【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
プロ野球1軍選手と歴代最強高校生達が戦うと言う、衝撃的な発表がされた後。
それでも北瀬と伊川は、事の重大さを完璧には理解していなかった。
「プロと高校生が戦うってアリなのか?俺的には楽しそうだし、もう1回皆と一緒に戦えんのは嬉しいけどさ」
「スマホで調べたけど、前例は無いらしいぜ。……ま、向こうから提案して来たんだから問題ねぇんだろうけど」
伊川は本気では無かったが、北瀬はそんなモンかと完全に納得した。
疑う事が苦手な彼は、弟の発言を全面的に信頼しているのだ。実はちょくちょく、伊川はマズい事を誤魔化しているのだが。
「そっか、楽しみだなぁ!!伊川は、どう?」
「んー。普段通り打つ、それだけしか考えてねぇよ」
「なんかさ、プロっぽくてカッコいいな!」
北瀬のふわふわした言葉は、意外と伊川に届いた様だ。
「カッコいいか___それ、良いな」
伊川は未だに、野球が上手いとカッコいいと言う理屈を理解してはいない。
それでも他の人達が、野球が上手い俺を本当にカッコいいと思ってくれていると理解し始めたのだ。
伊川は、産まれて初めて自尊心が満たされた。
今までどれだけ他者に褒められようとも、けして信じられなかった自分と言う存在を、初めて信じられたのだ。
自らが勝ち取った名誉を、漸く誇る自信が付いたのだ。
これは、未だに才覚の全貌を現していない怪物が、初めて野球と言う競技を望んだ瞬間だった。
プロ野球選手とは、単に優れたプレイヤーを指す言葉ではない。
営利興行を目的とするプロ野球球団と呼ばれるチームと契約し、シーズンの一連の試合に出場して報酬を得ることを本業とする人間を指す。
……つまりプロ野球選手とは、プロフェッショナルスポーツとして野球をする選手の事である。
その地位は全国全ての球児の憧れであり、目指す目標と言って良いだろう。
プロ野球選手になる条件は、プロ志望を出しドラフトで指名される事。それだけしか無い。
その定義に沿っていうならば、優れたプレイヤーである必要などどこにもないのだ。
現実として興行として採算が取れる訳がない、そんな奴は指名されないという正論を無視して言えばの話になるが。
では、プロ指名をされるにはどうすればいいのか。
それは、公式試合などでプロ球団のスカウトの目にとまるだけの結果を出す事だ。
もちろん、能力の無いものが成果を出せる訳がない。
野球は打撃・守備・走力など、あらゆる能力が求められるスポーツである。
誰よりも能力がある存在であると示し、レギュラーを勝ち取り、試合で突出した成果を披露する。
少しくどくなったがつまりプロになる条件とはつまり『自分の価値を示すこと』でなのだ。
ではプロになる条件が価値を示すことであるならば、プロで
___それは、『自分が価値のある存在であると、示し続ける』事である。
自分がプロで有ることを辞める、その日まで。
遂に訪れた試合当日。
天気予報通り驚くほどの快晴の下、薬師高校野球部の選手たちはどこか落ち着かない様子で球場へと向かっていた。
その時だけは、最早見慣れたハズの阪神甲子園球場を前に、圧倒されている薬師選手達の姿があった。
ここで戦う相手は、今まで倒してきた自分達と同じ高校生等では無い。
日本ツナとの試合という歴史的な一戦に向け、彼らは緊張と期待、そして少なからずの不安を胸に抱えていた。
「ガハハハハ!この1戦を、一日百秋の思いで待っていたぞ!!」
「カハハハハ!ダビッシュ、スウィニー、打つ!!」
「しっ!三島も雷市も、今は騒いじゃマズい!」
「……今日もやっぱ、皆凄く楽しそうだな!」
「ていうか、それを言うなら一日千秋じゃないか?」
三島は豪快に笑い、雷市は日ツナ選手達の名を打つと叫んで秋葉に注意され、北瀬と伊川が少し呆れている。
そんなもう何度繰り返したかも分からない、恐らくこれで今日限りとなるであろう、いつも通りの光景。
いつも通りの最上級生達。対して下級生達は、普段は豪胆な面持ちを見せる選手だろうと、この場面では少し居心地が悪そうにしている。
「おいお前ら気を抜くなよ、今日の相手はプロの選手達なんだからな!」
「___全国全ての球児の代表として、くれぐれも失礼の無い様に!」
『ハイッ!!』
雷蔵が静かに声をかけ、片岡コーチもまた、厳しくも1人1人に冷静さを保つよう指示を出した。
選手達の緊張を解す為、僅かに笑顔を見せいつもの試合以上に集中するよう促す配慮を見せながら。
朝から眩しい陽射しが降り注ぐ甲子園球場。
観客達は早朝から席を確保しようと行列を作り、スタンドが開場するとあっという間に各々の応援エリアに埋め尽くされた。
熱気に飲まれ会場には早くもざわめきが広がり甲子園の伝統を感じさせる重厚な雰囲気と、その場に集まった人々の熱意が交錯し、空気は高揚感で満ち溢れている。
薬師高校の選手達は、試合開始3時間前には球場に到着。
彼らを乗せたバスが球場前に停まると、厳重な規制の元でとはいえ、集まった報道陣や一般のファン達が盛大に出迎えた。
これでプログラムに支障を来す可能性は、事前に十分に考えられていた。
だから選手達は珍しく真剣な表情でバスを降り、監督やコーチと共にスタッフの誘導の元、球場の奥へと向かう。
「___君達が薬師高校の選手達だね?」
試合が始まる前に、日ツナの選手達プロ野球界のスターがずらりと並んでカメラの前で顔合わせが行われた。
昨年の個人打撃タイトルである首位打者及び最多安打記録者を始め、得点圏打率三割越えの強打者、ゴールデンクラブ受賞者等を含んだ錚々たる面々。
北瀬風に言うなら、パワプロで見た様な名選手達が揃っていた。
「ひさしぶり〜!顔合わせんのはU-18以来?」
そして当然、その中には昨年ドラフト1位で日ツナに入団した成宮鳴もいた。
「あっ!確かに成宮さんも日本ツナでしたね!」
「もって何だよ!俺が日ツナを代表する投手だっての!」
部員達が本物だと驚いている中、稲山監督が笑みを浮かべながら北瀬に手を差し伸べる。
「2人は仲が良いんだね。___今日は宜しく頼むよ」
「よろしくお願いします!」
彼は、直ぐに稲山監督の手を握り返した。
「しっかしなんだ。成宮、お前さんあの子らと仲良いな」
「仲良いのは別にええて!けどお前、俺らには敬語使わんで、北瀬君にはさん付けさせとったんか!?」
「させてんじゃなくて、勝手にされてるだけだし!やっぱ俺、溢れ出るオーラが隠せないからね!!」
「ほざけ!」
プロの選手たちが高校生と試合をすることに対してどう感じているのか想像が付かなかったが、その場の雰囲気は非常に和やかだった。
ある程度は緊張を解いている薬師高校の選手達だが、現状は日ツナ監督、及び今試合の承認した高校野球連盟の最高顧問及び会長達幹部、リーグコミッショナー、理事、監事が勢揃いしている。
生涯顔を合わせることなど有り得無いような面々が勢揃いしているので、流石の轟監督も引き付かせた顔で固くなりながら挨拶をしていた。
そんな顔合わせの後、選手達はお互いの健闘を祈り合いその場を後にした。
ロッカールームに入ると、選手達は直様準備を始めた。
三島キャプテンは、緊張を解す為かそれとも素か、部員達に豪快に笑っていた。
秋葉はいつも通り、黙々とストレッチを行い、普段以上に集中した様子で筋肉を解していた。
雷市は、珍しく静かに1人1人を見回していた。
伊川は特に何もしていない。彼からすれば、ただいつも通りの試合が始めるような感覚だった。
___そしてエース北瀬は、静かにもうこれから先2度と通すことの無いユニフォームに袖を通し、マウンドに立つ皆の姿を思い浮かべた。
「轟さん、どうぞこちらへ」
「はい」
『つーわけでお前らの目標は、この俺を甲子園に連れていくこと!』
『グラウンドで戦うのはテメェらなんだからよ!よろしく頼むぜ!』
アイツラに俺をこの球場に連れてこさせる。それが薬師に来てからの、俺の監督としての1つの到達点だった。
野球部指導者として考えうる最高到達点、甲子園決勝進出。そして優勝。初めて優勝旗を掴んだあの時、俺もコーチも一体どれだけの涙を流した事か。
薬師高校の選手達と一緒に、この球場で、こんな戦いが来るとは正直まったく数年前の俺には想像も付かなかった。
挨拶のために中央へと歩みを進めると、既に日ツナの監督がそこに立っていた。
プロの貫禄というものが、ただ立っているだけで漂ってくる。
やはり生涯ただ只管に一流の舞台で戦い続けてきた男の背中は、元実業団の無職中年オヤジだった俺とはやはり違う物。そう思わずにはいられなかった。
日ツナの監督が笑顔で俺を迎え入れてくれた。彼の声には余裕と落ち着きがある。
だが、今日の試合は北瀬涼の為だけでなく、アイツラ全員の成果を証明する舞台なんだ。
稲山監督が司会を始める。マイクを手にしたその姿は、実に堂々としていて、観客の視線を一瞬にして集めていた。
「皆さん、こんにちは。北海道日本ツナファイターズ監督の梨畑です。本日は、我々と、名門・薬師高校とのエキシビションマッチにご来場頂き、ありがとうございます!」
『……わああぁぁ!!』
その挨拶に、観客席から大きな拍手が沸き起こる。
やはりプロの監督の言葉には重みがあるが、俺もこの場で負けるわけにはいかない。
俺達の野球、薬師高校の野球を証明してみせるつもりで、この舞台に立っているのだから。
それにしても、名門薬師高校ね。茶道部入り浸り常習犯共のザ・弱小時代を知る身としちゃ何とも不思議な感覚だ。
『おーデカいなお前ら……新入生か?ならうちの野球部に入りな。初心者でも歓迎するからよ!』
『俺達は21世紀枠に選ばれました!つまり!春の甲子園出られます!!』
『グスッ、俺を甲子園優勝まで連れてきてくれて、ひぐっ、ありがとう……!』
そうだ___俺とアイツラのこれまでの歩んできた道に、無駄な事なんて1つも無かった。
『スリーバントって何?、だって??ナニ言ってんだ?
……いや待て、お前ら全員集まれ!基本ルールの対策だ!
明日テストすっからな!ほらそこ!嫌な顔すんな!!』
『しょ、小テスト返すぞ。大体は満点、北瀬は4問目のケアレスミス。福田三野は最後の2問を間違えてたが、ま〜ややこしいトコだったしな。最下位の雷市は……4点』
『おーいお前ら。言うまでもねえが、今度の地区決勝はコールドがねえから途中で胴上げとかすんじゃ……お前ら何驚いた顔してんだ!?今言っといて良かったわ!!!』
___いや、待てよ?結構ムダな事してたな。
Q.雷市の4点って何?
A.野球の練習は殆ど「バットを振る」しかしてない上で、まともに野球ゲームも全くした事が無いからです。
つまり元を辿れば雷蔵のせいになります。
ちなみに三野達が間違えたのは、振り逃げの条件でした。