【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
北瀬涼を中心とした薬師高校「黄金世代」の最後の夏は、甲子園連覇で幕を閉じた。
その成績は誰もが認める偉業。だが、それだけでは彼らの夏は終わらなかった。
昨年のU-18日本代表としての北瀬らが、日本ツナ2軍との練習試合であわや完全試合の完封という歴史的な勝利を収めていたという事実が、実況者のミスで広まったのだ。
その試合が行われていた事実が広まり、高校生がプロ相手に勝利するという衝撃的な結果は瞬く間に日本中の野球ファンに伝わっていた。
北瀬涼を始めとした黄金世代の存在、彼等への敗北の周知はプロ野球界にも波紋を広げた。
プロチームが高校生に負けたことが世間に広まり野球ファンだけでなくメディアも騒ぎとなった。
これに対して、当時の日本ツナ2軍監督や選手たちは事実を認め悔しさを露わにし、何とかしてリベンジを果たしたいと公言するほどだった。
そして、この悔しさを象徴する出来事が次に起こった。
日本ツナの監督がチーム内での会議を開き、あらゆる角度から次の一手を模索していた。その内容は、ある意味で前代未聞、そして狂気とも言えるものだった。
……それは、日本ツナの内部会議で行われた。
「これ以上、プロの名誉を汚すわけにはいかない」
会議室の重々しい空気の中、日本ツナ1軍監督である梨畑監督がそう発した。
彼の前には球団幹部やコーチ陣、スカウトチームが勢揃いしている。通常の会議であれば、シーズン中の戦略や選手のコンディションなどが議題に上がるはずだった。
しかし、この日話し合われていたのは異例の提案。
各部門の担当者達は普通の会議とは違い、参加者全員がどこか困惑や戸惑いを隠せない様子だ。
梨畑監督は、厳しく威厳が感じられる表情で口を開いた。
「U-18の高校生チームが我が2軍を倒した。それがどれだけ異常なことか、我々は深く認識する必要がある。
確かに相手に北瀬涼という化け物がいたが、我々はプロ。2軍とはいえ、負けた事実を軽視する事は出来ない」
その場にいた誰もが、その事実に言葉を失っていた。
プロの名門球団が高校生に敗北するなどということは、あり得ないはずだった。だが現実は異なり、事実として敗北は確かに存在している。
1軍目前の男が撃ち込まれ、北瀬のピッチングに対しては、何も対策が打てなかった。おまけにエラーが無ければ完全試合になっていたと聞いたときは眩暈がしたものだ。
もし相手があの北瀬涼だと聞いていなければ、コーチ総入れ替えも辞さなかっただろう
「そこでだ……」
梨畑監督は一呼吸置いて全員を見渡し___
「我々のそのリベンジマッチを1軍で行う。相手はU-18日本代表ではなく、北瀬涼率いる薬師高校そのものだ」
この発言が、会議室を揺るがした。
プロの1軍チームが、高校生と公式試合を行うという前代未聞の提案に、場内は一瞬騒然となった。
「か、監督、それはさすがに……」
あまりの一言にコーチの1人が、恐る恐る声を上げる。
「プロの1軍が高校生相手に試合をするなど前例がない上に、その時期はシーズンの真っ只中です。きゅ、球団としてのイメージにも影響があるのではないでしょうか?」
「確かに前例はない。しかし、我々が高校生に負けたこともまた前例にないことだ」
破天荒な監督の提案に、他の首脳陣達は苦悩している。
だから彼は、強い口調でこう断言した。
「これは単なる試合ではない___我々の名誉を取り戻すための戦いだ。
そして何より、彼ら高校生がこれまでに示した圧倒的な実力を、プロの頂点にいる選手たちで証明する必要がある」
監督の言葉に、一瞬怯んだコーチ達。
だがどうにか言葉を振り絞り、彼への反対意見を出そうとしている様だ。
先人達が築き上げてきた偉大な日本野球界の前例に無い事は、やはり行いたくないのだろう。
「……しかしですな。高校生相手に我々が本気を出すというのは、世間的に……それに、彼らには北瀬涼という天才投手だけではありません。下手に試合をして万が一また負けるようなことがあれば、プロ野球全体の信用にも関わりかねません」
「点を取れないだけならまだいいです。メジャーへ旅立つ男のかませ役として、ある意味オイシイとは言えますから……問題は彼等が普段やっている試合みたいに打たれた場合ですよ」
「ましてや、シーズン中だぞ。レギュラーシーズンの試合をこなしながら、高校生相手の試合に集中するなんて、選手達に負担が大きすぎる」
コーチングスタッフ達もこの提案に懐疑的だった。
実際プロ野球チームにとって、シーズン中に調整試合を行う余裕などない。ましてやその相手が高校生だというのだから、選手達の士気に影響するのではないかという懸念があった。
梨畑監督は静かに、信頼する幹部達の言葉を聞きながら1度ゆっくりと席に座り直し、冷静に反論を続けた。
「そのリスクは承知の上だ……だが、野球というスポーツは常に進化し続ける。
北瀬涼という天才投手が出現した事で、確かに高校野球自体のレベルがプロに迫っている。それを認めた上で、我々が何をすべきかを考える時が来ているのだ。
彼らにリベンジを果たし、プロ野球界の真の実力を示し
___彼らがどれほど成長しても、我々という壁があることを証明しよう」
会議室内は再び沈黙に包まれた。誰もが梨畑監督の提案に同意したい気持ちはどこかであったが、その提案の規模があまりにも異常だったため簡単には賛成できなかった。
しかし、梨畑監督の決意は断固として揺るがなかった。
「それに、この試合が実現すれば、間違いなく全国の野球ファンが注目する。我々の名誉だけでなく、日本の野球界全体が再び盛り上がるだろう。
既にスポンサーや放送局からも、この試合の話は興味を示されている。世間は、彼等とプロの1軍がぶつかる瞬間を見たがっているんだ」
己の進退を掛けリベンジマッチを組もうとしている監督。
彼は強い口調で断言した後、ふと笑ってこう話した。
「それに、あの北瀬は10月下旬にはアメリカに行く。彼のメジャーデビュー前の最後の試合になる可能性が高い。多くの選手達にとって、彼と戦うことができるチャンスはこれが最後なんだ」
「…………分かりました。ですが、レギュラーシーズンに影響が出ない範囲でやりましょう。選手達には下手に無理をさせるわけにはいきません」
「構わない、結局はエキシビションマッチだからな。無理はさせずとも、観客が大いに楽しめる試合になるだろう」
梨畑監督の言葉には確固たる自信があり、その姿勢に反対する者はいなかった。
こうしてプロ野球界における前代未聞の一戦が実現へと向けて動き出す事となる。
レギュラーシーズンの真っ只中に高校生相手の試合を行うという、総てにおいて常識破りの試合が成立するための準備が急速に整って行った。
試合の成立に不可欠だったのは、北瀬涼という存在が持つ常識外れのネームバリュー。
甲子園のスター選手として、そしてU-18での大活躍を経て、北瀬の名前は世界クラスとなっていた。
彼が投げる試合は毎回注目され、そのピッチングに多くのファンが熱狂。プロも彼に注目し、多くの球団が彼を次世代のエースとしてリストに載せていた。
結果として、異例の高卒メジャー投手となった訳だが。
またこの試合が実現する背景には、野球ファン、各球団、更にはメディアやスポンサーの強力な後押しがあった。
プロ野球と高校野球の対決というシナリオは興行的にも大きな話題となることが予想され、テレビ局やスポンサー企業もこれを商機として捉えた。
「はい!薬師高校野球部監督の轟です」
「ええ、ええ……ああ!日本ツナの!」
「___え?ウチの卒業チームと引退試合を、1軍の方と、ですか??」
こうして、北瀬涼という天才投手を中心にした異例の試合が正式に決定された。
その舞台は、阪神甲子園球場。
1つの球場を丸ごと貸し切り、プロ1軍と高校生の真剣勝負が行われる事となる。
北瀬涼___その名を聞けば、誰もが思い浮かべるのは破格の天才投手であり、日本高校野球界の歴史に名を刻んだ選手だ。
彼が齎した影響は、単なるアマ選手の枠を超えていた。
全国の高校野球ファン、プロ球団、そしてメディアまでもが彼を注目し、彼の存在を神格化していると言っても過言ではない。
甲子園4連覇という前人未到の偉業を成し遂げ、北瀬率いる薬師高校はその歴史に幕を下ろした。
その後の野球界全体を震撼させたのは、国体後に発表された「薬師野球部3年生の引退試合」の開催……しかも、その相手はプロの日本ツナ1軍。
試合の詳細が公開された瞬間、日本中が驚愕した。
高校生とプロ、それも現役シーズン中のプロチームが公式試合で戦うなど、前代未聞であり常軌を逸していた。
この試合が実現した理由は、ひとえに北瀬涼を始めとした薬師黄金世代という選手達の存在があったからこそだ。
彼の才能と、これまで積み上げてきた実績がなければ、プロの球団が高校生チームとの対戦に合意するなどあり得ないことだった。
一方その頃、国体で軽く全校を捻りつぶした薬師高校野球部は北瀬涼を中心とした薬師高校の野球部は、甲子園4連覇という偉業を達成したことで1つの時代に幕を下ろした。
だが、チームの熱気が冷める間もなく、部員達を驚愕させる知らせが舞い込んだ。
「なんだよ、この話……?先輩達の引退試合の相手が、日本ツナの1軍??」
部室のテーブルに置かれた一枚の資料。そこには、北瀬涼たち薬師高校野球部の引退試合が日本ツナファイターズの1軍と行われるという、信じがたい内容が記されていた。
部員達は目を見開き口をぽかんと開けたまま、呆然と資料を見つめている。
「えー?冗談だろ、これ……」
セカンドの伊川始が、半信半疑で呟いた。
彼は大抵のことは他人事の様に片づけてしまう性格ながら、北瀬と共に薬師の黄金世代の一員として甲子園で戦い抜いてきた。
そんな冷静沈着と言うか全てにおいて飄々としている彼でも、これには流石に唖然とするほか無かった様だ。
だが、聞いている人間の中に、1人だけ冷静に資料を眺めている男がいた。
「___いや、現実だ。お前達3年生の最後の対戦相手は……本当に日本ツナの1軍になる」
片岡コーチが淡々とそう言うと、部室内の空気が一変。
その後も彼はどこか落ち着いた口調で、引退試合について話し始めた。
彼も高校プロ問わず野球の厳しさは知っているだけに、この提案がいかに異常かを瞬時に理解している。
「うんまあ、オメーラの言いたい事は分かる!まあでも、既にOK出しちったからな」
「いやいや、何で簡単にOK出しちゃったんですか!?」
「色んな意味であり得ませんよ!こんなの!!」
堂々とした態度で酷い事を言う監督に、選手達はブーイングしていた。
だが轟雷蔵と言う男は悪びれもせず、頭をボリボリとかきながらこう言った。
「いや〜あんまりにもすげー圧でよぉ……練習試合でお前達が日本ツナの2軍に勝ったっていう話が広まっちまってるし、そのリベンジってトコだろうな」
雷蔵は肩をすくめながらも、どこか自信に満ちた表情を浮かべている。
それは、誰が相手だろうと、彼等こそが日本で最強のチームであるという思い故かもしれない。
「ん?U-18で何かあったんすか?」
「黄瀬、お前知らないのか?非公式練習試合で2軍相手とはいえ、プロを北瀬達がフルボッコにしたって話」
「いや、北瀬っちが2軍相手に勝つのは当然でしょ」
物知らずで強烈過ぎる信頼を見せた黄瀬に、流石の轟監督も一瞬言葉を失った。
「……まあ、それだけならまだしも三島がエラーしてなきゃ完全試合だったらしいんだわ、その試合」
「えっマジ!?ちょっとぉ何してんすかキャプテーン!」
「ハッハッハ、スマンスマン!いや〜あの時は、当時のチームからもこっぴどく絞られた!」
野球ファンはこの異例の試合に狂気を感じながらも、同時にかつてない期待を寄せている。
プロと高校生が激突する瞬間が、もうまもなく訪れようとしていた。