【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
頑張りますがクオリティは下がります、すみません。
薬師高校の打順
1番 秋葉一真
2番 伊川始
3番 三島優太
4番 轟雷市
5番 火神大我
6番 結城将司
7番 由井薫
8番 瀬戸拓馬
9番 真田大平
『背番号3ーーーファースト、三島』
『早くもワンアウト2塁とチャンスの場面!薬師高校は強打の三島を送り出します!高校生離れした彼のバッティングは、北のプリンスに届くのか?!』
「ガーッハッハッハ!最初のホームランは俺が頂くぜ!」
1回表、2番打者がいつもの様に作り出したチャンスの場面。世界最強の高校生達が集う薬師高校のキャプテンは、いつも通りに大胆不敵な宣言をして笑っていた。
「良いぞ優太ー!頑張れよー!」
「チャンスがあれば走っからな〜、頼んだぜ〜」
世界が誇る日本の一等星と打率10割の男も、大いに期待して三島のバッティングを待っている様だ。
流石は全国の頂点に立ったチームの主将、実力は他の選手を圧倒している……と言えないのが薬師野球部の異質さを表しているが。
ベンチ入りメンバーのほぼ全員が、他の高校なら主砲クラスなのだ。轟監督の素晴らしい手腕が伝わって来る話である。
___ガギン!
「ファール!」
「流石は成宮!すっげぇ曲がり方するぜ!」
初球から三島は変化球を打った。
それでも打ち切れなかったのが成宮と言う投手の実力を表しているが、同時に合わせて来た三島と言う野手の実力も示す事が出来たと言えるだろう。
___ガキンッ!
「アウトォ!」
『わああぁ!!』
フルカウントまで粘った三島。だが最終的に、サードに上手く捌かれてゴロアウトになってしまった。
これがもしプロ相手では無ければ抜けていたかもしれない程の強烈なフルスイングだったが、たらればの話をしても仕方がない。
1打席目の三島はゴロアウト。これがプロの洗礼だ。
「惜しかったぞ、優太!」
「カハハハ……すげぇ、ギュインって!!」
「クソッ、次は打つ!!」
秋葉と雷市が、ベンチに帰って行く三島に慰めの様な言葉を掛けている。
雷市は単に感想を言っただけな気もするが、ベンチに座った三島の表情は明るかった。
(これがプロの実力!俺はまだまだ強くなれる!!)
そう、身内だけで切磋琢磨していた三島は、無意識に仲間では無い好敵手を欲していたのである。
目指すべき高みを見れた事で、彼の表情は非常に明るくなっていた。
(勝負はこうでなければ!面白い、面白いぞ!!)
ポジティブシンキングの三島は、キラキラと輝く笑顔で次のバッターを見た。
伊川はそんな彼をみて、好敵手を求めていたのは北瀬達だけではなかった事を察したという。
「カハハハハハ___ナルミヤ!!打つ!!!」
『背番号5ーーーDH、轟』
『遂に薬師高校の主砲!轟雷市が出陣です!!
高卒1年目にして新人賞を受賞した北のプリンスとの戦いは、どちらに軍配が上がるのか?!』
『いやぁ、初回からワクワクする展開ですね』
ギラギラとした目をして出陣したのは、薬師高校が誇る絶対的長距離砲、轟雷市。
彼が持つ威圧感に、数多の投手達が挫け敗れて来た。
「___打たせないよ、轟」
それでも、成宮鳴は怯まない。
己の野球人生を掛けた高校2年間、薬師高校と言う特異点に打ち砕かれ続けた。
そんな過去を清算すべく、北のプリンスは実力を全てを出し切って彼らを迎え撃とうとしている。
___バシッ!
「ストライク!」
『わああぁ!』
初球から成宮&太野バッテリーは強気な采配を見せる。
普段から170kmを打っている相手に、まさかの初球ストレートを選択したのだ。
これは予想外だった雷市も、すぐさま反応しようとしたが間に合わず。これでノーボールワンストライク。
___バシ!
「ボール」
2球目、ストライクゾーンをめいいっぱい使い、外角低めにスライダー。外れてボール。
ギリギリの所だったので、強打者の雷市ですら一瞬バットを振りかけていた。
「そこは打てよぉ!雷市ー!」
「ガハハハ!俺なら今のは打てたな!!」
「何言ってるんだお前ら」
「今のはナイス見極めですよ」
選球眼と言う言葉が抜け落ちている北瀬と三島は、ボールの見極めをした雷市に野次を飛ばしている。
秋葉と伊川とついでに大多数の下級生は、そんなホームラン馬鹿達を見てバカだなぁと呆れていた。
___ガッキーン!
『高く打ち上がった打球ですが……アウト!これはアウトです!』
『打ち上げ過ぎましたね。もう少し低い打球なら、届いていたかもしれませんよ』
『もしワンアウトなら、ランナーは進めていたのでしょうが……惜しいバッティングでしたね!』
薬師らしくフルスイングをしている雷市は、チェンジアップに合わせられず。
打ち損じてしまった球をセンターに取られ、スリーアウトになった。
それでもあわやホームランの場所までボールを運んでいるのが、轟雷市の恐ろしいパワーを表している。
「ドンマイ雷市!まっ、次打ってくれりゃ良いさ!
だって___俺は1点も、取られるつもりはねぇからな」
どうにか無失点で1回を終えた成宮は、ふと昔の事を思い返していた。
まだ彼が稲城実業にいた時、打倒薬師、打倒北瀬と、野球部所か学校総がかりで誰もが熱を挙げていた時の事を。
「非常に僅かなメンバーながら甲子園の出場、制覇という最高の栄誉を手に入れた稀な、それも数々の辛酸を舐めされられた相手。
その最大の長所たる部分を取り入れようという試みは、確かに考慮に値する。
だがまずその前に、お前達は私に相談するべきだったな。
まあ、敢えて言うのならばだが」
薬師野球部の打撃を猿真似して大敗した、苦い過去。
あの時の俺達は、自分に出来る事すら見失ってあからさまに迷走していたんだ。
「そ、それは悪かったって言ってるじゃん!」
「それで?本題に入ろうか」
俺達は監督に、奴らの打撃を模倣出来ないかと言う本題を話した。あの打撃が出来る様になれば、守備などの実力では優っている稲城実業が負ける事は無い。
そう思った俺達は、勝手に自主的にアイツらの打撃を真似ていたんだ。まあ公式戦に間に合わなかったのは確かに失敗だと、この時の俺達も分かっていたけど。
「___薬師の打法について。か」
「何か分かった事とかないんですか?」
「機密の部分も色々あるだろうし、一朝一夕で身に着くもんじゃないって分かってるけどさぁ
……やっぱ今のままじゃ勝てないじゃん。俺達には必ず北瀬を出して来るし、やっぱ打線のレベルアップは必要でしょ?特に伊川の打ち方とか、なんか分かった事ないの?」
山岡が率直に、思った事を聞いた。
もしかしたら国友監督なら、何か分かっているかもしれないと思ったからだ。
そして俺も、一応ちゃんと尊敬している監督に酷な質問を投げかけていた。
アイツらが特異点である事は分かっているが、それでも俺達にも出来る事がある筈だと考えていたのだ。
「ふむ。前提として適した練習法は個人によって違う物で、千差万別。それに特化型少数という特性が上手くかみ合ったという可能性も考えられるだろう。
上辺だけ真似たところで意味が……無いとまで言わないが、効率という面では肯定しがたい。
___だがその上で言うならば、仮に直接薬師で特別な指導とやらを受けたとしても、伊川始と同じパフォーマンスを行う事はお前達には不可能だろうな」
いつもの仏頂面で、監督が断言した。
ほぼ打率十割のあれは、真似る事が不可能。それ自体は言われるまでもなく俺達全員呑み込めることであるが、そんな曖昧なことではないらしい。
「前提として、彼らの打撃指導の優秀さは分かっているだろう。だが伊川の他、薬師野球部に打率10割は居ない。
仮にそれが『技術』であるならば、共有した何人かはそれに近いレベルで打てるハズなのだ。
つまり、それは出来なかった。その一点だけでも、共有することが非常に難しい、極端なまでに先天的部分に偏ったものであると分かるだろう」
「それは……」
「まず、当たり前の話をしよう」
そういって、監督は傍らにあったペンとホワイトボードを使って、図解と共に解説を始めた。
ピッチャーと相対するバッター、ボール、そして人間の眼球をそれぞれ細かく書いてから話を始めている。
「打者は、高速で変化しながら動くボールに対し眼からコースや球種スピードなどの情報を収集し次に脳がその情報をインプットして打つか見送るかなどの選択と判断を行い
脳から筋肉へと指令を送ることで身体が反応し最終的にスイングへと導いている。
眼から情報を得て、映像として認識できるまでに0.1秒程かかると言われている
つまり今見えている我々の世界は0.1秒後の世界という事だ、ここまではいいな?
ピッチャーが投げたボールを認識した後、コースや球種、スピードなどの情報を収集し、打つか見送るか、打つ場合はどの方向を狙うのかなどの選択と判断を行い、スイング、見送るといった反応を行うわけだ……が
ピッチャーとバッターの距離は実に18mとされているが打者にとってはもっと短い、ボールを眼で捉えたとき、120kmの場合で距離にするとリリースから1/5の地点、約3.33m進んでいることになる
実際に球を見極めが行える時間は、実に約0.24秒。距離にするとリリースから2/3の地点、約11mまでに反応しなければならない、この時間を過ぎてからスイングを行っても振り遅れる
___そして当然、早ければ早い球であるほど更にこの猶予は短くなる」
監督は具体的に、分かりやすく俺達に説明してくれた。
分かってなさそうな奴もちらほらいたけど、8割位の奴がこの時点で分かったんじゃないかな。
「北瀬の場合160km以上で投げてるからその大体4/3倍……いや、最初の0.1秒で進む距離は長くなるからもっと短くなってるんですね」
キャプテンの福ちゃんが、分かり易い様に合いの手を入れてくれた。
これで分かってなかった脳筋の奴らも、何となく話についてこれたんじゃないかって思う。
「そうだ、バッターがボールの軌道を観察できるのは投手がボールをリリースしてからのほんの一瞬であり、当然判断する事は難しい
だから投球前からそれまでの配球や投手の調子、カウントとの関係などから次が直球か高めで内角の確率が高いか予測範囲を絞っている
人間、判断する場合は漠然とした状態でいるよりも的を絞っている方が早く対応できるし、たとえ予測が外れても選択範囲が狭まるため反応しやすくなる
経験や能力による程度はあれど、これは小中高もプロアマも関係無い。世界中ほぼ全てのバッターがごく自然に行っている事だ
2回までストライクでも許されるチャンスと、打てる所にしかカウントされないボール制度が与えられているにも関わらず、3割で強打者とされるのも当然というべきだろう
本当の意味で、見て打つことの出来るバッターはいない」
ここまで言った後、国友監督は珍しくため息をつきながらこう話した。
「それこそ、球の球速、回転の向きと速度を全て正確に計測する『動体視力』と『瞬間視』、それらから精確に対応する軌道を算出する『計算能力』
そしてそれに追従する行う動きと実際の動きに一切に差を生み出さないレベルのボディイメージを兼ね備えた者でもない限りは___つまり伊川の事だな」
「悪ぃ皆、そーゆー事だからムリそう!」
最初に薬師野球部のバッティングを真似始めた俺は、皆にそうやって謝っていた。
皆も話を聞いていたから分かっている筈だが、けじめは必要だと思ったからだ。
俺が頭を下げるなんて中々無いからか、皆ビックリしていた。失礼な、俺だって悪い事したと思ったら謝るし!
「てかあの話が本当なら、軌道見切るから読み合い要らないって事だろ?フィクションかよ、原理は分かってもそんな奴相手にどうすりゃいいんだ」
「いや、多分あいつは軌道というより……最初の0.1秒、リリースと直後の一瞬で全部見分けてるんだと思う」
カルロスの言葉に、俺は細かい訂正を入れた。
あんま伊川の攻略法とは関係ないけど、もしかしたらこの情報を言う事で、誰か何か良い案が思い付いてくれるかもしれないからね。
「……鳴、なんで分かったんだ?」
「リトルから投げてるんだ、……投げた時の打者ってのはな、俺がボール球投げた時に「あ、コイツ打つ気なくなったな」ってタイミングは見てりゃなんとなく分かるんだよ
ただ、伊川の場合かなり俺の手前側でそうなってんだ」
前から何となく思っていた事を、俺は皆に共有した。
伊川のバッティングは、いくら何でも見極めが早すぎる。何か仕掛けがあってくれないかと思ってたけど、やっぱり先天的な資質だったんだね。
「はえー、それっ長年の経験が成せる技って奴かい」
「ぶっちゃけ、投げた後に分かっても意味ねーけどな」
「そりゃそーだけど、まあお前の言いたい事はなんとなく分かったよ。でもさぁ、それってもう……野球のルール上だと誰も勝てねーじゃん」
矢部が、頭を抱えながらそう零した。
彼も強豪稲城実業の主砲に相応しい打力を持っているのだが、やはり相手が規格外過ぎたらしい。
「9人いたら無限点だな!」
「勝負つかなくね、それ。いやわざと外せばいいのか?」
「いやいや、そしたら誰が外すかで揉めるんじゃ」
そんな下らない与太話に華を咲かせていたのは、いつのことだっただろうか。
……本当はお前100億超えの契約でメジャー行く筈だったのに先輩追い掛けてドラフト入ったんだって?
周りの先輩方はただ唖然としてたし、俺もまあ無茶苦茶過ぎると思った反面、まあなんとなくお前の言わんとしてる事は分かるけどな。
どこでプレーしようが、俺が世界最強である事は変わらない。それなら居心地の良い所で野球をするって事だろ?
お前には、そのエゴを通す実力がある。
アイツに比べたら1枚落ちるけど、それでも既に日本最強。いや世界一をも視野に入れた投手と呼ばれるにふさわしい実績を積み上げている北瀬。
アイツがメジャーで5年150億円の契約が発表された時も、正直俺に驚きはなかった。
寧ろ「やっとか」という気持ちさえあったんだから。
2回表、俺達の打線が再び北瀬に挑む。
この回の先頭打者は7番の巧打者。普段はどんな投手に対しても簡単には三振しない粘り強さを持ち、チームの起爆剤的存在だ。
しかし、今日ばかりは様子が違う。初球、北瀬は変化球を選択___縦に大きく落ちるカーブだった。
ミットが音を立てこれまでの常識を覆すかのような鋭い落差。打者は反応が遅れ呆然と立ち尽くす
「ストライク!」
審判の力強い声が響く、北瀬は楽しそうではあるが未だ淡々と投げていて表情に一切の揺らぎもない。
続く二球目は何の前触れもなく171kmのストレート。打者がバットを振る間もなくミットに収まっている。
「こりゃー…いやちょっとどうすんべ……」
(……速い)
ベンチで見守る先輩選手達が息を飲んでいると分かる。
3球目は魔球と称されるスライダー。 これまでに見た事もない角度で鋭く曲がっていた。
「ストライク!」
際どかった球をスイングこそしていないが、それは見極めようとした訳ではない、
これでは『打者』ではない。バッターボックスにぽつんと立っているだけの、ただの観客が一人いただけだった。
「いや、えぇ……???」
完全な見逃し三振。先輩はただ呆然としながら、バッターボックスを去った。