【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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213球目 無名選手side

 

 

 

 

前代未聞の偉業、甲子園3連覇を成し遂げ、既に実力はメジャークラスと評される選手が多数所属する特異点。

 

___薬師高校野球部。

 

勿論、始まりの5人に憧れるチームメイトも多い。

だが俺にとっては、遠くから眺めるだけの対象ではない。

全てが上手くいけば、同じチームメイトとして汗を流す仲間になる。そんな可能性を秘めた方々なのだ。

 

 

 

 

 

 

「その……本当なんですか?奥村先輩と瀬戸先輩が、あの薬師高校に進学すると言うのは」

 

1年前の夏、俺が大京シニアの控え捕手だった頃の薬師野球部は、控えめに言って色物枠と言うしか無かった。

確かに160kmの投手が在籍する事は、他の高校には無い非常に強い長所だ。

マトモな正捕手不在と言う事も、俺達キャッチャーにとっては望外なメリットと言える。

 

___だが。それを加味しても、守備の粗さが酷すぎた。

甲子園出場、ベスト4を成し遂げたチームだ。

これから新たな選手が続々と加入し、ある程度は補強されるだろうとも言われているが……流石にアレは改善し切れないと思われる。

 

 

轟監督は、指導歴2年の新米監督。

実業団で22年DHを務めた実績はあるが、逆に言えば守備面での経験は殆ど無いと言う事だ。

中学生時代は無名だったらしいから分からないが、高校生時代の彼もエラーが多かったらしいと言われている。

そんな指導者のもとで、薬師野球部が大きく変わる未来が想像できるはずもなかった。

 

 

「ああ」

 

奥村先輩は、真っ直ぐ俺を見て断言した。

 

「奥村がさ。エースの北瀬涼も凄いし2番手ピッチャーの真田俊平も凄いから、甲子園で優勝出来るチームに成るって信じてんだよ!てか、コイツが優勝させるって!

確かに強いチームだし、俺も付いてくって決めたんだ」

 

瀬戸先輩も、目を輝かせて断言した。

お2人の意思は固いらしく、俺は口出ししてはならない事であると直感した。

 

折角来てくださった名門校スカウトを断り、まだ実績が少ない薬師高校に進学するのは随分な博打に見える。

後輩の俺達にとっても先輩方の進学先に進路が大きく左右される面があるから、生半可な気持ちなら説得してくれと周囲から頼まれていたけれど。辞めた。

 

俺は先輩方の意思を尊重したいし、そもそも彼らの目を疑ってなどいないのだから。

 

 

「成程。俺は進学先をまだ決めてないのですが、その時は宜しくお願いします!」

「ああ、お前らも頑張れよ!俺達も頑張るからな」

 

奥村先輩の慧眼が、俺が最上級生になる頃に証明された。

まさかの甲子園初優勝により、黄金世代として称えられる様になったのだ。

周囲に左右されず、自らを信じた彼らの勝利だった。

 

 

 

 

 

 

「1年で試合出場!甲子園優勝!!やっべ〜。奥村先輩も瀬戸先輩も、すっげぇ上手くやったなぁ!!」

「あの人達のお陰で、俺達にもスカウト来そうだよな!

聞いたぜ俺、薬師のスカウトが見に来てたらしいのを!」

「マジかよ!知らねー!」

 

奥村先輩と瀬戸先輩が前言実行と言わんばかりの大活躍。

名門大京シニアと言えど、1年生で甲子園優勝チームでスタメン入りを果たした事は、前代未聞だった。

先輩達はまだ1年生なので流石にチームの主軸にはなっていなかったが、それでも異常事態と言うしか無かった。

 

 

そして俺は、その恩恵に預かっている。

まだ内密にと言われているから口外出来ないが、学費半額補助のスカウト枠として入学が確定したのだ。

 

確かに俺は神奈川県内最強の捕手と呼ばれてはいるが、高校史上最強のチームからオファーが来る程の実績は残せていない。

監督達の密約が大いに関係しているとしか、考えられられない実情だった。凄く有り難い。

 

 

コネなんて卑怯だ、実力で勝負しろ。

そんな事を言えるのは、野球と言う競技を経験していない奴だけだろう。

 

確かに飛び抜けた力があれば、先輩方の進学実績無しで推薦を頂けるのかもしれない。

だが現実問題として、シニアで活躍する殆どの選手が、その要件を満たして居なかった。

まぁ俺達を散々苦しめた綾瀬川次郎なんかは、余裕で達成してそうだけど。

 

 

 

 

「推薦枠は5人ッスか。ま、周りがこれなら余裕だけど。

えっと、笠松くんだっけ?は取れそうな感じ?」

「俺は既に決まってるっての」

 

密約通り、あっさり進学が殆ど確定しててホッとした頃。体験練習で、フザけた奴と組む事になった。

シニアでも中学でも、全く噂を聞かない無名選手。

不利過ぎる状況にも関わらず余裕な表情を崩さないのは、馬鹿なのか大物なのか。

 

 

「まずはストレートからだ!思いっきり投げろよ!」

「うーっす」

 

___バシッ!

 

あまりにも、速過ぎる!

彼が本当の事を話していたのなら、未経験の素人投手。

にも関わらず、俺のエースよりも速い剛速球!!

 

たった1球で【格が違う】と分からされた。

 

 

「OK!ナイスボール!!次はスライダーだ!!」

「はーい」

 

___バシ!

 

中学生投手の中で彼が1番、綾瀬川次郎に近いと確信せざる終えない程の魔球。

間違いない___コイツを取らない指導者など、居ない!

 

 

「アイツは逸材です!絶対推薦で取りましょう!!」

 

今までとは、轟監督達の反応が全く違った。

当然の事だろう。超大粒のダイヤの原石を、薬師野球部は期せずして手に入れられたのだから。

 

そして、あの綾瀬川も体験練習に来ている。

彼まで入学してしまったら、薬師野球部の快進撃は止まりそうに無かった。

 

やべぇ!すっっげぇワクワクする!!

 

 

 

 

「ガハハハ!俺がキャプテンの三島優太だ!困ったら、俺を頼りにすると良い!!」

「コイツかなり適当だから、あんま頼りにし過ぎるなよ。痛い目見るから。俺も3年の秋葉一真、よろしく」

 

あの三島先輩と秋葉先輩と、同じ部屋割りになった。

明らかに、俺は期待されている。凄く嬉しい。

 

 

「あっ、知ってますよオレ!甲子園に出てた人だ!」

「知ってて当然だろ!馬鹿!!……騒いでしまってすみません。捕手の笠松幸男です。よろしくお願いします!」

 

そしてもう1人の同室メンバーは、何の因果か無名天才投手の黄瀬涼太。

まぁ彼が監督達に期待されていない筈が無いから、現実的に考えて有り得る可能性ではあるか。

 

ていうか、やっぱり馬鹿だコイツ!

キセキの世代の最強格、三島先輩と秋葉先輩を知らない奴なんてココには居ねぇよ!!

 

 

「そうそう!俺がエースで主砲になる男、三島優太だ!」

「コイツ、いっつもこんな感じだから。悪いけど慣れて」

「ういーっす」

 

先輩達が気にしてないから良かったけど、本当に酷いな。

彼は、礼儀作法に問題があると言わざる終えない。シニアで鍛えられて無いからかもしれねぇ。

いやでも、やっぱコイツ本人の問題かもな。

 

 

 

 

黄瀬が、西東京ベスト8の仙泉相手に大活躍した場面。

思わず、スタンドで我を忘れて喝采していた。

 

「コールド!試合終了!20-1で、薬師高校の勝ち!礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

「やっぱりアイツは、天才なんだっ!!黄瀬は絶対、日本を代表するプレイヤーになるぞ……!!」

 

俺は幸運だ。天才が羽ばたく瞬間を目撃出来たのだから。

人生の価値観を変えてしまう様な、大きな感動だった。

 

 

「この程度に打たれるとか、チョー悔しいっス!」

「それ今は言っちゃ駄目だから!」

 

こんな酷い奴に、心を動かされたのかよ……

 

 

 

 

「は?自分で考えたらどうっすか?」

「笠松クンさぁ、俺と対等みたいな雰囲気出すのヤメてくれない?ウザいんだけど」

「3番手投手の球位さ、溢さないで取ってくれない?オレ、来年アンタと組むの嫌なんですけど」

 

たった2ヶ月で、俺は黄瀬に大層嫌われていた。

仕方ねぇ。こうなるだろうと分かっていて、それでも人を馬鹿にした態度を注意し続けたのだから。

 

それでも……尊敬している投手に嫌われ続けるのは、思っていたよりも心が蝕まれてしまう様だ。

俺という捕手は案外、精神力が無いらしい。

 

 

「お前、それで良いのか?」

「ハハハ、格下を見下して何が悪いんスか!」

 

黄瀬が、すぐムキになって突っかかって来る。

性根はまだ、腐ってねぇみたいだな。格下相手なら無視してやる様な、底意地の悪さは持ってねぇって事だ。

コイツはまだまだ、ケツの青いお子様なんだろう。

 

 

「今言ってんのは違ぇ。

___3番手投手で、満足してんのかって聞いてんだよ」

「…………」

 

黄瀬は押し黙った。まさかコイツ、本当にその程度で満足してやるつもりじゃねぇだろうな??

 

 

「___ふざけんな!!!

悔しいけど、お前は天才だ。北瀬先輩や綾瀬川にだって劣らない、スゲェ投手に成れる逸材なんだぞ?!」

「…………」

 

男の俺から見ても美しいと形容する他無い、この上なく整った顔から一瞬、表情がごっそり抜けた。

ゾッとした。始めて綾瀬川と対戦した時の様に。

 

 

「___天才じゃない奴には、分かんないんだろうなァ」

 

この時、俺は始めて、黄瀬の闇に触れた。

野球の天才で、過去には看板モデルだったコイツでも思い悩むのかと、俺は衝撃を受けた。

 

考えて見れば、当然の話だった。

天才性は時として、周囲の亀裂を生む。

 

そんな事すらも、俺は忘れてしまっていたのだ。

才能の輝きに焦がれるばかりで、きっと俺は『黄瀬涼太』という男を何も見て居なかったのだろう。

 

……それじゃ、嫌われて当然だ。

アイツも、そんな所を見下してたんだろうな。

 

 

 

 

次の日、頭を45度下げて本気で謝った。

 

「黄瀬。悪かった、今まで」

「えっ何、怖っ!何で急に謝って来たんスか?!」

 

彼は大げさに身を竦めて、驚きを大げさに表現している。

それが、妙に様になってるのが腹立たしい。

ったく、元芸能人って事を態々アピールすんなよな。

 

「お前の才能に惚れた。だから野球選手として大成出来る様に、お前の言動を変えなきゃいけねぇと思ってたんだ。

だけど……俺は『黄瀬涼太』という男の事を、何1つ知らない。これで正してやるなんてほざいてたらウザイよな」

「はぁ、まぁそうですけど……?」

 

黄瀬は俺がウザイという事は否定しなかったが、結論までは待ってくれる様だ。

 

「だから俺に、お前の事を教えてくれ。頼む」

「ごめん!面倒だから嫌ッスね!」

 

にこやかに一刀両断された。

でも黄瀬くんよ。「お前の才能に惚れた」なんて言う様な奴が、この程度で諦めるとは思ってねぇよな。

 

「ふーん。じゃあ見て覚えるわ」

「別にそんな事しなくて良いんですけど〜!!」

 

ば〜か。お前の実力も才能も、心の在りようまで知り尽くしてやる。覚悟しておけよ!

 

 

 

 

どれだけ嫌われたっていい。

 

黄瀬涼太___お前は絶対に日本を背負う投手になる。

 

あの瞬間から、俺の夢はただ1つになった。

それは彼と共に、甲子園の頂上、最高の景色を見る事だ。

 

薬師野球部黄金世代が居なくなった後も、俺達は絶対に勝ち続ける。高校野球の歴史を塗り替え続けてみせる。

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、この話……?先輩達の引退試合の相手が、日本ツナの1軍??」

「えー?冗談だろ、これ……」

「___いや、現実だ。お前達3年生の最後の対戦相手は……本当に日本ツナの1軍になる」

 

これは本当に、現実なのか?

先輩方がプロ1軍選手達と真剣勝負するというエキシビションマッチ。

 

 

「つまり……皆ともう1度、一緒に戦えるって事か!

楽しみだなぁ!!プロってすっごく強いんだろ?!」

「カハハハ……全部まとめて、カッ飛ばす!!」

「ガハハハ!俺が主役になるチャンスだな!!」

 

考えた事もない大試合が決まり、ワッと盛り上がった先輩方。凄くメンタルが強いと思う。

俺なら喜びよりも、不安が強くなってしまいそうだから。

 

聞いた事もない未知の戦い。

だけど、出来る事ならば、先輩達が勝つ場面が見たい!

 

 

「すっごい盛り上がりそうっスね!チョー楽しみっス!」

「ああ。前代未聞だからな」

 

呑気な黄瀬を見ていて、少し不安になった。

俺達、あんなスゲェ人達の後を引き継げるのかよ??

 

……ま、黄瀬も綾瀬川もいるし、大丈夫だと思うけどな。

 

 

 

 




本人は無名だと考えていますが、あくまで他の薬師野球部の選手と比較した場合になります。
甲子園三連覇校から推薦が来るだけの実力は兼ね備えている裏設定です。
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