【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

25 / 288
神谷主水さんからいただいた学校を使わせて頂きました!ありがとうございます!

人に聞いてみたら「利益出ちゃうとマズいんじゃない?」と言われて納得しましたので、電子書籍を売る可能性は減りました。適当なアンケートをとってごめんなさい。仮にやる場合は、どこかに全額寄付出来る形にしたいです。




21球目 13対4

 

 

 

ベスト8入りが確定した薬師高校。

準々決勝の相手は北進学園。最近学校へのOB立ち入り禁止を発表し、話題になった学校だ。

 

それは野球に効果があるのか疑わしいと思われていたが、実際ここまで来れたと言う事は効果があったと言う事だろう。

 

 

「ヤれー薬師ー!」

「堀川ぁー! 今年のお前は良いぞー!」

「北瀬ー! 今日もホームラン見せてくれー!」

「伊川ァー! お前のリードは最強やわー!」

「真田くーん!」

「北進ー! お前らの野球を見せてくれー!」

「雷市! 雷市!」

 

観客席から大歓声が届く。大歓声というか、なんだか野次にも聞こえるが……実はSNSで自分のリードが叩かれているのを一応知っている伊川は、嫌そうに顔を顰めた。

 

 

「いいかお前らぁ、良く聞け……相手は強打の選手が点を取り、大エース堀川が押さえる最強っつっても良い布陣だ」

「弱点とかは無いんですか?」

 

聞いただけでも分かる相手のあまりの強さに、思わず秋葉が尋ねる。だが、現実は無情。轟監督は、諦めた様に首を振りながらこう答えた。

 

 

「ちょっと調べてみたんだがな……無さそうだわ、こりゃ。お前ら相手なら、ワンチャン堀川がガス欠してくれるかもしれんが……このスタミナじゃ期待薄だな」

 

 

監督のいうちょっと調べていたとは、おそらく徹夜でビデオを見続けたとかそういう事だ。彼は適当な人間だが、その適当さが発揮されるのは野球以外だけ。監督が言うなら、本当に弱点は無いのだろう。

 

薬師部員の大半は、ここで俺達の甲子園は終わったか?と少しだけ思った。ちなみに試合前は多少心配していても、試合になった瞬間そう思っていた事はすぐに忘れる。そういうチームだ。

彼らの打席でも大量得点が期待出来ず、打線は強力……これではそう思ってしまうのも仕方ない。

寧ろ少しだけ思うのに留められる図太い神経が、野球に向いているのではないだろうか?

 

 

「まぁ、やってやれない事は無いだろ。とにかく! その場その場で全力でプレーしろ! それがお前らの身を助ける……事になるかもしれない」

「いや監督、かもしれないじゃなくて断言してくださいよ」

 

真田が呆れたように訂正を求める。試合前にそんな不吉な事言わないでくださいよ、と思ったからだ。だが轟監督は、微妙そうな顔をしながら話し始めた。

 

 

「えー。だって分かんねえもん、堀川に勝てるか。高卒でドラ1競合しまくるクラスの逸材だぞ、あいつ。まあ……信じてるぞ、お前ら」

 

その言葉に、大多数の薬師部員は感動した。監督は俺達を信じてるんだ、ならやらなきゃな! と考える程には。

だが、一部の部員は思った……それアニメの名言ですよね、と。

 

 

 

 

1回表、北進学園の攻撃は、1番2番が連続して打ち取られてツーアウトランナー無し。以外にこのまま裏に変わるかと思われたが……

 

___ガギーン!!

 

「打った、この男が打ったぞ! 3番岡村が先制点!」

 

___カキーン!!

 

「2者連続ホームランだ! 大砲柄本雍、この男が打ち切った!」

 

なんと、北瀬が2打席連続ホームランを食らう。意外も何も、大体リードが読まれているのだから不思議でもなんでもないが。

 

 

2点先制されたが、1回裏薬師高校の攻撃。今回は1番に配置された轟がライトスタンドにぶち込むも、後が続かず1点差をつけられる。

 

 

……

 

 

3回表、北進学園の攻撃は2番杉ノ江から。

伊川はなんとなく、作っておいたテンプレに無い、スライダーと超スローボールとストレートを交互に投げていくリードを展開。

勿論最初は読んでいなかったが、3回目の超スローボールでツーベースヒットを打たれてしまう。

 

次は3番岡村忠。テンプレに無いボールが来る可能性に思考が乱されて三振。

 

4番の柄本はヒットを打ったはずが、ベースカバーが遅い薬師のお陰でツーベースになる。

 

5番の藤はバントをして、ランナーを3塁に進めた。

薬師のお笑い野球相手なら1点を手堅く取りに行く必要は無いと思うが……おそらくあわよくばセーフティバントを狙っていたのだろう。青道高校との地獄の特訓によりバント処理だけはある程度いける薬師は、当然1塁をアウトにする。

 

6番の石和は珍しくピシャリとハマった伊川のリードでアウト、と思いきや三島のエラーで滑り込みセーフ。これで6対1で北進学園のリードだ。

 

 

 

3回目裏、薬師高校の攻撃、打順は9番大田。大味な打撃が持ち味だが、甲子園クラスとしては物足りないバッターだ。まあ下位打線だから仕方ない。

堀川相手ではサクッとヤられてしまい、ワンアウト。

 

ワンアウトで、打順は1番に戻り轟雷市。球数を使って倒しにくる相手バッテリーにフルカウントまで粘るも、大きく垂直に曲がるカーブを捉えきれず、ゴロでアウト。

 

ツーアウトで、打順は2番北瀬。初球打ちが上手く決まったかと思いきや、打球はファースト柄本の真正面。思いっきり引っ張られた打球を上手く捌き、スリーアウトでチェンジとなる。

 

 

……

 

 

8回裏、現在13対4で北進学園が圧勝している……だが、薬師高校は全く諦めていない。

なぜなら、西東京地区大会の時、1回で9点を取った事があるからだ。大丈夫……まだ俺達は負けていない。だったら全力で試合を楽しんだ方が良いと分かってる。

だから彼らは普段通り全力で打者を応援し、ついでに野次を飛ばす。

 

 

薬師高校の攻撃。打順は4番三島。今日も勝って甲子園の舞台に立ち続ける為、彼らは全力プレーをし続ける。

守備は壊滅しているが、スタミナをつける訓練はしていたからここまで持っているのだ。

薬師は元弱小校ゆえ、選手の性能差が激しい為、轟監督は守備練習を犠牲にしてでもスタミナを付けさせていた。

いや、野球の練習をしっかり続けてきた選手はあまり薬師にはいなかった為、轟監督は地味な練習をやらせるのを本当に苦労していた。

最近は野球に目覚めてきた生徒が大半を占めるようになった為、人を動かす苦労は減ってきていた。

 

轟親子がどうしても来たかった甲子園、その夢の舞台は今日終わるかもしれない……生徒達は全く諦めていなかったが、指揮する立場の轟監督は、その可能性を脳裏から捨てる事は出来なかった。

 

 

「ミッシーマ行け! 4番に成るんだろ!」

「今回4番だけどな!」

「そういう意味じゃないだろ」

「お前今日1つもヒット打ってねーぞ!」

「うっせー! 今から打つっての!」

 

県大会レベルでは強打の三島だが、流石に甲子園ともなると厳しいだろうか。長打率こそほとんど下がらなかったものの、打率が大幅に低下している三島。

だが彼は、轟、北瀬、伊川に勝って、真の4番打者になる事を全く諦めていない。

 

 

「お前、主砲になりたいのか? 頑張れよ」

「なんだと? ……応援ありがとよ!」

 

相手キャッチャーの塚原が、薬師高校ベンチの声援(?)を聞いて応援する様な言葉を掛けた。三島は素直に喜び礼を言った……この反応を見て、塚原はこの後のリードを決めた。

 

北進学院のエースの堀川が振りかぶり投げる直前、キャッチャーの塚原は三島にささやく。

 

 

「ストレートを投げよーぜ!」

「?!」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

 

三島は咄嗟に、ストライクが飛んでくると予想してしてしまい、バットを振った。

選ばれていた球種は高速スライダー、当然空振り。

 

(てめぇ! ……いや、今のは騙された俺が悪りぃ)

 

友好的にしたのはこの為だったのか! と三島は一瞬怒鳴りたくなるも、これも野球の戦術だと思い直して押し黙る。

 

 

「そうだな……次こそストレートを投げよう」

「んだとテメー!」

 

___ズバシッッ!

 

「ストライク!」

 

次は騙されない! と三島は考えるも、今度は本当にストレートを投げられる。

変化球が来ると思っていた三島のバットは、あまりに振るのが遅かった……

 

 

「次で三振だなぁー」

「ああ?!」

「次はチェンジアップを投げるよー」

 

塚原は三島を煽りながらキャッチャーミットを構える。普通ここまで効かないのだが、三島は血が登りやすい上に、囁き戦術を実際に食らった事が無かった。だからここまで効いてしまったのだ。

 

 

___スバシッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

北進バッテリーが選んだのは、ボールゾーンの外角低めチェンジアップ。本当にチェンジアップが来た事により咄嗟に振ってしまった三島は、審判に当然ながらアウトを宣告されてしまう。

 

その後の打席、秋葉と真田もあっさり三振。強豪、北進学院の強さを観客に分からせ、北進勝利ムードを作られてしまう。

 

 

「こりゃ薬師ダメだわ」

「やっぱ北進強いわ! OB粛清したのが良かったのかねぇ」

「今回はホームランもあんまり出なかったしな……」

「轟が初回に出したアレだけだよな」

「アレ、立ち上がりを狙っただけだよな」

 

観客は北進学院の圧勝ムードだが、薬師高校は諦めていなかった。

9点差如きで諦める訳無いだろ。俺達はファイヤーノネットの薬師だぞ! 味方のピッチャーをかき乱し、敵のピッチャーをブッ倒すチームだ!

たった9点差位、吹き飛ばしてみせるさ! 薬師メンバーの闘志は全く衰えていない。野球経験が浅くこの展開だと負けるだろうと言う考えが出てこない事が、薬師野球部の強さでもあった。

 

SNSで言われていたファイヤーノネットというワードを、伊川以外の薬師メンバーは気に入っていた。だって、なんだかカッコいい気がするからだ!

……いや味方のピッチャーかき乱すのはマズいんだけど、実際俺達のチームそういう所あるからなぁ。と大体の薬師メンバーはそう考えて面白がっている。彼らはSNSに言われている事に寛容だ。

 

ちなみに、SNSで言われていたのはファイヤーフォーメーションである。SNSで言われていた言葉を伊川が薬師メンバーに間違えて伝え、そのまま部内で定着してしまったのだ。

人に伝える時は、ちゃんと調べてから伝えようね。という基本が分かっていない伊川だった……まあこの程度の事なら良いだろうが。

 

 

 

9回表、ここが勝負所と見た轟監督は2番手ピッチャーの真田を緊急登板させる。

キャッチャーも含めた総合力的には大差ない2人、今まで北瀬から真田に繋いだ事が無いので、もしかしたら敵を多少撹乱させられるかもしれないとの判断だ。

 

真田も渡辺もここが踏ん張りどころだと分かってはいるが、流石にこの長時間の試合で野手陣も疲れていて、更にエラーが出そうだと苦笑した。無失点で凌ぐなら三振を3つ取るしかない。

 

そんな事を考えながら薬師バッテリーが登板しようとする直前、伊川がトンデモナイ事を言い出す。

 

 

「あの……真田先輩は、人にボールをぶつけかける事が得意っすよね」

「人聞きワリィーけど、まあインコース攻めが得意だな」

 

真田はそこまで言う? と思い苦笑しながらも実質肯定する。それに対し伊川は、グレーというより真っ黒な発言をする。

 

 

「じゃあ相手に1回か2回、デッドボールぶつけちゃけば大差勝ちしてる相手はビビって腰が引けるんじゃないスか?」

『いや……いやいや』

 

真田と渡辺は流石にそれはねぇよ、とドン引きした。ドン引きしたが……本当にぶつけるかはともかく、鬼攻めするのはアリだなと思ってしまった。

ガチで徹底的に鬼攻めをした事は流石に無い。デッドボールするかもしれないし、そもそと普通に四球になるかもしれないけど。

どうせ負けて元々の、元弱小チーム。最後まで挑戦し続けてナンボだろ! と考え、内角を抉りまくる少し卑怯な作戦を実行する事にした。

 

 

打順は7番澤崎。彼に対し真田は、インコース高め……デッドボールギリギリにストレートを投げた!

 

 

「……ボール!」

 

危ないボールに、澤崎は思わず舌打ちする。こいつら、勝てないと見て相手を壊しに来やがったか? 普通に投げていてもあり得る程度のボールだが、真田の表情がそう言っていない。

……実際そういう、極悪校が無い訳では無い。昔の話だが、地方大会で野球に敬意の無い連中に乱闘に持ち込まれて大怪我をした先輩もいる。

ストレス発散なのか、勝つためなのか。こちらに意図的に守備妨害をしてくるクソ野郎もいる。

 

 

「チッ!」

 

こいつらは所詮、歴史の無い弱小校。何をやらかしても不思議じゃない。

まあいいさ……卑怯な手で来るには遅過ぎたな。既に9点差、何をした所で、俺達の勝ちは変わらない。

仕方ない。ここは相手の出方を伺って最悪凡退で良いか。

 

……彼の思考がチームに伝染してしまった事もあり、薬師高校の伝説的な逆転劇が始まった!

 

 

薬師バッテリーの次の投球は、インコース高め一杯のカットボール。デッドボールを警戒していた澤崎は見送り、ツーストライク。

 

次の投球、アウトコース低めにストレートを選択。落差にやられた澤崎。ここまで来ても彼は、薬師バッテリーのデッドボールを警戒していた。

 

そして4球目、アウトコースからインコースになるツーシームを選択。ぶつかる可能性を考えて避けた澤崎は、途中慌ててバットを振るも間に合わず。ストライクバッターアウト。

 

 

「あいつら……わざとぶつける気で投げてくるかもしれねぇ」

「……見てた感じそんな気はしたな」

 

腹いせのヤケクソとは何かが違うと思いながらも、わざとデッドボールをぶつけてくる可能性を8番の鯖浦に伝えた。

 

 

薬師バッテリー、まるで入ってくれるのを祈れと言わんばかりな全力投球を外角低めに、外れてボール。

ストライクゾーンに入ってくれればラッキーだったが、落差を大きく出す為だからこれでいい。バッテリーは頷き、意志を確認し合って次の投球に移る。

 

2球目は内角高めストライクゾーンに入るカットボールだ。真田はサインを見て振りかぶり、投げた。

 

 

昨日からの連続登板の疲れもあってか、そのボールは勢いよくすっぽ抜け……ここがテメェの墓場だと言わんばかりに頭部へすっ飛んでいく球、相手バッターは慌てて避けてボール。当然、相手は確信した。

 

(こいつら、マジで当てようとしてきてやがる!)

(やっべ、危ねー! まあ相手避けてくれたし、良いか……?)

 

流石にマジで頭部に行くボールを投げようとした訳ではない真田・渡辺バッテリーは内心焦っていたが、それは運良く相手に伝わる事が無かった。

 

まあデッドボールスレスレのボールを投げてしまったのは多少反省したが、それでバッテリーが怯む事はなかった。

そもそもインコース鬼攻めが、ある程度打者に当てる可能性があると分かってする物だからだ。

彼らはわざと当てている訳ではないが、たまに打者の身体に当ててしまう事があった。

だから頭部に飛んでいってしまったとは、いえ当たらなかったからまあいいか。と開き直る性質の土俵は出来ていたのだ。

 

3球目はストライクゾーンに入るカットボール、但しストライクにキチンと入れた。

打者は強くデッドボールを気にしていたので、仰け反りストライク。

 

4球目はインコース低めにストレート。少し甘く入ってしまっていたが、打ち気が無くなりかけていた相手打者は見逃しツーストライク。

これで、ツーボールツーストライク。

 

5球目は、打者の手元から内に入るカットボール。しっかり振った打者だが、どうしてもデッドボールを警戒してしまった為当たらず、ストライク、バッターアウト。

 

観察眼に優れているキャッチャーの鯖浦は、ピッチャーの堀川にこう伝えた。

 

 

「当てに来てるかと思ったけどちげーわ。内角抉りつつ当てないようにはしてきてる。だが……」

「成程、コントロールが定まってないって事だな……逆にそれ目茶苦茶危険じゃね?」

 

実際真田は、連日の試合と昨日の登板の疲れもあってか、あまり自覚は無かったがコントロールが定まっていなかった。

殺意があれば顔付きで分かるかもしれないし、審判も故意死球を取るかもしれないが。そうではないならブチ当てるまで、下手したらブチ当てても審判は動かないだろう。

エースピッチャーの堀川は、どうせこの試合は勝っている。

それなら次の試合の事の方が重要だと、相手がぶつけてくる可能性を見越してバッターボックスの外のギリギリに立った……当然そんな慣れない事をすれば、三振は出やすくなる。

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!」

 

こうやって薬師バッテリーは格上の北進学院打者陣に対し、なんとか連続三振を取った。

 

 

 

 

 




感想欄でファイヤーフォーメーションですかと言ってくださった方がいたのが面白かったので書きたかったのですが、ファイヤーノネットだったと勘違いして書いてしまいました。
どこでファイヤーノネットと書き始めたか分からないので、このまま投稿させていただきます。すみません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。