【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
稲城実業高校と薬師高校が合併された後、2週間が経過した春季大会の開催中。最上級生の真田俊平と神谷カルロスが、室内練習所でバットを振り込んでいた。
___ブォン!ブォン!
投手にも関わらず野手陣よりもキレのある素振りをしている真田を見たカルロスは、微妙な顔をしていた。
(こんなに実力があって、人当たりも良いバケモンと一緒に試合すんのかよ。
……別に、仲の良いチームメイトがベンチメンバーから降ろされる事を危惧してる訳じゃねぇ。実力で勝ち取った奴にケチなんてつけっかよ。
ただ、天才な上に欠点が無い奴って、取っ付きづらいんだよなぁ。オレ的には)
「すげぇ熱心に振ってるな、ピッチャーなのに」
そう内心で思いながらも、カルロスの気さくな雰囲気は変わらない。
個人の感情と、スタメンとしての役割はきちんと切り離して考えているからだ。
「ピッチャーだって打撃に貢献するぜ?……いや、少なくとも薬師の時は、そういう考え方だったし」
そんなカルロスの思惑に気付いているのか怪しい真田は、にこやかな笑顔を崩さない。
好かれていない事は分かっていても、彼は笑顔で乗り切る社交性の高さと図太さを持ち合わせている。
それでも、完璧過ぎて取っ付きづらいと思われている事には気付いていない様だが。
まぁ本人は後輩達の才能に目を焼かれているから、自分を客観視出来なくても仕方ない。
「ヒュー!……成程ね、確かにお前も北瀬も、ピッチャーなのに打撃がヤベェしな。打撃力は鳴以上じゃねーの?」
「ありがとな。つっても俺、下位打線専門みたいな感じだけど」
カルロスはこの時、真田の完璧な外面が剥がれ落ちた様に感じた。
彼は野球を真剣にやり始め、たった2年で甲子園まで辿り着いた天才。異常な力を持つ後輩達全員に慕われていて、2年時にはキャプテンも務めた。
春には甲子園準優勝をしたにも関わらず、勝ったチームに合併されて主将の座を剥奪される不遇にも、全く悔しげな顔を見せずに影響力を保ち続ける、元稲城実業のメンバー達にとって異物。
……そんな、完璧な真田というイメージが、カルロスから消えた。
真田もまた、自らの実力不足に悩んでいる。上を見過ぎて自分の才覚を客観視出来ていない、普通の感性も合わせ持った高校生でもあると気付いたのだ。
「そりゃお前、1番上を見過ぎなんじゃねぇの?」
「えっ」
「そりゃ薬師……いや、今の俺達には居るぜ。日本野球史上最高レベルのセンスを持つ、最強の味方が。
でもそれは、真田のセンスを否定する理由にはなんねぇだろ。お前だって、俺らからすりゃ十分バケモンだっつの」
カルロスの助言に、真田は一瞬だけ疑義的な顔をした。
「そうか?俺なんて、まぁそこそこ止まりのピッチャーだと思うけどな。もちろん、アイツらが世界一ってのには心底同意すっけど!」
真田は自身の才能を「甲子園で投げられる程度にはスゲェけど、プロで活躍は厳しいだろう」程度に評価している。
彼は卑下している訳では無い。一般的な人間より、自分には才能があると評価しているのだから。
ただ、自分が天才であると理解できていないだけなのだ。
そんな彼の自己評価のニュアンスを理解したカルロスは、流石に北瀬とかの事を世界一とまでは言ってねぇと内心突っ込みを入れながら忠告を投げかけた。
「それ、ベンチ入りが危うい奴の前で言うなよ。甲子園で戦える才能ってのは、名門校でも持ってねぇ選手の方が多いからな。嫌味に取られるぜ。
ま、あんな天才に囲まれてんのには同情するけど。オレは鳴だけでキャパシティギリギリだ。……いや、今はオレもアイツらの先輩か」
励ましの様な忠告を聞いた真田は、きょとんと目を瞬かせた。
カルロスが憂鬱そうにしている理由が、理解できなかったからだ。彼は才能がある人間が好きだから、天才に囲まれる辛さを殆ど感じていないのである。
「え、そっか……。アイツらがめっちゃスゲェのは知ってっけど、嫌だと思った事はねぇんだよな。信じられるチームメイトだし、先輩として敬意も払ってくれてるし。
ま、投手は何人も出れるから言えんのかもしれねぇけど」
彼は、自慢げに少し笑った。
天才から敬われている自信も嬉しさもあるが、最高の仲間に恵まれているという喜びが滲み出ている。
カルロスは、個人的に話していても一切スタンスが変わらない真田に呆れた後、自らのエースを思い出した。
「いや、実力があんのにエース奪えねぇってのも辛そうだけど、そこは本人が決めるコトだな。……確かに俺も、鳴の事を嫌った事はねぇわ」
「だよな!!天才って激アツだろ!!」
「そういう意味じゃねーんだけど」
「??」
真田の本当に嬉しそうな笑顔を、カルロスは複雑そうに眺めている。
成宮という天才に誘われて、稲城実業に入学した。
後悔した事は無い。
だが……真田の様に、素面で褒め称えるなんて無理だ。
だってアイツを褒め称える心より、選手としてライバル視する気持ちが勝る。
真っ向から褒めちぎるなんて、野球に対する執着が消えた時にでもならないと出来ない。つまり、現役を引退した時にでもならないと駄目だろう。
多分コイツは、野球という競技に魅了される前に天才に出会ったから、こんな感じなんだ。
在り方を歪められたっつうか、選手としてのプライドに後輩の実力も混じってるっつうか。
実力もあるのにこうなっちまって同情しなくもないが、本人は良い事として捉えてんだろうな。
オレは絶対にヤダね。
(薬師ってこんな奴らばっかなのかね、やり辛いったらありゃしねぇ。ライバル視されんのは慣れてるけど、同じスタメンが尊敬されてんのはむず痒い。
……鳴は、コイツらとエース争いすんのか)
カルロスは、呆れた様に苦笑いをした。
エースとしてのプライドを持つ、成宮鳴を心配しながら。
___バッ、コロコロ……
「ごめん!」
「いいよ別に、謝らなくても」
___バッ、ガシャン!
「ごめん! 北瀬、何回も取れなくて……」
「あーうん、そんな事もあるよ……」
暫定エースの北瀬と、暫定キャッチャーの多田野がキャッチング練習をしている。
とは言いつつも、捕手が捕球に失敗し続けているので投手の練習にはなっていない。
「ちょっと樹!俺のボールが取れるのに、北瀬のストレートは取れないの?俺が劣ってるみたいじゃん!」
成宮は嫌そうにしている北瀬を見ながら、横でギャーギャーとクレームを入れている。
取れない樹にも腹が立つし、既にエースですと言う様な顔をして正捕手を奪い取った北瀬にも腹が立っているのだ。
ちなみに、エースですと言う顔をしていると言うのは殆ど成宮の被害妄想である。
北瀬は別に、成宮先輩や真田先輩とのエース争いに勝ったとは思っていない。ただ、国友監督にエース扱いされているだけなのだ。
そっちの方が、成宮にとって腹立たしいかもしれない。
「す、すみません鳴さん!北瀬のボールが取れる様になったら、鳴さんとも練習したいと思ってます!!」
「は??別に樹と練習したいなんて言ってねぇし!!」
「そんなぁ」
(めんどくせー……稲実の国友監督に言われて無かったら逃げてたのにさぁ)
ピッチングをしながら他人の揉め事を聞いている北瀬は、冷たい目付きをして彼らを眺めていた。
基本的に揉め事が嫌いな彼は、対して親しくもない人間の争いに巻き込まれて不満げだった。
稲城実業のメンツは知らないが、彼は野球に関わる争い事も避ける傾向にある。
ライバルとして爽やかに戦う事は好きでも、敵として心血注いで争う事は苦手なのだ。
「あっ、悪い北瀬」
「別に良いよ。てか別に、無理に俺の球を取ってくれなくても何とかするけど」
多田野に対し、冷たい言葉を吐いた北瀬。
いい加減、投球練習中に喧嘩するのを辞めて欲しいと思っている。
まぁ勿論、中学時代よりはマシではあるが。
「ごめん!……俺にキャッチングさせて」
「あ、うん」
頼まれたら断れないよなと言う諦め顔をしながら、北瀬はピッチング練習を再開した。
彼は基本的に、頼み事や命令を断れない人種である。
煮え切らない態度を取る北瀬と、イライラする成宮と、オロオロ謝る多田野。三者三様の思惑が裏目に出ていた。
「ごめん、俺の未熟なキャッチングに付き合わせて」
「いや、失敗する事は誰にでもあるし」
多田野は練習が終わった後、北瀬に再度謝った。
心の底から、こんな凄い投手に無理を言って申し訳ないと思っているからだ。
そんな彼に、北瀬は煮え切らない態度を取っている。
そんな細かい事はどうでも良いから、俺の前で成宮先輩と揉めるのを辞めてくれないかなと思いながらだ。
まぁ、多田野が率先して揉め事を起こしている訳じゃないから言っても仕方ないとも感じているが。
「いいよ、無理に取り繕わなくて。
___北瀬の球を取り始めてから何日も経ってる。だから、取れない俺が悪いって分かってるんだ」
本当に自らを責めている多田野の姿勢に、北瀬の心が動かされたらしい。
言って良いのかと悩みながら、モゴモゴと口を動かした。
「いや、本当に、取れないのは仕方ないって思ってるよ。先輩達も取れなかったから伊川に取って貰ってた訳だし。
……成宮先輩と喧嘩してるのを見るのが嫌でさ、嫌な態度取っちゃってた。ごめん」
自分の思考を言語化した北瀬。
彼はふと、成宮先輩と多田野が揉めてたのは俺のせいでもあるのかと気付いた。
あまりにも遅い気付きである。普通、エース争いをしている事に関連性を感じないのだろうか?
彼は気に食わなかったら殴り合う事が日常だった極亜久小学・中学時代と、最大限仲良くしていく薬師高校時代に慣れ過ぎていて、普通のライバル関係が分かっていない。
「俺もごめん!投げてくれてるピッチャーじゃなくて、鳴さんの方を見てるのは良くないよな。これからはちゃんと気を付けるから!」
「いや、あの人くせ者っぽいから無理しなくて良いよ」
知り合ってまもない多田野にも分かる様な、明らかに困った顔をしている北瀬。
野球部の困った先輩への対処に悩んでいるのもそうだが、1年間尊敬しライバル視もしていたライバルの本性にがっかりしている面もあった。
「うーん……あの人は確かに困らせて来る事もあるけど、凄く尊敬出来る人でもあるから。野球に一切手を抜かない所とか、勝利に対する執着心とか……あれ、何で今そんな事言ってるんだろう」
鳴さんに対する軽視を無意識に感じ取った多田野は、自らの唐突な発言に首を傾げている。
だが北瀬は、彼の発言に感じ入るものがあったらしい。
(そっか、そうだよな。あんな凄い人が、迷惑なだけの先輩な筈無いよな!)
勝手に納得している北瀬。確かに成宮鳴という男には芯があるが、実力だけの先輩も居るという事実は分かっていた方が良い気もする。
「やっぱそうだよな!ありがとう!……てか多田野は、成宮先輩を尊敬してんの?」
「勿論!!___俺、尊敬する選手は鳴さんだから」
「分かる!!俺も真田先輩の事、めっちゃ尊敬してっから!!」
キリッとした顔で断言した多田野に対して、キリッとした顔で返した北瀬。
直後、何故かガシッと手を取り合い握手をした。考え方的には、かなり気が合うのかもしれない。
盲目的な尊敬を先輩に向けている所やライトオタク的な面は、確かに似ている。
まぁ北瀬が過ごした2020年代はオタクが一般化していたから普通の事で、多田野が過ごした2000年代はまだ軽蔑されているにも関わらずオタクである事を隠していない事実に、考え方の違いを感じなくもないが……
そもそも本人達はまだ、お互いがアニメに興味があると気付いていないので関係のない話だ。
後々、北瀬もアニメ好きである事に気付いた多田野が、伊川も含めてまどマギの映画に連れて行ったとか。
楽しそうに感想を言ってくれた彼らに、非常に感動していたらしい。
多田野はそこそこコミュ力もある良い奴だが、幼少期から野球漬けだったせいでオタク友達がいなかった。