【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
その記者会見場はいつもよりも熱気に包まれていた。メディアが集い、立ち並ぶカメラが一斉に向けられている。
表向きは薬師高校のエース北瀬涼の「お別れ会」だが、誰もがそれが本音でない事を知っているのだ。
表向きの名目に隠れた真意、それは薬師高校がU-18で2軍を滅多打ちにしたことによる“リベンジマッチ”の意味を含んでいた。
薬師高校が「北海道日本ツナファイターズ」と試合を行う
___この一報がメディアを通じて正式に発表されるや否や国内の野球界に衝撃が走り、興奮と不安、そして未知の期待に包まれていた。
彼らにとってもプロ選手と高校生が甲子園の舞台で対峙するなど、夢物語にしても有り得ない出来事だったからだ。
発表の翌日、薬師高校野球部は練習に集まっていたが、全員がどこか浮き足立っているように見える。
そんな中で北瀬と伊川は、いつものように黙々とウォーミングアップを行っていた。
北瀬にとっても、プロとの対戦はただの「イベント」ではなかった。プロ相手に自分がどれだけ通用するか、それを知りたいという純粋な渇望が胸の内を燃やしていたのだ。
伊川にとっては意味不明な状況と言う他なかったが……やると決まったならやるだけだと、冷静な思考を保ったまま戦う姿勢を見せていた。
試合発表は、全国の野球ファンの関心を大いに集め、各メディアがこぞって取り上げた。テレビでは、人気司会者が声高に発表し、会場の甲子園の映像が映し出される。
『皆さん、驚きのニュースです!なんと、甲子園で北海道日本ツナファイターズと薬師高校が一戦を交えることが決定しました!』
『薬師高校といえばあの高卒メジャー150億プレイヤーである北瀬涼君を始め、黄金世代による薬師旋風、選抜からの四連覇、秋春夏の三冠を成し遂げたーーー』
「やっぱり大騒ぎになってるな、これ」
「そりゃ、そうだろうよ。現役のプロが先輩達の引退試合の相手なんだぜ」
「ほんとに正式に発表したってことは、監督の与太じゃなかったってことか」
国内でも異例の試合が実現したこの出来事は視聴者からは驚きと期待の声が広がった。
そして当の北瀬たちは部室でその放送を見つめている。
後輩達は固唾をのんでテレビに釘付けになっているのを横目に仲間と視線を交わす。
まさか自分の所属している高校野球チームが、プロのチームと甲子園で試合をするなど夢のような話である。
そもそもの問題として、プロアマ規定が存在する野球に限らずスポーツにおいて高校生とプロのスポーツ選手が大真面目に戦うことなどありえない事だ。
例え規定が有ろうと無かろうと。
サッカーやバスケットボールなどでもそうだが、言ってしまえば体重制限の無い対人スポーツなんてものは無差別級の格闘技と変わらない。
素質才能がどうという話ではなく文字通りに規格が違う。中学生と高校生が相撲を取って勝負をして勝つのはどちらかと言っているようなものだ。
それでも、観客達にとって1度は見たい物であることには変わらない。
その上で行われることのなかった最大の理由は、プロ側に全くメリットがないことだろう。
___単純にどんなプレーしても悪役にしかならない。
当然だ。
スポーツは平等性の上で、初めてエンターテイメントとして成立する。
絶対的な差がある場合は観客が熱狂するようなコンテンツにはなり得ない、ジャンルが水戸黄門の領域にまで昇華してしまったプレイヤーにでもなれば別だろうが。
故にこの試合が成立したという事は、即ち彼等5人が1人残らずプロのプレイヤーと同格の存在であると、この試合を承認した全ての人間組織に認められたという事実に他ならないだろう。
「やるんだな、俺達。またあの甲子園で」
「むむむ。プロでも頂点を目指す気持ちは当然あったが、まさか卒業前に戦うことになるとは!」
「カハハハ……全員ブットバス!」
秋葉が声を漏らし、他のメンバーも一様に身を引き締めるように頷いた。薬師高校の野球部は普段から刺激的なプレースタイルで知られているが、この試合は特別だった。
プロとの対戦という状況は、彼らにとって未知の領域でありまた1つの目標でもあるからだ。
北瀬と伊川、轟、秋葉、三島ら黄金世代の5人。彼らはこれまで数々の試合で、数え切れないほどの歓声と称賛を浴びてきた。
だが、今回ばかりは特別。
プロの1軍選手との真剣勝負___日本中が注目する中で、彼らの才能がどこまで通用するのかを証明する舞台。
薬師高校の黄金世代、その名は全国に轟いていた。
たった5人で構成されたこの世代の選手たちはその少人数にもかかわらず圧倒的な存在感を放っていた。
それもそのはず、5人全員がU-18日本代表に選ばれ国内外の注目を集める選手ばかりだったのだから。
北瀬 涼___全国最強の投手にして、U-18代表でもエースを務める男。球速172km/hを誇り、そのストレートと魔球のようなスライダーで相手打者を次々とねじ伏せる。北瀬のピッチングはもはや高校生の域を超えており、メジャー級プレーヤーとして彼の投球が甲子園の舞台で炸裂するたびに観客席がどよめくのは当然の事だった。
伊川 始___甲子園通算打率9割超え、打撃においてはまさに超メジャー級のバッター。その高い打撃技術と圧倒的な選球眼で投手の一瞬の隙も見逃さない。壁と錯覚させるほど如何なる投球も打ち返す伊川の打撃は、相手投手の心を折る破壊力満点のものだった。どんな場面でも彼に打順が回れば、敵チームは冷や汗をかくしかない。
轟 雷市___本塁打最高飛距離、そして1試合全打席本塁打記録を持つ、まさに規格外のスラッガー。高校野球史に名を残すほどの打撃力は、彼がバッターボックスに立つだけで相手ピッチャーに重圧を与える。打球がスタンドを越えるその音は、まるで雷鳴のようで観客を震撼させる破壊力を持っていた。
秋葉 一真___薬師高校の1番打者で、3年夏甲子園での打率は7割超え。1試合全打席本塁打実績アリ。嘗て怪獣王と呼ばれた伝説の野手を彷彿とさせるこの成績だけで最強打者と称されるはずだが北瀬や伊川、轟の影に隠れていることが多い。しかし、その確実なバッティングは薬師の攻撃を支える重要な存在であり彼の出塁が打線の火種となっていた。
三島 優太___アーチストとしての才能を持ち例年なら間違いなく世代最強のバッターとして注目を浴びる存在だった。甲子園ではそのパワフルなスイングで度々スタンドを沸かせたが薬師黄金世代の中では見劣りすると言われることもあるが、しかしそれはあくまで怪物ぞろいの薬師黄金世代での比較の話。どの高校でも彼の実力は間違いなく中心選手として評価されるものだった。
5人全員が世代どころか歴代最強格で構成された薬師高校の打線は、「高校野球史上最強打線」と称されるに十分。これまでもこれからもその称号は続くだろう。
相手チームにとっては、どこから切り崩せばいいのか全く分からないほどの強力な布陣。
この黄金世代が揃ったことで、薬師はまさに“打撃の暴力”を象徴する存在となった。甲子園での3桁得点や完封試合もその実力の一端に過ぎない。
北瀬が投げ、伊川や秋葉が巧みに出塁し、轟と三島が走者を一掃し、主砲級の下位打線がさらに得点を重ねるという連携は、相手にとってまさに悪夢そのもの。
試合開始と同時にプレッシャーが重くのしかかり、対戦相手の心を次々と折っていく。
対戦する相手校の選手たちが感じるのは、俺は一体どれほどの練習を積めばこのレベルに到達できるのかという途方もない疑問だったことだろう。
彼らが作り上げた打撃の圧倒的な威力により、多くの選手たちが自身の限界を見せつけられた。
そして、それはただ勝ち負けの話に留まらず高校野球そのもののレベルの高さを再定義する瞬間だった。
高野連、プロ野球リーグ、そしてスポンサー各社は、こうした「例外的な才能」と、プロ野球界の未来を見据えた話題性に魅了され、この一戦を特例として許可することに合意した。
野球界全体が、薬師高校黄金世代がプロの1軍選手たちにどこまで通用するかを見届けることに期待を寄せている。
「てかなんで甲子園なんだ?確かに向こうのホームは東京の俺達には遠すぎるけどさぁ」
「……単純にその方が『面白いから』だろ。日ツナ自身の意図は別としても、元々これは野球関連のほぼ全組織を巻き込んだエキシビジョン。
こんな頭の天辺から足の爪先まで無茶苦茶な企画を、良く通したよ……プロアマ規定まで捻じ曲げて来るとは」
そんな中浮かんだ瀬戸の疑問に対し、呆れて頬杖をついて奥村はそう答えた。
実際この奥村の回答はあながち間違いではない。
最後の決戦の地として阪神甲子園球場が選定されたのは、日ツナの意思によるものではない。
そもそもの話として、この試合は……というより一つの球団を殆ど私物化したようなこの試合を行うという真似事は、如何に監督といえどその権限の遥か上を飛び越えている。その為様々な団体組織の影響も受けた。
空きが調整できそうな所の1つがここだったとか、お互いの距離や日程で行けそうだった場所がここだったなど、細かい理由は様々であるが。
『高校野球の聖地』としての印象が強いここが最後の締め括りとして1番『らしい』という、この場所が人々に積み上げた高校野球の象徴であった事が1番の理由だろう。
何せ野球にあまり詳しくない人間は高校野球の全国大会=甲子園というイメージを持っている者も多いし、まあ強ち間違いではない。
甲子園は知っているが、神宮大会は知らないという者もいるくらいなのだから。
片岡鉄心が、静かに重い足音を響かせながらミーティングルームに入ると、薬師高校野球部監督・轟雷蔵が腕を組んで待っていた。お互い、今日はやや浮き立ったような表情を見せている。
「……でなんなんです?片岡コーチ、話っていうのは」
「当然、彼らと日ツナの試合の事です___本当にやるのですか」
「それについては理事長も交えて向こうの方とも直接お会いして話したでしょ、当然やりますよ。まあ最初電話が来た時は、真っ先に成り済ましの悪戯電話を疑いましたが」
薬師高校野球部のミーティングルームは、どこかいつもと違う緊張感に包まれていた。
試合そのものもさることながら、今回は相手が単なるチームではない。
プロ、しかも日本ツナファイターズ1軍選手との特別試合。これまでの常識を覆す一戦に、誰もが半信半疑ながらも期待と興奮を抑えきれずにいる。
「正直、まだ現実味がありません。北瀬は言うまでもなく、彼等の実力は確かにプロに匹敵しています。ですがプロアマ規定を超えて試合をするなど、有り得ない事。
驚いたというより……ショックという方が正しいかもしれません」
「あぁまあ、貴方は特にそうでしょうね」
昔起きたアマ・プロが断絶する切っ掛けとなった事件により、プロ入りすると高校野球はおろかアマチュアの指導者になることはできなくなっている。
それはプロ野球の現役選手、元プロ野球選手が高校球児を指導することは不可能というもの。
そこから1984年に教員として10年勤務した元プロ野球選手の高校野球指導が認められ、1994年に必要な勤務歴が5年に短縮、97年には2年にまで短縮され、凡そ5年後には一応事実上の撤廃となっている……というのは置いておいて。
とにかくプロになれば母校の指導者にはなれない。
だから片岡鉄心は、甲子園で大活躍をしプロ入り確実とまで言われながらもその道を捨てて指導者となる道を選んだのだ。
結果的に絶大な支持を得ていたにも関わらず青道を去ることになり、かなりの騒動となったわけだが。
片岡は生涯を高校野球に捧げてきた身。
プロと高校生の垣根を超える行為には慎重でありだからこそ、この一戦がまかり通る現状に少なからず戸惑いを感じている。
「どんな規則も所詮は規則、法律じゃあないです。
作った奴も従う奴も、お上も誰も彼もが皆それがヨシと言ってしまえば、法を護る限り無茶でも罷り通る。
当然でしょ?今回の試合が、後の前例となり得ないとなれば猶更っすよ」
雷蔵の淡々と言い放ったその態度に、片岡は一瞬言葉を失った。だが監督の言葉の意味は理解できる。
プロアマ規定は確かに重要だが彼らのように特別な才能を持つ者にとっては、もはやその規則すらも束縛にもなり得ないのかもしれない。
「そのたった一例は、人類の限界を超えた高校生……ですからね」
片岡は頷いた。だが、雷蔵の言葉をそのまま現実として受け入れたものでないことを理解していた。
彼の中にはこの試合が意味するもの、その影響について様々な葛藤が渦巻いているように見える。
「ま、アイツラの誰か1人にでも商業的な利用だとかスポンサー契約だとかについて何か気配を見せたら即断るつもりでしたが、そういうのは無かったんでね」
「……プロ野球団体への入団、雇用などの契約の締結に関する交渉はあくまでその各個人がドラフトでの入団、及び以降……それが分かっているのなら構いません」
片岡はそれでようやく納得したように見えた。
自らの理想を貫き通しどこまでも高校野球の純粋さを守ろうとするその姿勢には、彼なりの強い信念がある。
だが今回の試合がもたらす影響は計り知れない。それは轟雷蔵も理解している、だからこそ。
「お別れ会、ねぇ。なんとも必死で贅沢なお別れ会があったもんだよ」
真田先輩のポジション
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「やっぱ俺、ピッチャーが1番合ってるわ」
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「雷市みたいなバッターに、なりてえんだ」
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「マジで、どっちも捨てがたくて困ってる」