【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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12月25日に帝東vs鵜久森が、少年マガジンで短期集中連載するらしいです!めっちゃ楽しみにしてます!


217球目 クライマックス

 

 

 

「ドンマイ雷市!まっ、次打ってくれりゃ良いさ!

だって___俺は1点も、取られるつもりはねぇからな」

 

 北瀬はニカッと笑った後、堂々とピッチャーマウンドに向かって行った。

 

 薬師野球部としての最後の試合、彼は完全無欠の試合がしたいのだろう。

 そして日本の一等星と呼ばれる彼は、プロ相手でも言えるだけの実力と実績を兼ね備えていた。

 

 

 そして……

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!バッターアウトオオ!チェンジッッ!!」

『圧倒的な剛速球、圧倒的な変化球!!正に無双!!

プロ相手でも遜色無い所か、北瀬が圧倒しています!!

正に日本の一等星!!!』

『メジャーリーグに旅立つ彼の、正に集大成と言えるピッチングですね!いやぁ……素晴らしい。彼と戦えている北海道ツナの選手が、羨ましくて仕方ないですよ』

 

 有言実行とばかりに、彼は獅子奮迅の活躍を見せる。

 プロ一軍相手に、ぐうの音も出ない三者三振を奪ったのだ。北瀬を見に来ている観客達は、大きな大きな歓声を上げていた。

 

 

 実況の2人も、どこか普段とは違った熱が籠もった解説をしている。

 

 野球選手を引退した彼らも、やはり野球人。

 メジャーリーガーの名だたる選手達と比べても圧倒的実力を誇る母国の選手を見て、大層興奮していたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 かつてない熱気と緊張感が漂っていた。

 プロ野球界総てを背負っての威信をかけたこの試合は、もはやエキシビジョンの枠を超え国際試合さながらの雰囲気を醸し出していた。

 

 マウンドに立つたびに全身に感じる重圧を振り払うように、深く息を吸い込んだ。プロ1軍、北海道ツナよ代表として、この一戦に全てを賭ける覚悟を決めていた。

 

 ピッチャーズプレートを足場に、視線を薬師の打席に立つ打者へと向ける

 

 

「絶対に負けられねえんだ……」

 

 決意と意地が入り混じったその思いが胸に渦巻く中で、何とか呼吸を整える

 俺はこいつらに出会ってからの3年間、薬師との激戦を繰り返してきた。甲子園の切符のため、全国の頂点を目指すため、借りを返すため、何度も戦い、何度も悔しさを味わいここまで歩んで来た。

 

 今日この1戦で、これまでの成果と、無責任を残してしまった事のケジメをつける。

 俺は、こんな日のために全てを捧げてきたんだ。

 

 

 

 

 打席には、薬師の7番捕手、由井薫が立っている。

 昔から神童と呼ばれ、下位打線にいるとは思えないほどの実力を持つ怪物だ。

 体格に見合わない強烈なパワーと圧倒的な打撃技術を兼ね備え本来なら主砲に据えられる打撃力を持っている。

 過去の対戦でも、そのバットで幾度となく相手を苦しめてきた猛者の1人なのだ。

 

 

 由井がバットを振りかざし、視線をこちらに向けた。お互いに相手を知り尽くしている。

 あの眼差しは、勝利への執念そのものだった。

 俺もアイツも、簡単に打ち取られたり、打たれたりするつもりはない。まるで全てを見透かしているかのようなムカつく目で、微塵の隙もないように思えた。

 

(落ち着け、まずはストライクを取るんだ)

 

 ミットを構える合図に応え、俺は渾身の力を込めてボールを投げ込む。由井の表情は微動だにせず、その集中力に俺は更に気を引き締める。

 

 

___バシッ!

 

 初球、インローに食い込むストレートを投げ込む。由井はバットを出すことなく、冷静に見送った。ストライクゾーンぎりぎりのコースを狙ったが、僅かに外れてボール。

 

(カウント1ボール。焦るな、自分のペースで)

 

 太野さんのサインが伝わってくる。冷静でいろというのは簡単だが実際にこの場面で気を落ち着けるのは難しい……それでも俺は次こそ、絶対にストライクを取る。

 意地でもなんでもやってやる。

 

 

 2球目、外角高めのスライダー。由井の眼が一瞬光った様に見え___バットが一気に振り抜かれた。

 

 

___カキーン!

 

 強烈な打球がライナーでライト方向へ飛び、一打となる。由井が猛スピードで一塁を駆け抜け二塁を走ろうとした所で、球の行方を見て足を止めた。

 チームは一気に息を飲み、ベンチからも手に汗握る様な緊張が伝わってくる。

 

 

「なんじゃあ、薬師の子らと比べても頭一つはちっこいのにえっらい飛ばすの~」

「あとせめて10cmもあったら怪獣王の再来だったんじゃねえのかありゃあ?」

 

 『誰がどこからでも火種になる』『そして上位陣はもっと強い』それが非常にシンプル故に崩しきれない薬師最大の強み。

 

(そんな分かり切った事で、今更折れてやれるかっての)

 

 太野さんはミットを軽く叩いて、俺にもう一度目線を合わせてくる。その眼差しには、「大丈夫だ、まだこっからだ」と言わんばかりの強い意思が込められていた。

 前打者にこれだけの打撃を見せつけられたからこそ、次は抑えなければならない。

 

 どの打者も手強く、簡単に抑えられる相手ではない。しかし、俺たちはこれまでの全てを懸けて、この場所に立っている。

 相手がどんなに強い打者が相手でも、ピッチャーマウンドに立つことを選んだならば立ち向かうしかない。

 続く二者をゴロ、フライで打ち取って無失点で終えた。

 

 

『わあああぁぁ!!』

『成宮!苦しい場面をものともせず、この回も無失点で終えました!!』

『いやぁ凄い選手ですよ彼は。今までは北瀬くんの影にに隠れていましたが、プロ1年目にしてあわや最優秀防御率を取る所だった大投手ですからね。今では彼の事を軽視するプロなんて、1人も居ないでしょう』

 

 会場中も、成宮鳴の投球に歓声を上げていた。

 北海道ツナのファンに続き、薬師のライトファン達なんかもこれはこれで面白いと喜んている。

 カジュアルファンの観客は、面白ければ何でもよしという感じで節操がなかった。

 

 

 

 

 

 

 打撃戦となるとばかり思われていた今回の試合。

 大方の観客達の予想は外れ、3回、4回も両者無得点で終わった。

 

 だが、その内容は正反対である。

 

 薬師野球部は出塁しつつも打線が続かず帰塁出来ない状況で、北海道ツナの面子は1度も塁を踏めていないのだ。

 まるでプロとアマチュアが入れ替わってしまったかの様な展開に、熱心なプロ野球ファンは悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

 

 

『さあ、高校生とプロ球団の決戦も佳境を迎え、マウンドには成宮鳴!

 バッターボックスには高校野球界最強と言われた薬師3強の打者・轟雷市!この2人の対決が、正にこの試合のクライマックスとなるでしょう!』

 

 5回裏、俺と轟雷市との戦いは3打席目を迎えている。

 3塁ランナーには秋葉が、2塁ランナーには伊川がいて、ここで打たれてしまったら俺達の負けだと言う状況だ。

 

 

「行けっ!成宮!!」

「テメーは気に食わねぇけどよ、実力は認めてんだ!」

「俺達プロの意地を見せてやろうぜ!!」

 

「ガハハ、行けぇ雷市!今の調子で打ち切っちまえ!!」

「俺達は、お前を信じて走るからな!」

「頑張れ雷市ー!俺の代わりに打って来てくれーっ!」

 

 ここまでの戦歴は2打席1安打、お互い成人していないとは思えない位にはハイレベルな戦いだから、みんなビックリしてるんじゃないかな?

 もちろん、俺が勝って終わるけどね!

 

 

『いやぁ、ここまで見てきましたが、轟くんの打撃もまた異次元ですね。

 北瀬くんのメジャー級投球や伊川君の超打率に隠れがちではありますが、彼の打撃もまたメジャー級と言って過言ではないスイングスピードとパワーを持っています。

 どのように対処するか、非常に注目ですね』

『しかし……どうしてしまったんでしょうか高校野球?!

 特にこの世代の西東京はどうかしています!同地区で散った青道の降谷くんの球なんて、現役全盛期のボクでも2割打てるかぐらいですよっ!』

『……金属バットだからってあんなカンカン打てるもんじゃ無いはずなんですけどね。

 あんな剛速球、同じく青道の沢村くんの引き出しの多さだって、あそこまで使いこなせる人間はプロでも稀です。ましてや使い慣れないハズの木製でここまで成宮くんに食いついてくるなんて』

 

 

 マウンドからを見据え集中力を高める。サインを確認し

 

(インコース高めの速球……ね)

 

 狙い通りに投げたボールは、確かなスピードと勢いを持ってキャッチャーミットへと向かい___その瞬間

 

 

「これだ」

 

 轟雷市のバットが鋭く振り抜かれた。

 

 

___ガッッキーン!!

 

 轟が放った打球は、あまりにも高く、そして遠くへと舞い上がっていく。

 その瞬間、球場全体が静寂に包まれた。

 打った瞬間の衝撃音は確かに大きかったが……その打球はあまりにも高く上がりすぎていたのだ。

 

(よし、フライアウト)

 

 それは双方ベンチ観客問わず、誰もがそう思ったことだろう。

 

 俺もマウンド上でその打球を見上げながら、外野手の位置を確認していた。ライトの選手がフェンス際まで後退しキャッチのタイミングを測っているように見える。

 ボールの飛距離はあるものの、そのまま外野の頭上で収まりそうなフライにしか見えなかったからだ。観客もそれで終わることを疑わなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 だが、打球は空中で驚くほどの滞空時間を見せた。

 数秒が過ぎるごとに、異様なほど高く舞い上がったボールの行方に、徐々に違和感が広がっていく。

 

 まるで時間が止まったかのように、ボールが青空に吸い込まれていくようで。

 

 

 まさか?……いや、そんな筈は無い。

 誰もがそう思った瞬間、打球は最後の勢いを振り絞るかのように更に加速した。

 

(おい)

 

 

『え、嘘でしょ?!』

 

(おいおいおい、ちょっと待て)

 

 

『これは……こんな打球見たことありません!』

 

(いくらなんでも、()()は流石に___)

 

 

『フェンス際まで下がっても取れない!』

『まさか、まさかスタンドまで行くのか!?』

 

 

 落ちてくれと心の中で祈る声が自分の中で大きくなるが、それを笑うかの様に、それに比例するかの様に、ボールはそのまま滞空時間とそして飛距離を延ばしていく。

 異様なまでの高さまで昇ったそのボールは、ゆっくりとした弧を描いていた。

 

 まるで意地悪に、フェンス際まで下がり、喉が張り裂けそうな叫びと、全身を引き千切らんばかりのバネで飛び上がったグラブから逃れるように、その7秒間はまるで、時間が止まったかのような___

 

 

『___嘘、嘘でしょう、あああっ、入った!ホームラン、ホームランです!!』

『…………』

 

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 まるで時が止まったかの様に、ボールは空中で静止している様に見えたのだ。

 誰もが打った瞬間、あの球をアウトだと思っただろう。俺も、観客も、選手たちも、誰一人として___なのに

 

 

『知らぬものは今こそ目に焼き付けろ!!

 これが、これこそがが、轟雷市だああああああ!!!』

『……わああああぁぁ!!』

 

 観客のどよめきが一気に歓声へと変わり、まるで雷鳴のように球場全体を包み込んだ。

 轟雷市が放ったホームランは、滞空時間7秒を超える異次元の一撃で、スタンドまで届いた。

 

 打球が観客席に飛び込んだ瞬間、球場全体が歓声とどよめきに包まれた。

 誰もが信じられないという表情を浮かべ、呆然と立ち尽くしている。観客たちも一瞬何が起きたのか理解できず、その後に起こる歓声が球場を地鳴りの如く震わせた。

 

 

『なんという一打でしょうか!えー……7.2秒、ただいまの滞空時間、実に7.2秒!こんなホームランは、誰も見たことがありません!』

『まさしく全てを打ち砕く雷砲の一撃!会場はまさに総立ちであります!』

 

 秋葉、伊川、雷市の最強無比と言われた3人がホームインし、チームメイトに迎えられながらベンチに戻った。

 薬師のベンチ、応援席の人たちは興奮し、一部ではまるで彼等が神であるかのように見つめていた。

 その一方で、ベンチは静まり返り、まるで試合の流れを一気に奪われたと言いたげな雰囲気が漂っていた。

 

 

「あっ、あああ……」

 

 俺はその場から動けず、ただその光景を目の当たりにするしかなかった。

 

 ベンチから驚きと困惑の声が聞こえている。

 太野さんも同じく、呆然としながらフェンスの向こうを見つめていた。そりゃそうだろう、誰もがフライアウトになると思っていた打球がそのままホームランとなったのだから。

 

 

 伊川、轟がゆっくりとダイヤモンドを回り、次々とホームインする姿は、正にこの試合の、いや甲子園という舞台の象徴のようだった。

 薬師ベンチの歓声と、日ツナベンチの沈黙。

 そのコントラストが、今までの長い激闘の重みを強調していた。俺達はただ、その瞬間を受け入れるしかない。

 

 

『いやあ、凄い試合になりましたね。轟君のこのホームランで、一気に追い詰めました。ここまでの激闘を見てきた中で、まさに伝説となる一打ではないでしょうか!』

『今の一打は、本当に漫画の世界のようです。

 あの打球、特大フライと誰もが思ったでしょうが、最後にはスタンドインするという。

 まさに薬師3強、いえ日本3強、或いは世界の頂点を狙えるであろう彼の持つポテンシャルの恐ろしさを、まざまざと見せつけれる格好となりました!』

『昨年も凄まじいものでしたが、更に磨きのかかったこのパワー。これは野球の象徴だったアメリカチームが敬遠するのも納得の破壊力であります!』

 

 俺は拳を強く握りしめた。

 俺達が何度も戦い苦しめられてきたが……この一打が、その全てを象徴するかのようだったのだ。

 

 

 

 

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