【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
春季大会はベンチ入りメンバー提出時期の影響で、1番が成宮になっていた稲城実業。
途中から先発完投起用が出来る北瀬も加わり、盤石な布陣で優勝を決めようとしている。
決勝戦の相手は天才キャッチャー率いる青道高校。
一筋尚では行かない相手の筈なのだが、世代最強の薬師上位打線と堅守の稲城実業勢、そして都のプリンス成宮鳴のピッチングにより無双モードに入っていた。
「北瀬……なんかさ、思ったより味方上手くね?」
「だよな!絶対エラーになると思ったのに、何回もアウトになってたし!」
北瀬と伊川も、今回は外野手として出場している。
守備は上手くないが、それ以上に打力があると国友監督に認められているのだ。
彼らは軽い調子だったが、内心驚きもあった。守備が大分不安視される薬師メンバーをカバーしていた稲城実業メンバーの連携は、正に名門校と言うべき実力だったのだ。
「オレもオマエらのバッティングには驚いたぜ。……ま、守備は何とかして欲しいけどな」
投壊薬師陣に挟まれているセンターカルロスは、疲れ切った顔をしながらも笑っている。8回表までにエラーなどが8つも出てしまい、かなり気疲れしているらしい。
今までは殆ど守備面でのミスが無かった彼らは、味方が後ろに逸らしまくる展開に慣れていない。
地獄の様なエラー祭りを見ながら、元稲城実業メンバー達は試合中に暫し呆然としていた。
勿論、全てのエラーを元薬師メンバーが出している。
「あーすみません、外野手には慣れてなくて」
「いやいや、セカンドでもエラーしまくってたじゃん!」
『あっはははは!!』
伊川の言い訳は薬師勢にウケたらしく、仲良くベンチに戻りながらゲラゲラと笑われていた。
「チッ、笑い事じゃ無いだろ」
「アイツらからしたら笑い事だろうな。そうじゃなきゃ、あんなエラー祭りなんてやってられねぇだろう」
「自責点ゼロで4失点とかありえないんだけど?!」
残念ながら、元々の稲城実業の所属選手達からは冷たい目で皮肉られていた。
甲子園には繋がらないとはいえ、決勝戦で意味不明なバカ試合を作り出しているのだから当然である。
彼らの反応の方が、普通に考えて正しい。甲子園優勝候補の名に恥じる試合内容に苛立ちを隠せなかったのだろう。
「くそぅ!まさか俺が代打の切り札扱いとは……っ!!」
「だから守備も練習しとけって言ったのに」
三島がギリギリと歯を食いしばっているのを見ながら、秋葉は半目で指摘した。
やっぱコイツら、ちょっとバカだよなぁと思っている。
ちなみに彼も1エラーしているので、あまり人の事を言える状況ではない。
まあポジションを移動させられてから1週間も経っていないので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
今後が不安になってくる内部状況ではある。それでも……
___今の稲城実業は、圧倒的に強い。
御幸、降谷、沢村と言う超高校生級のプレイヤー相手に16点差を付けて圧勝。
甲子園優勝候補2校の良い所を掛け合わせた、正に最強の布陣なのだ。
「圧勝だったな!」
「これなら、皆で焼き肉食べ放題とかあるかもな!」
「ガハハハハ!勝った後の美味い肉は最高だぜ!!」
「カハハハ……ニク!!ニク!!」
内心簡単に勝ててつまらないと思っている北瀬に、試合が終わった後のどんちゃん騒ぎを楽しみにしている伊川。
そして、勝った事を喜びながらご褒美の美味い肉を楽しみにしている三島と雷市。
彼らを見ながら、秋葉は呑気だよなぁと呆れつつ勝利の喜びを味わっていた。
「優勝おめでとう。20-4と言う点数は、今までの常識を覆す出来事だっただろう。まだまだ改善すべき点は多くあるが、一先ずは勝利を祝おう。……キャプテン」
「はい。今回も鳴のピッチングが良かったし、打撃で多くの点を取れた事は自信に繋がると思います。
合併した事で今までとは勝手が変わって、凄く大変な時期だと思います。それでも、凄い選手達が俺達のチームに集まった事を喜んで、これからも全力で勝ちに行きましょう!」
『はいっっ!!』
国友監督と福井キャプテンの演説が終わった後、厳かに食べ始めた稲城実業高校の選手達。
まぁそれはそれとして、食べ盛りの野球部員達なので肉の争奪戦が起きているが。
上級生は下級生の座っている席に肉を取りに行き、我先にと食欲を満たそうとしている。
学年関係なく1つの場所に纏まって座っている元薬師高校の選手達は、試合が終わったにも関わらずピリピリしている空気に萎縮していた。
「やっぱスゲーな、流石名門校って感じ」
「本当にな。俺ら場違いだろ」
「ですよね〜」
対して彼らは肉を奪い合う事はなく、全員が同じペースで食べられる様に協力しながら和やかに食事をしていた。
食事に飢えている雷市やお調子者の三島ですら、奪い合おうとする事はなかった。
彼らは元々人数が少なかったので、割と揉め事は厳禁といった空気が流れていたのだ。
じゃれ合いの様な野次は飛んでいたが、本気で怒りあった事は1度もないのである。
それはそれで、スタメン争いが停滞してしまうなどの問題が発生している気もするが……
珍しく、元薬師メンバーが元稲城実業メンバーに呆れる展開になっている。
そんな中、場の空気をぶち壊す人物が現れた。
「あっ、食べ頃じゃーん!」
『えっ?!』
「もー、なに皆で遠慮してんの?早く食べないと無くなっちゃうよ?!」
都のプリンス成宮鳴が、空気を読まずに彼らの肉を次々と奪っていったのだ。
彼は勢い良く肉を奪った後、やけに堂々とした態度で忠告して来た。
今まで無かった事件(?)に、元薬師のメンツは絶句した。
「に、肉……」
「あーうん、ドンマイ雷市」
ワクワクしながら食べ頃の肉を待っていた雷市が、かなりショックを受けている。
これが新たな野球部の試練なのかもしれないと、元キャプテンの真田も内心頭を抱えていた。
いつも纏まって行動している元薬師部員達だが、流石に練習中はそうもいかない。
投手と野手は別々の練習をする事が多いのだ。
「練習キツいッスね、山内先輩、森山先輩」
「それな」
伊川と、元薬師3年生の山内&森山が練習中に呻いている。
練習は稲城実業のスタイルで行われ、薬師時代の自由な雰囲気は一切ない。
薬師野球部での練習はバッティング練習が多く、頭薬師なメンバーにとって楽しかった。
だが今は、守備や走塁の練習などをやる羽目になってしまって詰まらないのだ。
更に、チーム内の実力差による「扱いの格差」が顕著に現れ始めていた。
「しかもさぁ、ベンチ入りの可能性がある奴とそうじゃない奴の扱いが露骨じゃね?」
「やっぱり?まだ、ベンチ入り当落線上な俺らはマシな方だよな。今まで頑張ってきただろうに、マトモに練習に参加させて貰えてない奴いたぜ」
「エグいっすね。練習ですら野球出来ないんじゃ、もう野球部居る意味無くないッスか?」
稲城実業の雰囲気に馴染んでいない伊川が、才能がある奴特有の無神経な発言をした。
本人はバカにしているつもりはないのだが、希望を捨てずに努力を続けている他の部員からすれば腹立たしい言動である。
確かに稲城実業は実力至上主義であり、試合に出られない選手には容赦がない。
それでも希望を捨てず、練習を続ける姿勢を見せる部員もいるのだ。そこを考慮しない、酷い発言だった。
まぁ彼はその辺の感情を頭では一応理解しているので、周りに人がいない時だけ言っている所が救いなのだろう。
そうでなければ、伊川のせいで辞める部員がいずれ大量発生していたと予想される。
「それにしても、こうしてみると俺ら、本当に場違いかもな」
そんな言葉が山内からポツリと漏れたが、それでも彼は懸命に努力を続けるつもりでいた。
だが少なくとも、合併で生まれた違和感を拭い去るには、まだまだ時間が必要な様だ。
2ヶ月程の時間が経ち、夏の地方大会直前。遂にベンチ入りメンバーの発表時期になった。
「背番号1は……北瀬涼。お前だ」
「あ、はいっ!」
高校3強投手と呼ばれる成宮を下し、編入早々にエースナンバーを手に入れた北瀬。
別に彼は1番に強い拘りなどなかったが、可能性はあると判断していたので普段通りの表情にユニフォームを受け取った。
成宮鳴に勝った喜びが感じられない、そうなりましたかと言いたげな顔で前に立った北瀬。
彼を見ながら、都のプリンスはボロボロと涙を零した。
「鳴」
「鳴さん……」
合併が無ければ、絶対にチームを背負うエースになっていた成宮。
彼に誘われ憧れて稲城実業を選んだ選手達は、彼を気遣わしげに見つめながら口を噤んでいた。
その後の発表で、キャッチャー多田野、ファースト山岡、セカンド秋葉、サード轟、ショート白河、レフト早乙女、センターカルロス、ライト伊川に決まった。
スターティングメンバーはある程度順当に決まり、2番手投手として成宮、3番手投手として真田、代打の切り札として三島が呼ばれている。
部員達の目を引いたのは、元稲城実業の4番打者山岡よりも三島の方が打撃力が高いと評価されながらもスタメンから外されたという事実だった。
確かに山岡先輩より三島の方がかなり打撃力が高い事は事実だが、流石に守備能力が酷すぎて起用が難しかったらしい。
これだけ投手が充実しているなら、1点を守れば勝てるので仕方ない選択だろう。
だが国友監督の合理的な判断に元薬師のメンバーは納得しきれない様子で、裏では「依怙贔屓ではないか」と囁く声も少なくなかった。
「そんな、まさか……」
現実を理解していなかった北瀬が小さく呻く。
三島のスタメン落ち以上に北瀬達が衝撃を受けたのが、山内増田がベンチ入りを逃した事だった。
13人で仲良くやって来た彼らは、残酷なレギュラー争いの現実は酷く冷徹に見えたのだ。
勝ち進むために実力で選ばれたのだと頭では理解しつつも、仲間として慣れ親しんだ2人の姿がベンチにないという事実は、彼らの心に大きな影を落とした。
この結果は、後の部活運営に大きな影を落とす事になる。
珍しく感情を抑えきれなかった伊川。
ベンチ入りメンバー発表が終わって終わるや否や、薬師メンバーに向かって叫んでいた。
「山内先輩だって増田先輩だって、他の選手より打力があるだろ?!何でベンチ落ちなんだよ!!」
『……』
伊川の言葉は、薬師メンバーの心にあった疑問を代弁するものだった。
薬師野球部として試合に出られれば、2人がベンチ外になる様な事は無かった。そんな考えが頭をよぎり、薬師のメンバーたちは沈黙するしかなかったのだろう。
その様子を見ていた稲城実業の選手の1人が、堪えきれず声を荒げた。
「ハァ?なに不幸ぶってんだ!俺だってお前らが来たせいでベンチ落ちしたっつの!!」
怒りと悔しさに満ちたその声は、泣き声に近かった。
叫んだのは、薬師高校と合併して居なければ順当にベンチ入り出来たであろう3年生だった。
彼が努力を重ねてきた年月を考えれば、その嘆きが間違っているとは言えないだろう。
「は?そんなの俺には関係ねーし!話した事もねぇ奴の事情なんて知らねぇよ!」
「……だよな〜、お互い様って感じ?」
逆ギレした伊川が発言者を睨んだ。
言いたい事は分からなくもないが、態々それを言うかという言動である。
彼は、友達の様な先輩が落とされた衝撃から抜け出せて居なかった。
ついでにエース北瀬も同調するかの様な素振りを見せ、場が混沌とした。
稲城実業メンバーに対する無関心さが、彼らの心を逆撫でしたのである。
良くも悪くも、日本の1等星の発言は彼本人が思うより注視されていた。
結局、騒動は簡単に収まることはなかった。
そして、元々あった両校間の溝は、この日を境にさらに深くなってしまう。
「あーあ最悪、合併なんてしなきゃ良かったのにさ」
「分からなくもないな」
「そうか?倒しがいがある奴らがチームに居るのは良い事だろう!」
北瀬も秋葉も溜息を付きながら、そう話している。
そう思っていないのは、超ポジティブシンキングの三島位だ。次の戦いに向けてチームが団結するには、まだまだ時間が必要だった。
……そもそも、このメンバーが結束する日など来るのだろうか?
ベンチ入りメンバーは元薬師組が13人中11人、元稲城実業組が137人中9人のイメージです。
成宮が誘ったメンバーも3人ベンチ落ちしています。