【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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IFなのに感想をくださった方、ありがとうございます!嬉しかったので何とか更新しました!


IF 稲城実業√Ⅳ

 

 

 

 

シニアで同じチームだった多田野先輩を追い掛けて稲城実業高校に入部した赤松。彼もまた、現状の特殊な環境に振り回されていた。

 

稲城実業高校と薬師高校が合併する事は、入部前から告知されていた。それ自体は、優秀な選手が多く揃って良い事だと思っている。

もしかしたら2年生まではベンチ入り出来ないかもしれないが、その分同学年や後輩の実力に期待が出来るのだ。

だから、志望校を変える理由にはならなかった。

 

だけど……

 

 

「あ、こんにちは」

「うっす」

「……使わないなら先使わして貰って良い?」

「OK(ベンチ候補に言われたら断れる訳ねぇだろ!)」

 

 

「樹ィ!ピッチング練習するぞ!」

「はい!鳴さん!」

「いってらっしゃーい!(俺が投げる番だったのに)」

 

 

だけど、入部して見ると現実は___想像以上に複雑でやり辛い環境だった。両校の雰囲気が、微妙に不穏過ぎる!

ちょっと見ただけで相互不理解が透けて見えるって言うか、歩み寄りが足りないって感じ。

 

公式戦までには改善しといた方が良いと思うけど、後輩が言える事じゃないし……これ、かなりマズいんじゃない?

 

 

 

 

「しゃーす!!」

「おー、赤松か。頑張れよ」

「ハイッ!!」

 

稲城実業の先輩は、普通に良い人達だ。

体育会系としての規律を守りつつ、理不尽を押し付けては来ない理想的な感じ。

元薬師野球部とのゴタゴタが無ければ、全く問題を起こさなかったであろう選手達だ。

 

 

「しゃーす!!」

「しゃーす!今日は何する予定なんだ?」

「ピッチング練習をする予定です!」

「じゃあ一緒に練習しない?嫌だったら断って良いけど」

「是非お願いします!!」

 

薬師高校の先輩は、並外れて優しい人達だ。

自分の練習時間を犠牲にしてでも、まだまだ実力不足の後輩の指導をしてくれる様な。

本当に人が出来ているとしか言いようがないと思う。

……野球部の一流選手としては甘すぎるけど。

 

 

ピリついた空気の中で日々の練習を熟すのは、中々に骨が折れる。

公式戦までには改善してた方がいいと思うけど、俺が判断する事じゃない。結局、そう結論付けるしか無かった。

 

 

 

 

そして、ベンチ入りメンバーが決定した日。

後輩達の不安が現実になるかの様に、場が一気に荒れた。

 

 

「山内先輩だって増田先輩だって、他の選手より打力があるだろ?!何でベンチ落ちなんだよ!!」

 

普段は自己主張をしない伊川先輩が、叫んだのだ。

声が聞こえた時、本当にあの先輩が言ったのかと耳を疑った。

 

揉め事を嫌う彼が、こんな騒動の切っ掛けを作るなんて思いもしなかったのだ。

 

 

「ハァ?なに不幸ぶってんだ!俺だってお前らが来たせいでベンチ落ちしたっつの!!」

「は?そんなの俺には関係ねーし!話した事もねぇ奴の事情なんて知らねぇよ!」

「だよな〜、お互い様って感じ?」

 

北瀬先輩は、伊川先輩をフォローしつつ喧嘩両成敗にしたい様だ。

彼は伊川先輩とめちゃくちゃ仲良しだし、元薬師高校の先輩達を異様に慕っていたので、この動きも俺には予想外だった。

 

 

「まっ、国友監督は実力で選んだ。ベンチの半分以上が薬師って事はそうなるだろ?」

「俺も正直、最初からベンチ入り出来る気がしなかったんだよなぁ。こんなに沢山頑張ってる選手がいたら、落ちても仕方ねぇと思うよ」

 

不動のセンターであるカルロス先輩と惜しくもベンチ落ちしてしまった山内先輩の言葉によって、取り敢えずこの場は収束した。

 

だけど、旧稲城実業グループと元薬師グループの敵対心が収まった訳じゃない。

まだまだ火種は残ってるから、いつまた揉めてもおかしくない。

 

 

……正直、関係ない俺たちには良い迷惑だ。

両方凄い実力を持っているから片方を立てる訳にもいかないし、どっちの言い分も理解できるだけやり辛い。

監督とかコーチが何とかしてくれねぇかなと思うけど、下手な横槍を入れたら更に大変な事になるだろうなぁ。

 

ギリギリベンチ入り出来たのは良かったけど、全く雰囲気が違う2校が無理に合併した事で、絵の具を水の中でぐちゃぐちゃに混ぜた様に濁った空気をしている。

 

 

 

 

___ブン!ブン!

___ブォン!ブォン!

 

三島先輩に誘われて、初めて轟監督の自主バッティング練習に参加した。

裏切ったみたいに思われないか不安だったけど、旧稲城実業の先輩達も、意外と2年生だけじゃなくて3年生までちらほら参加してる。

 

そりゃそうか。薬師打線の打撃力の10分の1でも手に入れられれば、大学で活躍の芽が出てくるんだから。

気まずいから誰も周りには口外して無かったんだな、と妙に納得した。

 

 

「おっ、オメェ良いスイングしてんな!ホントに投手かよ!」

「ありがとうございます!」

 

夢中でバット降っていたら、見に来てくれていた轟コーチに気付かなかった。やらかしたな。

怒られなさそうな雰囲気ではあるけど、下っ端がコーチを無視するなんて相当マズいぞ。

 

 

「長身なのに選球眼もある、良いバッターじゃねぇか!キャッチャーみてぇなヤな見方する奴だなぁオイ!目指すはポスト秋葉ってトコか?!」

「頑張ります!」

「そうかそうか!でもどっちかってと、北瀬とか成宮とか目指した方が良いと思うぜ。赤松はピッチャーとしても上手いからな!頑張れよ!」

 

少し話して去っていった轟監督。出来ればついでに、バッティングの指導もして欲しかった。

いや違うな。バッターとして秋葉先輩を参考にしろって意味かもしれない。

 

なんというか、凄く豪快な人だと思う。

基本的には長所を伸ばす方針だけど、成長方向は本人に選ばせるって感じなんだろうな。記事とかで予想はついてたけど、ここまで極端なのは驚いた。

3年間という短い期間で結果を求めるなら、普通に考えたら指導者に従わせた方が効率的だ。

でも雷監督は、それをしない。

 

 

「やっぱり薬師高校の快進撃は、運に恵まれただけの強豪校って括りじゃ片付かないんだろうな」

 

合併された大きな要因として、北瀬先輩達がいるのは間違いない。

だけどもしかしたら、轟監督という人物を手に入れる事も計算の内だったのかもしれないと思った。

 

……て言うか良く考えたら、投手なのに打ちまくってる北瀬先輩って前例がいるじゃん。お世辞も美味い人だなぁ。

 

 

 

 

 

 

稲城実業野球部に入学してから、随分面の皮が厚くなったと思う。

旧稲実の多田野先輩を慕いながら、元薬師の北瀬先輩に教えを請うなんてコウモリみたいだ。

 

こんなガタついた次期に1年生でベンチ入りしてるのもあって、ベンチ外の先輩からは割と睨まれてる。

でも、あんなに団結してる薬師組の先輩達から、焼きを入れられた事は1度も無いんだよな。

そういう優しい所があるから、俺としても旧稲実に加担し難いんだ。楽に世渡りしたいなら、人数が多い方に付くのが楽なんだけど。

 

 

「赤松もやっぱスゲェな!流石は名門校の次期エース!」

「アザッス!真田先輩に近付けてますかね?」

 

それに北瀬先輩とか真田先輩からピッチングを教わってから、メキメキと実力が付いている気がする。

なんというか天才が持つ莫大なコツを、凡人の俺が溺れてしまう位与えて貰っているって感じ。

 

マジで凄い人達なんだよな。もし直接、教えてやってんだから薬師に付けって言われたら断れない位。

多田野先輩にも恩があるけど、自分の実力を上げる為なんだから仕方ないよね。

 

 

「いやいや、もう俺が1年生の頃はとっくに超えてるよ!お前らみたいな奴が入って来るんだから、稲実ブランドはスゲェと思う」

「嬉しいです!ありがとうございます!」

「期待に答えられる様、頑張ります!」

 

ほぼ同時に返事をしたのは、俺と同じ1年生の由井薫。

元々は、投手3人と壁役を志願してくださった伊川先輩の4人で練習してた。

そこに参加させて欲しいって売り込んできた由井を加え、5人で自主練習する事が多くなっている。

 

北瀬先輩の剛速球を捉えられるようになれば、確かにチャンスは大きく広がる。

そこに目を付けて、危うい雰囲気の真っ只中で自分を捩じ込んだ由井は相当な強心臓の持ち主だと思う。

 

後輩の俺達からすれば、値千金の本当にありがたい指導なんだけど……伊川先輩はライトなのに、こんな所で時間を無駄にしてて良いのかな?

本人には勿論、何か考えがあるんだろうけど……

 

 

「なんて威厳の良い事を言っても、俺が北瀬さんの球を捕れてない事は変わらないですが」

「気にすんなって!そのうち取れる様になるだろうし!」

「いつか来る本番の為に練習してるんだ、その時までに取れる様になればいいだろ」

 

由井の弱気な発言を聞いて、北瀬先輩と伊川先輩が気にしていないと慰めている。

こんな事を迷惑を掛けている相手に言わせるのは、なんか好きじゃないな。

 

まぁ、泣き言を言いたくなる気持ちは分かるけど。

既にメジャーリーグからオファーが来ているらしい方々にこれだけサポートして貰って、全く成果が出ませんでしたなんて洒落にならないし。

 

 

「由井はまだ1年生なんだし、そんな気負わなくても良いんじゃね?ま、正捕手の多田野は成宮に掛かりきりだし、分業も有り得るかもしれねぇけど」

 

流石に多田野先輩に対して若干不満そうな真田先輩が、困った様な顔をしている。

他のチームならエースに成れただろう先輩がここまで放置されていたら、普通の感性をしていたら許せないだろう。これでもかなり、穏当な対応だった。

 

尊敬する人にこんな事思いたくないけど、多田野先輩は成宮先輩を贔屓し過ぎな気もするんだよね。

4番手投手の俺を放っておくのは仕方ないけど、エースの北瀬先輩を後回しにするのはやり過ぎでしょ。

 

 

「俺個人としては大きなチャンスですが、チームとしてはマイナスかもしれないですね」

「別に良いんじゃね?最悪北瀬の球は俺が取って、真田先輩の球は由井が取れば良いだろ。

……そうなっても、多田野の自己責任だ。友達としては好きだけど、それとこれとは話が別だしな」

 

冷静な顔をしている伊川先輩。

多田野先輩も由井も応援してるから、どっちかに偏った事は言い辛いんだと思う。

それに、もしかしたら前の出来事を内心反省しているのかもしれない。

 

 

「ベンチメンバーは決まったけど、スタメン争いは続きそうだな〜。全員が試合に出れたら良いのに」

「だな。まぁ野球は真剣勝負だから仕方ねぇ、山内と増田の分まで勝ち進んで行こうぜ!」

『はいっ!!』

 

今回も良い感じに話を纏めた真田先輩が、北瀬先輩と伊川先輩のやる気を引き出そうとしている。

この人、周りを惹きつけるのが上手いんだよな。成宮先輩とは違った形のカリスマがあると思う。

 

成宮先輩が灼熱の太陽だとするなら、真田先輩は穏やかな春の陽って感じかな?

全然雰囲気は違うけど、両方とも高校球児が嫌う事は少ないと思う。

まぁピッチングする時の真田先輩はかなり怖いけど。迫力満点で二重人格かよって感じ。

 

 

 

 

まだまだ解決すべき問題は山積みだ。

___でも俺は、稲城実業を選んだ事は後悔していない。

 

自分の実力が、着実に付いて来ている事が分かるんだ。他の高校に入っていたら、北瀬先輩達に指導して貰う事は絶対に叶わなかった。

思っていた雰囲気とは違ったけれど、思っていた以上の実力を付ける事が出来たのだ。

 

 

 

 




地味に赤松も、成宮が誘ったメンバーや薬師3年生を押しのけて1年生でベンチ入りしているので針の筵です。
由井程の実績があれば話は別だったと思われますが…。

伊川が自主練習に参加しているのに、深い考えなどありません。壁役を志願したと言うのは赤松の勘違いです。

奥村と瀬戸は、残念ながら推薦を貰えませんでした。
あまりにも志望人数が多かったので、実績で漏れてしまった感じです。
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