチームだ。
「甲子園って、意外と県立が多いんすか?」
北瀬が不意に疑問を口に出す。
私立の強豪校は施設に莫大な資金を投じていたりするが、県立はそれが出来ないから、普通甲子園に出るのは私立高校なのだが……薬師高校は2連続で県立に当たっていた。
「ンな訳ねぇーだろ! 甲子園出場校は、俺達が当たった2校だけだよ」
何人かがビクッと肩を揺らした。彼らも、意外と県立の学校って多いんだなぁと思っていたからだ。
野球ド素人の北瀬と同じ発想をしていたのが屈辱的だったので、俺がそう思ったのバレてないよな? と周りの空気を少し確認した。
轟監督はそれを目ざとく見つけ、(嫌になっちゃうねぇ、うちの部員バカばっかり!)と内心呆れていた。
端から見れば、知識をつける事を軽視し、バッティングばかりやらせていた監督にも責任があると思われるが。
でもそれは仕方ない。最近やる気が出てきたとはいえ、基本的に薬師は、1回戦負けの弱小メンバーにやる気をどうにか出させてここまで来たのだ。
何もしなくても天才の北瀬&伊川を見ていると、どうしても自分の才能の低さを実感してしまう。それで部活を辞められると困る為、楽しい打撃練習位しかさせられなかったのだ。
「へー。じゃ、ラッキーだな」
北瀬は何も考えていないような、実際何も考えていない、ほえーっとした笑顔で呟く。
これに対し轟監督は、流石に軽く咎めた。
「おいおい、一応相手も甲子園で2勝してる強豪だぞ、もうちょっと警戒しろ! まーそうそう負けんとは思うが……」
手塩にかけて育てた薬師部員を信頼している轟監督は、注意しながらも若干舐めプが入った発言をした。
だってこいつらはほっといてもその内打つ。
うちのバカ3人組が打ち始めると、相手は完全にビビって萎縮する……その隙を狙い撃つ特訓はさせているから、普通に考えたらこの試合は負けないのだ。
「烏野で強えぇ奴はまずはこいつ、王様キャッチャー影山飛雄。めちゃくちゃ強気で冷静なリードをしてくる」
「へー、青道の御幸一也みたいな感じっすか?」
「いや王様キャッチャーってどういう事?」
野球で王様といえば、普通ピッチャーだ。補佐役のキャッチャーに王様というワードが付くのは不自然に思われる。意味がわからなかった秋葉が思わず呟いた。
それに反応した轟監督が補足説明を入れ、そのまま説明を再開する。
「真田のお母ちゃんが作ってくれた資料によると、めちゃくちゃ強気で横暴な選手らしい……次! 小さな大エースの後継者を自称するピッチャー、日向翔陽。凄まじいキレのスライダーとパームを使うらしい」
「監督……パームってどんな変化球っすか?」
パワプロにも出ている筈だが、そこまで真剣にやり込んでいなかった伊川は覚えていなかった。ちなみに北瀬も分からなかったので、アイコンタクトで聞いてくれたお礼を言っていた。
変化球の種類も知らないド素人バッテリーに、これからも先発を任せる事に胃酸が逆流してきて吐き気を覚えつつも、轟監督は大雑把に教えた。
薬師メンバーの大体が顔を引き攣らせていたが、真田だけは別の理由で引き攣らせていた。
(母さん、いつの間にそんな資料作ってたんだ? ……野球部に来てる所全然見てないけど、いつ資料作ってほしいなんて話を通されたんだろう)
普段父親が出張で家にいないので、流石に無いとは思うが監督と母親のロマンスが始まっていたらどうしよう、なんて少しだけ思った。
確かに父さんは写真を見るにイケメンじゃないし、たいして給料高くないし、家に全然帰ってこないし。ぶっちゃけ俺、父さんの顔覚えてないけど。
浮気は良くないと思う。してたって決まった訳じゃないけど。
真田は、轟親子に傾倒するあまり、母親も彼らの魅力に骨抜きにされたのではないかと思い始めたのだ。
傍目からはあんまりバレていなかったが、激アツな野球を教えてくれた轟監督と、努力家な天才轟雷市に彼は完全に傾倒していたのだった。
まあ確かに、野球やってる監督は格好いいもんな。
分かる。真面目に野球やる気がなかった俺も、この親子に感化されて激アツな野球を楽しむようになったしな!
もし母さんが浮気してて轟監督と再婚するなんて事になったら……この親として不適格な監督を父と呼びたくはねーな、
そう考えていた真田だが、その場合雷市を弟と呼べる事に気付いてしまった。
(マジかよ、俺が雷市の兄になれるのかよ! 母さんやるなぁー! これで雷市を猫可愛がり出来るじゃん! ……まだ決まった訳じゃないけど)
決まった訳じゃないなどと、さも可能性が高いように真田は脳内で考えていた。
当然違う。対面している筈の時間が無いように見える理由は、監督が代わり練習量が大幅に増えた頃、部員の親全員がメルアドを交換しているからだ。
甲子園出場が決まった時、真田のお母さんは純平の為に全力で相手チームを調べてきてくれただけである。
真田はもう少し自分の母親を信用した方が良い。
「……ったく、下に落ちる変化球だよ。後2人、割と上手いショートの月島と、烏野の主砲の変化球に強い東峰。まーこんぐらいか」
「監督、烏野のチームカラーはどんな感じなんですか?」
薬師メンバーで(性格を含めると)1番イケメンな真田が、妄想内容を全く感じさせない爽やかな声で質問した。
甲子園出場決定した時も、彼ばかりがチヤホヤされていたのだ。観客席からも女の子からの歓声が真田に集まり、部員はちょっとイラッとしていた。
(くそっ、性格良いから爆発しなくて良いイケメンめ……)
各々がもうすぐ始まる試合の事ではなく、なんか別の事を考えていた薬師野球部。まあ一応、監督の話はちゃんと聞いているからセーフ、という事にしておこう。
「あれ、言ってなかったっけ? とにかく盗塁、走塁が速い機動型野球だ。だから、大事な初戦を北瀬先発にしたんだよ」
「監督、脳死で真田先輩と俺を交代で出していくからとか言ってませんでしたっけ……?」
北瀬の質問により、監督はすこしだけ冷や汗をかく。
こんな事で試合前に機嫌損ねられて、能力が落ちられたら堪らねぇ。疲れるだろうに、ピッチャーとして活躍してる時の方が打つタイプの変な選手だからな。
ただし打撃で大崩れした事は無いから、やっぱりこいつ分かんねえ……凄い天才である事は確かなんだが。
「どっちでも良いだろ、ワガママか!」
「初戦先発させて貰ったクセに!」
「確かに伊川が盗塁阻止とか、出来る気しねぇもんなぁ」
「ぶっちゃけどっちの方が強いかとかわからねぇもん、総合的に見て」
(総合的に見てっていうのは捕手のリードも含めてって意味だけど、それは言うなって監督に言われてるからなぁ)
轟監督は伊川の、諦めが早く思い切りが良い性格を考えた場合、リードに関して口出しするのはまだ早すぎるだろうと結論付けていた。
野球の練習を全くしない訳では無いが、授業をしっかり受け、休憩の合間に参考書を読む生活、プロとして食っていく気は全く感じられない。
あれだけ才能があるならプロで食ってけば良いと思うが、流石にそいつは監督が決める事じゃない。それに、これ以上の練習量を強要した場合、伊川は最悪野球部を辞めるだろう。
試合前、監督がニヤリとした顔をしながら活を入れる。
「いいかっ! 相手は走ってくるだろうが……俺達には関係ねぇ! 打って打って、打ちまくりやがれ!!」
『おうっ!!』
甲子園2回戦、1回表。薬師高校の攻撃は、1番、秋葉一真。
薬師高校では珍しく、多少の小技も出来て守備も悪くない、甲子園クラスの選手の中では器用貧乏に近い選手だ。
___パン!
初球はしっかり見て、ストライク。球速はあまり速くない球だが、キャッチャーが上手く取ってけっこういい音が響く。
(ストレートはけっこう遅いな。これなら変化球も打てるんじゃねーの?)
2球目相手エースが振りかぶった!
___カン!!
上手く守備の間に落ち、烏野のあまり上手くない守備も合わさって秋葉は2塁まで進んだ。
……2塁まで進んだにも関わらず、秋葉は微妙な顔をしていた。
(今の曲がりヤバかったな、スライダーえげつな! 今の打てたのマグレだわ……相手の守備に助けられたな)
普段薬師の守備はあまりにも酷く、相手の攻撃を手取り足取りサポートしてしまっている。
その薬師高校が珍しく、相手の守備に助けられたと思う展開が起き驚いていた。
普段の彼らの方が酷いのだが、そんな事は全く考えない。そういう風に、試合中負の感情に殆ど囚われない事も、薬師高校が飛躍した理由の1つかもしれない。
ノーアウト2塁で、打席にはこの男。打率9割8分の伊川始。
王様・影山飛雄は、様子見でストライクゾーンからボールに外れる、アウトコース低めのパームを選択した。
___スパン!
「ボール!」
伊川は絶対にボールだと見逃し、実際にボールカウントを1つ取った。
(チッ、少し要求する場所が低かったか?)
影山はキャッチャー防具の中の顔を凶悪に歪ませながら、自問自答する。
実際の所、この男からこのピッチャーでアウトを取るなら、メジャークラスの奇跡的な守備をするしかないのだが、マイナス思考の雑念を一切彼は考えない。
気を取り直して2球目、アウトコースからインコースに決まる、絶妙なボールをピッチャーは投げたが……
(打ち頃の速さのボールだなっ)
___カキィーン!
伊川は軽々とバットに当て、ホームランを打つ。
伊川がマウンドを悠々と、特に感慨深くもなく無感動に、ダイヤモンドを1周する為に1塁あたりまで走ったその時。打たれた相手ピッチャーが話しかけてきた。
「お前!!」
「……」
なんやこいつ、打たれた文句でも付ける気か? と伊川がシラーっとした目で2塁に進む中……相手ピッチャーの日向翔陽は目を輝かせていう。
「すっっげぇな! 次は絶対倒す!」
「あ、ども……」
(普通、自分のボールが打たれた時って話しかける物? 違うだろ、もっと悔しがれよ。やり辛ぇなぁ……)
日向のあまりの陽の気に当てられて、陰の者だと自覚している伊川は思わず呻く。
これが甲子園という物か……やっぱり野球が大好きな奴は、変なヤツしかいないのだろうか?
普段からカハカハ言ってる轟、野球に狂ってるおっさんの轟監督、意味深っぽい感じでキレてくる御幸一也さん、そして妙にフレンドリーなこいつ……
(だれだっけこの人、確か太陽みたいな感じの名前の)
伊川がどうでも良いけど、絡まれたから一応相手ピッチャーの名前を思い出そうとしている時、目が合い以心伝心された北瀬がバッターボックスに入る前に名前を聞いていた。
「すみません監督、相手ピッチャーなんて名前でしたっけ?」
「ヒナタだ、ヒナタショウヨウ。スコアボードに書いてあるだろ……何で聞いたんだ?」
「スコアボードっスか、忘れてました。あー伊川が気になってたみたいなんで」
北瀬達は、スコアボードに名前が書いてある事を忘れていて監督に聞いた。
監督はそんな事すら忘れている北瀬に呆れながらも、普段相手の事なんて殆ど気にしない彼が、なぜ気になったのかが気になり質問した。
実際のところ伊川は気になっているという程日向の名前が気になっている訳でもなかったが、流石にテレパシー能力は完全に相手の考えてる事が分かる能力では無いから勘違いされた様だ。
「ヒナタショウヨウだって……てか何で聞いてきたんだ?」
「いや、なんか次は絶対倒すって言われたから、一応こいつの名前覚えとかなきゃマズいかなって」
「へー。でも次の打席で倒すって事じゃね?」
「……確かに」
覚えなくて良い事を覚えてしまった、脳みそのゴミだなと思いながらベンチに帰った伊川は北瀬の応援をしながら殆ど寝ていた。
昨日、彼らのファンを名乗る輩に絡まれてホテルまで付いてこられた事のストレスで、人が苦手な伊川は寝不足になっているのだ。
轟監督はそれをみて、ハラハラしながらも胸を撫で下ろす。
(おいおい、主力メンバーの伊川がおネムだと困るんだがな。まー今日北瀬の登板日にしてなくて良かったわ)
ちなみに、北瀬の打順が3番になっているのはオーダーを出す時轟監督が適当に考えた思いつきだ。
別にこの2人の打順を変えてもあまり影響は無いし、相手の戦術が狂ったらラッキーだと思ったからだ。
北瀬は今回ピッチャーにしなくて良かったという、ピッチャーをやりたい北瀬にとって都合の悪い事を考えられているとはつゆ知らず、打席に立つ。
パワーが低い伊川がホームラン打てるんだから、俺はホームラン打って当然だよな、と考えながら。
実際の所、伊川はパワーが低いからホームランが打てないのではない。
ホームランにもそこまで興味が無いから、後ろにいる北瀬の為に塁に出ておいた方が良いよな? という感じで、生来からの恵まれた打撃センスの全てを塁に出る事に費やしているのだ。
それにミスって怒られても嫌だと、消極的な考えから打率お化けが産まれたのである。
所詮高校生の投球など、伊川にとって多少打率を下げれば簡単に打てるのだが。まあ確かに、2番の働きとしては間違っていないかもしれない。
相手ピッチャーが腕を振りかぶり、投げた!
インコース高め、ボールゾーンのボールに対し、テンションが上がっていて全力で振っていた北瀬は対応出来なかった。
驚異的な体幹を持つ彼は、無理やり腕を折りたたんで当てにいく。
___ガン!
ギリギリバットに当たった打球は、ふらふらっと上がったセンターフライ。
「アウト!」
これでワンアウト。熱意とは……勝負において、必ずしも戦況を有利に働かせる物ではないのだ。
「うげぇぇ、ヤられた!」
「どこがヤられただ!」
「どう見てもボールじゃねーか!」
打つ予定だった北瀬がアウトを取られた事に少しだけ驚いた伊川は、思わず本音を口に出す。
北瀬は最近割と目立ちたいみたいだから、俺がホームランを打っちゃったのはミスに近いが……北瀬が打つだろうと2塁打にしていたら、1点入らない所だったのだ。
別に伊川は北瀬がアウトを取られた事に不満はとくに無いが、皆が勝負に勝ちたいらしいのを尊重しているので少しホッとした。
「どんまい北瀬! 俺ホームラン打っといて良かったなー」
「うっせぇ! 次は多分打つ!」
次は多分打つと、北瀬にしては珍しく積極的な事を言いながらベンチに戻る。
多分と付ける弱気な所が、素晴らしいポテンシャルと飛び抜けた実力を持っているにも関わらず、超一流と呼び難い選手である理由の1つなのだが。
長くなりそうなので2回に分けました。